「ああ……熱い……熱いのよ……。
仰向けの体勢で、下からしがみついてくる
また、襟元を深く合わせ、胸の膨らみを押さえ込むように着付けていたため、これまで気づかなかったが、乱れた衣の隙間から白い乳房をあらわにしている。
阿進は、女だったのだ──。
しかも、ただの女ではない。
よく見れば、とんでもない佳人だ。
その佳人が必死にしがみつき、熱を帯びた身体を擦りつけてくる。
女の匂いが濃く鼻を突き、李忠でなくとも理性が揺らぎかねない。
李忠は艶めかしく苦しむ阿進の姿に喉を鳴らしながらも、しがみつく腕を無理に剥がし、肩を掴んだ。
「なにが苦しい。病か? 言え──。なにが要る?」
「ああ……苦しい……。抱いて……。わたしを犯して……。なにも言わないで、精を注いで……。苦しいのよ──狂ってしまう」
「はあ?」
李忠は唖然とした。
一瞬、なにを言われたのかわからなかった。苦しみを訴える声と、その内容がまるで噛み合っていない。
肩を掴んだまま、距離を取ろうとする。
「ま、待って──。行かないで。お願い。迷惑なのはわかっている……。でも、お願い──」
だが阿進は逃がさぬように縋りつき、身体を震わせながら熱を押しつけてくる。
「待て、落ち着け。そんなことをして治る病があるか。正気に戻れ──」
「ああ……だめ……だめなの……。止まらないの……。熱が……身体が……壊れてしまう……」
息は荒く、言葉は途切れ途切れだ。苦悶は演技ではなく、全身が内側から焼かれているようだった。
李忠の背筋に、ぞくりと寒気が走る。
ただの色狂いではない。なにか異様なものが、この身体を支配している。
そして、はっとした。
この異常な発情のような発作をする女に、以前にも接したことがあったのを思い出したのだ。
ある分限者の妾だった。
身請けしたその男が法外な金を支払って道術使いに命じ、身体に淫紋の呪術を刻ませていた。
定期的に狂ったように発情し、逃れる術は男から精を受けることしかない。
女を色情狂にして縛る、馬鹿げているが実に都合のいい呪術だった。
その分限者は笑っていた。
この女はもともと立派な教育者だったのだと。
その分限者は、戯れとして、李忠にもその妾を抱かせたが、その妾が発作を起こしたときの様子が、いま目の前の阿進とあまりにも似ていた。
「もしかして、淫紋か?」
問いかけた瞬間、阿進が眼を大きく見開いた
阿進は一瞬、身体を強張らせた。
だが、その間も身体は小刻みに震え続けている。真っ赤に熟れきった顔で、涙を滲ませながら、小さく頷いた。
「……わかった。苦しいんだな。淫紋の発作なら知っている。抱いてやる。ただし、事情は話せ。それが条件だ」
淫紋を刻まれてるなら、その相手から逃げてきたに決まってる。偽名なのも、顔を隠そうとしていたのも、それで納得がいった。
だが、一体全体、どういう相手から逃げてきたのかを知らないと助けようがない。
「……だめ……。あんたに……迷惑がかかる……。だまって……犯して……。それだけで……」
李忠は短く息を吐いた。
「いいから言え。こうなってしまえば、相手が誰でも、見捨てやしねえよ」
「だ、だめだったら──」
阿進は声を張り上げた。
その拍子に、身体がびくりと跳ね、腰が勝手に浮き上がる。
「……なるほどな。わかった」
李忠はそう言うと、阿進の帯に手をかけた。
結び目を解き、下袴を脱がせ、上衣を左右に開く。胸は布で固く縛られており、下着は身につけていない。
女の匂いが一気に部屋に満ちる。
「ああ……お願い……早く……。ねえ……狂うの……お願い……」
阿進は悶えながら呻いた。
胸を縛っていた布を解くと、豊かな乳房が露わになる。
李忠は、さらに外した帯を手に取り、紐のようにまとめた。
「両手を出せ」
「え……な、なんで……?」
阿進は訝しみながらも逆らわず、両手を差し出した。
その手首を素早くまとめて縛る。さらに右足首を掴み、まとめて括ってしまう。
「あっ……な、なにするの……」
これで、阿進は、右脚を曲げて大きく両脚を開いたまま閉じられくなった。
狼狽えた声が部屋に響く。
「なにするじゃねえ。事情を口にしたくねえなら、口にしたくなるまでだ」
李忠はにやりと微笑むと、寝台の枕元に手を伸ばし、燭台に火を点けた。
闇に包まれていた部屋が、うっすらとした明るさに満たされる。
闇に包まれていた阿進の裸身が燭台の明かりに照らされて浮かびあがった。
阿進の下腹部は無毛であり、そこには花のような模様が刻まれていた。赤く色づき、肉襞がびくびくと蠢いて、そのたびに蜜が滴り落ちていた。
こんなのは初めて見た。
李忠は淫らさに息を呑む。
なによりも、明るさのなかで目の当たりにした阿進は、大変な美女だった。肌はどこまでも艶めかしく、ほっそりとした外見とは裏腹の乳房や腰の量感であり、鍛えられつつも肉欲的な身体が李忠を魅了してくる。
これほどの美女を男だと思っていたとは、自分の迂闊さに呆れてしまう。
「……だめ……。縛るのは……だめ……」
阿進の声は明らかに揺れている。
「……どうした。縛られるのが怖いのか?」
「ち、違う……。縛られると……感じすぎるの……」
