「さあ、進みな──。
同時に、背中の奥を貫くように痛点棒が炸裂する。
「おごおおっ──。お、お許しを殷天様──。お許しを──」
手首と足首は枷で繋がれ、尻を高く突き上げたまま、這いずるほかに術はない。
いつもの屈辱的な姿勢──。
だが、今日は革の目隠しを嵌められ、視界を徹底して奪われている。
毎朝の「儀式」は終わっている。
いま、王進を待つのは、さらに深い調教の始まりだ。
とにかく、真っ直ぐに進むしかない。
これは、定期的に課される「練り歩き」と呼ばれる調教だ。
どこに連れていかれているのか、目隠しの向こうでは、なにもわからない。
だが、この屋敷が入り組んだ迷路のような造りで、やたらに広いことだけは、幾度も辱めを重ねられて知っている。
廊下にも、部屋にも、
王進のみっともない四つ脚の姿勢は、嘲笑と悪戯の餌だ。
尻を撫でられ、突かれ、時に肛姦され、奉仕を強いられる。
わずかでも躊躇えば、痛点棒が容赦なく身体を打ち据え、逆らう意思を奪い去る。
これが「練り歩き」という調教のすべてだ。
今日もまた、その「練り歩き」が始まっている。
「ほら、脚の開きが狭いよ──。尻の穴に一発もらいたいのかい。せめてもの慈悲で激痛は最弱にしてやるよ」
後ろを歩く殷天の声が、冷たく嗤う。
痛点棒の先が、四つん這いの王進の無防備な尻の穴へ、ためらいなく押し当てられた。
「ひいいっ」
冷たい金属棒の感触が尻の奥をかすめた刹那、王進は必死に前へ這い進む。
同時に、限界まで両膝を開き、脚を左右へと水平近くまで拡げた。
股を割り、尻を突き出した四つ脚──これが「蛙歩き」というやつだ。
この屋敷に監禁されて、おそらく、もう一箇月──。
一糸まとわぬ裸身を、一度として覆うものなど与えられたことはない。
肛門も、女のものに変えられた性器も、隠すすべはないまま廊下を進む。
それを左右から嘲られ、目隠しの向こうで笑い声が刺さるたびに、王進の胸の奥でなにかが死んでいく。
──禁軍で武術師範まで務めた。
男としての矜持もあったはずだ。
だが、いまではそれすら、遠い遠い幻のように思える。
連日の調教で尊厳という尊厳は砕き尽くされ、女としての疼きを刻まれ続けるたびに、自分は最初から男などではなかったのではないかとすら思う。
気力はとうに干からび、いまはただ、痛点棒の影に怯えるだけの「家畜」になりかけている自分を、王進はどこか他人事のように感じていた。
「右だ──」
「ひぐうっ」
右の尻たぶに、痛点棒の衝撃が突き抜けた。
衝撃が弱められているのは、王進自身にもわかる。
さもなければ、こんな体勢のまま進めるはずもない。
だが、だからといって耐えきれるものではなかった。
外からの痛みではない。
傀儡具が肉の奥に潜り込み、身体の内側の「痛点」を抉り立てるのだ。
抗えぬ激痛が腹の底から這い上がり、喉をかすれさせる。
ただ苦悶を吐き出すだけの生き物として、王進は四肢を震わせた。
また、尻たぶに痛点棒を打たれるのは、目隠しで視界を奪われた王進に進む方角を知らせるためだ。
右に進むときは右の尻。
左に進むときは左の尻。
真っ直ぐのときは、尻の中心か背中の線に沿って、鋭い痛みが貫かれる。
それでも、ひっくり返ることも、勝手に止まることも許されない。
そんな真似をすれば、何十発もの痛点棒が、尻の奥と性器に容赦なく突き込まれる。
あのときの地獄──。
肛門と女の穴を何度も何度も抉られた拷問は、王進の中に生々しく残っている。
思い出すだけで、背骨の奥が冷たく震えた。
「んぐうっ」
続いて、中心線に近い腰の上を痛点棒が撃ち抜いた。
右に曲がるのをやめ、進むべき道を真っ直ぐに戻す合図だ。
目隠しをされて進むのは初めてだったが、「練り歩き」自体は何度も繰り返されている。
この屋敷が迷路のように入り組んでいることも、王進の頭には、もう薄く刻まれている。
いま自分がどこへ向かわされているか──。
おそらく、屋敷の奥の広間だと察した。
「ははは、すっかりと受虐泣きの声に磨きがかかったじゃないかい、王進。お前の股がみっともなく涎を垂れ流しているのがわかっているかい?」
殷天の嘲りが、背後で湿った笑い声に混じって落ちてきた。
王進はみっともない「がに股歩き」をしながら、恥辱に歯噛みした。
