「取引きとは?」
助けられた恩はある。
されど相手は少崋山の賊徒の頭領。
その賊徒が史華村の名主たる史春に取引きと言えば、まともなものではないことはすぐにわかった。
ひとりの女としての史春は、彼らに負いきれぬ恩を背負った思いがあった。だがそれは、名主としての史春とは別の話である。
史春はとりあえず、
だが林冲はすぐに口を開かず、なにかを測るようにじっと史春の顔を見据えている。
史春は肩をすくめるような気持ちになりながら、なぜか身体がかっと熱るのを感じた。
「……ところで、あんたはこの世の中をどう思っている?」
不意に賊徒の頭領が別のことを口にした。
いきなりそんなことを訊ねられて驚いたが、その答えはすぐに史春の口から出た。
「理不尽と矛盾……それに尽きます」
史春は即答した。
林冲の目に強い光が宿ったように感じた。
「この世の中は理不尽か?」
林冲の頬がわずかに綻んだ。
笑みは魅力的で、史春は思わず惹かれそうになり、慌てて気持ちを振り払った。
「理不尽は世の中……そして矛盾はあたしです」
史春は言った。
なぜそんなことを口にしたのか、自分でもわからなかった。
いまの世に対する憤り──。
感じぬ日はなかったが、名主の立場では口にできず、誰にも語ったことはない。
だがここは賊徒の巣。
それが口を軽くさせたのかもしれない。
「なぜ、世の中が理不尽なのだ、史春?」
さらに林冲が訊ねた。
だが史春は微笑むだけで黙した。
これ以上の内心を他人に覗かせるべきではない。
だが林冲はすぐにその思いを見抜いたようだった。
うなずくと、自ら口を開いた。
「……なるほど、人に語らせるには、己がまず語るべきというものだろう。俺はこの国の北、代州の城郭の生まれだ。母は早く亡くなり、人のいい商家の父に育てられた。だが俺は幼いころから無頼でな。商売のことは少しも覚えなかった。そんな俺を親父は苦々しく思っていたようだが……」
代州というのは、この帝国の地方州の一つだ。
この国は「畿内」と呼ばれる帝都を中心とした地域と、その周辺の幾つかの地方州に分かれる。
地方州は、「北州」、「奥州」、「東州」、「南州」、「代州」と分かれ、それぞれに皇帝から指名された「知州」、つまり州の知事が皇帝の名のもとに統治している。
この少崋山一帯は、少華山を挟み、西側が「奥州」、東側が「北州」の端にあたる。
史華村そのものは北州側で、
「代州ですか……。あたしは世間知らずで、史華村だけが自分の世界でした」
史春は言った。
知識としては知っているが、この土地からほとんど離れたことがないため、ほかの州は遠い異国のように思えた。
林冲の故郷である「代州」は国の北側にあり、北王国と国境を接し、彼らからの略奪を防ぐための国境軍がいるという。
一方、史華村の属する「北州」は、帝都の開封府を中心とした皇帝領がある「畿内」の北側で、畿内と並ぶ経済圏だ。
さらに、「奥州」はいわゆる辺境の地。
北州の東側で、奥州の北は険しい山岳地帯だ。
その向こうはただの山岳だが、噂によればさらに北には女だけの不思議な国があり、また西は魑魅魍魎の棲む土地だという。
まあ、噂を超えるものではないが……。
実際にそこまで行き、戻ってきた者は知られていない。実態はほとんど謎だ。
「東州」は東の大海に面した州。
元は北州の一部だったが、三代前の皇帝の代に東州として独立した行政州となった。
「南州」は南の地域。
いくつもの州が東の海に面し、沿岸部には外国と交易する港が発達しており、独自の経済圏を形成している。
林冲が語り続ける。
「……俺が十三のとき、親父が役人に捕えられた。なぜ捕えられたのかわからなかったが、後にわかった。親父は高官の息のかかった新興商家に利権を譲るよう強要されていたらしい。親父は応じず、ありもしない嫌疑をかけられて捕えられた。どんなに調べても証拠はなかったが、十日後、親父は牢で病死したと知らされた」
「お悔やみを……」
史春は小さく頭を下げた。
林冲は首を横に振る。
「いや……。死骸を受け取りに行ったとき、憤怒で血が全身から噴き出すかと思った。病死のはずの親父の下半身は紫色に腫れ上がり、手の爪は全部なく、前歯も折れていた。親父が死んでから、新興商家と役人が結託し、従わぬ親父を罠に嵌めたと知った。俺は親父を捕えた役人をぶち殺して城郭を逃げ出した」
