太陽がビルの隙間に沈む頃、俺の心もまた、どこか冷え切った影の中に沈んでいた。
ゲーム業界に飛び込んだのは、まるで誤って迷い込んだ迷路のようだった。大学でプログラミングを学び、コードの論理に没頭していた俺にとって、ゲーム会社への就職は、偶然手に取った色褪せた宝の地図に見えた。
だが、その地図の先には、輝く財宝などなく、ただ果てしない壁と行き止まりが待っていた。
求人票には、甘い誘い文句が並んでいた。「未経験可」「業界知識不問」。ゲームを年に数本、スマホで適当に遊ぶ程度の俺でも、きっとやっていける。そう思わせる言葉だった。
面接では、面接官の温かみのある笑顔が、俺の不安を溶かした。「プログラミングができれば、ゲームの知識は後からついてきますよ」。その言葉に、俺は淡い希望を抱いた。ゲームは嫌いじゃない。コードを書くのは好きだ。それなら、きっと何とかなる。契約書にサインした瞬間、俺はそう信じていた。
だが、入社初日から、現実は俺を冷たく突き放した。オフィスは、ゲームの効果音と同僚の熱気で溢れていた。同期たちは、まるで使命感に駆られたように、毎晩遅くまでゲームをプレイし、キャラクターの特性やストーリーの深みを語り合った。彼らの会話は、専門用語の嵐だった。俺はただ、その輪の外で立ち尽くすしかなかった。
ゲームは嫌いじゃない。だが、彼らのように、時間を忘れて没頭するほどの情熱は、俺にはなかった
■
夜、薄暗いアパートの部屋で、俺は独りつぶやく。「あの面接官の言葉は、なんだったんだ?」
未経験を歓迎すると言いながら、結局、ゲームに心血を注ぐ覚悟を求めていた。あの求人票は、巧妙な罠だったのではないか。
それでも、俺は1年間、会社にしがみついた。辞める理由は山ほどあった。だが、プログラミングの仕事に未練があった。いや、正確には、辞めた先で何をしたいのか、まるで見当がつかなかった。履歴書に傷をつけるのが怖かった。惰性で日々を過ごし、ただ生活をつないでいた。
「お疲れ様です、大神さん」。
「お疲れ様」。
俺は、向かいの席に座る白藤零さんに視線を移した。
半年前、俺のチームに派遣社員として配属された彼女は、まるでこの業界に生まれたかのように優秀だった。ゲームの仕組みを熟知し、コードの修正も的確。彼女の知識は、俺なんかよりずっと深かった。
彼女は、銀色髪のショートカットをきっちり整え、落ち着いたグレーのカーディガンを羽織っていた。スリムな服の下に隠しきれないグラマラスな体つきがあり、周囲の誰もが一度は目を奪われる。だが彼女自身は、それを気取ることなく、あくまで穏やかに、控えめにそこにいる。
彼女が恋人だったら、どんなに幸せだろう。
だが、彼女の左手の薬指には、小さな銀の指輪が光っている。既婚者だ。
「白藤さん、この部分なんですが……」。俺はモニターを指差す。
「少し、拝見してもよろしいですか?」
彼女は俺のパソコンを覗き込み、細い指でキーボードを叩いた。その動きは、まるでピアノを奏でるように滑らかだった。
「こちらをこう修正していただければ、動作すると思いますよ」
彼女の説明は、いつも明快で分かりやすい。
俺は、つくづく思う。なぜ、こんな優秀な人が派遣社員で、俺のような情熱のない人間が正社員なのか。現代社会の不条理を、俺は肌で感じた。
ある夜、飲み会の席で、俺はつい彼女に尋ねていた。
「白藤さん、社員にならないんですか? こんなにゲームの知識もプログラミングの腕もあるのに、勿体ないですよ」。
彼女は軽く笑って、ビールを一口飲んだ。
「うーん……そういったことには、あまり興味がなくて。私は、ただ生活のために働いているだけなんです。ゲームも、お仕事で必要な分だけ勉強したんですよ」
「そうなんですか?」
俺は、彼女の言葉に少し親近感を覚えた。
「はい。つつましく暮らせれば、それで充分なんです。正社員になって責任が増えるよりも、今のように自由な働き方のほうが、自分には合っている気がして」
