※この作品はR-18です。

水滸伝艶義   作:ドン・ドナシアン

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5話   橋の下の少女
15  葉芍、橋の下の仲間と愛し合う


「葉芍(はしゃく)、しよう」

 

 身体を揺さぶられ、意識が引き戻された。

 葉芍は、薄い眠気の底から這い上がるように目を開けた。

 橋の下の粗末な小屋。天井代わりの板には穴があいており、そこから落ちた月の光が、誰かの顔を照らしていた。

 

 少年だった。

 

 屈託のない笑み。見慣れたその顔を、葉芍はひと目で思い出す。

 張明(ちょうめい)──。

 この橋の下で育ち、盗みに生きる葉芍の幼馴染。親に捨てられたという、同じ傷を抱えた仲間だった。

 

「どこに行ってたのよ、あんた。うちの金子は、どうしたの」

 

 跳ね起きると同時に、葉芍の声が飛んだ。

 城郭での“仕事”を終えて戻ったとき、住処に張明の姿はなかった。

 それだけではない。ふたりで隠していた金子が、影も形もなくなっていたのだ。

 

「すっちゃった。悪い」

 

 張明は頭をかきながら、苦笑いを浮かべた。

 親に叱られた子どもが媚びを売るようなその態度に、怒りが込み上げてくる。

 

「──はあ? なに言ってんの。すっちゃったって……約束したでしょう。稼いだ分は半分ずつ。自分の分は好きに使っていい。でも、もう半分はふたりの金子。相談なしで使うなんて、だめって言ったじゃないの。あんた、それまで使ったの? 全部?」

 

 葉芍の声が荒れる。

 

「返したいけど、もうないんだ。ごめん。ちょっとだけ賭けてみたんだ。増やして驚かせようと思った。でも、気づいたら──全部なくなってた」

 

「博打? 全部? ふたりの金子まで? ……嘘でしょう」

 

 気づけば、葉芍は張明の襟首を掴んでいた。

 怒りが、胸の奥からあふれ出す。

 

「叩かないで、な、なあ、葉芍。ほんの少しのつもりだったんだ。すぐに戻してやるつもりだった。だって、あんたが言ったろ。早く家が欲しいって。ごめん。もう二度としない。誓う。ほんとに……誓うよ」

 

 張明は両手を合わせた。

 その姿をしばし見つめたのち、葉芍はため息とともに手を離した。

 

「……信じられない。あたしの分はいい。でも、ふたりの金子は三年かけて貯めたのよ。ようやく家が借りられるってところまできてたの。そこから始めるって、そう言ったじゃないの。家がなければ、仕事だって見つからない……。わかってるくせに」

 

 言い終えると、葉芍は頬をふくらませた。

 

「家なんていらないよ。俺はこの橋の下でいい。ねえ、それより……」

 

 張明が身を寄せてきた。

 葉芍の身体を押さえつけるように、覆いかぶさってくる。

 葉芍は、抵抗する間もなく仰向けに倒された。

 

 手が伸びてくる。

 下裳の中へと滑り込む張明の指先。

 布越しに触れてくるその手は、迷いなく、葉芍の深部へと迫っていた。

 

「だ、駄目……。お預けよ……。約束を破って、ふたりの金子を博打で遣い果たすようなやつには、奉仕なんかしてやらない……。触らないで、明ちゃん」

 

 言葉とは裏腹に、身体は強張ったまま動かない。

 張明の手は止まらない。

 布の上から、柔らかな部分をなぞる。

 呼吸が乱れ、指先がかすかに震える。

 

 張明が身を寄せてきた。

 葉芍の身体を押さえつけるように、覆いかぶさってくる。

 葉芍は、抵抗する間もなく仰向けに倒された。

 

 手が伸びてくる。

 下裳の中へと滑り込む張明の指先。

 布越しに触れてくるその手は、迷いなく、葉芍の深部へと迫っていた。

 

「だ、駄目よ……。お、お預けよ……。や、約束を破って……ふ、ふたりの金子を……賭博で遣い切っちゃうような悪者には……、ほ、奉仕なんかして……あげない……。ね、ねえ、さ、触らないで、明ちゃん」

 

 葉芍は怒って言った。

 だが、小柄でも男は男だ。

 葉芍は強引に張明に押し倒されて、動けなくなってしまった。

 張明の手が葉芍の下掌の中の股布に辿り着き、無遠慮に薄い布の上を這い回る。

 葉芍は、もうそれだけで脱力して、抵抗できなくなってしまった。

 

