※この作品はR-18です。

水滸伝艶義   作:ドン・ドナシアン

41 / 63
41  王進、拷問調教で体を作り変える

「おごおおっ、おげええっ」

 

 王進(おうしん)は嘔吐した。もう何度目になるのかも思い出せない。

 いまは口から胃液さえ出なかった。

 絶叫とともに噴き出すのは、大量の涎だけだった。

 

 何日も左右で手首と足首をつなぎ止められて背中を伸ばすことさえ赦されなかったが、いまは、縮こまっていた手首を左右の足首から解かれ、久しく王進は真っ直ぐに身を伸ばすことを許されていた。

 だが、両手首は頭よりも高い位置で左右に吊られたままだ。

 足首のあいだには、肩幅の倍はある金属の棒を挟まれ、その両端の枷に足を嵌め込まれている。

 脚の棒は床に据えられた金具に短い鎖で繋がれ、王進の足首は床から浮いた位置に固定されたままだった。

 

 つまり、王進は天井から両の手足を拡げたまま、宙に吊られて固定されているということだ。

 その姿のまま、朝からすでに百度は痛点棒を浴びているはずだった。

 失神は二十度を越え、失禁だけではなく、脱糞も幾度となく繰り返した。

 嘔吐もしたが、あまりに吐き続けたせいで、いまは胃液すら出てこない。

 それでも、殷天は王進への痛点棒の責めを止めようとはしなかった。

 

「汚いねえ。まるで豚だ。いや、豚に失礼か。小便も糞も垂れ流し放題かい──。水をぶっかけて、綺麗にしな」

 

 部屋の隅、脚を組んで椅子に腰を下ろした殷天(いんてん)が、嘲りを含んだ声を落とした。

 今日の調教当番と決められているらしい三人の高俅の兵が部屋の片側に積まれた桶を手に取る。

 王進の宙吊りの裸身に、容赦なく水をぶっかけた。

 

 桶の水は、王進の口から吐き出されたものと混じり合い、床を伝って背後の壁の溝に流れていく仕掛けになっている。

 溝には細く水が絶えず流されており、汚物と混じった水を下へと落としていくのだ。

 この部屋は、責め苦の果てに垂れ流されるものを、こうして始末するように造られているのである。

 

「も、もう……お、お許しを……」

 

 王進は嘔吐とともに流した涙で歪む視界に、殷天の姿をぼんやりと入れた。

 息も絶え絶えに、喉の奥で哀願の言葉を繰り返す。

 朝から続く痛点棒の拷問が、もうどれほどの時を奪ったのか。

 感覚では、すでに日は傾いているようにも思えるが、もしかすれば、まだ数刻しか過ぎていないのかもしれない。

 逆に、何日も閉じ込められているのかもしれぬ。

 幾度も失神し、そのたびに何者かに無理やり覚醒させられたのか、それとも、痛みの底で意識だけが暗い淵を浮き沈みしているのか。

 とにかく、いまや王進には時間の感覚など、とうの昔に消え失せていた。

 まともな思考も残らず、ただ生ぬるい吐瀉物の味が、荒れた喉を焼いているだけだった。

 

「だったら、はしたなく感じなきゃいいんだよ。今日の調教は、お前の身体をとことん敏感な淫女……いや、雌畜に相応しい感度にするのが狙いだ。解放して欲しければ、あたしが満足するような淫乱な豚になりきるんだね」

 

 殷天が喉の奥で笑った。

 こうして四肢を開かれ、吊り上げられたときから続いている責めは、もはや「調教」などという生易しい言葉では足りない。

 それは、愛撫されながら、限界まで絶頂を堪えることを強いられる拷問だった。

 

 絶頂が近づけば、痛点棒を自らに請い、寸前で奪われる。

 それを何度も繰り返す。

 殷天に言わせれば、欲望を堪え続けるほどに、肉体はいやおうなく淫靡に作り変わっていくという。

 王進の女としての身体を、限界まで淫乱に引きずり落とす──それが殷天の狙いらしい。

 

 だが、淫紋を刻まれ、この半月の調教で、王進の肉体はすっかりと淫乱の巣に作り変えられている。

 その身体を、複数の手が寄ってたかって愛撫するのだ。追い詰められるのに、時間などかかりはしない。

 

