48 王進、色情狂の調教を宣告される
広間の真ん中に据えられた丸卓の周りには、三、四十人の男たちがいた。
すべて、
いまは、軽装であり、誰も武具を携えていない。
それでも、赤く血走った眼だけは変わらない。
その中心で、見世物のように、卓の上に正座で座らされているのが王進だった。
王進は一糸まとわぬ全裸だった。
両腕は背で水平に束ねさせられ、革枷を巻かれた腕は短い鎖で繋がれて後手に拘束されている。
さらに腕と胴と乳房を縄で緊縛され、天井の金具に結わえられた太い縄が、後手縛りの縄と繋がれていた。
両足首には鎖のついた足枷。足枷の鎖は拳ふたつ分ほどの長さしかなく、全く歩けないわけではないが、幼児のよちよち歩きほどの足取りしか許されない。
殷天は用心深い。
王進の自由を徹底して奪い、隙を見せることがない。
いつものように檻から出され、縄瘤自慰の儀式と犬食いの食事、排泄を済ませたあと、後手縛りに緊縛されて広間に連れてこられたのだ。
そして殷天に命じられ、台の上に載せられ、後手縛りの縄に天井の縄を繋げられたというわけだ。
檻の中での就寝も、就寝のあいだのずいき縄の股縄での痒み責めも、いまだに続いている。
いつもの縄瘤自慰の強要で、夜のあいだに多少は紛らわられるのだが、いまはじんじんと疼くような痛み混じりの激しい痒みが残っている。
昨夜は、死んだように眠りすぎたのだ。
檻の中で密かに縄瘤自慰で痒みを散らすことすらできなかったことで、いつもに増して痒みと疼きが収まらない。
王進は歯を喰い縛り、必死で正座の姿勢を保つ。
だが、股間の痒みに耐えきれず、正座した内腿を擦り合わせるような動きが止められない。
身体は汗で濡れ、赤く火照っている。
「今日からは男を知るための調教だ。徹底的に男好きの身体に仕上げてやる。あまり時間もない。手っ取り早く色情狂になってもらうよ。覚悟するんだね」
いつものように、女調教師の殷天が痛点棒を指し棒のように振るいながら、王進をなぶる。
痛点棒は、王進にとって竦みあがるほどの恐怖だ。
殷天の持つ痛点棒が肌に触れるだけで、肌が粟立ち、全身が凍りつく。
禁軍の武術師範まで昇りつめた自分が、たかが女調教師に、これほど怯えるなど恥だと思う。
だが、どうしても怖いものは怖い。
「返事は──?」
殷天が怒鳴りあげた瞬間、痛点棒が乳房に突き刺さり、作動した。
「おごおおおっ──」
王進は絶叫した。
全身が硬直する。
何度味わっても、慣れるはずのない激痛だ。
限界を越える痛みに、弛緩しかけた身体を必死で支え、王進は慌てて口を開く。
「あ、ありがとうございます──。ほ、本日の調教に感謝します。今日もこの雌犬を徹底的にお躾けください──」
いまや、こんな言葉も考えずにすらすらと口をついて出る。
それが、口惜しい。
王進の哀れな言葉に、周囲の高俅の兵たちがどっと沸いた。
あまりの屈辱と情けなさに、血が沸騰しそうになる。
だが、怒りを表に出せば、痛点棒で、殺された方がましだと思うほどの懲罰を与えられるだけだ。
歯を喰いしばって口惜しさを耐えるしかない。
殷天が鼻で笑った。
「ふん、口だけなのはわかっているよ。でも、すっかり受虐狂になったお前が、苛められるのを悦んでいるのもわかってる。だが、きょうからは違うよ。受虐癖だけでは終わらせない。男なしでは生きていけない身体に仕立てるからね。そういう調教だ」
殷天は王進の前から下がり、部屋の隅へと向かった。
代わりに、王進を囲んでいた高俅の兵たちが、じりじりと距離を詰めてくる。
なにをさせられるのか。
王進は、わずかに身体を竦ませた。
とにかく、高俅から最後通告のような奴隷化の宣告を受けたのは、昨日のことだ。
この屋敷に監禁されて、すでに一箇月余り──。
王進の身体に刻まれた淫紋は、いまも王進を苦しめている。