彼女の言葉は、軽やかだった。
だが、その裏に、確固たる人生の軸があるように感じられた。
俺には、それがなかった。
優秀な彼女と、惰性で働く俺。どちらがこの業界にふさわしいかなんて、考えるまでもなかった。
白藤さんを見るたび、俺の心はざわつく。
いつも変わらない笑顔。誰に対しても分け隔てのない優しさ。陽だまりのような温かさ。
彼女のそんな姿に、俺はただ惹かれるばかりだった。
白藤さんはどんな人生を歩んできたのだろう。
なぜ、こんなに才能があるのに、派遣社員という不安定な立場を選んでいるのだろう。
疑問が頭をよぎるたび、胸の奥に重い霧が広がる。
この会社を辞めたら、もう白藤さんと話す機会はなくなるかもしれない。
そう思うと、彼女のことをもっと知りたいという衝動が抑えきれなかった。
だが、それが恋愛感情なのか、ただの憧れなのか、自分でもまだ掴めていなかった。
仮に恋だったとしても、彼女の左手の薬指に光る銀の指輪が、俺の心に一線を引かせた。
ある夜、オフィスに一人残っていた。蛍光灯の冷たい光が、デスクの上に淡く広がる。締め切りに追われ、時計の針は深夜を指していた。
「大神さん、お疲れ様。まだ残ってるんですか?」。突然の声に顔を上げると、白藤さんがそこにいた。
銀色の短髪が光を反射し、華奢な姿が柔らかく浮かび上がる。いつもより少し静かな、穏やかな笑顔だった。
「え、はい。ちょっと仕事が溜まってて……」。俺は驚きを隠しながら答えた。
「これ、差し入れです。良かったらどうぞ」。白藤さんは缶コーヒーをそっとデスクに置いた。
「ありがとうございます」。俺はコーヒーを手に取り、プルタブを開けた。微かな音が、静寂に響く。
「大神さん、残業なんて珍しいですね。無理しないでくださいね。体を壊したら、元も子もないですよ」。白藤さんの声には、心からの心配が滲んでいた。
「はは、そうですね」。俺は笑ってごまかそうとしたが、彼女の次の言葉に息を呑んだ。
「実は、私の夫……過労で亡くなったんです」。
「……え?」。俺は言葉を失った。彼女の指輪が、突然、別の意味を帯びて輝いた気がした。
「総合商社の営業職だったんですけど、ブラックな環境で。月の残業が100時間を超えることもあって、倒れてしまって……」。白藤さんの声は落ち着いていたが、その奥に静かな哀しみが宿っていた。
「そんなことが……すみませんでした、つらいことを思い出させて」。俺はうつむき、胸のざわめきを抑えた。
「いいえ、もう1年以上前のことですから。私、大丈夫ですよ」。白藤さんはいつもの笑顔に戻り、軽く手を振った。
「だから、大神さんも無理しないでくださいね」。そう言い残し、彼女は静かにオフィスを後にした。
翌日の昼休み、社員食堂の喧騒の中で、白藤さんが話しかけてきた。
「大神さん、今日のお昼は?」。
「いや、どこかでラーメンでも食べようかと」。コンビニ弁当ばかりの毎日に、少し変化が欲しかった。
「良かったら、これ、食べてみませんか? お弁当、作りすぎちゃって」。白藤さんは小さな布包みを差し出した。色とりどりの布に包まれた弁当箱が、どこか温かく見えた。
「いいんですか?」。俺は思わず身を乗り出した。
「ええ、どうぞ」。白藤さんの笑顔に、俺はためらいながらも弁当箱を受け取った。
中には、焼き鮭、ふわっとした玉子焼き、彩り豊かな野菜が詰まっていた。実家を出て以来、コンビニ弁当やカップ麺ばかりだった俺にとって、その温かさは心に染みた。
「いただきます」。割り箸を手に、思わず手を合わせた。
「お口に合いますか?」。白藤さんが、どこか期待するように俺の顔を覗き込んだ。
「めっちゃ美味しいです。ほんと、すごい」。俺は素直に感想を口にした。
「良かった! もし、よかったら、毎日お弁当作ってきます?」。白藤さんの提案は、軽い冗談のようだった。
