「寝るなっ」
鋭い声が耳を打った。
髪を掴まれ、無理やり顔を起こされる。次の瞬間、頬に平手が飛んだ。
ぼやけていた意識が、微かに戻る。
「おい、気付け薬を──」
背後で動いていた男が怒鳴る。史春の臀部を貫いたままの声だった。
布が押し当てられる。鼻先に沁みる、鋭く刺すような薬の匂い。
次の瞬間、沈みかけていた意識が、強引に引き戻された。
「ああ、もう……許して……。あんたたちの奴隷になる……。もう、なんでもします……。だ、だから、眠らせて───」
史春は、かすれた声で懇願した。呼吸は浅く、途切れがちだった。
だが、背後から史春を責め立てていた男は、哀願など耳に入らぬとばかりに、容赦のない律動を重ねる。
どれほど心が抗おうと、肉体が与えられる刺激には抗えない。
背を仰け反らせながら、史春は嬌声を押し殺すこともできず、咆哮のように漏らしていた。
いま、史春に残る男は、ふたりだけだった。
ほかの連中は、疲れ果てた獣のように床に倒れている。
いま起きているふたりが責めを終えれば、また別の男が起こされる。
果てしない輪姦のなかに、史春はいた──。
この男が果てれば、残るひとりが代わる。
ただ、それだけの話だった。
果てた者が、次の男を無言で叩き起こす。起こされた方も、なにも言わずに身体を整える。
そうやって交替は、機械のように繰り返されてきた。
夜と昼の区別もつかぬまま──三度目の太陽が巡った。
史春は、そのあいだずっと、犯され続けていた。
拘束は変化している。いまは後ろ手を縄で縛られ、足首も、肩幅ほどの長さの縄で繋がれていた。
初日と比べれば、幾分か自由は利く。だが──
自分には、もはや逃げ出すだけの体力も、気力も残っていない。
それを、史春は理解していた。
いま、欲しいのは──眠りだけだった。
せめて、ひとときでいい。目を閉じて、何も考えずに横たわりたかった。
ただ、それだけを願っていた。
限界など、とっくに通り過ぎていた。
身体は壊れてもおかしくないはずだったが、それでも、終わりは訪れなかった。
ただ、地獄のような快楽だけが、容赦なく襲い続けていた。
だが、史春を「調教」しようと目論む男たちは、容赦しなかった。
絶頂に喘ぎ、身を震わせるたびに、解放されるどころか、さらに深い地獄へと突き落とされる。
乾けば塗られ、それが乾けばまた塗り足される媚薬が、史春の身体を常に極限の敏感さに保っていた。
そんな状態の彼女を、李吉たちは交替で、無慈悲に責め立てる。
朝も……。
昼も……。
夜も……。
そして、また朝が来ても……。
史春は、終わりなき凌辱に晒されていた。
身体のどこかが、常に誰かに触れられ、貫かれていた。
敏感にされた全身は、わずかな刺激にも耐えきれず、絶頂に至った。
犯す場所も、女陰だけとは限らない。
口も……。
肛門も……。
胸も……。
顔で──。
ありとあらゆる場所で精を受け入れさせられた。
一人の男が史春の身体を堪能し尽くすと、すぐに次の男へと交替した。
満足を得れば、責めは終わる──。だが、それも束の間だった。
次の男が、またねちっこく舌を這わせ、指を這わせ、責めが再び始まる。
六人──。
それだけいれば、一巡する頃には誰もが回復している。
だから、史春の相手は、常に精力の満ちた男たちだった。
しかも、彼らは史春に媚薬を塗り込むだけではない。
自らも精力増強の薬を呷り、満ち足りた獣のように迫ってくる。
史春は、たったひとりでその六人を受けねばならなかった。
李吉たちは、飽きることなく史春を貪った。
どれほど絶頂を迎えようと、疲れ果ててまぶたが落ちかけようと、眠りは許されなかった。
意識が薄れていけば、頬を打たれる。
それでも落ちてゆこうとすれば、鋭く鼻を突く薬剤が、容赦なく嗅がされる。
逃れられぬ快感──。
まるで、終わりなき煉獄だった。
史春の意識は、すでに限界を超えていた。
ただ、押し寄せる快感に、喉を鳴らし、吠えるしかなかった。