感極まったような声だった。
李忠は口の端を歪める。
指先で軽く秘部を撫でた。
たっぷりとした蜜が指に絡みつく。
「ひあ……っ……」
それだけで阿進は腰を大きく跳ねさせ、淫らに身体を揺らした。
「どうだ。事情を語る気になったか? 言わねえなら、いつまでもこれだけだぞ」
「……ひ、卑怯……」
李忠は答えず、今度は両手で乳房を軽く揉みしだいた。
「あ……う……」
切なげな声が漏れ、身体がくねる。
「ほら、早く喋れ。狂っちまう前にな。淫紋の苦しさは、まったく知らねえわけじゃねえ」
「……だめだったら……。あ、あんたに……迷惑が……」
李忠は顔を近づけ、低く言った。
「辛いだろう……。だがな……我慢しすぎりゃ気が狂う。それが淫紋だ」
「だ、だから……犯して──精を……」
「精か……。じゃあ、まずは名前から訊ねようか。阿進というのは偽名だろう? 本当の名はなんだ?」
「そ、それは……あんたに……関係……ない……」
「そうか、関係ねえのか」
李忠は、二本の指を花蜜に濡れた粘膜に挿入すると、荒々しく掻き回した。
「いいっ、あふううっ」
阿進の身体が多くのけ反った。そして、全身を突っ張らせてぶるぶると身体を震わせたかと思うと、股間から陸に揚がった魚が潮でも噴くかのように数発の飛沫を飛ばす。
次いで、がくりと脱力した。
こんなわずかな刺激だけで達するとは、相当に淫紋の発情がすさまじいのだろう。
だが、達したところで、これが淫紋の発情であるなら、苦悶からは開放されない。疼きの発作は精を注がれるまで終わらず、むしろ、苦悶は増大する。
李忠は、阿進を観察した。
「ああっ、いやあっ、李忠──。お願い──李忠──狂っちゃう。お願いだから、わたしを犯して──」
阿進は、すぐに激しくよがりだした。
淫紋は本物だ。
李忠は確信した。
「なら、本当の名前だ……」
「う、うう……」
阿進は歯を喰いしばっている。
砕けそうな理性と淫紋による狂気が戦っているのだろう。
もう、ひと押しか……。
李忠は再び阿進の乳房に手をやる。
指先を小刻みに動かしながら、ねっとりと揉む。指で乳首をこりこりと動かす。
そのたびに、阿進の裸身が左右に激しく悶える。
「はあ、はあ、はあ……。ああ、李忠……お……願い……」
「だったら、名前を言え……」
片手で胸の愛撫を続けながら、片手は股間に這わせる。強く愛撫すると、すぐに達してしまうのはわかったので、じわじわといたぶるようにゆっくりと指を動かす。
亀裂が開く肉丘全体は異様にぬらめきながら、すでに真っ赤だ。
固く尖っている陰核をくすぐる。
「ひあああっ」
またもや阿進の身体が反り返る。
だが、今度はすぐに手を離す。指の触れる場所を内腿に変えて快感を逃がす。
「り、李忠……そんなあ」
阿進の裸身が切なそうに悶える。
「名前は?」
阿進の前は潤み、美顔を朱に蕩けさせ、唇はなにかを語りだしそうにわずかに開く。
息は荒く、李忠を涙目で見つめてくる。
「……なら、口づけをしてもらうか」
「く、口づけ……?」
「そうだ。それも、いやか?」
「いやじゃ……ない……けど」
「……けど?」
「あ、あんたと……口づけ……したら……多分……おかしくなる……」
「なら、おかしくなれよ」
李忠は愛撫をしながら、口を阿進の口に近付けた。
阿進は拒否しなかった。
重なった唇から阿進の口の中に舌を差し入れると、阿進はその舌にふるいついてきた。
「あん……んああっ……」
思いのほか、濃厚な口づけとなった。
柔らかな唇の感触が李忠を昂奮させる。嬉しいのは、淫紋で狂いながらも、心を開くことに頑なそうな態度だった阿進が、積極的に舌を舐め返してくることだ。
李忠は唇を右に、左にとよじれ合わせながら、片手で抱き抱え、残る片手で股間に指を挿入して強く膣の中を揺さぶる。
「んんんっ」
阿進の身体がぶるぶると何度かのた打つ。
舌を絡ませながら、軽く達したようだ。
だが、許さない。
愛撫を続ける。
阿進はさらに、何回か連続で快感を極めた、
やがて、息が続かなくなったのか、自分から口を離した。
「どうした、阿進? 本当の名を言う気になったか?」
「あ、ああ……」
阿進は、乳房を激しく上下しながら、恨むような視線を李忠に向けてくる。
「だ、だって……あ、あんたに……迷惑が……」
「名前を知るだけで、どんな迷惑なんだよ」
李忠は笑う、
「う、うう……ああ……」
すると、阿進がよがり泣きが混じったような呻きとともに、身体を小さく震わせた。
淫紋に苛まれて、もう発狂寸前なのだろう。
「言え──言えば楽になる……」
李忠は軽く股間を指で弄る。
「くああっ、ああ──。……お、
阿進は呟くように言った。
「王進?」
李忠は小さく首を傾げた。
この時点で嘘を口にするとは思えなかったが、王進というのはどう聞いても男名だ。
女の名前ではない。
「……女なのに、王進という男の名をつけられたのか?」
李忠は訊ねた。
「わたしは……おれ……い、いえ、わたしは……男……。男だった……。淫紋をかけられて……女体化の……呪術を……」
「女体化?」
李忠は眉をひそめた。
淫紋はわかるが、この世に女体化の呪術なんてあるのだろうか?
