※この作品はR-18です。

水滸伝艶義   作:ドン・ドナシアン

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52  王進、監禁の最後に女の意地を示す

 王進(おうしん)は、丁元(ていげん)の爆発の予兆を感じ取った。

 舌を裏筋から逸らし、亀頭部の表面をわざと焦らすように舐める。

 

「ほわっ、ほおおっ」

 

 丁元が馬鹿みたいな声を漏らし、もっと快感を得ようと後頭部を掴んで顔を激しく前後させた。

 喉奥を抉られる苦しさにえずきそうになりながらも、王進は耐える。

 だが、最後の放出だけは与えない。

 ぎりぎりの淵だけをなぶる。

 

「おっ、う、うまいじゃ……ないかい、先生……。おう、おう──」

 

 丁元の後頭部を掴んだ手が、わずかに力を失った。

 王進はすかさず主導権を奪い返すように、睾丸をそっと口に含む。

 唇で包み、舌で揺らし、付け根を唇全体でゆっくりしごく。

 

「くうっ、おっ」

 

 丁元の腰がわずかに震えた。

 酔っているせいもあるのだろう、丁元はすぐに余裕を失っていくのがわかった。

 しばらくすると、怒張が再び熱を帯び、太さを増していく。

 王進は、一転して舌の動きを弱め、焦らすように舐める。

 だが、丁元の呼吸が整ったと思えば、すぐさま裏筋を強く責め立てた。

 これを何度も繰り返す。

 相手の呼吸を読むのは、武術と同じだ。

 王進は徹底して、舌で焦らし抜いてやるつもりだった。

 丁元の怒張を唇で転がし、舌先を突き立てる。

 

「くあっ、も、もう我慢できねえ。貞操帯を外せ──。俺が入れてから、お前も来い」

 

 丁元が叫び、王進の口から怒張を引き抜く。

 

「確かに、もう我慢できねえです……。なんてえ、妖艶で色っぽい女なんだ──」

 

 鍵束を持っていた男が、王進の後ろに回り込んだ。

 貞操帯の腰の後ろにあった錠前が外されたのがわかる。

 喰い込んでいた革帯が、じわりと緩んだ。

 

 外れた──。

 王進はほくそ笑んだ。

 

 この貞操帯だけは、不安だったのだ。

 ほかの枷を外す鍵は、幾度も目にして覚えている。

 いま装着されている枷の鍵が鍵束に混じっていることも確認した。

 だが、今夜初めて嵌められた貞操帯だけは違う。

 腰の後ろに錠があるうえ、左右の手首と足首を束ねられたままでは、自分で外すのはほとんど不可能だ。

 犯すつもりで来ている以上、貞操帯の鍵を持っていないはずはないと踏んではいたが……。

 こいつらが外すまでは、どうしても耐えるしかなかった。

 

 そして、ついに外れた。

 ならば、もう我慢する理由はどこにもない。

 

「くあっ、あんっ」

 

 革帯は外れても、二本の張形は前後の穴に突き刺さったまま。

 その疼きに耐えながら、王進は拘束された脚を強引に動かす。

 丁元の両脚を絡め取ると、その巨体を無理やり引き倒した。

 

「うわっ、な、なんだあ──?」

 

 丁元が馬鹿みたいな声を上げたのは、一瞬のことだった。

 巨体が床に沈むときには、手枷で束ねられた王進の手脚が、すでに丁元の首を絡め取っていた。

 太腿で首を挟み込み、渾身の力でひねる。

 

 ごん──という鈍い音が響いた。

 首の骨が完全に折れたのがわかった。

 丁元は呻き声すら漏らせぬまま、動かなくなった。

 ほんの一瞬のことだった。

 

「わっ、な、なんだ、こいつ──」

 

 鍵束を持っていた男が、目を剥いて飛びかかってくる。

 いまだに王進の手脚は、死んだ丁元の首に絡まったままだった。

 

「ふっ」

 

 王進は巧みに身体を捻り、体当たりするようにしてそいつを床に叩き伏せる。

 すぐさま首に足を掛け、太腿で締める。

 