「そうですか……」
史春はそれだけを言った。
残念なことに、この国ではよくある話だ。
役人には賄賂が物を言う。
賄賂があれば罪人も罰せられず、賄賂がなければ無実の者が罪に落とされる。
それがこの国の仕組みだった。
史華村も例外ではない。
豊かであるから役人に多くの賄賂を渡せている。
だから税も軽く抑えられているが、賄賂を準備できない貧しい農村は信じられぬほどの重税を課せられている。
豊かな者から多く取るのではなく、貧しい者から徹底的に搾取する。
それは村であろうと人であろうと変わらない。
高官や分限者は賄賂を使い、税を逃れ、貧しい者から奪い取る。
税が払えなければ、その家の女や村の女を奴隷として売り払いまでして支払わせる。
それが、この国の現実だ。
その理不尽に憤りながらも、史春は賄賂を役人に渡す。
村の者を守るために。
それが史春の矛盾であった。
だが、それをしなければ史華村の者は苦しむことになる。
村人を守るため、理不尽を飲み込み、役人に媚び、賄賂を使いまくっている。
この国の税は重い。
それをそのまま受け入れれば、史華村もたちまち貧農に成り下がる。
「……流浪のなかで、俺は
史春は頷いた。
隣の朱武美と李姫も静かに林冲の語りに耳を傾けている。
「……頭領になってわかったのは、この国の民衆が虐げられた怨嗟の中にいるということだ。ここにいる連中も、生まれつきの賊徒ではなく、なりたくて賊徒になったわけではない。重税で家財を奪われ、家族を取り上げられ、やむなく賊徒となった者ばかりだ。一人前の兵に鍛え上げていく過程で、一人一人と語り合いわかったことだ」
「はい」
史春に話すというより、林冲は心の内を自分自身に語っているようだった。
林冲が朱武美たちと共に、
頭領になることで賊徒の声に改めて耳を傾け、なにか強く思うことがあったのだろう。
それを語っているようだった。
「……まあいい……。余計なことを語ったような気もする。話を戻そう。俺が今回の代償として要求するのは金品ではない。いま言いたいのは、この少華山の賊徒団を義賊に生まれ変わらせるつもりだということだ」
「義賊……ですか?」
「そうだ。義賊だ。襲うのは民衆の敵である役所の施設で、戦うのは官軍だ。ここは盗賊団の巣ではない。国に逆らう者が戦うために集う場所だ。そういう場所に変わるのだ」
史春は林冲の言葉に驚いた。林冲が何気なく言ったその言葉は、この国に対する明確な反逆の意思だった。堂々と言い放つ男に、史春はただ呆然とするばかりだった。
かつて史春の周りに、この国の政治に憤る者はいても、ここまで明確に国と戦うことを語った男はいなかった。
こんな男もいるのだ――。
それは史春にとって、嬉しい発見であり、心が震えるような体感だった。一瞬、史春の頭の中に、林冲と共に官軍と戦う自分の姿が浮かんだが、必死に打ち消した。
「……ともかく、俺が要求するのは、あんたの村を自由に通過する権利だ。あんたの村にはなにもせんと誓う。ただ役所の食糧庫を襲う時、少華山との経路を確保したいだけだ」
「無害通行権ということですか?」
「そういうことだ」
林冲は大きく頷いた。要求はわかったが、それに対する史春の返事はすぐに決まった。
「わかりましたけど、それは受け入れられません」
史春ははっきり言った。
「受けいられないだと?」
林冲が声を荒げた。断られるとは思わなかったようだ。
「林冲殿がどんな思いで賊徒をしようとしているかはわかりました。あたしにも共感できるところはありますし、あなた方に助けられた恩義は確かです。この恩は命に代えても返すべきだと思っています」
「だったら……」
林冲が口を開いたが、史春は遮った。
「でもそれは、史春という一個人の女の話であって、史華村の名主としての、あたしの話ではありません。名主としては、それを受け入れるわけにはいきません。賊徒団を黙って通させたら、役人に睨まれます。睨まれれば、これからの村の経営が成り立ちません。ご理解ください」
「迷惑をかけないと言ってるだろう──。お前の村は、俺たち少華山の義賊団に道一本貸すだけだ。それをなんで断る? お前は役人の犬か? あの連中は賄賂を奪い、税を誤魔化して、それで泣いている者が大勢いる。そいつらの味方をするつもりか」