「え、いいんですか? でも、さすがにタダじゃ悪いですよ。代金、ちゃんと払います」。俺は慌てて答えた。
「そんな、趣味で作ってるだけですから。でも、じゃあ、気持ちだけ受け取りますね」。白藤さんは笑って頷いた。
それから、俺は毎日白藤さんの弁当を食べるようになった。丁寧に詰められたご飯、焼き魚、煮物。栄養バランスが考えられたその弁当は、俺の疲れた体を少しずつ癒していった。
コンビニの味気ない食事に慣れていた俺にとって、それは小さな奇跡だった。
1ヶ月が過ぎ、俺は白藤さんをお礼の気持ちを込めて食事に誘った。
「白藤さん、今夜、食事でもどうですか? いつも弁当のお礼に、俺にご馳走させてください」。
「え、いいんですか?」。白藤さんは少し驚いたように目を丸くしたが、すぐに微笑んだ。「じゃあ、お言葉に甘えて」。
その夜、俺たちは駅前の高層ビルにあるレストランで食事をした。夜景が広がる窓際の席で、ワイングラスを傾けながら、白藤さんは静かに料理を楽しんだ。
いつもより控えめな彼女の笑顔に、俺は少し酔った勢いで尋ねていた。
「白藤さんって、恋愛とか……興味ありますか?」。
白藤さんは一瞬、グラスを持つ手を止めた。「恋愛、ですか?」。
「いや、なんていうか……」。俺は言葉に詰まった。
「私は、夫を本当に愛してました。亡くなった今も、それは変わらないと思います」。白藤さんの声は穏やかだったが、どこか遠くを見ているようだった。
「時々、夫の声が聞こえる気がするんです。笑い声とか、名前を呼ぶ声とか」。
「……そうなんですね」。俺はなんて答えたらいいか分からなかった。
「でも、大神さん、ちょっと夫に似てるんですよ。見た目は全然違うけど、真面目で不器用な感じが」。白藤さんは小さく笑った。
「え、そうですか?」。俺は照れ隠しにワインを飲み干した。
食事を終え、俺たちは繁華街を歩いた。ネオンの光がきらめく夜の街は、人の波と笑い声で賑わっていた。
白藤さんの横顔を見ながら、俺は複雑な気持ちを抱えた。彼女の笑顔の裏にある深い悲しみと、俺の知らない彼女の人生。
それでも、彼女と過ごす時間が、俺の心に小さな灯りをともしている気がした。
■
「あの……大神さん」。白藤さんが、俺の袖をそっと引いた。
「はい?」。俺は彼女の顔を見た。ネオンの光が、彼女の銀色の髪に淡く映る。
「あなたは私のことが、好きなんですか?」。白藤さんの声は、静かだが真剣だった。
「え……?」。突然の質問に、俺は言葉を失った。心臓が跳ねる。
「……素敵な人だと思います。白藤さんのことが、好きです」。俺は正直に答えた。だが、それが恋なのか、憧れなのか、自分でもまだ分からなかった。
「そうですか……」。白藤さんは一瞬、戸惑ったような表情を見せたが、すぐに柔らかな笑みを浮かべた。
「私も、大神さんが好きです。でも、夫の方が……もっと好きです」。彼女の声は、どこか遠くを漂うようだった。
「え……?」。俺は動揺した。彼女の言葉が、胸に重く響く。
「だから、私はあなたと結婚はできません。ごめんなさい……」。白藤さんの瞳には、静かな悲しみが宿っていた。
「そうですか……」。意外な言葉だったが、なぜか俺は納得していた。彼女の心には、亡魂のような夫の存在が今も生きているのだ。
「でも……もしよければ……抱いてくれませんか?」。白藤さんの声は、ほとんど囁きだった。
「え? 今、なんて……?」。俺は耳を疑った。彼女の真剣な眼差しに、息が止まる。
「抱いて欲しいんです。一度だけでいいんです」。白藤さんは、俺をまっすぐに見つめた。
「いや……それは……」。俺は戸惑った。頭が混乱する。彼女の言葉は、俺の知る白藤さんとは別人のようだった。
「夫のことは、今でも忘れられません。でも、大神さんと……一度だけでも、感じてみたいんです」。彼女の声は震えていた。そこには、深い孤独と、ほのかな希望が混ざっていた。