口惜しいが、王進は殷天の言葉が紛れもない事実であることを知っていた。直接的な愛撫だけでなく、こうやって激痛を与えられても、被虐の情欲がかっと込みあがり、股間から愛液がしとしとと漏れ出てしまうのである。そんな浅ましい身体にされてしまったのだ。
そんな屈辱的な身体の反応をせめて隠したいのだが、殷天はそれを許してくれない。
むしろ、それを公然とさらけ出さなければならない「蛙歩き」の格好を命じる。
王進をとことん辱めるためだ。
「次は左だよ」
左の尻たぶに、痛点棒が打ち込まれた。
すぐさま中心線に激痛が走り、身体の向きを真っ直ぐに戻される。
「右──」
右へ曲がれという命令。
王進は、両膝をがに股に開き、四つん這いのままひたすらに進むしかなかった。
羞恥も苦痛も、とっくに喉の奥で溶けている。
「止まれ──。尻踊り──」
「あがあっ」
首筋の奥に痛点棒の衝撃が叩き込まれた。
これまでよりも明らかに痛みが深い。
腰の力が抜け、王進はその場で崩れ落ちた。
「馬鹿たれがあ──。さっさと踊らないかい──」
次の瞬間、痛点棒が容赦なく尻の奥深くを貫いた。
呻きが短く途切れ、王進の両脚が小刻みに痙攣した。
「ひいいいっ、いいいいっ」
尻の穴を金属棒が抉った衝撃に全身が跳ねた。
激痛はもちろんだが、いまや肛門はすっかりと強烈な性感帯に作り変えられている。
奥を抉られるたび、硬直するほどの甘い疼きが背骨を駆け上がる。
だが、すぐに容赦のない痛点棒の爆ぜる衝撃が、尻の奥深くで破裂した。
「ほごおおお──」
堪えきれぬ激痛が肉を貫く。
それなのに、同時に、果てに近い快感が腹の底を押し上げてきた。
なぜこれほどの苦悶が、快楽に変わるのか──。
信じたくはなかったが、これが受虐の性だというのか。
王進は快感の酔いに半ば溺れながら、茫然とそう思った。
はっとする。
絶頂の許しを乞い忘れたことに気づいた。
自分がもう果ててしまったのか、ぎりぎりで留まったのかもわからない。
だが、もし勝手に絶頂したとなれば──。
数十発の痛点棒の連続責めが待っている。
ぞっとする恐怖が、王進の全身を一気に冷やした。
「起きないか──。尻踊りだよ」
殷天の声が暗い底で笑っていた。
その瞬間、王進の胸に安堵が落ちる。
叩かれる痛みなら、いくらでも耐えられる。
痛点棒の激痛に弛緩しかけた身体をどうにか起こし、再び四つん這いになる。
「き、禁軍、ぶ、武術師範、王進の、し、尻踊りでございます──。受虐癖のお、お、王進は、み、皆様に浅ましい姿を見られて、こ、興奮しております……」
尻を高く突き上げ、腰を右に左に、上下に、ぐるぐると捩らせる。
肛門も、女の秘部も隠すすべなどない。
だがこれもまた、殷天に叩き込まれた「調教」のひとつだ。
逆らえば、痛点棒の拷問が果てなく繰り返される。
どれほど口惜しく、どれほどみっともなくとも、いまの王進には逆らう気力などどこにもない。
口から漏れる哀れな口上すら、心の奥に巣食った恐怖が言わせている。
周りに殷天以外の視線がいくつも突き刺さるのを感じた。
それがまた、王進の中に植えつけられた受虐の疼きに火をつける。
自分の女の性器から、どろりと愛液が垂れていくのを、王進ははっきりと感じていた。
「もういい──。歩け──」
尻を鋭く打擲される。
「あひいっ」
口から嬌声混じりの悲鳴が迸った。
どうしても、こんな声が漏れてしまう。
王進は奥歯を噛み締め、黙って再び「蛙歩き」を始めた。
廊下を這いずるように進む。
殷天の命じるまま、尻を振り、股間を晒し、股を広げ、止まっては歩き、破廉恥な姿をさらし続ける。
そのたびに誰かの笑い声が背を刺すように感じられた。
進む先は、やはり屋敷の奥にある大広間だろうと王進は思った。
人の気配が、確かに増えている。
誰も罵声を浴びせてこそいないが、廊下の左右に兵が居並んでいるのが息づかいでわかる。
その視線が、尻と股間をまじまじと舐め回すように降りかかってくる。
情けない尻踊りと、がに股の蛙歩き。
それを何度も繰り返しながら、やがて廊下からどこかの部屋へと追い込まれた。
殷天の痛点棒に背を押されるように、王進は息を荒く吐きながら奥へ進んだ。
「回れ──。進行方向に尻を向けて停止。続いて尻踊り──」