「奉仕なんていいよ。僕がするから、葉芍はただ横になっていればいいんだ。葉芍は寝ててもいいんだよ。僕が葉芍の女陰をちょっと借りて、ちょっとだけ擦って、そして、ちょっとだけ精を放ったら、解放するよ……。ねえ、いいでしょう? 僕だって、賭博で負けてがっかりしているんだ。すっきりとさせてよ──」

 

「い、いやよ──。馬鹿じゃないの──。なにが、ちょっとだけよ……。だ、だめって言っているでしょう……。はあ……、ああっ……あああっ……」

 

 だが、やっぱり、男の張明には、もう力ではかなわなくなっている。

 これでも、数年前までは、葉芍の方がずっと力も大きかったし、喧嘩も強かった。

 だけど、いつの間にこんなに力の差がついたのだろう。

 いま、葉芍は張明に押し倒されて、まったくかなう気がしない。

 

 張明が葉芍の股布に手を入れた。

 女の股布は腰の横の部分に結び目がある。そこを解けば股間を包んでいる薄布はただの布になるのだ。

 張明の右手指が器用に、股布の結び目を解いて、葉芍の股から布を取り去る。

 下裳が腰の上まで一気にまくり上げられた。 

 

「あっ……い、いやっ……さ、明ちゃん……ひ、卑怯……や、やだっ……」

 

 だが、張明の指が、本格的に葉芍の局部を愛撫し始めた。

 さすがに、葉芍の身体のことを知り抜いている張明だ。

 葉芍の全身は、あっという間に妖しげな疼きに包まれてしまった。

 たちまちにじんわりとした感覚が込みあがり、葉芍の身体から力が抜けていく……。

 

「ず、狡いよ、明ちゃん……。そ、そんなことで誤魔化そうとしたって……」

 

「葉芍、素敵だよ。怒った顔もいい……。僕のお母さんだ」

 

「な、なにがお母さんよ……。同じ歳じゃないのよ……。ば、ばかじゃないの……。あっ、はあっ……んふううっ……」

 

 葉芍は身体を弓なりにして、大きな声をあげてしまった。

 張明の指が、葉芍の肉芽をくすぐるようにくちゃくちゃと動いたのだ。

 もうだめ……。

 葉芍はもう観念した。

 

 さらに張明の片手が葉芍の帯を解き、上衣の襟をはだけさせる。

 上衣の下は乳房から腹を覆う胸巻きだけだ。

 それもめくられる。

 張明が葉芍の乳房を吸い始めた。

 

「はああん」

 

 声が出た。

 

「……ほ、本当だよ。ここにもっとたくさんの仲間がいて、大きなお姉ちゃんたちがいたときから、僕はこっそりと葉芍のことをお母さんと呼んでいた……。お母さんって、よくはわからないけど、きっと葉芍みたいな人のことだと思っていた……」

 

 張明が葉芍の乳首から一瞬口を離して、そう言った。

 そして、また乳首をちゅうちゅうと音を立てて吸う仕草に戻る。

 もう、どうしていいかわからず、葉芍は悶え泣いた。

 

 ここは橋の下……。

 

 葉芍と張明は「橋の下団」と呼ばれていた子供だった。

 親がいない子供たちが、助け合い、あるいは、戦って身を守るための集団が「橋の下団」だった。

 いまではと葉芍と張明のふたりきりになってしまったこの橋の下の住み処も、かつては大勢の子供が集まって暮らしてきた場所だった。

 この場所に身寄りのない孤児が集まり、子供だけで助け合いって生き、そして、愛を交わした。

 

 橋の下団はなんでもみんなで共有する。

 盗んだ金子や食べ物や服も……。

 敵も……。

 仲間も……。

 愛も……。

 

 ここはそういう場所だったのだ。

 

 葉芍は、まだぼんやりと両親のことを思い出すことができるが、張明は、まったく両親のことはわからないらしい。

 葉芍がこの橋の下の子供たちの仲間になったのは四歳頃だ。それまでの生活のことは記憶にはないが、母親のような女に、「今日からはひとりで暮らせ」と言われて、突然にこの近くに置いていかれたのは覚えている。

 つまり、葉芍は捨てられたのだ。

 

