震えは、止まらなかった。
「さあ、じゃあ、香蘭殿。さっそくですが、これで縛られてもらいましょうか」
文天が縄束を手に取り、ゆっくりと近づいてくる。
香蘭は、背筋を這い上がる冷たいものに身をすくませた。
「お、お待ちください。どうして、縛ったりなさるのですか。そのようなことをなさらなくても、覚悟は決まっております。抵抗したりはいたしません」
香蘭は、強く首を振った。
震えながらも、言葉を発した。
「
「ははは。縛った女を抱くのが趣味なのは確かだが、なぶり者とは、夫人が怯えるであろうな。私は、愛し方を知っておる。私なりの、だがな」
高俅が笑った。
香蘭は、さらに身体を固くした。
「さあ、両手を後ろに回しなさい。抵抗すれば、牢の中の
文天が背を押した。
乱暴に、手のひらが押し込まれる。
「あっ」
香蘭の身体が、前によろける。
裸にされたうえで、さらに縄で後手に縛るというのか。
だが、文天の言葉は事実だ。
いま、こうしているあいだにも、夫は牢の中で苦しんでいるのだ。
香蘭の背を恐怖が這い上がる。
夫の名を口にされた瞬間、反抗の心は砕かれた。
「ぐずぐずするな。早く手を背中に回せ」
文天の手が肩を摑み、強く揺さぶった。
「ひっ」
「素直な態度を取ることです、香蘭殿。ご主人の取り調べをしているのは、この文天閣下なのですぞ。つまり、牢の中のご主人を生かすも殺すも、このお方の意のままということです」
「ああ、そんな……どうか、夫をお助けください」
香蘭は身を抱いたまま、顔をあげた。
「ならば、俺たちに従うことだ」
文天が縄を解き、香蘭の背に縄の端を押し当てた。
香蘭の視線が、高俅へと向かう。縋るように。
「高俅様、なんでもするという言葉に嘘はありませぬ。しかし、ここではお許しください。別の部屋であれば、どんなこともいたします」
「なんでもするというのなら、ここで文天の縄を受け入れよ。私を十分に愉しませれば、県令にも、この文天にも、いくらでも口利きをしてやろう。夫を助けたければ、多少の恥くらい耐えることだな」
高俅の顔に浮かぶのは、にやにやとした笑みだった。
香蘭は、逃げ場がないことを悟る。
夫のためだ──。
もう、覚悟を決めるしかない。
「わ、わかりました……。その代わりに、どうか夫のことは……」
胸と股間を隠していた両腕を外し、背へと静かに回していった。
「ははは、やっとその気になったか。まあ、素直にならなければ、せっかく、こんなところで全裸になるような恥を晒したのに、それが意味がなくなるということだしな」
文天が香蘭の両腕を背で重ね合わせ、縄をきりきりと締める。
さらに、腕を縛った縄を前に回し、乳房の上下に巻きつけていく。二重、三重。縄は香蘭の肉に深く食い込んだ。
「おっ、夫人、なんだ。しっかりと、乳首を勃たせておるではないか。しかも、よく見れば、陰毛もしとどに濡らしておるな。李家の若夫人が露出の性癖があるとは知らなかった」
文天が縛り終えた縄尻をつかみ、ぐっと引いて香蘭の姿勢を真っ直ぐにさせる。
媚薬に熱く火照った香蘭の肌を見て、大袈裟に笑った。
香蘭は、羞恥にかっと顔を赤らめた。全身に熱が昇っていく。
「ち、違います。こ、これは、お酒のせいで……」
「酒を飲むと、乳首を勃起させるのか? 夫人にそんな趣味があるなら、もっと早く教えてくれればよかったのに。いくらでも愉しませてあげれたが」
「ち、違うのです──」
香蘭は首を振った。必死だった。
「ははは、確かに濡れておるのう。なるほど、李家の若夫人は他人に裸を見せて興奮する淫女であったか」
高俅が手を叩いて笑った。
香蘭は、唇を噛んで耐えた。
「さあ、そのまま立ちなさい」
文天が別の縄を取り出す。
天井の梁木に縄を通し、香蘭の両腕を縛った縄と結ぶ。
そのまま縄を引きあげ、香蘭の身体が爪先立ちになるまで吊り上げて、固定した。
「ああ、そんな……」
個室の中央に晒されたまま、正面を向けさせられる。
香蘭は脚をすぼめようと、片脚を曲げて股間を隠そうとした。
「まだ抵抗するか。まあ、それも興だが、脚も縛ってしまえ。それから時間をかけて遊んでやろう。文天、面白い道具も準備しておるのだろう?」
「もちろんでございます、高俅様。まずは余興代わりに、この香蘭殿には、この俺たちと勝負をしてもらおうと思っております」
「勝負とな?」
高俅が小さく首を傾げる。
香蘭の眉も動いた。
この文天と勝負?