「お、男なのに……女にされ……身体だけじゃなく……心まで……だんだんと女に……。しかも、淫紋に……狂わされて……死ぬこともできずに……」
すると、堰が切れたように阿進がぼろぼろと涙を流しながら喋りだす。
だが、男だと──?
李忠は、阿進の身体を改めて見る。
どこからどう見ても、女だ──。男の名残など欠片もない。
いや、外見だけじゃない。
身体の反応も、愛撫への反射も、ちょっとした仕草までも、完全に女だ。
「……誰にかけられた?」
李忠は、「嘘だろう」と言いかけた言葉を飲み込み、そう訊ねた。
「……
阿進が呻くように言った。
李忠の指が止まった。蜜に濡れた秘部から、ゆっくりと離れる。
高廉──大物中の大物だ。確か、皇帝のお気に入りの宮廷道術師がそんな名前だった。
宮廷の道術師のいまの筆頭のはずだ。
これは、とんでもない女と関わったか……?
「……李忠……お願い……」
阿進の身体が、その瞬間に大きく跳ねた。
喉から切なげな声がこぼれ、縛られた腰が必死に擦り寄ってくる。
李忠は一度、拳を握りしめる。
次の瞬間、強く引き寄せた。
逃がさぬように身体を抱え込む。
「
李忠は覚悟を決めて言った。
「か、花深……わかった……」
阿進──いや、花深が頷く。
李忠は素早く、下帯を外して自分の股間を露出すると、怒張をぐちゃぐちゃに濡れきっている花深の粘膜に突き入れた。
「あ、あああっ」
花深はそれだけで、狂ったように首を振りたてて、身体を突っ張らせて震わせた。
快感を極めたのだ。
李忠は、律動を開始した。
「ああ、ああっ、ど、どうにかなる──どうになかっちゃう──」
「ああ、どうにかなれよ──。お前はいまから、俺の女だ──。高廉だろうが、高俅だろうが、隠し通してやる──」
李忠は、花深の肉襞を怒張全体で搔き擦りながら言った。
「あ、ああ……だ、だめえっ──そ、それはあんたに……め、迷惑が……」
「いいから、お前は、ただよがってればいいんだ──ほら、いくときには、いくって、言え──」
「い、いくうっ──」
花深は腰をのた打たせ、膣いっぱいに咥え込まされた李忠の怒張をしっかりと受けとめながら、狂った官能を解き放った。
李忠は、花深を抱き締めながら、欲望のまま、精を花深の子宮にたっぷりと注ぎ込んでいく。
「ああっ……あ……りが……と……」
花深の全身から完全に力が抜け、意識を飛ばしたのがわかった。
その顔からは苦悶の表情が消え、満足仕切った柔和な微笑みが浮かんでいた。
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かつては王進と名乗る禁軍武術師範であったが、高廉に捕らえられ、淫紋刻印と女体化呪術を施され、名も身分も身体も奪われた。淫紋は発作的な狂情を引き起こし、快楽と屈辱を混ぜ合わせながら心を侵す。施術後に調教を受けるが、逃亡に成功する。
しかし発作のたび、男の精を求めて狂う淫情に苛まれ、乞食同然にあちこちを彷徨っていた。李忠と遭遇し、過去名「王進」を捨て、「花深」と命名される。
救われたのか、それとも新たに縛られたのか。その答えは、花深自身にもまだ見えていない。
※原典:魯智深(魯達)。梁山泊序列第13位。渾名「花和尚」
元は関西鎮の提轄。剛力無双の武人であり、酒と怒りに身を任せて人殺しの罪で逃亡した挙げ句、二竜山の頭領を経て梁山泊入りする。
梁山泊では歩兵軍の頭領として活躍するが、招安後の方臘戦の後に寺に戻り、座したまま静かに最期を迎えた。