どれほどの時が過ぎたのか。おそらく一日。だが、それも定かではない。
意識は薄れ、思考は霧のなかに溶けた。
ただ、動く。それだけが命じられたことであり、許された行動だった。
痛みを背負い、飢えに喘ぎながら、王進は這い続けた。
許しを乞う声は喉の奥で潰え、王進はただ、痛みに抗うだけの獣と化していた。
犬のように、這い回る。
それがすべてだった。
『兄上がこの屋敷に来られるのは明後日になった。それまでに一人前の犬になることだ。雌犬にな』
高俅が去り際に投げた言葉は、冷たい鉄のように王進の脳裏に突き刺さっていた。
その直後、粘土のようなもので耳を塞がれた。口には穴の開いた球体の猿轡。
さらに、顔全体を覆う革製の仮面が被せられた。
視覚も、聴覚も、嗅覚までも──すべてが奪われた。
王進は、外の世界から切り離された存在になっていた。
身体を覆うものは、なにもなかった。
四肢の関節に、無骨な器具が喰い込んでいる。
棒状の金属枷が体のあちこちを繋ぎ止め、姿勢を四つん這いに固定していた。
構造は見えない。だが、それが取りつけられて以降、王進は立つこともできず、姿勢を変えることさえ許されなくなった。
動くことはできる。ただし、それは這うだけの話だ。
しかも、手足に力が入らず、幼子のように、もどかしく、頼りなく、這うしかなかった。
だが、もっとも堪え難かったのは、腰を強引に折り曲げられ、首を胸へと無理に押しつけられるように捻じられていたことだった。
異様な仕掛けにより、全身は窮屈な四つん這いに固定された。
その直後から、身体全体に苛烈な痛みが走った。
肩、首、腹、腰、そして肛門の奥にまで、じわじわと圧力がのしかかる。
筋肉はひきつり、やがて肉が裂けるような痛みが襲ってきた。
そのうえで、高俅が命じたのは、四つん這いのまま歩き続けることだった。
王進の男根と睾丸には金属環が巻きつけられ、歩みを止めれば、すぐに激痛が走るよう仕組まれていた。
わずかでも動いていれば難を逃れられるが、動きを止めれば、鋭い電撃が容赦なく襲う。
逃れる術もなく、王進は訳もわからぬまま、這うことを強いられた。
それは「傀儡具」と呼ばれる拷問器具であり、道術紋が刻まれ、何らかの術的仕掛けで作動するよう造られている。
高俅は、その道具が宮廷道術師の兄・高廉の作であることを、得意げに語っていた。
しかも、仕掛けの全容は掴めないままだった。
王進は、膝を床に着けることさえ許されず、尻を高く突き上げたまま四つん這いで動き回るほかなかった。
その姿を思い浮かべるたびに、内から冷たいものが這い上がってきた。
屈辱は、骨の芯にまで染み込んでいた。
しかも、高俅は、王進の尊厳を深く踏みにじるために、容赦のない演出を用意していた。
それは王進の視界が奪われる直前、最後に見せつけられたものだった。
「尻尾」。しかも、ただれるような疼きを発生させる油剤を塗りながら、王進の肛門に容赦なく貫かせたのだ。王進は否応なく受け入れさせられた。
そして、王進の男根を薬剤を使って勃起させ、薬剤の効果により制御の効かなくなった王進を幾度も果てさせた。
回数はもう覚えていない。
ただ、最後に残ったのは、自分が叫びながら泣いていたという記憶だけだった。
そして、いま、王進は、視界も聴覚も奪われた不安の中、ただ激痛に耐えながら、誰もいない室内を彷徨い続けている。
歩みを進めるたびに、背中から這い寄るような肛門の異物感が、鋭い刺激として脳を揺らす。
理性では抗えぬ疼きが、全身に波紋のように広がった。
身体の奥で、なにかが狂い始めている──そう感じる瞬間があった。
また、なにかの呪術的な影響なのか、ずっと男根の勃起が収まらない。
つまりは、王進は、たったひとりで全裸で放置され、尻穴に尻尾状の張形を貫かせられて、男根を勃起させたまま、四つん這いで、延々と歩かされるづけているということだ。
だが、唯一の救いは、見られていないということだ。