勝ち目などあるはずがない。それどころか、香蘭は爪先立ちに縛られて、全身を拘束されている。
文天は台から短い棒を取り出す。
香蘭の背後に回り、その両端を膝に縛りつけた。
脚も肩幅に開かれ、香蘭はもはや一歩も動けない。
「さて、香蘭殿、改めて問うが牢にいる李新を助けたいか?」
文天が前に回り、香蘭の正面に立つ。
香蘭は、必死に頷いた。
「ああ、どうか、夫をお助けください。なぶり者にでもなんでもなります。わたしのことはもはや思う存分に扱ってください。その代わりに、どうか、夫のことは……」
「わかった。わかった。その覚悟が聞きたかった。ならば、これから、半刻のあいだ、この俺たちがありとあらゆる手段で香蘭殿を責める。それを耐えるのだ。一刻で三度気をやれば、夫は助からんと思え。その代わりに、三度の気を達しなければ、そなたの亭主は牢から解放してやろう」
「ば、馬鹿なことを」
香蘭の声が詰まる。
どういうつもりだ──。
手も足も拘束されて、媚薬の効果がいまだ全身を疼かせている。そんな状態で、性感の勝負など、できるはずがない。
「それはいい。ならば、夫人、死ぬ気で我慢してみせよ。夫の命を助けたいのであれば、三回くらいは気を我慢できるというものだ。そこに香時計がある。しっかりと時間は計ってやるから、そなたの覚悟を見せてくれ」
高俅が手を叩いて笑った。
香蘭は、羞恥と恐怖で頭が真っ白になった。
「そ、そんな……」
「おっ、よかったな、香蘭殿。高俅様がお約束してくださいましたぞ。ならば、あとはその勝負にお勝ちなさるだけですな。頑張りなされ」
「お、お許しを……。そのような卑怯なことをおっしゃらずに、どうか夫を助けるとお約束くださいませ。わたしのことはどんなことをしても構いません。高俅様に身も心も捧げさせて頂きます。どうか、どうか」
香蘭の声音は、縋りつくように震えていた。
媚薬のせいで身体は信じられぬほど熱く、疼きも強まっていた。自分が勝てるとは到底思えなかった。
「なにをいう。勝負に負ければ、私に犯されるのは当たり前であろう。それだけでなく、ここにいる三人。いや、そのあと、私が選りすぐった五人ほどの男娼に抱かれてもらう。その次は文天のところの兵の相手もしてもらうぞ。それがいやなら、必死に勝負に勝つことだ」
高俅の笑い声が、石壁に反響した。
香蘭は、ぞっと背を震わせた。
「ま、まさか。わたしに皆様だけでなく、大勢の男の方の相手をせよと申すのですか? そんなことはできません」
「ならば、夫のことは諦めよ。文天との勝負をせんなら、話は終わりだな」
高俅が、あっさりと首を横に振った。
香蘭は歯を噛んだ。
──だが、他に道はない。
「わ、わかりました……。しょ、勝負をいたします。その代わり、夫のことは必ずお約束くださいませ」
「文天に見事に勝ってみせればな」
高俅の口元に、冷たい笑みが浮かんだ。
「よし、これで話は決まった。では勝負と行こう、香蘭殿」
文天が香蘭の背に回った。
そして、すっと手が下腹部へ這い寄ってくる。その文天の指が、股間の裂け目の、わずかに横をなぞる。
触れたか触れていないかの、その微細な刺激だけで、香蘭の全身に熱が走った。
「ああっ、あああっ」
文天の毛深い手が肌に這った瞬間、信じがたいほどの淫情が香蘭の身体を襲う。
縄で吊られた裸身が、狂ったようにうねった。
「ははは、まだ指先ひとつであろう。まさか、あっという間に終わりはせんであろうなあ。夫を助けたいのであろう。ならば死に物狂いで我慢せんか──」
高俅の声だった。
「くっ」
文天の指が離れた。
香蘭は、肩で荒く息をしていた。