食事もあったが、必ず犯されながらだ。
誰かが胡坐をかき、その上に史春を跨らせて、鬼丸が口に入れるものを咀嚼させられるのだ。
また、跨らされている男の硬く屹立したもので串刺しにされて食事をしながらも、ほかの男は史春の胸を揉み、肉芽を刺激した。
身をよじれば、たちまちに絶頂しそうな快感に襲われる。
とにかく、ほんの少しの刺激ですぐに達してしまうのだ。
身体の前後から舌で刺激されて、それだけで昇天したこともある。
糞尿さえ、勝手には許されなかった。
木桶の前に座らされ、誰かに見られながら排泄を強いられた。
肉芽や乳首を揉まれながら、迸る嬌声とともに汚物を出させられた。
屈辱など、とうに通り越していた。
願うのはただひとつ。
横になりたい──その一心だった。
絶頂も、こうまで繰り返されれば、もはや苦痛だった。
疲労がすべてを上回り、快感でありながら、呼吸が詰まりそうになる。
だが──地獄は、さらにその先にあった。
六人の男たちが、息を吐ききって史春から手を引いたあと。
そこからが、本番だった。
鬼丸の出番である。
男でありながら、鬼丸は挿れなかった。
だが、それを補って余りある執拗さがあった。
裸のまま、きつく縛りつけられた史春に対し、鬼丸は細かく、そして緻密に責めを仕掛けるのだ。
痒みの責め。
放置の責め。
刷毛の責め。
寸前で押しとどめられた快感は、終わりなく続いた。
男たちが息を吹き返すまで、解放はなかった。
その苦痛は、声にすることすらできなかった。
忌々しいはずのあの挿入が──待ち遠しく思えてくるほどだった。
史春は、もう限界を超えていた。
「許して───許して───あああっ───ひぐううう───」
史春は背後から男の怒張を受け入れながら、身体を仰け反らせて吠えた。
現実なのか、夢なのか。
その境界が、すでに曖昧だった。
「もう、そこを触らないで───」
泣きながら、絶頂に達していた。
長い時間をかけて繰り返された行為の中で、男たちは、どこをどう責めれば史春が反応するかを、心得ていた。
ひとときの隙間も与えられない絶頂の渦に呑まれ、史春の心と身体は、精液の海に沈んでいくかのようだった。
気が、狂う──。
達しながら、史春は思った。
このままでは、自分は、壊される。
いや、すでに、そうなっているのかもしれなかった。
史春は、どす黒い混沌の中に、自分がずぶずぶと沈められていくように感じていた。
そのときだった。
頬に、凄まじい衝撃が走った。
「きゃあああ」
後手に縛られた身体が床に叩きつけられる。
──また、犯されながら眠ろうとしていたのだ。
記憶の最後に自分を抱いていた男は、すでに横で寝息を立てていた。
史春を殴ったのは、調教師の鬼丸だった。
「ほら、皆さん、手を抜いちゃあいけませんねえ。寝かさずに犯し続けろと言ったはずですよ。気付け薬を史春に吸わせてください」
鬼丸が手にした棒で、小屋の床を叩く。
硬質な音が空間に響き、数人の男がようやく目を覚ました。
史春の傍らでまどろんでいた男が、薬の染み込んだ布を口と鼻に押し当てる。
「んぐううっ、いぶうううっ」
どれだけ深く眠ろうと、意識は強引に引き戻された。
はっきりと覚醒する。──それが、いまの史春には何よりの拷問だった。
涙が、止まらなかった。
声をあげて泣き崩れた。
「ああっ、もう、許してええ──」
史春は心の底から哀願する。
もう、眠りたい。
それさえ許してくれれば、どんなことでも応じよう。
いまは、本気でそう思っている。
「後手の縄を天井から吊ってもらえますか。ただし、縄は張らなくていい。膝が床につかない程度で結構です。その代わりに、この鉄線を天井の金具に繋いでもらえますか」
鬼丸の指示で男たちが史春を無理矢理に立たせて後手縛りの縄尻に繋げた縄を天井の梁に繋ぐ。それだけでなく、両足首を肩幅に開いて、床に打ち込んだ杭に固定される。
