「い、いい加減に……せんか。な、何回、やれば……気が、す、済むのだ……」
息も絶え絶えに言った。
賊から命を助けてもらった礼代わりに、身体を許した行きずりの男だ。
粗野ではあるが、根は悪人ではない。
それは、わかる。
だが、抱き方がすごい。
乱暴ではない。
緊縛されて抱かれるという以外は、むしろ優しいくらいだ。
女の急所を、確実に突いてくる。
性感が昂ぶるところを外さない。
交わりが始まって、あっという間に昇りつめさせられた。
つまり、上手なのだ。
こんなに優しい男もいたのだ……。
ちょっとだけ、嬉しくなった。
だが、長すぎるぞ──。
なんだ、こいつ──。
まだ明るかった外は、すっかりと暗くなっていた。
いつの間にか小屋には、この男が途中で準備したらしい蝋燭の炎が灯っている。
だが、それを覚えていない。
この男が覆い被さっていたかと思えば、そのあいだに何度も絶頂させられた。
気がつけば引きずり起こされ、今度は自分が男に覆い被さってまた果てる。
そして、気づくと別の体位だ。
繰り返しだった。
どうやら、この男は自分が達するよりも、女を気持ちよくさせるのが好きらしい。
責めに悶えるたびに、嬉しそうな顔をする。
昇天すれば、満足そうに微笑む。
ありがたい。
だが、快楽も、すぎれば地獄だ。
もう十回どころではない。
その倍は、昇りつめている。
「だったら勝手に休んでいいぜ。そのあいだ、愉しんでいるからよ」
いま、男とは対面に座っている。
自分の身体を膝の上に乗せ、腰と腰を結合させたまま。
緩やかな反復運動が続いている。
「ふ、ふざけるな……。そ、そんなことを、言って……わ、わたしが……し、失神したら……、は、鼻と、口を、摘まんで、む、無理矢理に、起こす、ではないか──」
叫んだ。
何度、無理矢理に覚醒させられたかわからない。
そして、続くのだ。
身体の芯から痺れ切り、もはや自分の意思では、ひとつも動かせない。
「へへへ……。そうだったかな。それよりも、あんたの気持ちのいいやり方はもうわかったぜ。こんなんも好きだろう?」
男が、後手縛りの縄を掴む。
腰の上で、身体全体を臼のようにぐるぐる回し始めた。
膣の奥が、怒張でかき回される。
子宮の入り口を、亀頭がぐりぐりと擦る。
「んふうっ、はぐううっ、いぐううっ……」
身体を弓なりにして絶叫したときには、もう昇天していた。
快感の槍が全身を貫き、雲の上に身体を浮かせる。
だが、降りて来られない。
性交は、続いている。
極まった頂から、さらに上へと押しあげられるしかない。
「も、もう許してくれ……。か、堪忍だ。堪忍……」
叫んだ。
涙が頬を伝う。
快感で泣き、限界を超えた絶頂で泣き、いまは哀願の涙だ。
──いつ終わるのか。
「そ、そんなことを言ったって、俺はまだ、数回しかいってないぜ。あんたが勝手に絶頂を繰り返しているだけだ」
男が、意地っぽく言った。
確かに、そのとおりだ。
だが、この男がそう導いているのだ。
昨日から今日にかけて凌辱してきた大虎とかいう山賊の首領は、己が果てるだけの性交だった。
だから、疲れなどなかった。
だが、この男の抱き方は、真逆だ。
女を置き去りにせず、ひたすらいかせる。
それを続ける。
長時間にわたってそれをされれば、女は堪らない。
男が腰を掴んだまま、子宮の入り口を突きまわす。
膣の奥が痙攣し、次の絶頂のうねりがすぐにやってきた。
もう、歯止めがない。
「ああっ、あうっ、あっ、ああっ、た、頼む……許して……許してえっ──。いぐううっ……」
そして、呆気なく達した。
気がつくと、男の肩に、強く噛みついていた。
「そういやあ、あんたの名を聞いてなかったな。なんて名だ?」
気が遠くなりかけていたが、男の声は辛うじて聞こえた。
「き、
そう言った。
「そうか、藩金蓮か……。俺は
武松は笑った。
ぐっと藩金蓮を抱き締める。
腰の律動が、少し強くなった。
ああ──来る──。
まだ、昇天したときの夢心地のような快楽の極みから抜けきってはいない。
だが、はっきりと感じた。
武松と名乗った男の怒張が、自分の中で大きく、熱くなる。