──ここまで感じてしまうのは、あの媚薬のせいに違いない。
けれど、耐えねばならない。負ければ、夫は刑死。自分は兵たちに輪姦されるというのだ。
絶対に、負けるわけにはいかない。
「まずは、胸責めといたそうか。祝朝奉殿、手伝っていただけるか。俺は右を受け持とう。祝朝奉殿は左から頼む」
「わかりました」
祝朝奉が立ち上がった気配。
香蘭は身を竦める。
二人が、左右から香蘭に接近してくる。
「ひあっ」
縄で締められた乳房を、文天と祝朝奉の手が包み込んだ。
そっと、だが確実に、指が揉み上げ、擦ってくる。
「軟らかい乳房ですね。これはなかなか」
「どうでもよいが、乳房くらいでそんなに大袈裟に反応をしておると、とてもじゃないが一刻はもちませんぞ」
祝朝奉が言う。
指は乳首を的確にとらえ、翻弄するようにこね回す。
しかも、左右の愛撫が全く異なる。
香蘭は抵抗すらできぬまま、髪を振り乱し、悲鳴に似た喘ぎを漏らした。
「こ、このような……。ひ、卑怯です。ふ、ふたり掛かりなど……」
「なにが卑怯ですかな。まだ胸だけですぞ。それに俺はあらゆる道具を使うと申したのです。この程度で音をあげては困りますなあ」
いつの間にか、文天は羽根を握っていた。
それを、香蘭の股間のもっとも敏感な箇所に当ててくる。
「ああっ、いやああっ」
香蘭は、火が点いたように頬を染め、震えた。
逃げようと、腰を引く。
「おや、あまり尻をさげない方がよいですよ。わしの羽根も襲いますぞ」
祝朝奉も羽根を手にしていた。
今度は、尻の割れ目の上下をくすぐられる。
「んひいいっ」
香蘭は反射的に腰を前へ出す。
だが、すると前から羽根が迫ってくる。
「ああっ、いやあっ、お、お許しを、お許しを──」
腰を引けば後ろ、前に出せば前から羽根が襲う。
さらに乳房の愛撫も止まらない。
右に、左に、前に、後ろに。
香蘭の身体は、縛られたまま狂おしくのたうつ。
やがて、文天が羽根を捨てた。
代わりに、指先で肉芽を挟み込む。
「んぐうううっ、だめえええっ」
快感が、腰から背中にかけて突き抜けた。
太腿が激しく痙攣し、香蘭の全身が跳ねる。
「あああっ、ああああっ」
むせ返るような喘ぎとともに、絶頂を迎えてしまった。
開かされた脚のまま、吊るされた身体ががくがくと震える。
「まずは一回目か。まだ四半刻どころか、その半分も経っておらん。これでは勝負にはならんな」
高俅の笑い声が、空気を裂いた。
「なんの、それではあまりにも可哀想。ならば、香蘭殿に時間を与えてあげましょう。実のところ、香蘭殿を責めるために、“
文天が、小瓶を取り出して蓋を開けた。
つんと鼻を衝く刺激臭が、空気に満ちた。
「ほう、つまりは痒み剤か?」
「左様です、高俅様。ずいきの汁と、山芋の汁、ほかに十以上の薬草が練り込んであるとっておきの痒み剤です。二回戦目は痒みと戦ってもらう」
文天が笑った。
指先で油をすくい、それを香蘭の顔の前に突きつける。
「ならば、わしは後ろを受け持とう。香蘭殿の可愛らしい菊の門に塗ってさしあげましょう」
祝朝奉もまた、小瓶から薬剤をすくった。
指に載せたそれを、これ見よがしに掲げている。
「ああ、そんなことはおやめください。後生です」
香蘭は、達したばかりの身体を懸命に震わせ、腰を逃そうとした。
それでも、拘束された両脚が許してはくれない。
「そうそう、頑張って抵抗するのです。さもないと、得体の知れない油剤を二穴に塗られることになりますぞ」
「その通りですな。さあ、頑張って」
文天と祝朝奉が、前後から指を伸ばした。
そして、容赦なく、香蘭の前と後ろへと塗り込んでくる。
「あああっ」
香蘭は絶望の呻きをあげた。