これを強いた高俅に対する怒りだけが、王進の意識を支えていた。
──必ず、殺す。
その誓いが、冷たい鉄のように胸に沈んでいた。
だが、その怒りすら、次第に重さを増していた。
それが、どれほどの時間続いたのか。
一日か、あるいはそれ以上だったのかもしれない。
なにも見えず、なにも聞こえぬ。感覚という感覚が擦り切れ、思考の輪郭すら曖昧になっていた。
眠りに落ちかけると、激痛が身体を貫き、意識が引き戻される。
二度、三度と、耐えきれずに身体が崩れた。
死んだほうがましだ──そう思った。だが、死ぬことすら許されていなかった。
何者かによって刻まれた呪術が、それを拒んでいる。
王進は、崩れそうな意識の中で、ただ終わりを願った。
四肢の苦痛に耐えながら、よろよろと這い続ける。
永遠のような時間が、ただ過ぎていった。
そのときだった。
背後から、鋭く突き上げるような感覚が襲った。
一瞬、なにが起きたのかわからなかったが──すぐに察した。
誰かが、背中から仕込まれていた異物を強く掴んだのだ。
「んぐううっ」
直後、尻の奥に稲妻のような衝撃が走った。
叫ぶことすらできず、王進の身体は、全身の筋肉を震わせて跳ね上がった。
「おごおおおっ」
腹の底から搾り出すような呻き声をあげ、王進はその場に崩れ落ちた。
背筋が痙攣し、喉から洩れたのは、言葉にならぬ叫びだった。
苦痛と混乱が交錯し、目の前の意識が白く霞んでいく。
「はがああっ、があああっ、あがあああっ」
転倒の瞬間、さらなる衝撃が股間を貫いた。
全身が跳ねる。喉が裂けるほどの呻き声が洩れる。
金属の枷が身体をねじ伏せ、起きあがることすら許さなかった。
地面に這いつくばったまま、王進は必死に姿勢を戻そうとする。
だが、局部に流れる電撃の痛みは容赦なく、波のように襲いかかる。
歯を食いしばり、涙をこぼしながら、もがき続けた。
そのとき、不意に電撃が止んだ。
まだ、身体は起こせていない。
にもかかわらず、静寂が訪れた。
誰かの手が伸びてきた。
そして、顔を覆っていた革の覆いが外される。
耳を塞いでいた栓も落ち、音が世界に戻ってきた。
だが、次の瞬間、別の布で目隠しが施される。
それでも、顔の半分を締めつけていた圧迫が消えただけで、身体がわずかに緩んだ。
王進は、鼻先を通る空気を、飢えた獣のように吸い込んだ。
喉の奥まで満ちる冷たい呼吸が、痛みの渦中でひとときの救いとなった。
「まだ正気か、王進。一日ぶりだったか。ずいぶんと見苦しいな。汗に濡れ、小便に塗れて……。まあ、脱糞していないだけ褒めてやるか」
目隠しをされ、視界はない。だが、声でわかる。
高俅だった。
「狂うことはないわ。それも呪術でできないのよ。まあ、普通なら狂っているかもしれないけどね」
誰だ──?
思わず息を呑んだ。
高俅だけではない。もう一人、いや、それ以上の気配がある。
囲まれている。……この姿を、見られている。
羞恥が、焼けつくように全身を駆け巡った。
だが、それを押し込めて、耳に残った声を探る。
男の声。だが、艶がある。女のような、ねっとりとした響き……。
会ったことはない。だが、噂に聞いたことはある。
高俅の異母兄──
「おごおっ」
突然だった。
後頭部を踏みつけられ、顔面を床に叩きつけられる。
続けて、首の上に金具のようなものが覆いかぶさり、頭が床に縫いつけられた。
手首の枷が外されると同時に、背中で腕が組まれ、再び固定される。
反撃は不可能だった。
あまりに長い苦痛の時間が、王進の力を根こそぎ奪っていた。
「疲れたか、王進。調教の初手は、まず体力を奪うことだ。寝かせず、四つん這いで一日を過ごさせれば、さすがのお前も堪えただろう」
高俅の声は、妙に嬉しげだった。
「それにしても、滑稽だな。その格好。お前自身にも見せてやりたい。これでも禁軍の師範か……。まあ、いい。始めろ」
気配がした。
王進の左右に、人の気配が寄った。
顔は床に押しつけられ、腰は高く突き上げたまま。