もう立っているだけでふらふらの史春なので、男たちの手が離れた途端に腰が砕けて、身体がさがり、折れ曲がった膝が床に当たる直前で、背中に繋がる天井からの縄が史春を引き留めた。
「ちゃんと立て──」
鬼丸の横蹴りが、史春の腹に叩き込まれた。
「うぐうっ」
呻きながら、史春は身体を折り曲げる。
だが、脚にはまるで力が入らず、膝が崩れた。
「立つんですよ、この雌豚──」
尻へ、もう一撃が入る。
「ああっ、許してええ」
だが、立てなかった。
天井から吊られた縄に身体を預け、膝を折ったまま、ただそこにいるしかなかった。
「おいおい、鬼丸、仮にも俺の女房になる女だぜ。ちょっとは加減しろよ」
李吉の声だった。
さきほどまで小屋の隅で眠っていたはずだが、いつの間にか目を覚ましていた。
気がつけば、男たち全員が史春を取り囲んでいた。
鬼丸以外、誰もが下帯を身に着けていない。剥き出しの股間が、薄暗い小屋の中にぞろりと並ぶ──。
「いまが追い込みでしてね。このまま一気にこの女を堕としましょう。もう少しです。少なくとも、あと二日は眠らせません。皆さんも正念場ですよ。精力剤を飲んで気合いを入れないしてもらわないと困りますねえ」
鬼丸が、史春の前に桶を運んできた。
桶の中には、粘り気のある液体に、なにかが浸っていた。
ぼやける視界で、それが平たい蒟蒻のように見えた。
──なにをする気……?
史春の脳裏に、不安と疑念が入り混じる。
だが、それ以上に、鬼丸の言葉が心を突き刺してきた。
あと、二日──?
眠らせない──?
その意味を理解したとき、史春の内側を凍てつくような恐怖が貫いた。
「ふ、二日って……。む、無理です──。も、もう屈服してます──。なんでもするわ──。奴隷になる。もう堪忍して──。お願い──、お願いよお──」
叫びながら、史春は崩れ落ちそうになった。
「確かに、あと二日なんて無理だろう。本当に狂っちまうぜ」
李吉が、苦笑交じりに鬼丸へ声をかける。
だが、鬼丸はゆっくりと首を振った。
「狂っちまって、なにが問題が? そのためにやってんです。奴隷化だとばれますけど、白痴にしちまえば問題ないんで」
「白痴だと?」
「そうですよ。女名主に隷属の刻印を結んだら、名主のまま支配できないでしょう。たから白痴の豚にしちまうんです。そうすれば表向きは名主として扱えます」
「そこまでやんのかよ」
「当たり前です……。ところで、史春さん、どうしても、立てという俺の命令がきけないようですね。ならば、逆にどうしても命令に従うしかないようにするだけですけどね」
鬼丸が、吊るされた史春の正面に座り込む。
縄に縋るようにうなだれた彼女の股間へ、指が伸びた。
無毛の肉に、乾いた音もなく撫でつけるように指が這う。
「う……あ……っ」
声が漏れた。
身体が跳ねた。
刺激は皮膚を越えて、芯まで焼いた。
史春の歯が、かちかちと噛み鳴った。
鬼丸の指は、容赦がなかった。
肌をなぞるたび、呼吸が詰まり、脳の奥に白い光が走る。
そのまま気を手放しそうになったとき、史春の意識が引き戻された。
気づいたのだ。
──ただの愛撫では、ない。
男の指先には、糸があった。
盛り上がった肉芽の根元に、その糸を巻きつけようとしている。
その意図に気づいた瞬間、史春の胸に冷たいものが走った。
「あっ……な、なにを……や、やめて……。それだけは──いやっ……」
史春の声は、悲鳴に近かった。
残された力を振り絞るようにして、腰を逃がそうとする。
だが、すでに遅かった。
糸は、喰い込んでいた。
柔らかな肉芯の根元に、食い入るように締めつけた糸が張られていた。
鬼丸が立ち上がる。
糸を握った手が、天井に向かって引き上げられた。
「あぎゃああ──っ」
刃が突き立ったような激痛に、史春の身体が痙攣する。
股間を抉られたかのような衝撃。
背中が反り返り、つま先で床を掠めるように伸び上がる。
「あがああっ……な、なんてことを……ひぎいっ……」
鬼丸の声が、冷たく響いた。
