※この作品はR-18です。

水滸伝艶義   作:ドン・ドナシアン

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51  王進、夜に襲撃され丁元に奉仕する

「くっ、うう……」

 

 王進(おうしん)は、真っ暗な部屋の隅に置かれたいつもの檻の中で口枷を咥えさせられたまま、呻き声を漏らしていた。

 大きな犬を監禁するような造りの狭い檻だ。

 左右の手首と足首は、いつものように、それぞれ革枷の手錠で繋がれており、身体を丸めて縮こまることしかできない。

 高さも低い。

 王進が四つん這いになるだけで、背中はすぐに鉄の天井に当たる。

 

 だが、それよりも苦痛を深くしているのは、いまも股間を苛む革帯の存在だった。

 今日の調教の最後に殷天(いんてん)から施された貞操帯──。

 女の膣と肛門には、内側に二本の張形が埋められたまま。

 当て馬責めと呼ばれる寸止めの拷問で、沸騰するような疼きだけを刻まれた王進は、一度も淫情を吐き出すことなく、また檻へ戻された。

 左右の手首、足首は革枷で縛られ、明日の朝の調教が始まるまで、この狭さに沈むほかない。

 

 いつもと異なるのは、夜のあいだの同じ痒み責めとはいえ、昨夜まではずいき縄と呼ばれる、痒みの汁を発する縄瘤だったことだ。

 今夜、王進を苛むのは、外からの刺激を完全に遮る性質のある傀儡の革の貞操帯だ──。

 縄瘤であれば、屈辱ではあったが、腰を自ら前後左右に揺すれば、痒みの発散は幾ばくか可能だった。

 実際のところ、この部屋には見張りもつかず、調教の最初にやらされる「縄瘤自慰」を、夜のあいだにひそかに繰り返し、狂いそうな痒みともどかしい疼きをわずかでも吐き出してきたのだ。

 

 考えてみれば、そうやって女の身体としての悦感を、自ら深く植え込ませることこそ、殷天の狙いだったのかもしれない。

 見られているとは気づかなかったが、今日の調教で、あの女調教師の殷天は、王進のひそやかな夜の行為を知っていたと仄めかした。

 

 だが、いまは違う。

 殷天は、そんな自慰すら封じるように、王進に革の貞操帯を装着させたのだ。

 しかも、前後の穴には、掻痒効果のある粘り気を帯びた液剤を、たっぷりと塗り込んでからだ。

 

 檻に戻された王進は、股間と肛門の奥から刃を突き立てられたように込みあがる痒みを知覚しながら、どうすることもできぬ絶望感と戦うしかなかった。

 だが、それは勝ち目のない、虚しい戦いだった。

 いつもなら、自ら腰を揺すり、幾ばくか発散できていた手段さえも、いまは奪われている。

 それが、王進の絶望をさらに深くする。

 

 まるで水を被ったかのように、脂汗が全身を濡らしていく。

 内腿を擦り合わせ、左右に双臀を揺らし続けても、疼きは治まらない。

 とてもではないが、朝まで一睡もできるはずもなかった。

 こんな状態で、どうして眠れるものか──。

 

「んんんぐうう、うううう……」

 

 王進は、すっかりと耐えきれなくなって、もう何十回目になるのかもわからぬ許しの言葉を、喉の奥で叫んだ。

 だが、それもまた、殷天が今夜は悲鳴が煩いだろうと選んだ、穴付きの球体口枷が阻む。

 口枷の穴から漏れるのは、言葉にならぬ呻きと、溢れ続ける涎だけだ。

 

 あまりにも激しい痒みと疼きに、涙は止まらない。

 すすり泣きともつかぬえずきを、延々と繰り返すしかなかった。

 

 これだけの苛酷を与えられるのも、王進に刻まれた淫紋の「護り」があるからだろう。

 眠りも与えず、限界を越えた性の調教を続けることができる。

 狂うことも、壊れることも許されない。

 このまま延々と、王進はただ変わりゆく己の心と肉体を、ひたすらに知覚するしかないのだろうか。

 そうやって、果てのわからぬ苦悶の時間が過ぎていっていた。

 

 とにかく、男たちに毎朝、小便を飲まされる以外、ほとんど水分すら満足に与えられぬというのに、苛酷な調教でこれほどの汗と涎を垂れ流し続けてなお、王進の身体が保たれているのは、間違いなく道術使い──いや、妖術使いとも呼ぶべき高廉(こうれん)が刻んだ淫紋の力にほかならなかった。

 

 殷天の話では、この下腹の淫紋さえあれば、ほとんど飲食せずとも、男たちの精を一定量口にするだけで、健康ばかりか、女体としての美しささえ保てるというのだ。

 

