39 王進、殷天の受虐調教に染まりだす
「犬、調教の時間だ」
檻の外から声が響いた。
「んぎゃああ──」
だが次の瞬間、檻の外から差し込まれた金属の棒が無防備な腹をひと撫でして、激痛が全身を貫き、無理やりに目を覚まさせられた。
それは「痛点棒」と呼ばれるものだ。
痛点棒とは、
「傀儡具」とは、傀儡師と呼ばれる道術紋を道具に刻み込む職人が仕立てた傀儡具のことであり、痛点棒は人の身体の外側からではなく、内側から痛みを引き起こす拷問道具であった。
禁軍の武術師範でもあった王進は、外部から与えられる痛みならば、棒であれ鞭であれ、たとえ刃物で身体を抉られようと、幾度でも耐え忍ぶ自信があった。
しかし、身体の内から湧き起こる「痛覚」には為す術もなかった。
人にはどうしても耐えられぬ苦痛というものがある。それを教えたのが、この殷天の痛点棒であった。
身体の内側から痛みを沸き起こすという、その忌まわしき道具。いかなる屈強の戦士も、そこに泣き伏し、許しを請うてしまうという。
その存在は知っていた。だが、この屋敷に閉じ込められて以降、日々何十度となく味わわされている王進は、痛点棒に屈服したことに、自身が例外ではなかったことが口惜しかった。
そして、容赦のない痛点棒により、今日も浅い眠りの縁へと強制的に引き戻される。
「さっさと出ておいで。今日の調教だよ」
殷天の嘲笑が檻の外に響く。
高俅の別邸と思われるこの屋敷に軟禁されて、どれほどの時が流れたのか分からない。
感覚では、半月あまりではないかと思う。
だが。窓もなく、定時の食事もなく、ただ殷天の調教に身を置く王進には、正確な刻を知るすべもなかった。
この全裸の身を檻から引きずり出され、ぼろぼろの姿で戻される日々を数えれば、今日が十八日目であることだけだ。
だが、その感覚さえも、殷天の調教の一環として感覚を狂わせているのかもしれない。
連日の調教は、王進の思考、体力、そして気力を容赦なく奪い去っていた。
感覚は鈍り、いまや自分がほんの少し前まで禁軍の武術師範だったという事実さえ信じられなくなりつつある気がする。
いや、そればかりか、本当に男だったのかとさえ思えてくる。
どこからどう見ても、本物の女であるこの身体……。
もしかすると、かつて男だったという記憶の方が、殷天の調教に追い詰められ狂いはじめた王進の頭が生み出した幻覚なのかもしれない……。
とにかく、追い詰められていた。
王進は、睡眠さえ許されぬ疲労を肌で感じながら、のろのろと檻の中で四つん這いの姿勢を取る。
右手首と右足首、左手首と左足首はそれぞれ手錠で繋がれ、監禁されて以来、ほとんどの時間を膝を立てた四つん這いの体勢で過ごさねばならなかった。
動こうにも手首と足首は枷で縛られ、膝を立て尻を高くあげた格好でしか、よちよちと前に進むことができない。
殷天はそんな王進に、屋敷内にいる二十人以上の兵の前を、首輪をつけて紐で引きずり歩かせることをしつこく強要する。
いや、首輪をつけられるだけなら、まだましだった。
先日には、少し肥大化した女体の陰核の根元を堅い糸で結び、その糸を首輪の輪に通して紐を繋ぎ、引きずり回されるという辱めを受けた。
殷天の指示のもと、王進の監視役である高俅の兵たちが交代でその紐を引っ張り、屋敷の中を連れ回したのだ。
兵たちが小走りで引きずるたびに、陰核の根元は糸で強く引かれ、激痛に耐えかねて王進は悲鳴をあげ、汗まみれで、しゃがんだ姿勢で動き続けた。
思い出すだけで、恥辱と憤怒に胸が張り裂けそうになる。
だが、なによりも口惜しいのは、そんな仕打ちを受けながらも、確かに女体となった王進の身体に欲情が芽生えてしまったことだった。
屋敷中を四つん這いで駆け回り、汗にまみれた床には汗だけでなく、淫らな情の証たる汁も点々と残されていた。
その事実を殷天に指摘され、自らの舌で床を舐めさせられるのだ。
しかし、その屈辱さえも、王進は被虐の悦びに酔わされていることを密かに悟っていた。
本当に、どうなってしまったのか……。
いずれにせよ、四肢を拘束する枷は、殷天が繰り返し王進の頭に叩き込むように言い聞かせている、「犬」としての自覚を、確かに王進に刻み込んでいた。
辛い。ひたすらに辛い。
屈辱だけでなく、肉体的な苦痛も並大抵ではない。腰を伸ばせぬまま過ごすことの苦しさは想像を超えていた。
寝る時でさえ枷を外してもらえず、休息も腰を曲げたまま。
だが、ここ数日ほとんど眠れていないのは、四肢の枷だけが理由ではない。