 それに比べて、張明は、本当に赤ん坊の頃から、ここで暮らしているらしい。

 自分がどこで生まれて、どうして、橋の下団に加わったのかも覚えていないようだ。

 物心ついたときには、すでに幼いながらも団の中の古株であり、張明の由来を知る者はいなくなっていたのだそうだ。

 張明の家族は、本当にここに集まっていた孤児たちがすべてなのだ。

 

 その張明の手が、葉芍の股間を執拗に愛撫する。

 葉芍は濡れやすい自分の身体が、もう熱くなりかけているのを知っていた。

 もう、すっかりと葉芍は張明を迎えられる態勢が整っている。

 

 だが、いまはこの張明が勝手に使った金子のことだ。

 葉芍は、張明の手を強引に押しのけようとした。

 

 だが、葉芍の抵抗をかわすように動かした張明が、隠し持っていたらしい手錠を葉芍の右手の手首にがしゃりとかけた。

 

「あっ」

 

 声をあげたときには遅かった。

 あっという間に左手首にも手錠をはめられて、さらにその手錠に縄をかけられてしまった。その縄を小屋の柱に結びつけられる。

 葉芍は両手を万歳をするように頭の方向にあげて動かせなくなった。

 

「は、離しなさいよ、これ──。あたしは怒っているのよ。あんた、なにをしたのかわかっているの? ふたりの金子を全部使ったのよ」

 

 葉芍は声をあげた。

 だが、両手を拘束されたうえに、仰向けの身体に馬乗りにされてしまっては、もうどうしようもない。あっという間に、上衣を完全に左右にはだけられて、下着の胸巻きの紐も解かれて外された。

 下裳も腰を浮かされて脱がされ、足首から抜かれる。

 

「ちょ、ちょっと、あ、あんた、狡いわよ……」

 

 葉芍は馬乗りの体勢に変えて、葉芍の腰に乗っている張明を下から睨みつけた。

 だが、張明がにんまりと微笑むと、隠し持っていたものをさっと脇から取り出した。

 

 ぎょっとした。

 鳥の羽根だ。

 

「ねえ、怒っちゃいやだよ。笑って。僕、葉芍の笑う顔が好きだな」

 

 それをすっと無防備な葉芍の乳房に近づける。

 

「んふうっ、はううっ、いやあっ」

 

 葉芍は襲い掛かったくすぐったさに身悶えた。

 張明の持つ鳥の羽根が、乳首を掃くように動き始めたのだ。

 すぐに、そのくすぐったさが、猛烈な気持ちよさに変化する。

 葉芍の口からは、とめどのない甘声が洩れ出た。

 

 張明とは、幼いころからずっと、みんなと一緒に性交をやり合ってきた仲だ。

 葉芍がどんな責めをされればよがり狂うか、張明は知りすぎるほど知っている。

 こうやって縛られた方が、葉芍は普通に愛を交わすよりも強く感じてしまうのだ。

 

「あ、ああっ」

 

 鳥の羽根で乳首だけでなく、首筋や横腹をくすぐられた葉芍は、すっかりと力が抜けてしまっていた。

 

「もっと、感じて、葉芍……。そして、もう怒るのやめてって」

 

「はああ……いやあ……いや……はあ……。あ、あんた、ひ、卑怯……あああっ……」

 

 葉芍は激しく身体を振って羽根を避けようとした。

 だが、張明の操る優しい羽根は、優しいからこそ、残酷な責め苦だ。

 羽根が葉芍の身体を襲うたびに、葉芍の肌は粟立ち、口からは嬌声がはしたなく迸った。

 

「くうっ……ふうっ……はあっ……」

 

 いつしか、葉芍はすっかりと力が弛緩して、悶えることさえも難しくなっていた。

 

「こっちもくすぐってあげるね、葉芍」

 

 張明が腰に乗っていた馬乗りの位置をずらして、葉芍の脚を少し開かせるように、腿の上に乗り直した。

 鳥の羽根が葉芍の陰毛を撫ぜ始める。

 

「ふうううっ」

 

 葉芍は腰を跳ねあげるように身体をのけ反らせた。

 張明の操る羽根が、葉芍の敏感な突起をさわさわと動かしていた。

 多分、最初から、葉芍を性愛で誤魔化そうとしていたのだろう。

 だから、手錠も羽根もしっかりと準備してきたに違いない。

 口惜しいけれど、気持ちよくて、我慢できない。

 

「感じる葉芍は素敵だよ。僕のお母さんだ。お母さんの乳首が勃ってきた……。気持ちいいでしょう? だから、怒んないで話を聞いて……」

 

