※この作品はR-18です。

水滸伝艶義   作:ドン・ドナシアン

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31  史春、拘束され陰毛をむしられる

 つんという刺激が、肌をかすめた。

 史春(ししゅん)は、意識の底からゆっくりと浮かびあがった。

 

「いい身体してやがるぜ。まったく、棒を持てば男でもかなわねえという鉄火娘だから、どんな身体をしているかと思えば、乳房のかたちもいいし、股ぐらもおいしそうだ。ねえ、李吉(りきつ)さん、おれたちにも味見をさせてくれるっていうのは、本当ですか?」

 

「俺だって半年ぶりくらいなんだ。とりあえず、俺が抱いたらな……。まあ、お前たちへのお駄賃として、史春の身体を貸してやるよ」

 

 視界が揺れていた。

 ぼんやりとしていたものが、徐々に輪郭を取り戻す。

 周囲のざわめきが、耳の奥へと染みこんできた。

 最初に聞き取れたのは、李吉のくぐもった声だった。

 

「おっ、眼を開けたな、史春──。気分はどうだ……? といっても、まだ、どんな状況かわからねえか……。だが、俺は気分がいいぜ。こんな嬉しい気持ちなのは半年ぶりだ。なにせ、あの史春がまた、俺の女に戻ると決まったんだからな」

 

 李吉が、にやけた口元で言った。

 なにを……言っている──?

 

 史春は、ぞっとするような嫌悪を腹に感じた。

 が、状況が呑み込めず、声は喉で止まっていた。

 

 ここは──山小屋だ。

 けれど、見覚えがない。

 粗末な戸板で囲われた壁、土間と床の高さが異なる二つの空間。

 一段高い床の上に、史春は立たされていた。

 その周囲を、李吉と、先ほど聞こえた男たちが囲んでいる。

 五人いたはずの男たちは、三人に減っていた。

 李吉を含めた四人が、腕を組んだまま、史春を値踏みするように見ている。

 

 そして、胸の奥に、言いようのない違和感が滲んだ。

 ──えっ、動けない?

 身体が……縛られている?

 

 史春が倒れもせず立っていられるのは、身体を支える何かがあるからだ。

 その正体を、意識が戻った頭がゆっくりと認識していく。

 両方の手首が、天井から吊られていた。

 無理に伸ばされた両腕が、肩から先を痺れさせている。

 だが、そこまではまだ序章にすぎなかった。

 次の瞬間、頭が冴えわたり、史春は自分の姿に戦慄した。

 

「な、なによ、これ──?」

 

 驚いたことに史春は素っ裸だった。

 布切れ一枚、身体には身に着けていない。

 両手はひとつに束ねられて、天井から鎖で吊りあげられている。

 しかも、両脚に脚を大きく開いた長さの金属の棒の両端で足首を革紐で縛られていた。その棒はなんとなく長さを自在に調整できる気配だ。

 さらに、この金属の棒の中央が床に打たれている金具に固定されている。脚を振りあげることもできない。

 つまりは、史春は気を失っているあいだに、素っ裸に剥かれて、この見知らぬ山小屋らしき場所に連れて来られ、しかも、拘束されて男たちに囲まれているということだ。

 

 史春は、頭の中に渦を巻くような混乱を抱えた。

 ──なんで、こんなことに……?

 

 脳裏に、断片が浮かんだ。

 史華村(しかそん)の外れに、李吉が現れたときのことだった。

 借金取りを伴い、血相を変えていた。

 泣きながら土下座した。

 ──金を貸してくれ。命が惜しい。

 史春は迷った末に、肩代わりを承知したのだった。

 肩代わりの義理はないが、仮にも昔の男がなぶり殺しにされると知って、情けをかけただけだ。

 

 だが──。

 その直後、李吉がなにかを身体に押しつけてきた。

 意識が、暗転した。

 ……あのときか。

 

 どこかで、自分にそっくりな女を見たような──。

 輪郭は霞んでいたが、妙な既視感だけが残っている。

 思考が戻るにつれて、史春は、李吉に仕掛けられた罠の深さに気づき始めていた。

 この男、初めから──仕組んでいたのだ。

 

「李吉、これは、あんたの仕業なの──? 承知しないわよ。これを外しなさい」

 