「俺なんかで、いいんですか?」。俺は自分を疑った。彼女のような人に、俺が何をできるというのか。
「ええ、大神さんがいいんです」。白藤さんの言葉は、静かだが確かだった。
「分かりました……」。俺は覚悟を決めた。心のどこかで、彼女の悲しみを少しでも癒せたらと思った。
俺たちは、繁華街の喧騒を抜け、近くのホテルに入った。部屋のドアが閉まる音が、静寂の中でやけに大きく響いた。
白藤さんをそっと抱きしめると、彼女は小さく息を漏らした。抵抗はなく、彼女の体温が俺の腕に温かく伝わる。彼女の銀色の髪が、薄暗い部屋の光に揺れた。
ベッドに腰を下ろし、俺は白藤さんのブラウスに手を伸ばした。彼女は目を閉じ、静かに身を委ねた。ボタンを一つずつ外すと、彼女の華奢な肩が現れ、月光のような肌が薄暗い光に浮かび上がる。
ブラウスをそっと脱がせると、彼女の柔らかな曲線が露わになった。白藤さんの胸は、張りがあり、淡いピンクの乳首が硬く尖っている。細くくびれた腰、滑らかな腹部、そして緩やかに広がるヒップ。彼女の体は、まるで彫刻のように美しかった。
「大神さん……」。白藤さんが、切なげに俺の名前を呼んだ。彼女の声は、甘く、どこか儚い。
「白藤さん……」。俺は彼女の唇に触れた。柔らかく、温かいキス。互いの舌が絡み合い、熱い吐息が混ざる。時間が溶け、部屋の静寂に二人の息遣いだけが響いた。
白藤さんの肌は、月光のように滑らかだった。俺の手が彼女の胸をなぞると、彼女の体が小さく震えた。白藤さんの瞳は、潤んで俺を見つめ、深い感情を湛えていた。夫への愛と、俺への一時的な欲求が、そこに交錯しているようだった。
「白藤さん……大丈夫ですか?」。俺は、彼女の心を探るように尋ねた。彼女の孤独を、ほんの少しでも癒せたらと思った。
白藤さんは小さく頷き、俺の手を握った。彼女の指先は、温かく、どこか儚い。微かな熱が、俺の肌に残る。
俺は彼女のブラジャーを外し、露わになった胸に触れた。柔らかく、張りのある乳房が、俺の手の中で形を変える。乳首をそっと指でつまむと、白藤さんの体がびくんと震え、甘い吐息が漏れた。
「あっ……大神さん……」。彼女の声は熱を帯び、切なげだった。俺の手は彼女の腰を滑り、ショーツの縁に触れた。そこはすでに熱く、湿り気を帯びていた。彼女の膣は愛液で濡れ、俺の指を迎え入れるように柔らかかった。
やがて、俺たちは互いの体を重ねた。白藤さんの吐息が俺の鼓動と響き合う。俺の陰茎が彼女の膣に触れた瞬間、彼女の体が一瞬強張り、すぐに熱く柔らかく俺を受け入れた。彼女の膣が俺の陰茎を強く締め付ける。
「ゴム、つけてないですけど……」。俺は一瞬我に返り、声を絞り出した。彼女の温もりに頭がぼうっとする。
「今日は……大丈夫です」。白藤さんの声は囁くように小さく、どこか躊躇うようだった。彼女の瞳に微かな影が揺れた。
俺たちは互いの存在を確かめるように、ゆっくりと動き続けた。白藤さんの膣が俺の陰茎を熱く包み込み、彼女の声が時折甘く切なげに響く。俺は彼女を抱きしめ、彼女もまた俺の背中にしがみついた。彼女の爪が俺の肌に軽く食い込む。彼女の胸が俺の胸に押し付けられ、柔らかな感触が俺をさらに高ぶらせる。白藤さんの吐息が俺の耳元で熱く響き、彼女の体が俺の動きに合わせて揺れた。
俺の指が彼女の胸を愛撫すると、彼女の乳首が硬く尖り、敏感に反応する。「白藤さん……」。俺は彼女の名前を囁き、腰に手を滑らせた。彼女の膣は愛液で濡れ、熱を帯びていた。俺の指がその敏感な部分を探ると、彼女の体がびくんと震え、甘い声が漏れた。
「あっ……大神さん……」。彼女の声は熱を帯び、切なげだった。彼女の瞳が俺を捉える。そこには夫への愛と、俺への一時的な欲求が交錯しているようだった。
やがて、頂点が訪れた。熱い衝動が俺の陰茎を突き動かす。白藤さんの膣が俺を強く締め付け、俺たちは一つになる感覚に溺れた。全てが終わると、彼女は荒い息をつきながら俺の胸に顔を寄せた。彼女の銀色の髪が俺の肌に柔らかく触れる。