そのまま、両脇から手が伸びる──。
「んああっ、んがあっ」
吠えた。
いきなり、男根と睾丸を愛撫されたのだ。
左右から、別々の人間に──。
「んぐうっ、ふぐううっ」
歯を食いしばった。
だが、込み上げてきた衝撃に、抗うことができなかった。
逃れようとしても、枷がそれを許さない。
全身は金具に縫いとめられたまま、王進はされるがままだった。
身体が震えた。
制御を失った肉体は、痙攣とともに極限の緊張を吐き出した。
脳髄が焼けつくような衝撃に支配され、意識の奥で何かが崩れた。
情けない声が、喉の奥から洩れた。
股間から脳髄にかけて凄まじいほどの喜悦と肉の悦びが席巻する。
はっとしたときには、王進は惨めにも股間から大量の精液を放出したあとだった。
「あああっ……」
大きな快感とともに、王進は本能のまま声をあげて身体を高揚させていた。
「ははは……。一昨日は、泣いて哀願していたくせに、今日は随分と元気じゃないか。たった一日で、ずいぶんと“しつけ”が進んだようだな」
高俅の笑い声が、耳に焼きついた。
その声だけで、すべてを悟った。
王進を辱めるために、部下を使ったのだ。
怒りよりも、先に湧き上がったのは、どうしようもない惨めさだった。
その熱が、身体の奥からせり上がってくる。
皮膚の内側が、灼けるようだった。
「ふふ……私が刻んだ淫紋が、いよいよこの男の身体を変えていっているのよ。もう、理性なんて無意味。本能、それもむき出しの性欲に支配されている──。そう、それがいまの王進よ。身体中が、淫紋のせいで敏感になっているはずよ。どこに触れられても、たまらなく感じるように、ね……。いずれ、その欲に呑まれて、自分じゃ止められない衝動に身を焦がすことになるわ。それが、私の淫紋を刻まれた者の……行き着く先よ」
高廉と思しき男が、楽しげに笑った。
その笑いが、王進の胸を裂いた。
惨めさに、喉の奥から嗚咽がこぼれた。
「おうおう、泣いておるのか。いかんなあ、王進。泣いたらいかんのだぞ、なあ?」
高俅が、子どもをあやすような口ぶりで言ったあと、腹の底から笑い声を響かせた。
その声が、王進の意識を奪っていく。
怒りと屈辱で、視界の奥が揺らいだ。
「欲が満たされたら、次は喉だな。王進──餌をやる。雌犬らしく、喰らえ」
視界は閉ざされていたが、皿が顔の下に置かれたのがわかった。
最初に鼻を突いたのは、息を詰まらせるほどの臭気だった。
だが、その臭いすら、王進にとっては食欲をそそる香りへと変わった。
空腹と渇きが、理性を呑み込んでいた。
捕らえられて以来、水一滴すら口にしていない。
いま、目の前にあるものが、どんなものだろうと──それは、救いに思えた。
口を塞いでいた球状の猿轡が外された。
涎がこぼれ落ち、王進は反射的に舌を突き出した。
考える余裕などなかった。
顔の下の皿にあるものを、ただ舐めようとした。
「ぐっ……があっ……」
王進は全身を突っ張らせ、呻いた。
身体の深部に、強烈な衝撃が走ったのだ。
不意打ちだった。反射で舌を出した瞬間、全身が跳ね上がった。
「“よし”って言うまで舌を出しちゃだめよ。わかった? ……じゃあ、いま、食べていいわ」
含みを帯びた、ねっとりとした声が響いた。
──高廉だ、と王進は直感した。
「うっ……ぐああっ……」
再び、身体が揺れた。
痛みが、神経を貫いた。
「喰えって言われたら、喰うんだよ、王進。……喰え──」
高俅の叫びが響いた。
直後、肛門の挿入されぱなしの「尻尾」が大きく揺らされた。
「ああっ、いやああっ」
自分の声に、王進は息を呑んで愕然とした。
高く、細く、震えていた。
咄嗟に口から迸ったのは、女のような声だった──いや、確かに女の声に聞こえた。言葉もまた、女のものだ。
「兄上、見たか? 声も反応も、ずいぶん女に近づいてきたじゃないか。身体もな。さすがは、兄上の細工だな」
高俅の笑い声が響き、誰かが手を叩いた。
女のような身体……?