 だが、その淫紋の力で磨かれた敏感な女体と、飢餓にも似た性の疼きは、日に日に王進を追い詰めていった。

 とりわけ、今日のように寸止めを幾度も繰り返され、結局は、なにも与えられぬまま疼きを封じられるのは、いまの王進にとって、かなり苛酷な苦悶だ。

 これをあと数日続けられれば、間違いなく──殷天や高俅(こうきゅう)が望む色情狂の女へと堕ち果てるだろう。

 絶望とともに、それだけは王進にもわかっていた。

 

 そのときだった。

 いつもなら夜中には決して開かぬ監禁部屋の扉が、外から軋む音を立てて開いた。

 男たちが三人、足音を忍ばせるでもなく入ってくる。

 ひとりが燭台を掲げ、闇に沈んでいた部屋が、ほのかな灯に照らされた。

 

 先頭に立つのは、この屋敷に詰めている高俅の兵──丁元(ていげん)だった。

 栓のない酒瓶をぶら下げ、顔には酔いの色が濃い。

 後ろのふたりも同じく、赤い顔をしていた。

 三人とも、腰を巻く下帯と、上には下着代わりの薄い単衣だけをまとい、武器など持ってはいない。

 

 ただ、丁元の腰には、酒瓶の横に鍵束が吊されているのが目に入った。

 王進はひそかに目を見開き、その鍵束を凝視する。

 

 おそらく、部屋で酒盛りでもしていて、その勢いのまま、王進のところへ転がり込んだのだろう。

 そんな気配があった。

 

 この屋敷の本来の主である高俅は、いつも不在だ。

 屋敷全体を仕切っているのは、あの女調教師の殷天だと、調教のときに殷天自身が声を荒げていた。

 だが、殷天は将校でも何でもない。

 そんな女に、兵どもが素直に従うわけがない。

 うわべでは頭を下げても、腹の底では好き勝手をする。

 もともと、高俅の軍など、禁軍の中でも最底辺の寄せ集めだ。

 いずれ気が緩み、王進の前に隙を晒すと踏んでいた。

 だから、連日の調教が乱交のような騒ぎになるのを待っていた。

 あの連中のことだ、そんな場になれば、必ず規律は乱れる。

 その乱れの中にこそ、逃げ道があると踏んでいた。

 

 だが、待ち望んだ隙は訪れなかった。

 いや、あったとしても、どうすることもできなかったのだ。

 それがいま、ようやく目の前に転がり込んできたのか……。

 だが、いまのこの王進の有様では……。

 

 目の前の丁元が、酔いに任せて、なにをしに来たのかは、王進にはわかっていた。

 なにより、丁元はこの中でも、女にされた王進の肉体にもっとも執着していた。

 ずっとまとわりつき、調教役の交代も、この丁元だけは異様に回数が多かった。

 今日の調教でも、殷天の指示を無視して「当て馬責め」を破り、最後まで王進を犯そうとしていた。

 殷天に痛点棒を打たれ、失神したまま放り出されていった姿を、王進も見ている。

 その後は部屋に籠り、酒で憂さを晴らしていたに違いない。

 手下の若い兵を引き連れて、こうしてやって来たのだ──。

 いや、丁元の思惑など、どうでもいい。

 肝心なのは、いまも丁元が鍵束を腰にぶら下げたまま入ってきたということだ。

 

 この一か月、枷で繋がれ、思いつく限りの破廉恥な体勢を強いられてきた王進にとって、どの鍵が枷のものか、檻の扉のものかくらいは覚えている。

 丁元の腰には、それらの多くの鍵が束ねて吊られている。

 

 殷天なら、決してそんな真似はしなかった。

 檻を開くときは檻の鍵しか持たぬし、枷を外すときも余計な鍵は近づけない。

 王進の枷を外すときは、必ず別の枷を嵌めてからだ。

 そういう用心深さが、あの女にはあった。

 だが、丁元はいま、鍵をまとめた束を腰にぶら下げたまま、平然と酒に酔ってここに立っている。

 こんなことは、この監禁が始まってから初めてのことだった。

 

「どうだい、辛いかい、王進先生よ。痒くて死にそうなんじゃねえのかい? あの殷天の気狂い女がよ。股とけつの穴に吠え油を塗った張形を突っ込んだまま、貞操帯で封じたんだろう?」

 

 檻の外で、丁元がせせら笑った。

 

「んんんんっ」

 