 史春は、怒りに燃える声をぶつけた。

 

「おうおう、声が大きいなあ。まあ、ここは、人里離れた三軒並びの山小屋で、この一帯には誰も住んでいねえから、いくら悲鳴をあげてもらって構わないが、それにしても本当に気が強いんだなあ、史春……。素っ裸に剥かれて、身体をそうやって吊られて立たされても、それだけの罵倒が言えるんだ」

 

 李吉は、腕を組んだまま、愉快げに口角を吊り上げた。

 

「ど、どういうこと、あんた? これはなによ?」

 

 史春の叫びが、小屋の板壁に跳ね返った。

 

「もちろん、お前を誘拐したということさ……。お前をここで調教するためにな……。俺も、こんな手荒な真似をしたくはなかったんだが、お前がどうしても、俺になびいて、よりを戻そうとしない以上は仕方ねえ。この人たちにひと芝居打ってもらって、お前をさらわせてもらったぜ」

 

「はあ、一体全体、なんのつもりよ──」

 

「へへ、もうすぐ、調教師もここにやってくる。これから、お前を調教して、完全に屈伏してもらう……。そして、俺が元の鞘に収まり、お前の亭主になるということさ」

 

 李吉は、勝ち誇ったように唇を歪めた。

 

「はあっ? 馬鹿じゃないの、あんた。そんなことが許されると思っているの。だいたい、調教とはなによ? そんなものであたしの心が変わると思っているの? つくづく、あんたの頭はおめでたくできているのねえ」

 

 史春の怒声が、はっきりと小屋に響いた。

 

「調教で心が変わるか、変わらないか、一度受けてみるんだな」

 

 李吉が、腹の底から哄笑した。

 怒りが、血を沸騰させた。

 史春は吊られた身体を、荒々しくよじらせた。

 だが、拘束は緩まない。

 腕も、脚も、鋼のように縛られていた。

 

「あ、あんた、本気なの? こんなことしてただで済まないわよ。あたしがいなくなれば、史華村中が大騒ぎになるのよ。とにかく、いまなら見逃してあげるわ。あんたも切羽詰ってやったことだと思うし、なかったことにしてあげる。だけど、このままじゃあ、あたしじゃなくて、あんたが取り返しのつかないことになるのよ」

 

 史春の言葉は、苦しさのなかから絞り出された。

 

「問題ねえよ。今頃は、お前の身代わりの女がお前の屋敷に戻っている。まあ、しばらくは大丈夫だろうさ。そのあいだに、お前は身も心も俺に屈伏して、再び俺をお前の婚約者として迎える気持ちになってしまうというわけよ。わかったか? この三箇月、よくも、俺を虚仮(こけ)にしてくれやがったな。まとめて、恨みを返してやるから覚悟しやがれ」

 

 史春は、言葉を失った。

 声にならぬ声が、喉の奥で溺れた。

 

 しかし、李吉の様子を見て、史春はすぐに気づいた。

 ──頭に血が上っている。完全に、のぼせあがっていた。

 女を調教して意のままに操るなどという妄言は、まともな人間の言葉ではない。

 だが、李吉には、もう自制のかけらも残っていなかった。

 感情に呑まれ、正気の境を越えている。

 

 あのとき──意識を失う寸前、史春は見たのだ。

 自分に瓜二つの女の顔を。

 なにか、道術の類いかもしれない。

 変化(へんげ)の札、あるいは幻影を伴う仮面の傀儡のたぐい。

 それほどの術を用いられたなら、しばらくは誤魔化されるだろう。

 村の者たちも、容易には気づかない。

 そのあいだ、史春はここで李吉や眼の前の男たちの玩具になってしまうのは間違いない……。

 

 こんな大それた真似を、李吉ひとりが仕組んだとは思えなかった。

 背後に、必ず糸を引いている者がいる。

 誰か──その名まではわからない。だが、ここまで手の込んだことをやる以上、ただ者ではない。

 

 とにかく、目的は明白だった。

 李吉と史春を結婚させ、史華村の権益を根こそぎ奪うつもりだ。

 借金の取り立てに、身代わりを用意し、女名主を誘拐する。そんな狂気じみた筋書きが、単なる私怨で済むはずがない。

 

