舌を裏筋から逸らし、亀頭部の表面をわざと焦らすように舐める。
「ほわっ、ほおおっ」
丁元が馬鹿みたいな声を漏らし、もっと快感を得ようと後頭部を掴んで顔を激しく前後させた。
喉奥を抉られる苦しさにえずきそうになりながらも、王進は耐える。
だが、最後の放出だけは与えない。
ぎりぎりの淵だけをなぶる。
「おっ、う、うまいじゃ……ないかい、先生……。おう、おう──」
丁元の後頭部を掴んだ手が、わずかに力を失った。
王進はすかさず主導権を奪い返すように、睾丸をそっと口に含む。
唇で包み、舌で揺らし、付け根を唇全体でゆっくりしごく。
「くうっ、おっ」
丁元の腰がわずかに震えた。
酔っているせいもあるのだろう、丁元はすぐに余裕を失っていくのがわかった。
しばらくすると、怒張が再び熱を帯び、太さを増していく。
王進は、一転して舌の動きを弱め、焦らすように舐める。
だが、丁元の呼吸が整ったと思えば、すぐさま裏筋を強く責め立てた。
これを何度も繰り返す。
相手の呼吸を読むのは、武術と同じだ。
王進は徹底して、舌で焦らし抜いてやるつもりだった。
丁元の怒張を唇で転がし、舌先を突き立てる。
「くあっ、も、もう我慢できねえ。貞操帯を外せ──。俺が入れてから、お前も来い」
丁元が叫び、王進の口から怒張を引き抜く。
「確かに、もう我慢できねえです……。なんてえ、妖艶で色っぽい女なんだ──」
鍵束を持っていた男が、王進の後ろに回り込んだ。
貞操帯の腰の後ろにあった錠前が外されたのがわかる。
喰い込んでいた革帯が、じわりと緩んだ。
外れた──。
王進はほくそ笑んだ。
この貞操帯だけは、不安だったのだ。
ほかの枷を外す鍵は、幾度も目にして覚えている。
いま装着されている枷の鍵が鍵束に混じっていることも確認した。
だが、今夜初めて嵌められた貞操帯だけは違う。
腰の後ろに錠があるうえ、左右の手首と足首を束ねられたままでは、自分で外すのはほとんど不可能だ。
犯すつもりで来ている以上、貞操帯の鍵を持っていないはずはないと踏んではいたが……。
こいつらが外すまでは、どうしても耐えるしかなかった。
そして、ついに外れた。
ならば、もう我慢する理由はどこにもない。
「くあっ、あんっ」
革帯は外れても、二本の張形は前後の穴に突き刺さったまま。
その疼きに耐えながら、王進は拘束された脚を強引に動かす。
丁元の両脚を絡め取ると、その巨体を無理やり引き倒した。
「うわっ、な、なんだあ──?」
丁元が馬鹿みたいな声を上げたのは、一瞬のことだった。
巨体が床に沈むときには、手枷で束ねられた王進の手脚が、すでに丁元の首を絡め取っていた。
太腿で首を挟み込み、渾身の力でひねる。
ごん──という鈍い音が響いた。
首の骨が完全に折れたのがわかった。
丁元は呻き声すら漏らせぬまま、動かなくなった。
ほんの一瞬のことだった。
「わっ、な、なんだ、こいつ──」
鍵束を持っていた男が、目を剥いて飛びかかってくる。
いまだに王進の手脚は、死んだ丁元の首に絡まったままだった。
「ふっ」
王進は巧みに身体を捻り、体当たりするようにしてそいつを床に叩き伏せる。
すぐさま首に足を掛け、太腿で締める。
「うわあっ、やめろお」
傍観していたもうひとりが、王進を引き離そうと飛びかかってきた。
王進は心の奥で安堵した。
もし、そいつが部屋から逃げて助けを呼ばれたら──いまの王進にはどうにもできなかった。
だが、近づいてくれたのなら話は別だ。
脚で挟んでいた男の首を、丁元と同じように一瞬で折る。
飛びかかってきた男の顔の真ん中へ、頭突きを渾身で叩き込んだ。
「あぐうっ」
鼻血を撒き散らし、そいつの身体が吹き飛ぶ。
王進はすぐに二人目の首から脚を外すと、三人目に飛びついた。
足の踵を喉元に叩き込む。
「ひぶうっ」
三人目が悶絶した。
体勢を整え直し、もう一度踵を首に落とす。
首の骨が確かに潰れた手応えがあった。
三人目も完全に動かなくなる。
部屋を静寂が包んだ。
三人は、もはやただの死骸だ。
その中で、王進の荒い息だけが、暗い部屋に滲んでいた。
「ふう……。く、くそう……。か、痒い……」
手のひらを握ったり開いたりする。
必死で奥に残る疼きを押し殺す。
床に転がった鍵束を拾い上げ、ひとつずつ枷を外していった。
三人を殺すときに、わずかとはいえ物音は立った。
警備の兵が殺到してくるかとも思ったが、いまのところ気配はない。
本当にたるんだ軍だと、改めて思う。