むしろ、数日前から始まった調教、檻に戻す際に施される股間の縛めが、いまの王進を新たに追い詰める元凶であった。
「ずいき縄」と呼ばれる股縄である。
「ずいき縄」とは、特殊な薬汁を染み出させる繊維を持つ植物の縄だ。
数日前より始まったこの新たな調教において、殷天は王進が眠りに就く直前、股間にずいき縄を食い込ませたまま檻へと戻すことを課していた。
殷天曰く、これは「人」ではなく「雌犬」としての躾の第一段階を終え、これより王進の身体を徹底的に敏感な女体へと仕立て上げる段階の開始であるという。
ずいき縄は、人の体液と触れると、その表面より掻痒をもたらす汁を大量に染み出させ、王進を七転八倒の痒みに苛む。
また、殷天が王進に強制する股縄には大小三つの縄瘤があり、王進が動くたびに陰核、女淫、肛門を容赦なく刺激した。
その痒みはとどまることを知らず、眠ることはできず、唯一眠りに堕ちるのはあまりの痒みに意識が途切れる時だけだ。
そして朝が来る。
だが、痛点棒によって無理矢理に覚醒させられる。
王進にとってこれほど苛酷な仕打ちはなかった。
「さっさと起きないかい──。それとも、もう一発、いや、十発ほど気合いを入れてやろうか」
檻の外の殷天が嘲笑う。
たった一度の痛点棒の刺激で恐怖を呼び覚まされた王進は慌て、檻の中で顔を床に押し付け、尻を高く突き上げる。
これが殷天に染められた「雌犬」としての服従の姿勢だ。
腹の中は煮えくり返っているが、いまの王進には抗う術はない。
逆らえば痛点棒で気絶するまで責め続けられる。
初日に幾度となく痛点棒の洗礼を受けた王進にとって、もう逆らうという選択肢など考えることもできない。
「ほら、出てきな、雌犬」
今日の殷天は三人の高俅の兵を連れていた。
その三人に命じて、王進が寝かされていた檻の扉の鍵を外し、格子を開けさせる。
格子の出入口は低く、這い出るほかない。
王進は枷をつけられた裸身を窮屈に折り曲げ、ゆっくりと檻の外へと這い出た。
「伏せだ──」
「ぐっ」
だが、首を少しだけ出したところで殷天が頭を踏みつけられた。
毎日のこととはいえ、顔面を床に叩きつけられる痛みと屈辱には慣れはしない。
「さあて、今日はどこに首輪の紐を繋いでやろうかねえ。またお前の股間に結ぶのもいいかもしれないねえ。あの時のお前の泣きべそは見物だったよ」
「そ、それだけは……」
陰核に糸を結び、首輪の輪に通して走り回らされたあの苦悶が蘇る。
床に顔を押しつけられ、王進は思わず哀願の言葉をこぼす。
「まあいい。あれも面白かったけど、今日はもっと愉快な調教を用意しているからね。とにかく、朝の儀式だよ。檻から出たらすぐ始めるよ。それから食事だ」
殷天が王進の首に革製の首輪をはめた。
普通の首輪だ。
それだけで、少しばかり安心が胸をよぎった。
「ほら、出な、王進先生」
「あぐっ」
首輪が嵌まるや否や、紐を繋ぐ兵が力いっぱいに引かれた。首が締まる王進は呻きを上げて、無理やり身体を檻の外へ引きずり出される。
この屋敷に詰める高俅の兵の中でも、王進への嗜虐心が最も強い男。
王進は覚えていないが、かつて自分が武術師範としてしごいた相手だという。
名は
「げほっ、げほっ、げほっ」
やっと首輪の締まりが緩み、王進は咳き込んだ。
「よし、じゃあ、ちんちんの姿勢だ。そして、いつも通りに腰を揺すって自慰をしな──。制限時間は昨日の半分だよ。間に合わなければ肛門に痛点棒の罰だよ」
殷天が兵に合図し、床に砂時計を置かせた。
砂は上からゆっくりと落ち始める。
「そ、そんな、昨日の半分だなんて──。そ、そんなの無理だ」
王進は悲鳴をあげた。
「駄々をこねるのは自由だけど、砂はもう落ち始めているわよ。真剣に腰を振らなくていいのかい?」
殷天は冷ややかに笑う。
そして、後ろへ回ると、痛点棒の先端で王進の尻をくすぐって脅してきた。
「ひんっ」
王進ははっと息を呑んだ。
されることはわかっている。
ここ数日、調教のたびに繰り返されていることだ。
だが、昨日の半分の時間で済ますだなんて……。
しかし、やるしかないのか……。
「くっ、ち、畜生……」
王進は四つん這いで膝を開き、殷天たちに股間を晒すように上半身を起こした。
捨て鉢の覚悟で、ずいき縄の喰い込む股間を激しく動かし始める。
「んああっ、ああっ、あああ」
縄瘤が容赦なく王進の女の股間を刺激しはじめた。
たちまちにじんと背骨まで貫くような快感が、王進の身体を満たしていった。