「うわあっ、やめろお」

 

 傍観していたもうひとりが、王進を引き離そうと飛びかかってきた。

 王進は心の奥で安堵した。

 もし、そいつが部屋から逃げて助けを呼ばれたら──いまの王進にはどうにもできなかった。

 だが、近づいてくれたのなら話は別だ。

 

 脚で挟んでいた男の首を、丁元と同じように一瞬で折る。

 飛びかかってきた男の顔の真ん中へ、頭突きを渾身で叩き込んだ。

 

「あぐうっ」

 

 鼻血を撒き散らし、そいつの身体が吹き飛ぶ。

 王進はすぐに二人目の首から脚を外すと、三人目に飛びついた。

 足の踵を喉元に叩き込む。

 

「ひぶうっ」

 

 三人目が悶絶した。

 体勢を整え直し、もう一度踵を首に落とす。

 首の骨が確かに潰れた手応えがあった。

 三人目も完全に動かなくなる。

 

 部屋を静寂が包んだ。

 三人は、もはやただの死骸だ。

 その中で、王進の荒い息だけが、暗い部屋に滲んでいた。

 

「ふう……。く、くそう……。か、痒い……」

 

 手のひらを握ったり開いたりする。

 必死で奥に残る疼きを押し殺す。

 床に転がった鍵束を拾い上げ、ひとつずつ枷を外していった。

 三人を殺すときに、わずかとはいえ物音は立った。

 警備の兵が殺到してくるかとも思ったが、いまのところ気配はない。

 本当にたるんだ軍だと、改めて思う。

 

 とにかく、なんとか張形を抜き取る。

 丁元が持ってきていた酒で、膣と肛門を流して痒みを誤魔化す。

 張形を抜くとき、自分でも呆れるほどの愛液が股間を濡らした。

 後ろを抜いたときには、思わず甘い声すら漏れた。

 情けなくて、思わず自嘲の笑みが洩れた。

 

 狂ったように自慰をしたくなる衝動を押し殺し、二本の淫具を部屋の隅に投げ捨てる。

 とにかく、いまは逃げるしかない。

 

 三人の死体から、上半身を包んでいた薄物の単衣を二枚剥ぐ。

 一枚を胸に巻きつけ、乳房を縛り、もう一枚を腰に巻く。

 なにも纏わない全裸よりはましだ。

 

 廊下へ繋がる扉をそっと開く。

 人気はない。

 外は暗い廊下が伸びている。

 見張りの兵の姿もない。

 やはり、緩い軍だと思った。

 

 四つん這いの「練り歩き」で覚えた経路を思い描きながら、目当ての部屋を目指す。

 廊下を進む。

 屋敷は迷路のように入り組んでいるが、頭の中にはすべて刻まれていた。

 見世物のように廊下を四つん這いで歩かされながら、必死で覚えた道筋だ。

 

 やっと、目的の部屋の前に辿り着く。

 ここまで誰にも見咎められなかったことには、さすがに驚いた。

 昨日の「当て馬責め」には三十人以上が加わっていた。

 それだけの兵が屋敷のどこかに潜んでいるはずだった。

 

 ──まあいい。

 目の前にあるのは、屋敷の中にいくつも並ぶ客室のひとつだ。

 高俅(こうきゅう)の部下どもは、それぞれこうした部屋に分かれて寝泊まりしている。

 その一室だ。

 

 王進は扉の取っ手に手をかける。

 唖然とすることに、鍵がかかっていない。

 なんという不用心か──。

 思わず苦笑が漏れた。

 

 部屋の中へ、音を立てぬように侵入する。

 内部はさらにいくつかの小部屋に分かれており、人の気配があるのは奥だ。

 そこを目指す。

 

 最奥の部屋にたどり着く前の廊下には、脱ぎ散らかした軍装が散らばっていた。

 男の下帯も転がっている。

 兵に支給される短剣までもが放り出されていた。

 

 王進は身につけていた単衣を脱ぎ捨て、散乱している軍装を身体に纏った。

 女体となった身体には全体的に大きかったが、腰と胸だけはきつい。

 さすがに男の下帯を巻く気にはなれず、裸の肌に直接軍装を羽織る。

 紐を工夫して、どうにか身体を隠すことができた。

 衣服をまとったのは、一か月ぶりだった。

 