林冲は、さらに声を荒げた。
気分を害したようだ。しかしどうしても譲れない。
「どういたしまして……。あの連中が腐っていることは、少華山に来たばかりの林冲殿よりも、日頃から付き合いのあるあたしの方がよく知っております。あんな連中こそ、身ぐるみ剥いでしまうべき悪党だというのは間違いありません」
「なら道一本貸すくらいどうってことはないだろう? お前は俺に恩を返すと言った」
「それは個人としてのあたしの話です。個人のあたしならどんなことでもいたします。でも林冲殿の要求は、公の立場のあたしのことです。これについては一人の話じゃありません。史春という個人としてなら応じても、史華村の名主としては応じられません」
「詭弁を弄するな。お前はお前だ」
「いいえ。なんと言われようと、あたしは史華村で暮らす多くの者の暮らしを守る義務があります。個人としてのあたしと名主としてのあたしとは違います」
「なにが違うんだ」
林冲はわからないという表情だ。
「もし名主の娘という立場に生まれていなければ、道一本どころかあの腐った役人たちを吹かせるために少華山に馳せ参じたかもしれませんが、生憎、あたしは名主の家に生まれ、この若さで名主となりました。名主としては村全体を考えねばなりません。そのために賄賂も使い、連中の腰巾着にもなってみせます。それが名主です」
史春は一気にまくしたてた。
林冲は賊徒の頭領にしては善良そうで心根の優しい男だと思ったが、これだけ言えばさすがに怒るだろう。賊徒の頭領だ。激怒して史春を殺すかもしれない。
史春は怒らせても仕方ないと思った。しかし村人の生活を守ることが名主として何より優先すべきことだ。
役所の食糧庫を襲うことを知りながら見逃したら村の立場が危うい。
役人に睨まれたら、嫌疑を免れても次の納税で重い税を課せられる。
「ならば言い方を変えよう。近いうちに俺たちは役所の食糧庫を襲う。馬を手に入れたからな。作った騎馬隊を試したい」
「それが本音だね」
李姫が茶化し、朱武美が噴き出した。
「黙れ、二人とも──。とにかく俺たちが本格的に動けば官軍の討伐もあり籠城もせねばならん。いまは兵糧が足りない。奪うなら奥州は人口少なく役所も貯えが少ない。だから北州側の役所の兵糧庫を襲う。黙って通せ──。逆らえば殺す」
林冲の表情が変わった。卓を挟んだ林冲から凄まじい殺気が走る。
史春の肌が震え、物怖じした。
これほどの気を発する男に出会ったことはない。それでも曲げられぬものは曲げられない。
「なら殺してください。恩を受けて返さぬなら、文句も言えません。殺されるだけの理由は十分あります」
史春は死も覚悟した。ここで賊徒の脅しに屈することはできない。
しかし意外にも林冲は表情を和らげ嘆息した。
史春はほっとした。
同時に林冲の仕草に妙な可愛さを感じ、自分の感情に戸惑った。こんな男もいるのかと驚き。
また、林冲の要求を拒んだ自分に大きな失望を感じた。
しかし、結論は変わらない。それでも理性を無視して応じたい気持ちが湧き、自分でも困惑した。
「駄目だ。俺は交渉苦手だ。お前が説得しろ、朱武美」
林冲は肩をすくめ、横の朱武美を見る。
「無駄よ、林冲。ここは一度諦めましょう。大きく迂回するけど史華村を通らず役所の食糧庫を襲う手段を考えてあげるわ」
朱武美は笑いながら言い、史春に視線を向けた。
「いずれにしても、わたしもあなたに助けられたのは事実。公の立場のあなたが賊徒のわたしたちと交友できないのはわかったわ。でも個人としては交友を結びたい」
「あたしを許すの?」
「ええ。駄目かしら? お互い立場を抜きにしてあなたは素晴らしい女性で尊敬する人よ。言ってなかったけどあの時助けてくれてありがとう。そして友達になって、史春」
朱武美が片手を差し出した。
「喜んで。でも最初は、あなたが助けてくれたのよ、朱武美殿」
史春はその手を握った。
「ならこれからは呼び捨てにして。林冲も李姫も。それが唯一の代償よ」
朱武美が手を握りながら言った。
「ありがとう、朱武美。そしてよろしくお願いします、林冲、李姫」
史春ははにかんだ。
「こちらこそ、よろしくな」
林冲が白い歯を見せた。素晴らしい笑顔に史春の鼓動は早まった。