「うう……は、藩金蓮……あ、あんたはいい女だ……」
男が、呻くように言った。
そして、精が放たれた。
武松の相次ぐ射精が、子宮に弾けるのがわかる。
それで、なにもかもが途切れた。
もう、絶対に起きてやるものか……。
断固として、そう思った。
──もう、終わり。
正真正銘の終わりだ。
藩金蓮は、この武松を叱り飛ばすつもりだった。
だが、口を開く前に、すっと目の前に闇が落ちた。
いい感じで肉が焼けてきた。
小屋の外である。
干し肉を焚き火で炙っている。
脂のところが溶けて、いい匂いが漂いはじめた。
火の中に滴った脂が、じゅう、と気持ちのいい音を立てた。
いま食えば旨いのだがな……。
武松は、小屋の中に寝ている藩金蓮を起こすべきかどうか、迷った。
昨日はここで、山賊に拉致されていた藩金蓮という四十女を助けた。
いい女だった。
だが、ちょっと抱き過ぎたかもしれない。
性交の途中で、なにをしても目を開けなくなった藩金蓮を諦めて寝かせたのは、まだ宵の口だったと思う。
それから一晩中眠り続け、一度も気配がなかった。
いまはもう、すっかりと明るい。
陽射しも朝の優しさを捨て、そこそこ強くなっていた。
藩金蓮が目を覚ますまで待とうと思っていた。
しかし、腹が減った。
だから、手持ちの肉を焼きはじめた。
いずれにしても、静かな山の朝だ。
いや、朝というよりは、もう昼だろう。
太陽は、中天に近い。
藩金蓮は、まだ小屋の中だ。
聞こえるのは、鳥の声と、小屋の後ろの崖肌を流れる清水の音だけだ。
昨日殺した山賊の首領の身体は、明るくなったときにはなくなっていた。
たくさんの山犬の足跡があった。
野犬の群れが来て、持っていったのだろう。
そういえば、夜中にそんな物音もしていた気がする。
そのとき、小屋の戸が開いた。
藩金蓮だ──。
少し疲れが残ったような顔をしているが、すでにきちんと服を着ていた。
髪も結ってある。
女の小物は、盗賊たちの荷の中にあった。
一応、それを枕元に置いておいた。
使ったのだろう。
「随分と寝坊だな、藩金蓮」
武松は、からかうように言った。
「お前のせいだろう」
藩金蓮は悪態をついた。
だが、その顔には微笑みがあった。
武松は、竹の水筒を二つ押しつけた。
「そこの清水で水を汲んで来い。肉を食わしてやるからな」
「わたしに命令するな」
藩金蓮は、怒ったような口調だった。
だが、水筒はすぐに受け取った。
水を汲みに行き、戻ってきた藩金蓮と、焚き火の前で肉を食う。
焼けた脂の匂いが、二人の間に漂った。
やっと一息ついたところで、武松は口を開いた。
「ところで、潘金蓮、お前は、どこの奥方なんだ? 多分、それなりの家だろう?」
「ふん、わたしのことはいい。お前のことを聞かせよ」
すると、藩金蓮が言った。
どうやら、自分のことは喋るつもりはないらしい。
まあいい。
どうしても、女の身の上を知りたいわけじゃない。
この女は抜群にいい女──それだけで十分だ。
武松は、肩を竦めた。
「俺の身の上なんて、別に面白い話じゃねえぞ」
「いいから話せ。もったいぶるな」
「わかった、わかった……」
武松は語り始めた。
北州の城郭で、小さな商いをしている商人の家に生まれたこと。
乱暴者で疎まれたこと。
十四のとき、城郭で集団に襲われ、大喧嘩をし、その中の数人を殺したこと。
半年ぶりに家に戻ったら、母親に役人を呼ばれたこと──。
淡々と話していく。
大して面白い話ではない。
だが、藩金蓮は愉しそうに耳を傾けていた。
「……ところで、ちゃんとした武芸は、どうやって身につけたのだ? 実はお前が大虎と戦ったとき、洞窟の陰からこっそり見ていた。あれは我流ではない。一度は、ちゃんとした師匠についた者の技だ。拳法であろう?」
藩金蓮が言った。
武松は、少し驚いた。
「武芸がわかるのか?」
「多少はな……。もちろん、自分でできるわけじゃないぞ。ただ、多くの武芸者と接する機会が多いのでな。強い、弱いくらいはわかる。お前は強いな」
藩金蓮が言った。
「そうか……。とは言っても、ちゃんとした師匠についたことはないぞ。俺に拳法を教えてくれたのは、乞食だ」