そんな馬鹿な、と王進は思った。
だが、呪術がただ感覚を狂わせているだけでなく、身体そのものを変え始めているとしたら──。
思い至った瞬間、背筋を冷たいものが伝った。
「喰え、王進──」
そして、高俅の声が響いた。
反射だった。思考を挟む暇もなく、王進は顔の下にある皿に舌を伸ばした。
……美味い。
信じがたい味だった。
飢えと渇きが、一瞬で霧のように消えた。
これほどの味を、口にした記憶がない。
ひと舐め。
その瞬間に、なにかが壊れた。
あとは、夢中だった。
王進は皿の中を貪るように舐め続けた。
美味い──
ただ、それだけだった。
恥も、理性も、すべてが霞んでいく。
「お預けよ」
女の声。
高廉──そう思わせる、艶を含んだ響きだった。
だが、王進は止まれなかった。
舌は勝手に動き、皿の底を舐め続けた。
我慢などできるはずがなかった。
「んぐううっ……あがああっ……」
すると今度は、男根と睾丸だけでなく、肛門に挿入されている張形にも、電撃の痛みが奔った。
その痛みに、王進はようやく舌を引っ込めた。
その隙に、皿が入れ替えられたのがわかった。
新たな臭気が鼻腔を突いた。
──だが、同時に、猛烈な食欲が押し寄せた。
「ちゃんと命令を聞きなさい。……じゃあ、お食べ」
──高廉。
そう思える声が、低く響いた。
王進は迷いなく舌を出し、皿に触れた。
異臭が鼻に届く。だが、味は清冽だった。
全身に力が戻っていくのがわかる。
夢中で舐めた。
「お預け──」
今度は高俅の声。
戸惑いが脳裏をかすめた瞬間、全身に鋭い衝撃が走った。
王進は、口の中のものを吐き出した。
「よし──」
声を聞くや否や、舌が再び皿に向かう。
思考よりも先に、身体が動いていた。
「お預け──」
瞬時に舌を引っ込めた。
──犬だ。
王進は、自分が躾けられていることを理解した。
だが、その認識すら、いまの彼には遠かった。
屈辱を感じる余裕も、もう残っていなかった。
逆らえば、痛みが走る。
考えることができなかった。
ただ、命じられるままに動いた。
皿は何度も替えられた。
中のものは、鼻を刺すような臭いがした。
だが、味は──美味かった。
それだけは確かだった。
何もかもを忘れさせるほどに。
「ほほほ……もう身体に染みついたようね。お前が一生懸命に舐めていたのは、男の精液よ。よかったじゃない。これからは、男の精液さえ飲んでいれば、飲まず食わずでも、生きていける。病気にもなれないし、飢えて死ぬこともできない。その代わり、定期的に精液を身体に入れないと、凄まじい飢餓感に襲われることになるけどね」
艶を含んだ声が響いた。
──高廉。
その笑いに、周囲がどっと沸いた。
王進は、そこで初めて気づいた。
自分が、思っていた以上に多くの目に囲まれていたことに。
そして、いま、なんと言った?
男の精液と聞こえた気がするんだが……。
「王進、まだ足りんか? 欲しければ、好きなだけ強請るがいい。ここにいるのは、お前の“食事”に協力してくれた連中だ。選りすぐりの男たちよ。お前が女のように見えたからか、集めるのも造作なかったわ」
高俅の声とともに、目隠しが外された。
一瞬、白い光が網膜を焼いた。
視界は揺れ、形は歪んでいた。
それでも、しばらくして徐々に焦点が合ってくる。
王進は皿を見た。
そこにあったものに、思わず目を見開いた。
──理解が追いつかなかった。
だが、次の瞬間に、すべてがつながった。
自分が舐めていたもの。
美味だと信じて貪ったもの。
身体が悦び、心が忘れようとしていたもの。
確かに、どう見ても、男の精液だった。
現実が、王進を深く突き刺した。
その衝撃は、痛みよりも冷たかった。
まさか、自分は、本当に男の精液を、なによりもの美味だと思って、舐め続けていたのか……。
愕然となる。
──それだけではなかった。
王進は、顔をわずかに上げた。
目の前には高俅。
その隣に、異様な色気をまとった男──おそらく高廉。
そして、その背後に、ずらりと並んだ兵士たち。
皆、近衛兵の制服を着ていた。しかも、その全員が下半身を露出している。
新たな皿に数名の兵士が自慰をして、さらに精液を溜めようとしている光景まで見えた。
なにかが狂っている。
その空間も、王進自身も。
眼に映るものが、理性を焼き切った。
その瞬間、王進の内側から、なにかが崩れた。
「な……なんてことを……。わ、わたしになにを──」
王進は叫んだ。
その声に、自分で息を呑んだ。
──いま、なんと言った?
“わたし”?