とにかく、なんとか張形を抜き取る。
丁元が持ってきていた酒で、膣と肛門を流して痒みを誤魔化す。
張形を抜くとき、自分でも呆れるほどの愛液が股間を濡らした。
後ろを抜いたときには、思わず甘い声すら漏れた。
情けなくて、思わず自嘲の笑みが洩れた。
狂ったように自慰をしたくなる衝動を押し殺し、二本の淫具を部屋の隅に投げ捨てる。
とにかく、いまは逃げるしかない。
三人の死体から、上半身を包んでいた薄物の単衣を二枚剥ぐ。
一枚を胸に巻きつけ、乳房を縛り、もう一枚を腰に巻く。
なにも纏わない全裸よりはましだ。
廊下へ繋がる扉をそっと開く。
人気はない。
外は暗い廊下が伸びている。
見張りの兵の姿もない。
やはり、緩い軍だと思った。
四つん這いの「練り歩き」で覚えた経路を思い描きながら、目当ての部屋を目指す。
廊下を進む。
屋敷は迷路のように入り組んでいるが、頭の中にはすべて刻まれていた。
見世物のように廊下を四つん這いで歩かされながら、必死で覚えた道筋だ。
やっと、目的の部屋の前に辿り着く。
ここまで誰にも見咎められなかったことには、さすがに驚いた。
昨日の「当て馬責め」には三十人以上が加わっていた。
それだけの兵が屋敷のどこかに潜んでいるはずだった。
──まあいい。
目の前にあるのは、屋敷の中にいくつも並ぶ客室のひとつだ。
その一室だ。
王進は扉の取っ手に手をかける。
唖然とすることに、鍵がかかっていない。
なんという不用心か──。
思わず苦笑が漏れた。
部屋の中へ、音を立てぬように侵入する。
内部はさらにいくつかの小部屋に分かれており、人の気配があるのは奥だ。
そこを目指す。
最奥の部屋にたどり着く前の廊下には、脱ぎ散らかした軍装が散らばっていた。
男の下帯も転がっている。
兵に支給される短剣までもが放り出されていた。
王進は身につけていた単衣を脱ぎ捨て、散乱している軍装を身体に纏った。
女体となった身体には全体的に大きかったが、腰と胸だけはきつい。
さすがに男の下帯を巻く気にはなれず、裸の肌に直接軍装を羽織る。
紐を工夫して、どうにか身体を隠すことができた。
衣服をまとったのは、一か月ぶりだった。
短剣を手に握り、人のいる突き当たりの部屋の前に立つ。
ここが寝室であることは疑いようもなかった。
扉の向こうから、男女がまぐわう低い声が漏れてくる。
王進は息を潜め、そっと戸を押し開けた。
「……ほらほら、あたしを満足させないと、その男根の栓を外してやらないからね。それとも、ずっと明日まで、そのままにしておこうか。あたしに責められまくって、ずうっとずっと射精できないなんて、あたしの性奴隷になったお前としては理想だろう?」
寝台の上で脚を開き、若い男に股間を舐めさせているのは、
興奮で、身体は赤く火照っている。
股間に顔を埋めているのは、この屋敷に詰めている高俅の若い兵のひとりだ。
男は後手に手錠をかけられ、全裸のまま這いつくばっている。
廊下に散らばっていたのは、この若い兵の服だったのだろう。
殷天は、この若い兵を裸に剥き、拘束したうえで寝室に引きずり込み、自分の欲を発散させている──
まあ、そういうことだ。
王進は音もなく、ふたりに近づいた。
短剣はすでに抜いている。
「うわっ、なんだ、お前──?」
気づいたのは殷天が先だった。
だが、そのときには、王進の刃はすぐそばまで迫っていた。
言葉はない。
短剣を殷天の口の中へ突き立てる。
「はがあああっ──」
殷天が口から血を噴き出しながら叫んだ。
だが、こんなもので溜飲が下がるはずがない。
王進は短剣を殷天の口から引き抜く。
刃先には、切り取った舌がまとわりついていた。
「ひゃげ、ひぇげ、ひゃげえええ──」
殷天が血を吐きながら、喉を震わせる。
舌を失ったくらいでは、死にはしない。
王進は続けざまに、殷天の喉元に刃を滑らせた。
致命傷は避ける。
簡単に殺してやるものか──。
この一か月の恨みを、どうして一息で終わらせるものか。
「は、はっ、は、ひゃ、はひゃ……」
殷天は声を失い、怯えた目で王進を見た。
血で赤黒く染まった顔が、滑稽なほどに歪む。
「うわああああ──」
そのとき、殷天に奉仕していた若い兵が我に返ったように絶叫した。
王進は振り返りざまに短剣を振り抜いた。
刃が首を裂き、血が噴水のように迸った。
寝台が一瞬で真っ赤に染まる。
そのとき気づいた。
若い兵の男根には、金属の蓋のようなものが亀頭を覆い、深く喰い込んでいた。