 だからこそ、王進はそのたびに、自ら痛点棒を求めねばならぬのだ。

 それを怠り、絶頂してしまえば、一度の痛点棒で済むところを、懲罰として十度も二十度も味わわされる決まりになっている。

 だが、痛点棒を乞い、寸前で絶頂を奪われたところで救われはしない。発散できずに積み残された性の疼きは、奥底で蠢き、次の愛撫に耐えられる時間をさらに削り取っていく。

 

 耐えるのも地獄──。

 

 耐えずに果てるのは、もっと深い地獄──。

 

 王進は、もはや追い詰められた獣のように、荒い息を吐くだけだった。

 

「始めな」

 

 殷天の低い指示が、湿った空気を裂いた。

 王進の周りに、三人の男兵が再び寄り集まる。

 三人の腰には、殷天から預かった痛点棒が差してある。だが、いま手にしているのは、細い羽根だった。

 

「へへへ、始めるぜ、先生」

 

「次はどのくらいで音をあげなさるんですかねえ」

 

「とりあえず、ここはどうでい?」

 

 嘲る声と同時に、背後の兵が王進の内腿へ羽根を滑らせた。

 

「ああっ、だめええ──」

 

 王進の口から、女の悲鳴が漏れる。

 何度も絶叫を絞り出した喉は、もうまともに声を響かせる力もない。

 それでも、咄嗟に全身を前へと震わせ、吊られた鎖が鈍く軋んだ。

 

「おっと、前からもくすぐって欲しいのかい?」

 

 唇の端を歪めた兵が、前へ回り込み、王進の下腹を羽根でなぞる。

 その羽根先が柔く肌をかすめるたび、奥底に押し込めていた疼きがまた暴れだす。

 

「ここもすっかりと弱点になったなあ」

 

 別の兵が、今度は無防備な脇へ羽根を差し入れた。

 

「や、やめてくれえ──。ひいいっ、ひぐううっ」

 

 王進は喉を割って声を絞り出し、歯を噛み合わせて耐える。

 だが、この数回、寸止めの責めは途切れなく続いていた。

 果てぬまま積み残された疼きは、いまや内から腸を喰い破るように荒れ狂っている。

 その身体を、三人がかりの羽根がくすぐり弄ぶのだ。

 耐えようとしても、すぐに限界が牙を剥いて喉元を締め上げてくる。

 

「うあああっ、ああああっ」

 

 王進は宙吊りのまま、前に、後ろに、右に左に。

 三方向から繰り出される羽根が、身のよじれに合わせて翻弄され、肉体は踊るように揺れた。

 繰り返されてきた寸止めの愛撫で、官能という官能はとっくに剥き出しにされている。

 耐えきれるはずもなく、あっという間に底なしの淵へ追い詰められた。

 

「あああっ、つ、痛点棒を……痛点棒をお願いだあ──」

 

 王進は首をのけぞらせ、吊られた鎖がきしむほどに身体を硬直させる。

 だが、羽根は止まらない。

 三方向から容赦なく肌を撫で回し、疼きの巣を突き立てる。

 

「なんだい、あっという間じゃないかい。足りないよ。羽根はいい。生身の愛撫をしてやりな──。家畜、死ぬ気で耐えるんだよ。勝手に達したら、尻の穴と女の穴に、同時に十発ずつだからね」

 

 殷天の声が乾いた笑いを含んで落ちてくる。

 王進は耳を疑った。

 すでにぎりぎりのところで繋ぎとめているだけだ。

 これ以上に何をどう耐えろというのか。

 喉の奥でかすれた呻きが漏れ、痩せた肩が小刻みに震えた。

 

「む、無理だ──。無理だよ──。あああっ、あぐううっ、ひんっ」

 

 王進は喉を裂いて叫んだ。

 だが、その声を誰が聞き入れるはずもない。

 

「そういうことだよ、先生。じゃあ、優しくしてやるからね」

 

「ついでに、目隠しもしてやるか。もっと感じやすくなるようにね」

 

 誰の声かは分からなかった。

 背後から布が捻じ込まれ、視界を奪われた刹那、王進の心臓が裏返るように波打った。

 

「はわあっ、あああっ」

 

 次の瞬間、前に屈んだ男兵が、股間を上下に舐めあげてきた。

 ぬめりとした舌先があらゆる隙を暴き立てる。

 さらに後ろの兵が尻肉を割り開き、背骨を這い登るように、舌を狭間へ押し込んできた。

 