 短剣を手に握り、人のいる突き当たりの部屋の前に立つ。

 ここが寝室であることは疑いようもなかった。

 

 扉の向こうから、男女がまぐわう低い声が漏れてくる。

 王進は息を潜め、そっと戸を押し開けた。

 

「……ほらほら、あたしを満足させないと、その男根の栓を外してやらないからね。それとも、ずっと明日まで、そのままにしておこうか。あたしに責められまくって、ずうっとずっと射精できないなんて、あたしの性奴隷になったお前としては理想だろう?」

 

 寝台の上で脚を開き、若い男に股間を舐めさせているのは、殷天(いんてん)だった。

 興奮で、身体は赤く火照っている。

 股間に顔を埋めているのは、この屋敷に詰めている高俅の若い兵のひとりだ。

 男は後手に手錠をかけられ、全裸のまま這いつくばっている。

 廊下に散らばっていたのは、この若い兵の服だったのだろう。

 

 殷天は、この若い兵を裸に剥き、拘束したうえで寝室に引きずり込み、自分の欲を発散させている──

 まあ、そういうことだ。

 

 王進は音もなく、ふたりに近づいた。

 短剣はすでに抜いている。

 

「うわっ、なんだ、お前──?」

 

 気づいたのは殷天が先だった。

 だが、そのときには、王進の刃はすぐそばまで迫っていた。

 言葉はない。

 短剣を殷天の口の中へ突き立てる。

 

「はがあああっ──」

 

 殷天が口から血を噴き出しながら叫んだ。

 だが、こんなもので溜飲が下がるはずがない。

 王進は短剣を殷天の口から引き抜く。

 刃先には、切り取った舌がまとわりついていた。

 

「ひゃげ、ひぇげ、ひゃげえええ──」

 

 殷天が血を吐きながら、喉を震わせる。

 舌を失ったくらいでは、死にはしない。

 王進は続けざまに、殷天の喉元に刃を滑らせた。

 致命傷は避ける。

 簡単に殺してやるものか──。

 この一か月の恨みを、どうして一息で終わらせるものか。

 

「は、はっ、は、ひゃ、はひゃ……」

 

 殷天は声を失い、怯えた目で王進を見た。

 血で赤黒く染まった顔が、滑稽なほどに歪む。

 

「うわああああ──」

 

 そのとき、殷天に奉仕していた若い兵が我に返ったように絶叫した。

 王進は振り返りざまに短剣を振り抜いた。

 刃が首を裂き、血が噴水のように迸った。

 寝台が一瞬で真っ赤に染まる。

 

 そのとき気づいた。

 若い兵の男根には、金属の蓋のようなものが亀頭を覆い、深く喰い込んでいた。

 それでも男根は勃起したまま、無様に跳ねていた。

 王進は蹴り飛ばすようにして、兵の身体を寝台の向こうへ転がす。

 切り離した首も放り捨てた。

 

「あっ、ああっ。あげえ、ああっ……」

 

 切り裂かれた口と喉を押さえ、泣きながら哀願の視線を送る殷天に、王進の目が氷のように冷たく戻る。

 

「せいぜい、苦しんで死んでよ。逃げる前に、絶対に殺してやろうと決めていたからね。これは女の意地よ」

 

 王進はうそぶくように言うと、殷天の腹に短剣を突き立てた。

 刃を横に引く。

 さらに一閃──。

 裂かれた腹から、内臓がどろりと飛び出した。

 これで、しばらくは苦しみ続けるだろう。

 王進はそばにあった布や寝台の敷布で、短剣についた血を拭った。

 

 ふと、寝台の横に置かれた食べ物に気づく。

 水瓶もあった。

 喉が渇いている。

 瓶を取ると、一息に呷った。

 一本を空にしても、まだ渇きは引かない。

 固まった飯を掴み、無理やり口に押し込む。

 喉が詰まっても、水を流し込んで嚥下する。

 何度か繰り返すうちに、空腹が少しずつ薄れていった。

 