それでも男根は勃起したまま、無様に跳ねていた。
王進は蹴り飛ばすようにして、兵の身体を寝台の向こうへ転がす。
切り離した首も放り捨てた。
「あっ、ああっ。あげえ、ああっ……」
切り裂かれた口と喉を押さえ、泣きながら哀願の視線を送る殷天に、王進の目が氷のように冷たく戻る。
「せいぜい、苦しんで死んでよ。逃げる前に、絶対に殺してやろうと決めていたからね。これは女の意地よ」
王進はうそぶくように言うと、殷天の腹に短剣を突き立てた。
刃を横に引く。
さらに一閃──。
裂かれた腹から、内臓がどろりと飛び出した。
これで、しばらくは苦しみ続けるだろう。
王進はそばにあった布や寝台の敷布で、短剣についた血を拭った。
ふと、寝台の横に置かれた食べ物に気づく。
水瓶もあった。
喉が渇いている。
瓶を取ると、一息に呷った。
一本を空にしても、まだ渇きは引かない。
固まった飯を掴み、無理やり口に押し込む。
喉が詰まっても、水を流し込んで嚥下する。
何度か繰り返すうちに、空腹が少しずつ薄れていった。
殷天は腹を裂かれ、はらわたを撒き散らして、苦悶のまま絶命していた。
──ざまあみろ。
王進は部屋を漁り、幾らかの金子を見つけると、躊躇なく懐にねじ込んだ。
短剣を袖に隠し、部屋に転がっていた紐で髪を束ねる。
胸の後ろまで伸びた髪を、短剣で切ろうかと迷ったが──なぜか切りたくなかった。
生き延びるには邪魔かもしれない。
それでも結び目をきつく縛り、背筋を伸ばした。
部屋を出る。
廊下はやはり迷路のように入り組んでいた。
一度も出口までは来たことはなかったが、構造からおおよその見当はついている。
少なくとも近くまでは辿り着けるはずだ。
覚えた記憶を頼りに、右、左、左、右──長い廊下を曲がり続ける。
突き当たりに鉄格子が現れた。
格子の向こうに焚き火の赤い光が揺れている。
外には兵がいた。
眠ってはいないが、しゃがみ込んでいる。
「おう、外出か? 待ってな」
軍装姿のまま近づくと、ひとりが立ち上がり、錠を解いた。
鉄格子が開く。
王進が外へ一歩進み出ると、すぐ脇に並んだふたりが見えた。
どちらも顔に見覚えがある。
何度も、王進の身体を貪った男たちだ。
「えっ?」
ひとりが違和感を覚えたのか、声をあげた。
王進は袖に隠していた短剣を抜き放つ。
声をあげた男の首を一閃で切り裂き、もうひとりの胸を突き貫く。
「んぐっ」
声をあげさせる隙など与えなかった。
血が地面に跳ね、男たちの身体が崩れ落ちる。
外に出た。
林の中に埋もれるようにあった平屋の屋敷だった。
やはり、帝都・開封府の城郭の外だろう。
高俅の隠し屋敷というところか。
小径を辿り歩き出す。
完全な夜だが、雲間から月が射した。
しばらく進むと、水の匂いが鼻をかすめる。
導かれるように匂いのほうへ足が向いた。
ほどなく、流れの速い川が見えた。
このまま逃げるなら、道を進むよりも川だ。
泳ぎは武術のひとつだ。
溺れずに渡る自信はある。
王進は迷わずに水に身を入れた。
冷たい水が全身を包む。
流れに逆らわず、王進の身体は夜の川に溶けていく。
水に流されながら、ふと殷天を刺したときの言葉を思い出す。
口から出たのは「女の意地」だった。
──そういえば、あのとき「男の意地」だとは言わなかったな……。
そんなことを思った。
また、裸身の上に胸巻きもせずに軍服を纏ったせいで、胸が擦れて痛むことに気づいた。
水に流されているあいだも、布が乳首に当たるたびに、強い疼きが走る。
痛いというよりも、くすぐったい。
いや、くすぐったいを通り越して、思わず甘い吐息が漏れるほどだった。
気を張っていたときには、こんなもの気にも留めなかったのに──。
これは失敗だったかもしれない。
胸を縛る布を、せめて一枚持ってくればよかった……。
どこかで手に入れねばならない。
いや、それよりも先に舟を探さねば。
高廉も高俅も、必ず追っ手をかけてくるだろう。
その追跡が追いつくよりも早く、どこまで遠くへ行けるかだ。
そして、名前を変えて、人の海の中に紛れ込む。
川の流れに身を預けながら、王進はぼんやりと、そんなことを考えた。
夜風と水の冷たさが頬を打つ。
擦れる胸の疼きが、まだ女であることを思い知らせる。
水面は暗いが、その先に微かな月明かりが揺れていた。
遠い先に何があるのかなど、まだわからない。
だが──。
その先には、まだ自分の命が繋がっていると信じたかった。