「や、やめてえええ──」

 

 宙吊りの身体が、耐えきれずにがくがくと震える。

 悲鳴は掠れ、自制などとっくに地に落ちていた。

 王進は肉を剥がれるような羞恥と疼きに、身体を弓なりに引き絞るしかなかった。

 

「いぐううっ、いぐううっ、許可を──。許可をくださいいい──」

 

 喉の奥から掠れた声を吐き出す。

 勝手に絶頂してはならない──。

 その掟だけは、朦朧とした頭にこびりついて離れない。

 

「だめだといっているだろう。達したら、二穴に二十発ずつ。四十発だよ」

 

 殷天の乾いた笑いが耳朶を叩いた。

 心の奥を冷たい手が撫でる。

 

「いがああっ、んぐうううっ、ぎいいいいっ」

 

 自分の口から、もはや声ともつかぬ奇声が迸る。

 懸命の自制が、かろうじて絶頂を縛りつけている。

 だが、縛りつけているだけだ。

 喉の奥で短く千切れる息の向こうに、じりじりと果ての気配が滲んでくる。

 その繰り返しが、どれほど続いているのかもわからなかった。

 

「へへへ、それにしても、あれだけの粗末な餌だけで、こんなに色艶のいい肌を保てるなんてな。すげえもんだ。この乳も形が崩れてねえし、身体の色っぽいことよ」

 

 前後からの舌が肉を抉り、さらに前からは乳首が吸い立てられる。

 視界を奪われたまま、三箇所を責め立てられれば、王進の頭はもう何ひとつ考えを結べない。

 

「まったくだ。本当は食事なんぞ要らんらしいよ。男の精さえ飲んでいれば、十分に栄養は保てるんだとさ。さすがは高廉(こえれん)様の淫紋の呪だ。性奴隷のためだけの刻みだとさ」

 

「ふんっ、この苦しみから逃れたけりゃ、狂ってしまうんだね。お前にできるのはそれだけだ。もっとも、狂うことすらできないらしいよ」

 

 男たちや殷天の嘲りが、暗い穴の底から這い出してくるように王進の耳を刺す。

 

「あひいいいっ、あああああっ」

 

 ついに王進の意思など吹き飛び、快感の暴流が堰を切った。

 衝きあがる歓喜に抗う術もなく、王進の身体は昇りつめるしかなかった。

 

「痛点棒だ」

 

 殷天の声が鋭く落ちる。

 すぐに三人の舌が肉を離れ、絶頂の衝撃がまだ続く身体の前後に、冷えた金属の棒が無慈悲に突き込まれた。

 

「ほがあああっ、んぎゃあああっ」

 

 前後に痛点棒の雷が走り、王進は獣のように喉を裂いて吠えた。

 視界が白く反転し、意識がすとんと闇に落ちた。

 

「んごおおおっ」

 

 だが、すぐさま次の衝撃が襲う。

 無理やりに覚醒させられ、股間と奥の穴へ痛点棒が繰り返し咬みついてくる。

 

「殺してええ──。もう殺してくれえ──。あがああああっ」

 

 王進は声をあげて泣きじゃくった。

 感情の底などとうに砕け、わけのわからぬ巨大な波に突き上げられながら、吊られた肉だけが震えていた。

 

「愛撫だ。痛点棒で痛めつけながら、愛撫するんだ──」

 

 殷天の怒鳴り声が、淀んだ空気を切り裂いた。

 股間と肛門に突き込まれた痛点棒が、ぎこちなく抽送を始める。

 王進の内側を、激痛が這いずり回った。

 

「い、いぐううっ」

 

 信じがたいことに、肉が引き裂かれるような痛みとともに、王進の奥底は絶頂を迎えていた。

 しかも、それはこれまでのどんな果てよりも深く、底なしの快感を伴っていた。

 

「ははは、ついに痛点棒の痛みを快感に変えられるようになったかい──。だけど、勝手に達するのは罰だ。さらに二十回追加だ。心の臓が止まってもいい。淫紋はそれすらも許さないからね」

 

 誰かの笑い声が腐った井戸底から這い上がってくる。

 だが、王進にはもう聞き分ける力など残っていなかった。

 とにかく巨大な何かに貫かれたまま、喉の奥で獣のような嬌声を噛み殺し、がくがくと身体を痙攣させながら、またしても底なしの悦楽へ快感を飛翔させるのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。