だが数日中に、淫紋を刻んだ
淫紋を解呪するという。
その後に、淫紋の代わりに奴隷紋を刻み、娼館に放り出すつもりだという。
女体化した王進の身体は、いまや男の愛撫ひとつで達してしまう淫女になり果てている。
淫紋は、性感を跳ね上げ、定期的に発作のように性欲に狂わせる。
だがその淫紋が刻まれているかぎり、奴隷化の呪術を受け入れないらしい。
だからこそ、わざわざ淫紋を解き、奴隷紋を刻み直すのだろう。
淫紋は女体化した王進を性欲で苦しめている呪術ではあるが、「主人」の命令に逆らえなくする奴隷紋とは異なる。
奴隷紋を刻まれて売りとばされれば、逃亡は不可能だ。
その可能性があるとすれば、淫紋を刻まれているあいだに隙を見つけて逃亡し、奴隷紋の刻みを避けるしかないとは思うのだが、いまのところ、その隙を見つけることはできない。
王進の調教係を任命されている殷天は、絶対に王進の拘束を解くことはないし、苛酷な拷問まがいの性調教を強要しては、王進から体力も気力も根こそぎ割くということをしている。
いっそのこと、すべてを受け入れた方が楽ではないのか。
そんなことまで考える。
淫紋を解かれれば、隷属はされるが、繰り返す性欲の発作に苦しむことはない。
もしかしたら、死ぬこともできるかもしれない。
とにかく、夕べの調教も苛酷だった。
高俅と殷天は、これまでの調教で、王進への肛姦は許していたが、女陰への男根の挿入だけは兵に禁じていた。
だが昨日、高俅が「いまからは好きにしてよい」と命じ、この屋敷に詰めている兵どもに許可を与えたのだ。
元は男──。
だが高廉の女体化の呪術によって、いまや王進は絶世の美女に変化している。
苛酷な拷問と家畜同然の生活のなかで、病気になるどころか、いまだに美女としての外見が衰えないのは、淫紋の刻みが女の身体を常に最高の状態に保たせているのだという。
しかも、殷天の性調教に加え、淫紋の影響で愛撫ひとつに敏感すぎる王進の身体。その反応は男たちの嗜虐心を煽り、兵どもにとっては格好の慰み者だった。
数十人の男に、夜が明けるまで輪姦され続けた……。
淫紋の影響もあって、敏感すぎる王進の肉体は、男たちの責めに耐えきれなかった。
制御できぬ快楽地獄に堕ち、輪姦されながら、狂ったように絶頂を繰り返す。
昇天の回数は、百を越えたかもしれない。
失神すれば、痛点棒で覚醒させられる。
覚醒すれば、また気絶するまで犯される。
それを、ただ繰り返された。
昨夜、檻に戻されたときのことは覚えていない。
檻の中で死んだように眠った身体を痛点棒で叩き起こされ、昼過ぎだと告げられ、檻から引き出されたのだ。
そして、いつものように、餌のような食事を喰わされた。
水分は、男たちの小便だ。
一日の始まりの儀式の締めは排泄──。
四肢を動けぬように拘束を強められ、「当番」の男たちに筆でくすぐられながら、小便と大便を漏らすのだ
これほど情けないことはない。
だが、抵抗はしなかった。
喰えと言われれば黙って餌を口にし、嘲笑されながら小便も飲んだ。
奉仕を強いられれば、素直に男たちの男根を咥え、舐め、吸った。
逆らわない。
その素振りすら見せない。
大便も小便も、命じられるままに男たちの前でした。
なにもかも、殷天たちに、王進が完全に恭順しているということを示すためだ。
抵抗しない犬だと、殷天にも高俅の兵どもにも思わせる。
もし、逃げる機会があるとすれば、殷天か兵どもが気を緩めたときしかない。
そのときまで、犬のふりをするしかない……。
いずれにせよ、また「次の一日」がやってきた。
「儀式」が終わり、広間に連れ込まれた。
そして、今日も、いつもと同じ調教の一日……。
王進は、大勢の男たちの集まる真ん中に、引き立てられたのだ。
「卓を外しな」
殷天が部屋の奥から指示を飛ばした。
「うわっ」