「乞食?」
「ああ、乞食だ。まだ故郷の城郭に住んでいたころだ。酒飲みの乞食がいてな。酒を運ぶ代わりに、拳法を教えてくれたのだ。すぐに、その乞食より強くなったがな」
「ならば、お前の拳法は、乞食拳法というわけか」
藩金蓮は、なにがおかしいのか、腹を抱えて笑いだした。
「それよりも、腹が満たされたら、また抱いていいか? あんたを見てるとむらむらしてきた。抱いてから出発しようぜ。なっ?」
武松が笑った。
「馬鹿たれが──。そんなこと繰り返してたら、いつまで経っても出られんわ。夜まで我慢しろ」
藩金蓮が顔を赤くしながらも、ぴしゃりと怒鳴った。
だが、そんな抵抗も、武松からすれば煽りにしかならない。
強引に藩金蓮を抱き寄せ、膝の上に横抱きに載せた。
「うわっ、な、なんをするか。離せ──。離さんか──」
藩金蓮が真っ赤な顔になって暴れる。
しかし、女の抵抗など、幼子の駄々だ。
武松は抱きしめ、動けないようにする。
「ならば、口づけだけで許してやるぜ。嫌なら、もう一度犯すだけだ。どっちでもいい。好きな方を選べ」
「こ、この悪太郎が──。これ以上犯されれば、足腰が立たんようになる。出立できんだろうが──」
「それのなんの問題がある。それに、俺に抱かれて抱き潰されたにしては、しっかり元気じゃねえか。なにか身体を鍛えていたのか。立派なものだ。いずれにしても、ますますいい女だ。とても我慢できねえよ」
武松は、服の上から藩金蓮の乳房の膨らみを片手で掴んだ。
ゆさゆさと揉みはじめる。
もう一方の手を、徐々に藩金蓮の下袍の下へ潜り込ませた。
「うわっ、や、やめんか──。わ、わかった──。口づけをする。するから、もう許してくれ。頼む──」
「早くそう言えばいいだろう。それとも、犯されたいのかと思ったぞ」
「あ、阿呆が、この悪太郎……」
「さっきから悪太郎とはなんだ?」
「お前のような悪人のことだ。だが、強い。そして、子どものまま大人になりきれていない。そんな男のことだ」
「なるほど、違いない。俺は悪太郎だ」
武松は大笑いした。
「うるさい。口づけするならせよ。その代わり、それで諦めるのだぞ」
藩金蓮が口を開いた。
武松の口を迎える形になった。
武松は唇を重ね、舌を藩金蓮の口の中に挿し入れた。
舌先で、思う存分に口腔をかきまわす。少しばかり抵抗の素振りを見せた藩金蓮だが、次第にそれもなくなる。
逆に、舌を絡めてきた。
しばらくのあいだ、二人はお互いの口をむさぼり合った。
「はあ、はあ、はあ……」
やっと口を離したときには、藩金蓮の顔は真っ赤だった。
蕩けた目で、武松を見あげている。
武松は、にんまりと笑った。
「ははは、いい感じになってきたな、藩金蓮。どうせ陽は高い。いまから出るより、明日早く山を出た方がいい。諦めな。どうせ、俺にはかなわないんだ」
武松は藩金蓮の上衣の隙間から手を差し入れた。
乳房を揉む。
反対の手は下袍の中へ潜り、下腹部に触れた。
股間は、下着越しでもぐっしょりと濡れているのがわかった。
「あ、阿呆が……。こ、この好き者……あっ、ああっ……」
「ああ、好き者で変態の武松だ。そして、あんたみたいないい女を前にして、すっかり理性を失ったけだものだ」
武松は、藩金蓮の下袍の帯を解いた。
素早く、下袍と下帯を剥ぎ取る。
あぐらをかいた武松に、向かい合って抱かせた。
怒張を露出させ、藩金蓮の股間を結合させる。
「あああっ……ああっ……」
藩金蓮が武松の腕の中で、甲高い声をあげて仰け反った。
「もう一度、口づけだ。藩金蓮」
武松は腰を上下させながら、藩金蓮の顔に唇を寄せた。
藩金蓮は、もう抵抗しない。
酔ったように舌を絡め、情熱的に口を吸った。
武松は腰を支え、怒張の先で藩金蓮の奥を抉るように突き上げる。
「んぐううっ……んあああああっ……」
藩金蓮は、可愛らしく絶頂に達した。
全身を突っ張らせ、声を吐き、息を呑む。
小屋の外では焚き火がまだくすぶっている。
肉を炙った脂の匂いが、夜気に溶けた。
武松の荒い息と、藩金蓮の熱い吐息だけが、闇の底にゆっくりと沈んでいった──。