 王進は身を起こした。

 両手両脚をそれぞれに束ねられたままの不自由な姿で、檻越しに丁元へ這い寄る。

 すると、丁元が腰の鍵束を外して、その中のひとつを抜き取って檻の扉を開く。

 この檻の出入り口は、王進が這って進むしかないほどの低さだ。

 王進は身体を引きずりながら、外へと滲み出るように這い出た。

 

「伏せだ」

 

 首だけが檻の外に出たところで、丁元の足が思い切り頭を踏みつける。

 

「んぐうっ」

 

 顎が床に叩きつけられ、王進は呻き声を漏らした。

 頭を踏まれている王進の後頭部に丁元の手が伸び、口枷の留め具が外される。

 

「くはっ……はあ、はあっ……はあ……。お、お願い……です。この貞操帯を……お外し……く、ください。か、痒くて……」

 

 大量の涎を垂らしながら、舌で口枷を押し出す。

 息も絶え絶えに絞り出した言葉には、もはや演技など混じらない。

 身体の芯まで爪を立てられるような痒みと疼きが、王進を追い詰めていた。

 

「痒いんだろうなあ、先生。だったら、これから特別調教だ。俺たち三人に娼婦のように強請って奉仕してみろ。そうすりゃ少しのあいだだけ、その痒いところを犯してやる」

 

 丁元が王進の顔を足で踏みつけながら笑った。

 ろれつは怪しく、かなりの酒が入っているのがわかる。

 王進は踏まれた顔を小さく、必死に頷かせた。

 

「わ、わかりました……。丁元様や……お、おふたりにも……尽くします。ど、どうか……、禁軍武術師範でもあった……この王進……王進のなれの果てに……い、生き恥をかかせて……ください……」

 

 禁軍武術師範の言葉を出せば、丁元たちが興に乗ることは、この一か月で嫌というほど知った。

 王進には覚えがなくとも、丁元だけでなく、ここにいる高俅の兵の多くが、かつて武術師範だった王進に調練でしごかれたことがあるらしく、積もり積もった恨みもあるようだ。

 王進の言葉に、丁元たちが声を上げて笑った。

 そして、丁元は王進の後頭部を踏みつけていた足をどけた。

 

「生き恥かい? だが、いまのお前にはご褒美じゃねえのか? お前の股ぐらとけつの穴に珍棒を突っ込んでもらいたくて仕方がないんじゃねえのか? それを生き恥と呼ぶのかよ」

 

「そ、そうでした……。恥では……ございません……。お、王進は哀れな……雌犬でございます……。心の底から……犯して欲しくて……狂っております……。だ、抱いて……ください──。お願い……です。抱いて……ください。み、皆様の……逞しい男根を……、こ、この王進の前と後ろの穴に……。絶対に……お満足……させて……みせます……」

 

 王進は顔を上げ、必死に喉を震わせて訴えた。

 荒く息を吐き、涙に濡れた目は、三人の嗜虐心に火をつけるに足る。

 案の定、情欲に染まった顔が、酷薄な笑みを浮かべるのがわかった。

 王進は、両手両脚で這いながら、全身を檻の外へとにじり出す。

 

「な、なんでもします……。ほ、本当になんでも……致します。だ、だから……、お、お願いですからお慈悲を……」

 

 とにかく、哀れに──。

 

 少しでも気を緩ませるように──。

 

 どうしようもない雌犬になり果てた色情狂の女だと思わせるように──。

 

 痒みと疼きの苦悶を解いてもらうためには、丁元たちに一片の慈悲を哀訴するしかない無力な女だと錯覚させるしかなかった。

 

 王進は丁元の足もとに顔を寄せ、草履に包まれた足の指を舐めはじめた。

 一心不乱に舌を這わせる。

 これまでは強要されて犯されてきた。自ら進んで奉仕したこともあったが、それとて痛点棒で脅されてのことだった。

 だが、いまは違う。

 最後の矜恃も誇りも捨てて、媚びを売り、足を舐める。

 

 いずれにせよ、痒みは限界だ。

 昼間の調教で燃え広がった情欲と焦燥の炎が、理性を崩していく。

 打算がなくとも、この状況なら王進は心の底から哀願しただろう。

 いや、いまも半分は本気だ。

 

 犯されたい──。

 狂いたい──。

 

 この痒みと疼きの地獄から解放されるなら、恥などいくらでもかく。

 王進は丁元の足の指のあいだに舌を這わせながら、気がつくと、すすり泣きを漏らしていた。

 

「よし、いいだろう。おい、貞操帯を外す準備だ。三人で輪(まわ)すぞ」

 

 丁元は腰の鍵束をひとりに放り投げた。

 

「で、でも、本当にいいんですか……。殷天先生に殺されるんじゃ……」

 