「さあ……これで立つしかないな。脚に力を込めろ。腰もだ。命令には、従ってもらう」
鬼丸が、糸を張ったまま天井から垂れた鉄線に、それを結びつけた。
張力が増し、肉芽を吊り上げられた史春の全身が、かっと火のついたように跳ね上がる。
筋肉という筋肉が強張り、爪先立ちで体重を支えることだけに意識を集中させるしかなかった。
だが、呼吸のたびに疼痛が突き抜ける。
口から洩れるのは、嗚咽と嘆願しかなかった。
「ああっ……もう、殺して……。お願い……殺して……」
涙がとめどなく流れた。
声にならない叫びが、胸の底から湧きあがってくる。
「いいか、覚えておけ。命令に逆らうということは、それに見合う罰を受けるということだ。調教とはそういうものだ。──さて、身体を清めてやろうか」
鬼丸がそう言って、桶に入った
表面にねっとりとした薬液が絡みついている。
「たっぷりと媚薬が染み込んでる。──これで洗われる快感が、どんなものか教えてやる」
鬼丸は、桶からひとつ掴み取った。
史春の喉元に押しあてる。
そこから、乳房にかけて滑らせてくる。
「ひうっ……ああっ……な、なにを……いやあっ……んぐっ、ああああ──っ」
声が、上ずった。
身をよじろうとしても、吊るされた体は動かせない。
突き上げるような疼きが、意識を白く塗り潰していった──。
生ぬるい蒟蒻の、ぬめりを帯びた感触が、史春の皮膚に触れた瞬間だった。
その一撫でで、全身に奔った衝撃は、これまで味わってきたどんな絶頂よりも凄まじかった。
掘り尽くされたはずの快感の底から、さらに別の地層が穿たれたような──。
そんな恐怖を、史春は味わった。
どれほどに堪えようとしても、媚薬に染まった蒟蒻は無慈悲に、肌をなぞる。
額から頬、首筋から乳房、腹のくびれ、背中の際まで──。
快感は、容赦なく突き上げてくる。
だが、陶酔に身を任せることすら、赦されていなかった。
わずかに姿勢を崩せば、股間に結わえられた糸が容赦なく引き絞られ、肉芽を穿つような激痛が襲う。
「いやああっ……やめて……それは、いやあ……もう、殺して……お願い、殺してええっ──」
泣き叫んだ。
声は嗄れ、涙が頬を伝う。
しかし、男たちは止まらない。
今度は、四方から蒟蒻が迫る。
乳房を上下に撫で回され、柔肌を抉るように擦られる。
横合いからも滑らせられ、股間に張られた糸がきしんだ。
お尻の谷間さえ、濡れた塊が這いまわっていく──。
「だめええ──。お願い──。殺してえ──」
震えた。
爪先に力を込め、膝を抜かせまいとしたが、史春の身体はぶるぶると震え続けた。
限界を越えていた。
絶頂が、無惨なまでに全身を貫く──。
その刹那、股間に絡みついた糸が張り、芯から鋭い痛みが駆け上がる。
立ち続けることだけが、唯一の逃れ道だった。
痛みに堪え、意識の底で呻き、身を支える。
もはや、なにが現実なのかさえわからなかった。
快楽なのか、苦痛なのか──境目が曖昧になっていた。
そして、次の瞬間、絶頂に達した史春は、そのまま放尿してしまっていた。
「ははは、小便しやがったぜ、この女──」
誰の声だったのかはわからない。
だが、史春の耳にはもう届いていなかった。
張りつめた股の糸が、皮膚を裂くような激痛を生む一方で、蒟蒻の感触が滑らかに肌を這い、快楽を与え続ける。
相反する刺激が、頭の中をめちゃくちゃにする。
「そのうち糞も垂らしますよ。そうなれば、頭の線がいかれた証拠です。人間ではなく、豚になりきったということですね。そこまで追い込みましょう」
笑い声が響く。
誰かが笑い、誰かが命令し、誰かが動く。
だが──史春には、それらすべてが遠ざかる音にしか聞こえなかった。
蒟蒻のぬめりが全身を包み、くすぐるような刺激に煽られながら、立ったまま、再び昇り詰めていく。
涙が流れた。
声にならない嗚咽をこらえることもできず、史春は号泣しながら、必死に爪先立ちの身体を支え続けた。