耳に残ったのは、自分のものとは思えない声だった。
高く、細く、女のような響き。
喉に指をあてた。
震えていた。
恐怖ではない。自分が、自分でなくなっていく実感──。
──なにかが、確実に、壊されている。
「呪が効いてきてるわね。いずれ自分が男だったことすら、信じられなくなる。さあ……次は身体に刻んであげて。本物の女の悦びってやつを、ね」
高廉の声だった。
その直後、嘲るような笑い声が一斉に湧き上がる。
気配が動く。
ざわりと、数人──いや、十人を超える影が迫ってきた。
背後だ。
逃げられない。
身体が、四つん這いの姿勢を強いられたまま、まるで祭壇の供物のように晒されている。
「や、やめろ……。わたしは……い、いや、俺は……男だ……」
王進は、喉の奥から声を絞り出した。
だが、口からこぼれたのは、またしても女のような声だった。
言葉の端々が、勝手に柔らかく崩れていく。
男の言葉が出ない。意識しなければ、自分が“男だった”ことすら忘れそうになる。
「待て、待て──。最初は私がする。まずは私がこの女男を犯そう。まずは雌犬調教の最初は私だ──。すっかりと珍棒を生やした女のようになったこいつは、まずは私が犯す──」
高俅の声が、耳元で響いた。
何を言っているのか、意味はわからなかった。
──珍棒を生やした女?
自分のことか?
だが、その答えは、すぐに突きつけられた。
肛門から、なにかが引き抜かれる感覚があった。
身体が空白になる。
「あああっ……ああっ……」
王進は、思わず声を漏らした。
その声が、自分のものとは思えなかった。
女のような、いや、もっと深く、身体の奥底から引きずり出された声だった。
「ほう……尻を犯されるのが気持ちよくて仕方がないという感じだな。なるほどな。もう前戯はいらんようだ。よく仕込まれておる。兄上の術、やっぱり見事だ」
耳元で、高俅の嗤いが響く。
なにかが奥で蠢いている。
指が挿入される。激しく抽送される。抵抗は不可能だ。
抗えない波が、次から次へと王進を飲み込んでいく。
「うわあっ、ああっ」
快感──。
その言葉すら呪いのように感じた。
寸前で引き裂かれ、また追い詰められ──
理性がどんどんと擦り切れていく。
王進は、声にならない叫びを漏らしながら、
自分がいまどこにいるのかすら、わからなくなっていた。
自分が、自分でなくなっていく。
その感覚が、骨の芯まで染み渡っていった。
「もう、抗えまい。これが女の身体よ。しかも、淫欲に沈むよう仕立てられた特別なな」
声がそう告げる。
耳朶の奥で鈍く響き、王進の理性を削っていく。
王進の肛門から指が抜かれ、次いで怒張を貫かせてきた。圧し掛かるような重圧。
身体の奥に侵入してくる。
逃げられない。
その現実が、王進の背を這い上がる。
「ああ、ああああっ」
──身体が、拒絶しない。
むしろ、馴染んでいく。
信じられないほどの歓喜が、波のように打ち寄せてくる。
「くあ……うああっ……」
口を押さえようとしても、声が零れた。
女のような声音で。
どこまでが自分だったのか。
いまの自分は、誰なのか。
その境界が、霧のように消えていく。
「んあああっ──」
そして、王進の喉が、思わず裂けた。
身体の芯を貫いたものに反応して、意識とは裏腹に、またひとつ、堰を切ったように、ついに王進は最初の射精をしてしまった。
堕ちていく感覚があった。
だが、終わらない。
容赦などあるはずもなかった。
波のような快感が押し寄せるたびに、王進の思考は削られていった。
自分がなにをされているのか、どこまでが自分なのか。
すべてがわからなくなる。
すぐに、二度目の射精をした。
全身から力が抜けた。
それに合わせて、高俅が王進の尻穴に精を放つのを感じた。
羞恥も、怒りも、なにもかもが、底なしの絶望に呑まれていった──。
「ははは、何度やっても犯しがいのある尻よ──。だが、王進、まだ終わりじゃないぞ。よし、いいぞ。じゃあ、指示のとおりにこいつの尻を全員で犯し続けよ。そうすればなにをしてもよい。媚薬も、道術の刻まれている傀儡具の淫具も、それ以外の責め具も、たくさんのものを準備してある。最低二日は眠らせるな。とにかく、こいつの尻を犯し続けろ。餌はお前たちの精液だ」
高俅が離れた。
その瞬間、空気が歪んだ。
気配が、殺到する。
王進の背に、幾つもの影が覆いかぶさる。
息を呑む間もなく、男たちの手が容赦なく肉体を責めたててくる。
理性が削られ、感覚だけが膨張する。
「やめろ……っ、やめてくれ……っ」
その声は、もはや自分のものではなかった。
高く、震えていた。
女の泣き声に似ていた。
王進は、自分の喉が発したその声に、誰よりも先に絶望していた──。