 ほかのふたりのうち、もっとも若そうなひとりが心細そうに言った。鍵束を受け取ったのは、そいつだった。

 だが、その男の手から、もうひとりが無造作に鍵束をもぎ取る。

 

「だったら、お前はそこで見張ってな。俺はやるぜ……。丁元さん、俺は後ろからでいいですか? 一緒にいきましょうよ」

 

「おお、いいぜ……。だが、貞操帯を外すのは、口で奉仕させてからだ」

 

 丁元は王進の髪を鷲掴みにすると、無理やり身体を引き起こした。

 王進は丁元の腰の前に、跪く形になる。

 

「先生よ。奉仕が上手かったら、貞操帯を外してやる。だが、下手なら朝までそのままだ。あの狂い女は、明日も明後日も、寸止め調教を続けるつもりだとさ。そうやって男狂いの心を作って、娼婦に仕立てるらしいぜ。ここで発散しとかねえと、お前も大変なことになるだろうな」

 

「わ、わかりました……。ご、ご奉仕します……。心を……込めて……」

 

 王進は唇を開き、丁元の下腹の膨らみに布越しに口づけを落とした。

 むっとする悪臭が鼻を刺す。

 こんな男の股間を、自らの口で奉仕する──。

 恥辱が全身を覆った。

 だが、その恥辱が王進の奥底の情欲に火をつける。

 疼きがさらに広がっていく。

 なんという浅ましい身体にされてしまったのだろう……。

 王進は、震えるほどの屈辱を覚えた。

 

「おう、じゃあ、やりな」

 

 丁元が帯を外し、男根を露わにした。

 さらに鼻を刺すような悪臭が押し寄せる。

 すでに男根は固く勃ちあがっていて、王進は顔を突き出し、その先端を口の奥へ迎え入れた。

 

「んふうっ、んふっ」

 

 たっぷりの唾液を絡ませ、一心不乱に丁元の男根を舌で舐め、唇で締めつける。

 元は男だ。

 どう責めれば相手が心地よいかなど、嫌でもわかっている。

 わかっている場所を、執拗に責め立てた。

 

「おっ、おおっ、う、うまいじゃないかい、先生」

 

 この丁元も、ずいぶんと溜め込んでいたのだろう。

 考えれば、この丁元だけではない。

 後ろに控えるふたりも同じだ。

 昼間の調教で、彼らも満足などしていない。

 

 十回ずつ律動を刻んでは寸止めに終わる「当て馬責め」──。

 王進が苦しめられたのと同じく、相手をした彼らも達することなく性の疼きを置き去りにされたままだった。

 そういえば、あの責めで王進の中に吐き出した男は、ひとりもいなかった。

 それなのに、十擦りずつの抽送は、十周りは軽く繰り返された。

 途中で殷天に追い出された丁元も、背後のふたりも、同じように燻っているのだろう。

 

「おっ、おっ、おおっ。い、いいぜ、先生──。おおおっ」

 

 丁元が王進の後頭部を押さえ込むようにして、腰を震わせたのがわかった。

 王進は奉仕する舌の動きをいきなり強め、怒張を舌先で巻き込む。

 

「うわっ、ほおおっ」

 

 丁元が馬鹿みたいな声を上げ、掴んだ後頭部をぐいと引き寄せて顔を激しく前後させた。

 口の中で丁元の怒張が熱を増し、脈打つように膨らむ。

 射精が近い。

 だが、王進は舌の刺激をわざと弱めた。

 寸前で逃がす──。焦燥と疼きが、丁元の腰を揺らす。

 

「ほあっ、ほおおっ」

 

 丁元が快感に溺れた吐息を大きく漏らした。

 王進はその声を、檻の外で立ちすくむもうふたりの男の目の奥に焼きつける。

 淫らに犯され、辱められ、なおも逃れられぬ痒みの檻──。

 

 暗い部屋に揺れる燭火のように、王進の心は小さく、だが確実に軋み続けていた。

燭の明かりが壁に揺れる。

 口元を歪めた男たちの顔の奥に、獣と化した欲と、剥き出しの憐れみが、ひっそりと潜んでいた。

 

 王進はそれを見た。

 舌を這わせながらも、確かに見た。

 

 ──まだ堕ちきってはいない。

 そう思いたかったが、それとも、すでにそう思うことすら傲慢なのか。

 

 どちらにせよ、なにもなければ、明日の朝にはまた、あの女が来る。

 寸止めの地獄が繰り返される。

 狂気と快楽の境界が、いま、ひとつずつ削れていく。

 

 王進は、唇を離さぬまま、一心不乱に眼前の丁元の性器を口で奉仕を続けた。

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