 殷天は腹を裂かれ、はらわたを撒き散らして、苦悶のまま絶命していた。

 

 ──ざまあみろ。

 

 王進は部屋を漁り、幾らかの金子を見つけると、躊躇なく懐にねじ込んだ。

 短剣を袖に隠し、部屋に転がっていた紐で髪を束ねる。

 

 胸の後ろまで伸びた髪を、短剣で切ろうかと迷ったが──なぜか切りたくなかった。

 生き延びるには邪魔かもしれない。

 それでも結び目をきつく縛り、背筋を伸ばした。

 

 部屋を出る。

 廊下はやはり迷路のように入り組んでいた。

 一度も出口までは来たことはなかったが、構造からおおよその見当はついている。

 少なくとも近くまでは辿り着けるはずだ。

 

 覚えた記憶を頼りに、右、左、左、右──長い廊下を曲がり続ける。

 突き当たりに鉄格子が現れた。

 格子の向こうに焚き火の赤い光が揺れている。

 外には兵がいた。

 眠ってはいないが、しゃがみ込んでいる。

 

「おう、外出か? 待ってな」

 

 軍装姿のまま近づくと、ひとりが立ち上がり、錠を解いた。

 鉄格子が開く。

 王進が外へ一歩進み出ると、すぐ脇に並んだふたりが見えた。

 どちらも顔に見覚えがある。

 何度も、王進の身体を貪った男たちだ。

 

「えっ?」

 

 ひとりが違和感を覚えたのか、声をあげた。

 王進は袖に隠していた短剣を抜き放つ。

 声をあげた男の首を一閃で切り裂き、もうひとりの胸を突き貫く。

 

「んぐっ」

 

 声をあげさせる隙など与えなかった。

 血が地面に跳ね、男たちの身体が崩れ落ちる。

 

 外に出た。

 林の中に埋もれるようにあった平屋の屋敷だった。

 やはり、帝都・開封府の城郭の外だろう。

 高俅の隠し屋敷というところか。

 

 小径を辿り歩き出す。

 完全な夜だが、雲間から月が射した。

 しばらく進むと、水の匂いが鼻をかすめる。

 導かれるように匂いのほうへ足が向いた。

 

 ほどなく、流れの速い川が見えた。

 このまま逃げるなら、道を進むよりも川だ。

 泳ぎは武術のひとつだ。

 溺れずに渡る自信はある。

 王進は迷わずに水に身を入れた。

 

 冷たい水が全身を包む。

 流れに逆らわず、王進の身体は夜の川に溶けていく。

 

 水に流されながら、ふと殷天を刺したときの言葉を思い出す。

 口から出たのは「女の意地」だった。

 ──そういえば、あのとき「男の意地」だとは言わなかったな……。

 そんなことを思った。

 

 また、裸身の上に胸巻きもせずに軍服を纏ったせいで、胸が擦れて痛むことに気づいた。

 水に流されているあいだも、布が乳首に当たるたびに、強い疼きが走る。

 痛いというよりも、くすぐったい。

 いや、くすぐったいを通り越して、思わず甘い吐息が漏れるほどだった。

 

 気を張っていたときには、こんなもの気にも留めなかったのに──。

 これは失敗だったかもしれない。

 胸を縛る布を、せめて一枚持ってくればよかった……。

 

 どこかで手に入れねばならない。

 いや、それよりも先に舟を探さねば。

 高廉も高俅も、必ず追っ手をかけてくるだろう。

 その追跡が追いつくよりも早く、どこまで遠くへ行けるかだ。

 そして、名前を変えて、人の海の中に紛れ込む。

 

 川の流れに身を預けながら、王進はぼんやりと、そんなことを考えた。

 夜風と水の冷たさが頬を打つ。

 擦れる胸の疼きが、まだ女であることを思い知らせる。

 水面は暗いが、その先に微かな月明かりが揺れていた。

 

 遠い先に何があるのかなど、まだわからない。

 だが──。

 

 その先には、まだ自分の命が繋がっていると信じたかった。

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