殷天の声が背を這い、右の尻たぶに弱めの痛点棒が炸裂した。
「んぐううっ」
王進は奥歯を噛み砕きそうになりながら、右へと身体を捻った。
息を荒く吐き、進むべき方角に尻を突き出すと、ゆっくりと尻振りを始める。
「き、禁軍、武術……し、師範の王進の尻踊りでございます。哀れな雌犬が、はしたなく尻を振っております──。み、皆様、ど、どうぞ、ご笑覧あれ──」
捨て鉢の声が乾いた空気に滲む。
王進の尻が、笑い声を誘うように揺れる。
そのときだ。
尻を向けた先から、腹を抱えて笑う声が響いた。
はっとした。
この声は……。
「もういい。高俅様の方角を向いて、雌畜にして頂いたお礼を申しあげるんだ。すっかりと服従する受虐狂になったこともご報告しな──」
殷天の棒が、ばしりと王進の尻を叩いた。
次の瞬間、顔を覆っていた革の目隠しが乱暴に引き剥がされる。
眩んだ視界がじわりと戻る。
四つん這いのまま、尻を高く掲げた格好で、王進はぎこちなく半回転した。
床に額が触れそうなほど低い位置から、目の前を見上げる。
豪奢な椅子にどっかりと腰を下ろし、両脇には武装した兵がずらりと居並んでいる。
高俅がいた。
笑みの奥に、どす黒いものを潜ませながら、静かに王進を見下ろしている。
高俅に顔を合わせるのは、数日ぶりのはずだった。
いや、そもそも高俅がここへ姿を見せること自体が滅多にない。
これまでに六度、その姿を目にしたが、最初を除けば、すべて「淫紋の発作」が起こったときだった。
淫紋の発作──。
それは全身の血という血が沸騰し、性の疼きが暴発する。
脳味噌の奥まで火を焚かれ、理性をかき消される。
当初は十日に一度と告げられたが、間隔に一貫性などなかった。
最初の発作から二度目までは十日近く空いたが、三度目は五日も経たずに来た。
四度目はさらに八日後、五度目は十日後。そして六度目は、その翌日だった。
間隔は不定期で、明らかに最初に言われた十日よりも短い。
だが、それ以上に耐え難いのは……。
発作の最中、王進でありながら、王進でなくなることだ。
王進は、その記憶を腹の奥に沈めながら、高俅の視線を浴びていた。
淫紋の発作がひとたび起きれば、全てを呑む淫情が身を灼き尽くし、男の精を女の奥に注がれなければ我慢できなくなる。
頭のどこを探しても、男に犯される以外の考えが浮かばなくなる。
哀れに周囲の男に縋りつき、腰を振り、犯してくれと泣き叫ぶ雌になる。
犯してもらい、精を奥に注ぎ込んでもらうために──。
王進は男たちのどんな命令にも従う「性奴隷」に成り下がる。
そうしてようやく果てに辿り着き、発作がおさまる。
だがそのあとだ。
すべてを終えた後で、王進は自分がさらした惨めな姿を、寸分違わぬ記憶として抱え込む。
絶望が喉を詰まらせ、耐えがたい屈辱に息を殺すしかなくなる。
生き恥に喉を裂いて死にたいと願う。
だが、呪術の鎖がそれすら許さない。
これが「淫紋の発作」だ。
王進の女体の下腹に刻まれた淫紋は、この一箇月のあいだに色濃く滲んでいた。
高俅は、その発作が起きた後にしか姿を現さない。
屋敷に寝泊まりなどしていないのは明白だ。
いつも発作が起きてから、じわじわと時間をおいてやってくる。
三度目のときには、丸二日も放置された。
あれは、痛点棒の連続拷問よりも耐えがたかった。
狂ったように燃え上がる性の疼きを、どうすることもできずに待つのだ。
高俅は、この屋敷に詰めている兵に命じている──。
王進の尻なら好きに犯してよいが、女陰に入れていいのは高俅だけだと。
だから、肛門を何度輪姦されようと、精液を垂れ流すほど注ぎ込まれようと、張形で激しく突かれようと、淫紋の発作は終わらない。
むしろ、疼きは何倍にも膨れ上がる。
狂った雌獣のように、周囲の男たちに号泣で精をせがむしかないのだ。
そして、ようやくの高俅に犯され、奥に精を注がれて、正気に戻る。
血が沸騰するほどの憤怒と、気を失うほどの絶望に抱きすくめられながら……。
でも、次の発作はまたやってくる。
いずれにしても、発作のとき以外に高俅が王進の前に姿を現したのは、初日以来のことだった。
王進はすぐに感情をまとめきれず、呆然としたまま立ち尽くした。
「御挨拶だよ──」