「大丈夫ですか?」。俺は彼女の髪をそっと撫でながら尋ねた。彼女の体温が俺に静かな安堵を与えた。
白藤さんは無言で俺にキスをした。深い、長いキス。彼女の唇は熱く、湿り気を帯びていた。そこには夫への愛、孤独、そして俺への複雑な感情が詰まっていた。
やがて、頂点が訪れた。熱い衝動が、俺の陰茎を突き動かす。白藤さんの膣が、俺を強く締め付け、俺たちは一つになる感覚に溺れた。全てが終わると、彼女は荒い息をつきながら、俺の胸に顔を寄せた。彼女の髪が、俺の肌に柔らかく触れる。
「大丈夫ですか?」。俺は、彼女の髪をそっと撫でながら尋ねた。彼女の体温が、俺に静かな安堵を与えた。
白藤さんは無言で俺にキスをした。深い、長いキス。彼女の唇は、熱く、湿り気を帯びていた。そこには、夫への愛、孤独、そして俺への複雑な感情が詰まっていた。
シャワーを浴び、服を着た白藤さんが、静かに口を開いた。
「ごめんなさい」。彼女の声は、どこか震えていた。
「どうしたんですか?」。俺は戸惑った。
「大神さんに、二つ謝らないといけません」。白藤さんは、目を伏せた。
「一つは、私が今も夫を愛していること。あなたに抱かれて、他の人を愛せるか試したかった。でも、やっぱり夫への愛は捨てられなかった……ごめんなさい」。彼女は深く頭を下げた。
「……もう一つは?」。俺は、胸のざわめきを抑えて尋ねた。
「安全日だと言ったのは、嘘でした。本当は、危ない日だったんです」。白藤さんの声は、ほとんど聞こえないほど小さかった。
「え? なんでそんなことを……?」。俺は混乱した。
「大神さんが、夫に似てるから。夫の子供として、あなたの子供を産めたらと思ったんです」。白藤さんの瞳に、涙が光った。
「ごめんなさい。騙すようなことをして」。彼女は再び頭を下げた。
「いや……安全日でも、可能性はあるって思ってました」。俺は、平静を装った。だが、性知識の乏しさを改めて思い知った。
「でも、こういうことはよくないですよね。大神さん、このことは忘れてください」。白藤さんの声は、きっぱりしていた。
「待ってください。もし妊娠したら、責任を取らせてください」。俺は、思わず声を上げた。
「いいえ、それはできません。私は夫を愛しています。夫以外の男性と結婚はできないんです」。白藤さんの言葉は、静かだが揺るぎなかった。
「そうですか……」。俺は、彼女の亡夫への愛の深さを改めて感じた。同時に、彼女の心を変えることは、俺にはできないと悟った。
「大神さん、だから、この関係はここで終わりにしましょう」。白藤さんの声は、穏やかだが決然としていた。
「でも、もし子供ができたら、どうするんですか?」。俺は、彼女の決意を試すように尋ねた。
「もちろん、産みます。でも、大神さんには迷惑をかけません」。白藤さんは、きっぱりと言った。
「……でも、子育てって、お金も手間もかかりますよ」。俺は、彼女の決意を試すように言った。
「大丈夫です。なんとかなります」。白藤さんは優しく微笑んだ。その笑顔には、どこか儚い影がちらついていた。
「……分かりました。でも、一度で子供ができるとは限りませんよ」。俺は、冷静を装いながら言った。
「え?」。白藤さんが小さく目を瞬かせた。
「その、子供が欲しいなら……俺、協力しますよ。できるまで」。俺は思い切って口にした。心のどこかで、彼女の孤独を少しでも埋めたいと思った。
「いいんですか? 大神さん、そんなこと頼んでいいんですか?」。白藤さんの声は、驚きとためらいに揺れていた。
「はい。少しでも白藤さんの助けになれたら、嬉しいです」。俺は、彼女の瞳をまっすぐ見つめた。
「分かりました。それでは、お願いします」。白藤さんは深く頭を下げた。彼女の銀色の髪が、月光のように揺れた。
「こちらこそ、よろしくお願いします」。俺は、ぎこちなく笑った。