正座させられていた卓が、兵の足で蹴り飛ばされる。
王進の身体が、支えを失い床に向かって落ちた。
「くっ」
後手縛りの縄に繋がっていた天井からの縄は、まだ余長があった。
だが王進の身体が落下した瞬間、縄がぴんと張り、後手に縛られた腕で全体重を吊られる形になる。
足先は辛うじて床に届かず、王進は宙に浮いた。
「足枷を外しておやり。それから──例のものを持っておいで」
殷天がさらに指示を飛ばす。
まず、足枷が外された。
両足の拘束が解かれるのは、久しぶりだ。
だが、この状況ではどうしようもない。
王進の両脇に、腰ほどの高さの幅の狭い台が運ばれる。
台と台の距離は、女体となった王進の肩幅よりもずっと広い。
足を載せれば、股ぐらが丸見えになるのは明らかだった。
「台の上に足を載せな、先生。厠でしゃがむ姿勢だ。股ぐらがよく見物できるようにな。逆らえば、痛点棒だ」
命じたのは、この屋敷に詰めている高俅の部下の将校だった。
将校は腰の痛点棒を抜き、ばしりと王進の尻を叩いた。
「んあっ」
王進は思わず声をあげた。
大した痛みではない。
だが、叩かれた衝撃が股間にずんと響き、疼きとなって這いあがる。
認めたくはない。
だが、いまの王進の身体は、受虐に淫欲を感じる被虐の体質に作り変えられてしまっている。
「わ、わかった……」
王進は脚をあげ、なんとか片足を一方の台に載せた。
その踏ん張りで身体を引きあげ、反対の足をもう一方の台に載せる。
台の間隔は広い。
膝を曲げ、大きく股を拡げるしかない。
屈辱の格好だった。
兵たちは手馴れた動きで、台を床に金具で打ちつけて固定する。
さらに、王進の足首を新たな革紐で台に括り付けていった。
そして、兵どもの輪の中から、ひときわ大柄な男が前に出た。
腰の帯紐に挟んだ痛点棒を抜きながら、口元に嘲りを浮かべる。
「どうした、先生? さっき飯を喰わせながら、どう言えばいいか教えてやったろう」
痛点棒を殷天から渡されているのは、後ろに控える将校を含め、五名足らずだ。
丁元もそのひとりだ。
この屋敷に詰めている高俅の兵の中でも、ひときわ王進に執着している。
監禁されて以来、執拗に肛門を犯された記憶が脳裏をかすめ、思わず歯が鳴った。
どうでもいいが、丁元の息は酒臭い。
顔も赤い。
見渡せば、酒を入れているのが明らかな兵が何人もいる。
将校まで一緒にいながら、昼間から酒を許すあたり、この高俅の兵の質の悪さが知れる。
──もっとも、女体となった王進を毎日のように犯し尽くす連中に、軍隊としての規律など求めるだけ無駄だ。
丁元が、王進の晒された股間を痛点棒の先端でつんと突いた。
「あっ、ひっ」
作動はされていない。
だが、王進の中には、痛点棒の激痛の恐怖が嫌というほど刻み込まれている。
先端が触れただけで、心の底からの恐怖が貫き、反射で声をあげてしまった。
はっとして、慌てて口を閉じる。
「聞こえねえのかい、先生。ここに着いたら、なんて喋ればいいか教えてやっただろうがよ」
丁元がさらに怒鳴る。
「やっぱり、痛点棒をけつの穴に射ってもらわねえと、気合いが足りねえんじゃねえか。何発でやる気になるんでしょうねえ」
また、別の兵も嘲りを含んだ声をあげた。
その声と同時に、その兵の持つ別の痛点棒の先端が、王進の肛門を探るように突いてきた。
「うわっ──。や、やめてくれ──。言う。言います──。お、王進の恥ずかしい女の穴をご覧下さい。み、見られて辱められるのが大好きな女奴隷です──」
慌てて叫ぶように口にする。
檻を出されたときに、いつもの餌食いのときに犯されながら諭されたのが、この馬鹿げた口上だ。それを隠すべき女の股を大勢にさらけ出しながら言えと脅されたのだ。
王進の言葉に、どっと嘲笑が沸き起こる。
恥辱に一瞬、身体が冷える。だが、すぐにその屈辱が受虐酔いのようになり、王進の身体を熱くしてしまう。