「明日、史華村に行ったらご馳走してね、史春」
李姫が無邪気に言った。
史春が李姫とともに、客人用の宿舎に戻っていった。
ふたりきりになると、林冲の顔が強張ったような顔になった。
「さて、じゃあ、もうひとつの一件について片づけるか」
林冲が怖い顔をして言った。
「もう一件?」
朱武美は、林冲の剣幕に恐れを感じながらも、小首を傾げた。
「うちのお転婆姫へのお仕置きだ。覚悟しろ、朱武美。たったひとりで砦の外をうろつくなど不用心にもほどがある。しかも、六人も男がいるところに、飛び込むなんて無鉄砲すぎる。あまつさえ、ほかの男に身体を弄られるなど許せん。折檻してやるから、その場で服を脱げ、朱武美。そして、寝室に行け」
林冲が立ちあがり、両手を腰に当てて、朱武美を睨みつけた。
「えっ、えっ? お、怒っているの? だ、だって、もう謝ったじゃないの、林冲」
朱武美は当惑して言った。
「ああ、謝ってもらった。だが、お仕置きをしないとは言っていない。ある程度片付くまで、折檻を待っていただけのことだ。すぐに折檻をすると、支障があると思ってな」
林冲が、凄んだ声で言った。
その顔を見て、朱武美は、林冲が本当に怒っているのだと悟った。
考えてみれば、不可抗力とはいえ、ほかの男に朱武美の身体を触れさせたのだ。
犯されなかったとはいえ、そうされてもおかしくはない状況だった。
身体を汚されなかったのは、ただの偶然の話だ。林冲が怒るのも無理はないだろう。
「わ、わかったわよ……。お仕置きを受けるわ……。そんなに怒らないでよ……」
朱武美は愛想笑いをした。
だが、林冲に無言のまま強い視線で睨まれただけだ。
大きく嘆息した。
観念して寝室に向かおうと思った。
「待て、どこに行く、朱武美?」
林冲が怒ったように言った。
「ど、どこって……。言われたとおりに、寝室に行って服を脱ごうと……」
朱武美は歩きかけていた足を止めて言った。
「俺は服を脱いでから寝室に行けと言ったのだ。服はここで脱げ。これはお仕置きだ」
「えっ、ええっ?」
朱武美は声をあげたが、今日の林冲は随分と腹を立てているようだ。
仕方なく、その場で服を脱いで全裸になった。
「な、なんか、こんなの恥ずかしいね……」
素足になり、下着一枚残さずに裸になった朱武美は、両手で胸と股間を隠しながら苦笑した。
「うるさい。俺以外の男に裸を見られただけでなく、身体を弄られやがって。両手を揃えて前に出せ」
「な、なんでそれを?」
朱武美はびっくりした。
拘束されて服をはぎ取られたことは言ったが、さすがに全身を触られたことは言わなかった。
だが、林冲はそれを知っている。誰が教えたのか……?
史春?
あるいは、林冲が捕えた男たちに自白させた?
朱武美は困惑した。
「ほら、両手を前に出せ」
林冲が自分の懐から一本の革紐を取り出した。
朱武美が両手を前に出すと、革紐で手首を括られた。
「来い」
林冲がひとつにまとめた朱武美の手首を引っ張っていく。
どうやら演技というわけではなく、林冲が本気で怒っているというのは間違いない。
その怒りの本質が朱武美が見知らぬ男たちに身体を弄られたという嫉妬にあるというのは、少しは嬉しいのだが、朱武美はこんなに怒った林冲に接するのは初めてでもある。
なんだが不安になってきた。
寝台のある寝室は隣の部屋だ。前の頭領の岳竜が使っていたものであり、複数の女も同時に抱けるような広いものだ。
そこに着くと、林冲が寝台にあがって胡坐をかいた。そして、朱武美にも寝台にあがるように命じてきた。
寝台の上で、朱武美は寝台に座る林冲の胡坐の上に、うつ伏せに寝かせられた。
「な、なにするの、林冲……?」
「尻叩き十発だ。覚悟しろ、朱武美」
林冲が左手で朱武美の背中を押さえ、右手で朱武美の尻たぶを擦りながら言った。
「じゅ、十発? あ、あなたの力でお尻を叩かれたら、お尻が壊れちゃうわ。許して、林冲──」
朱武美は悲鳴をあげた。
「問答無用だ──」
次の瞬間、尻を叩かれて、激しい音が朱武美の尻から鳴り響いた。
「ひぎいいっ」
朱武美はあまりの激痛にとにかく逃げようと思った。しかし、林冲の強い力がそれを阻む。
「数をかぞえんか、朱武美。さもないと、いつまでも続けるぞ」
林冲がまた尻を叩いた。
「ひぎいっ……、二」