 李吉は、調教などと寝言を吐いているが──あれは計画の端緒にすぎない。

 史春が屈すれば、それを起点に、村に巣くうあらゆる利権が食い荒らされていく。

 

 心までは、絶対に変わらない。

 だが、やつらの狙いはそこではない。

 どんな手段を使ってでも、史春を李吉の許に戻し、女名主の夫として、李吉を史華村へ押し込む。

 ──その構図が、はっきりと見えた。

 

 名主である史春が婚姻するには、役所への届けが必要だ。

 だからこそ──「調教」で従わせることができなければ、薬かなにかを使ってでも、心を壊すつもりだろう。

 廃人にしてでも、婚姻届けに判を押させる。

 李吉という駒とともに、史華村に乗り込む名目を作る。

 そうすれば、背後にいる連中が、村に入り込める。

 李吉を操り、史華村を食い物にする。

 それが──やつらの狙いだ。

 

 この村は、近隣でも最も豊かだ。

 それを嗅ぎ取った者たちの、大がかりな陰謀──。

 そう思った瞬間、史春は背筋に氷を落とされたような感覚を覚えた。

 冷たい汗が、脊髄をなぞる。

 

「り、李吉、考え直して──。あんたも利用されているのよ。こんな大それたことをしたら、あんたもただでいられるわけないわ。利用するだけ利用されて殺されるわよ。さっきの話は嘘じゃないわ。あんたの借金はあたしが肩代わりしてあげる。だから、こんな馬鹿なことはやめて」

 

 史春は、渾身の声を絞り出した。

 

「うるせい──。もう、後戻りはできないんだよ。とにかく、もう、お喋りは終わりだ。さっそく、調教を始めるぜ。まずは、その黒い茂みをつるつるに剃らせてもらう。それが奴隷調教の第一歩だ」

 

 李吉が史春の無防備な股間の茂みに手を伸ばした。

 史春はびっくりして腰を引いた。

 

「な、なにすんのよ」

 

 触ろうとする李吉の手を避けようと狂ったように史春は腰を振った。

 

「これは、簡単には茂みを剃らせそうにはないですねえ。どうします、李吉さん?」

 

 苦笑しながら口を挟んだのは、李吉を殺すと息巻いていた男だ。やっぱり完璧な芝居だったのだ。男が李吉に丁寧な言葉遣いをしている。

 

「なあに、お願いだから剃ってくれというまで、みんなで手でむしってやろうぜ。さすがに、まんこが真っ赤に腫れあがりかければ、大人しく剃らせた方がましだと覚えるさ」

 

 李吉が笑いながら史春の股間の陰毛を掴んだ。そして、力の限り陰毛を引き抜く。

 

「ぎゃあああっ」

 

 たくさんの針先を突き刺されたかと錯覚するような熱い激痛が走った。

 

 史春の顔の前で手を拡げて、これ見よがしに引き千切った陰毛を捨てた李吉の指のあいだには十数本の毛が挟まれていた。

 そして、それを合図にするかのように、ほかの三人の男たちも一斉に、史春の股間に手を伸ばした。

 

「いやああ、やめてええ──」

 

 史春は悲鳴をあげる。

 

「なかなか難しいなあ。簡単には抜けねえぜ」

 

「ゆっくりやるさ。まあ時間はたっぷりとあるしな」

 

「こっちは抜きすぎたか。こんなに抜いちまったぜ」

 

 李吉と男たちが史春の股間に手を伸ばしては、陰毛を抜き続ける。

 あまりもの激痛に、史春はぼろぼろと涙をこぼしてしまった。

 

「おう、泣き出しやがったか。どうだい、痛いか、史春?」

 

 李吉が史春の顔に前に引き千切った史春の縮れ毛を見せながら嘲笑する。

 史春は歯を喰いしばったまま、李吉を睨みつけた。

 

「こ、この……ひ、卑怯者……」

 

「痛いか、史春? お前が頼むなら優しく剃ってやってもいいぜ。それとも、このまま毟り続けてもいいけどな」

 

 李吉が史春の股間に手を伸ばして、まとまった陰毛を掴み力いっぱいに引き抜いた。

 

「いぎゃああ──」

 

 史春は絶叫した。

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