「ほごおおっ」
下腹を鋭く痛点棒が撃ち抜いた。
崩れ落ちそうになるのを、どうにか踏みとどまる。
喉の奥に絡む憤怒を押し込め、震える舌で言葉を吐いた。
「こ、高俅様、お、お久しぶりで、ご、ございます。き、禁軍、ぶ、武術師範の、も、元王進でございます。い、いまは高俅様に飼われる家畜です。か、家畜にして頂いたこと、あ、改めて篤くお礼を申しあげます」
事前に叩き込まれた恥辱の挨拶を、喉の奥でかすれさせながら口にする。
憤怒が背骨を震わせるが、それ以上に、心の底を満たすのは恐怖だった。
「まともな状態で会うのは久しぶりだ。発作のときでなくても、しっかりと私に服従できる雌犬になったようだ。殷天、ご苦労だった。さすがは、兄上が目をかけている女調教師よ」
高俅の声は、上機嫌に湿っていた。
背後で殷天が静かに頭を下げる気配を、王進は皮膚の奥で感じていた。
「お褒めいただき恐悦至極でございます」
「しかも、こいつをよくぞここまで仕上げた。聞きしにまさる淫獣ぶりよ」
「恐れ入ります」
殷天の声には一片の迷いもない。高俅はにやにやと口の端を吊り上げた。
「さっきの尻踊りのときも、すでに愛液で股が濡れそぼっているのが、はっきりとわかった。王進、女としての身体をいたぶられただけでなく、屈辱を晒し、叩かれ、打たれ、苦痛にまみれても、とろとろに蜜を垂らす受虐狂に成り果てたようだな。その自覚はあるか?」
目の奥で黒い炎を揺らしながら、高俅が問いかけてくる。
「ご、ございます……」
喉が裂けそうなほど憤怒が渦巻いた。だが、逆らえばすぐに痛点棒が待っている。王進は奥歯を鳴らしながら、それでも従った。
いまこの瞬間も、股間がじわりと熱を帯びている。侮辱されるたびに、湿りが足を伝う自分を、王進は否応なく自覚していた。
「気がついておるか? お前がいまも垂らしている愛汁は、脚を伝って床まで達しておるぞ。ここは私の謁見の場だ。情けないとは思わんのか」
「こ、言葉はありません……。お、お許しを……」
声が掠れた。逆らうことに意味はない。ただ、恥辱を噛み殺すしかない。
「ならんわ。罰を与えてやろう。乗馬鞭を持ってこい。それと、王進の左側の手首を縄で右手首と縛ってから、片側の足枷のみを外してやれ」
高俅の言葉が落ちると同時に、数名の兵が王進に群がった。四つん這いのまま、両手首が縄で縛られ、右足首の枷だけが外される。
「片脚をあげて、股を晒せ、王進。雄犬が小便をするように、四つん這いのまま片脚をあげるのだ」
乗馬鞭を受け取った高俅が立ち上がり、ゆっくりと王進の横に回り込む。鞭の先が空を切る音が、耳の奥でざわついた。狙われているのは、脚を上げきったときの股間だと悟った。
背骨の奥がぞっと凍る。王進は声もなく、尻を高く突き上げた──。
「さっさと脚をあげないかい、犬──」
殷天の声が背を打った。
恐怖が骨に沁みついている王進は、慌てたように片脚を突き上げる。
「耐えよ、王進」
高俅が笑いを含んだ声を落とすと同時に、乗馬鞭が一閃し、王進の股間を叩き砕いた。
「あぎゃあああ」
喉を裂くような悲鳴が漏れた。
凄まじい激痛に背骨がきしむ。
「脚をさげるな、犬──。痛点棒の懲罰だよ──」
殷天の声が冷たく背筋を這う。
反射的に下がりかけた脚が、無意識にもう一度持ち上がる。
「慈悲を乞え、王進──。私が満足するような哀れみが口にできれば、懲罰を終えてやろう」
二発目の鞭が股間を打ち抜いた。
「ひがあああっ、お、お許しください、こ、高俅様──。お許しを──」
「まだまだだな。もっと哀れみを乞わんか──」
高俅の笑い声が頭上で滲む。
三度目の鞭が容赦なく股間を叩き割った。
「んぎゃあああ──」
王進は絶叫した。
気づけば股の奥から熱い放尿が迸っている。
じょろじょろと音を立て、床に雫が散った。
それでも、あげた片脚だけは必死に突き上げたままだ。
「情けないのう。それでも、元の禁軍武術師範であるのか? たった三発の鞭で失禁しおって」
高俅は鞭を止め、大きく笑った。
なおも放尿は止まらない。
だが脚だけは下げない。
逆らったときに待つ恐怖が、王進の膝を押し留めた。
「ところで王進よ。お前の命日が定まったぞ」
不意に落とされた高俅の声に、王進は息を詰まらせた。