朱武美はのけぞった。
「ちゃんと数をかぞえて一発分だ。一からかぞえなおせ」
尻に大きな音と激痛が走る。
「い、一。お、お願い……、て、手加減して」
朱武美は絶叫した。
「馬鹿を言うな。次だ」
尻に激痛。
「二──。ゆ、許して。もう勝手なことしないから。む、無茶しないからっ」
ばしいいっん──。
「三……。お、お願い、林冲」
朱武美は泣き声をあげた。
しかし、林冲の尻叩きが炸裂する。
「うぐうっ、四」
朱武美は身体をのけぞらせた。
あまりの痛さに全身の力が抜けて、すべての抵抗心が身体から抜け出ていく感じがした。
「五」
襲ったお尻の激痛に、朱武美は身体を強張らせる。
「二度と、俺以外の男に身体を触らせるな。わかったか、朱武美」
「ろ、ろくうっ……。わ、わかったわ、林冲」
朱武美は、激痛に歯を食い縛りながら、心の底から絶叫した。
しかし同時に、容赦のない林冲の朱武美への尻叩きに、朱武美は不可思議な悦びを感じかけ始めていた。
朱武美は大いに戸惑った。
そして、お尻に林冲の平手が炸裂する。
「な、ななあ──」
朱武美は叫んだ。
自分の股間がじゅんと熱くなるのを感じた。
そして、やっと十発が終わる。
十発の折檻が終わったとき、朱武美の身体はまだ震えていた。痛みがじわりと残るけれど、その奥に、いままで知らなかった何かが蠢いているのを感じた。
林冲の視線が自分をしっかりと捉えている。
怒りだけではない、守りたいという強い意志がそこにあることが、朱武美には痛いほど伝わってきた。
「忘れるな、朱武美。お前の身体は俺のものだ。誰にも触れさせるな。これが俺の望みだ」
その言葉に朱武美は震える声で答えた。
「はい……わかりました、林冲……。その……ごめんなさい……」
朱武美は、素直に誤った。
すると、硬い表情の林冲の頬に、ほんの一瞬だけ柔らかな光が差し込んだのが見えた。
林沖は、やっと手首の革紐を解いてくれた。
朱武美は林沖と見つめ合った。
いま気がついたが、あの尻叩きの痛みはすでに甘い火に変わっている。
朱武美の身体は熱を帯び、息が荒くなってきた。
林冲が服を脱ぐのを待つことなく、朱武美は両手で彼の胸元に手をかける。乱暴に服を脱がしていく。
「おいおい、待てよ」
林冲は苦笑している。
朱武美は耳を貸さず、強引に服を剥ぎ取って裸の肌を露わにした。林沖の肌の温かさを確かめるように撫でまわす。
朱武美は、唇を林冲の唇に重ねた。
熱く、深く、貪欲に絡み合う口づけは、もはや言葉など要らぬ。舌が絡みつき、息が混じる。
「もっと、もっと触わってよ──」
朱武美は怒鳴り、指先は林冲の背中を伝い、腰へと滑り落ちる。肌と肌が擦れる音が寝室に響く。
裸の肌が重なり合い、朱武美の手は林冲の背中から敏感な部分へと触れていく。朱武美の熱は止まらない。
「ああ、大好き、林沖──」
林冲は、微笑みを浮かべつつ、応えるように朱武美を抱き寄せた。
両脚を抱えられる。
林沖の怒張が朱武美の股間に当たり、一気に貫かれた。
「あああっ、いいいいっ」
朱武美は林沖を抱きしめながら身体を弓なりにする。
その熱量は空気を震わせ、部屋の静寂を切り裂くように激しい。
律動が始まる。
朱武美は林冲の腕の中で荒々しく身を震わせ、その全てを預けていた。
「林冲……もっと、激しく……離さないで……」
朱武美の声は掠れ、叫びにも似ていた。
林冲は荒い息を吐きながらも、鋭く返す。
「お前がこんなに求めるなら、俺は容赦できないぞ」
朱武美は唇を噛みしめ、荒々しく林冲を引き寄せた。
「どんなに乱暴にされてもいいわ。ううん、乱暴にして──」
林沖の強靭な腕が腰を締めつけた。
怒張は、しっかりと朱武美の中に埋められている。朱武美はそれを膣で締めつける。
「だったら、声をあげろ……俺のものだって、もっと思い知らせてやる」
「はあっ……ああっ、林冲……わたしだけ──わたしだけよお……」
朱武美の喘ぎ声が荒々しい交わりのなかで震えた。
互いに身体を押し当て、深く突き合い、まるで獣が獲物に抱きつくような激しさで絡み合う。
「逃げられると思うなよ。俺がお前をどこまでも堕とす」
「もっと……もっと強く……林冲……」
互いの呼吸が荒れ狂い、感情が燃え上がる。
身体の熱と熱がぶつかり合い、世界が二人だけのものになっていった。