 張明が羽根を動かしながら言った。

 

「は、話なんて……。あふううっ」

 

「じゃあ、話を聞くまでこれをやめないよ」

 

 張明が再び執拗に肉芽を羽根で掃き始める。

 葉芍は堪らずに、話を聞くと絶叫した。

 

「じゃあ、話すよ、葉芍……。僕、仲間を集めているんだ」

 

 張明の声が、やけに真剣だった。

 

「橋の下団がもう一度つくれるかどうか、わからない。でも、もっと強い集団があれば……いまみたいなこと、もうなくなると思うんだ。あんな目に遭うのは、もう嫌なんだよ」

 

 葉芍は息を切らしながらも、その言葉に少しだけ目を見開いた。

 張明の目には、ふざけた色はなかった。

 

「仲間を集めるって、どうやって──。金子は?」

 

「だから、それが必要だったんだ。金子を使ったのは、葉芍と一緒に生きる場所をつくるためだった。仲間に飯を食わせて、住み処をつくって……そのために、あの金が必要だったんだ」

 

「……勝手に使って……。でも……」

 

 葉芍の頬を、涙が伝っていた。

 嬉しいのか、悔しいのか、感情は入り混じっている。

 だが、張明の声は、まっすぐだった。

 

「僕、橋の下団を復活させたいんだ。いや、もっといい名前にしてもいい。いまの時代に合った……。だけど、やっぱり、あのときみたいに、みんなで助け合って、笑いあえる場所が欲しい」

 

 葉芍は、言葉を失っていた。

 いつのまにか、手錠は外されていた。

 縄も解かれ、張明は葉芍の手をそっと握っていた。

 乱れた衣服は元に戻されてはいなかったが、ふたりのあいだに流れるものは、先ほどとはまったく異なるものに変わっていた。

 

「……はじめから、そう言ってくれればよかったのに……」

 

 葉芍はぽつりと言った。

 

「言っても、怒ったでしょ? 葉芍、すぐ怒るから……。だから、先に……」

 

「ばか」

 

 葉芍が張明の額を人差し指で弾いた。

 張明が、痛そうな顔をして笑った。

 

「じゃあ、いいよね」

 

 張明が動いた。

 葉芍は、それを拒まなかった。

 視線を交わすこともなく、ただうなずいた。

 

 言葉は不要だった。

 すでに多くを知りすぎている。

 生と死の間をともに渡ってきたふたりに、いまさら確認すべき感情はなかった。

 

 張明の手が肩に触れた。

 熱も、ためらいもない。

 服の紐が外され、胸元が晒される。

 

 羞恥の色はなかった。

 それが必要だとも思わなかった。

 この接触が、慰めではなく、確認でもなく、ただそこにあるものとして受け入れられていた。

 

 唇が、頬に触れた。

 優しさとは異なる。

 何かを奪うでも、与えるでもない。

 ただ、生きているということを、互いに確かめるような圧力があった。

 

 張明の指先が胸をなぞる。

 葉芍の瞼がゆっくりと伏せられた。

 快楽を求めたわけではない。

 だが、身体は反応を見せていた。

 

 脚が開かれる。

 抵抗はなかった。

 そこに意思があるというより、必要だからそうなっただけだった。

 

 張明の身体が重なる。

 荒さも、焦りもなかった。

 静かに、深く、葉芍の中へ入っていった。

 

 声はなかった。

 快楽の吐息でも、名を呼ぶ言葉でもない。

 ただ、ふたりの間に確かに存在するものが、形になって交わされていく。

 

 律動が生まれる。

 鋭さもなく、優しさでもない。

 互いを貫く確かな動きだけが、そこにあった。

 

 それは、愛の代償でも、情の果てでもない。

 戦場を共にくぐった者同士にだけ許される、無言の交わりだった。

 ただ、深く、静かに、互いの存在を刻み合うように、

 葉芍たちは、ひとつになっていった──。




■ 葉芍(はしゃく)
 「橋の下団」と呼ばれた浮浪孤児集団の生き残り。壊滅の混乱を張明とともに逃れ、その後は彼と行動を共にする。張明とは、恋ではなく兄妹のような情で結ばれた仲間
※原典:閻婆惜(えんばしゃく):宋江の妾。だが宋江の罪状を知り、金銭を引き出すために脅迫。宋江に斬殺される。
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