それが口惜しくて、思わず歯を噛みしめる。
「先生、なにもしねえのに、こうやって見られるだけで、みっともなく女の股を濡らしているのはどういう了見なんで? 教えてくれるかい」
丁元が痛点棒の先で上下に撫でるように、股間の割れ目に沿って痛点棒を動かしてくる。
「ひんっ」
王進はその場で大きく仰け反ってしまった。
棒の先端で受ける愛撫が王進の意思とは無関係に、大きな快感の波を引き起こしたのだ。
「喘ぎ声はいいんだよ、先生。それよりも、まだ調教が始まってねえのに、股ぐら真っ赤にして、愛液をだらだら垂れ流してるのは、どういうわけだい」
丁元が、かさにかかったように嘲笑を浴びせた。
王進は口惜しさと恥ずかしさに、奥歯を噛んだ。
一方で、ずいきの汁が、まだ股間と肛門に染み込んでいる。
強い痒みと疼きが、どうしようもなく身体の奥で暴れていた。
だが──股間がこれほど濡れているのは、それだけではない。
屈辱的な姿で、大勢の兵どもに股を晒し、無遠慮に弄ばれ、叩かれ、侮辱を浴びる。
それが、どうしても快感に繋がってしまう。
言い訳をしたかった。
だが、口を開けなかった。
王進は、唇を噛み、じっと耐えた。
「まあいいさ。こいつがすっかりと受虐の癖に染まったのはわかっている。だが、きょうからは次の段階だ。目的は色情化だ。例のものを塗りたくってやりな」
殷天の命令が飛んだ。
周囲の男たちがどっと声をあげる。
すぐに、車輪のついた台が運び込まれた。
その上には壺が載せられ、淫具や性具がずらりと並んでいる。
王進の背筋に冷たいものが走った。
「さて、じゃあ俺は乳房からいくかな」
「俺は股だ」
「俺もさせろよ」
「尻穴は俺だ」
男たちが壺に手を突っ込み、両手にねっとりとした粘性の油剤をまとわせる。
その油まみれの手が八本──いや十本──もっとだ──。
一斉に、王進の裸身をまさぐり始めた。
「ああっ、うわっ、や、やめてくれ──。そ、そんなに一度に──」
全身の性感帯が同時に刺激される。
王進の理性は一気に飛んだ。
快感が全身を突き抜ける。
「間違ってもいかせるんじゃないよ──。ぎりぎりまではいいけど、昇天はさせるんじゃない」
殷天がげらげらと笑う声が耳に刺さった。
大勢の男兵たちが、王進の肛門、股間、乳房、太腿、内腿、脇の下、脇腹──あらゆる場所に、ねっとりと油剤を塗りたくってくる。
拘束された身体が勝手に震え、よがるたびに、王進は深い不安に呑まれていく。
この油剤が、ただの油のはずがない。
とんでもない状況を引き起こす強力な媚薬に違いない。
塗られた箇所が、異様な熱気を帯びてくるのがわかる。
そして、ついに「それ」は襲いかかってきた。
「あああ、痒い──。痒いいい──。ひいいいいっ」
王進は絶叫した。
悲鳴が喉を突き破る。
痒み責めは、この屋敷に監禁された最初にも受けた。
それ以降も、何十度となく味わわされた。
だが、いまの痒みは、あれとは桁が違う。
凄まじいほどの痒みと性の疼きが、全身を蝕んだ。
「ははは、効いてきたようだねえ。じゃあ、しばらくそのままだ。この雌が口先だけじゃなく、心の底からお前たちの愛撫を望むまで、絶対に手を触れるんじゃないよ」
殷天の声が、笑い混じりに響いた。
十数本の手が、同時に王進の肌から離れる。
一瞬で、痒みが倍になった。
「ひいいいっ、痒いいい──。た、助けてくれ──。ああ、助けて、痒いいい」
王進は我を忘れ、絶叫するしかなかった。
殷天が嗤う。
「まあ、痒み責めなんて、色情狂への調教としては陳腐な王道さ。だが、効くから繰り返されるんだよ。じゃあ、しばらくのあいだ、そこで泣き狂ってな」
広間に、下卑た笑い声が広がる。
王進の口から、獣のような嗚咽が漏れた。
同時に、熱く疼く受虐の情欲も……。
なによりも、それが口惜しかった……。