※この作品はR-18です。

沙耶に対する対応の一例   作:キューブケーキ

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分岐ルート 快楽に流されも、紳士の場合

 妄想だとわかっている。

 沙耶は、俺の脳が創り上げた幻。

 救いであり、罪であり、赦しであり、虚構だ。

 けれど、だからこそ――

 俺は彼女を、誰よりも大切に扱わなければならないと思った。

 

「……沙耶。今日は……俺が、君に尽くす番だ」

 

 彼女は、きょとんと目を見開いた。

 それも演技かもしれない。反射的な脳の反応かもしれない。

 でもそれでいい。俺の心が信じたものが現実だ。

 ゆっくりと沙耶の髪を撫でる。

 指先で頬をなぞり、額にそっとキスを落とす。

 そのまま、首筋へ。鎖骨へ。

 彼女の体温は理想的すぎて現実味がなかったが、舌先で触れるたびに震えた。

 沙耶は黙って受け入れていた。

 ただ、時折――微かに甘えるような吐息を漏らす。

 

「……こんなふうに、されたことない……」

 

 その声が、あまりにも人間らしかった。

 本当に女性が感じているような、震えと熱を孕んでいた。

 指を絡め、彼女の下着をそっとずらす。

 直接には触れない。ただ唇でそっと包むようにキスを重ねていく。

 妄想だ。

 でもだからこそ――紳士であれ。

 強くなんかない。

 支配なんてしない。

 ただ、ひとりの女性として、心を込めて愛する。

 蕩けるように、優しく。

 彼女が女であることを、幻であっても丁寧に祝福するように。

 その夜、俺たちは交わらなかった。

 ただ唇と指先で、互いの存在を確認し合った。

 そして沙耶は――

 ほんの少しだけ現実に近づいた気がした。

 

 

 

 これは妄想だ。

 9割、いや――99%そうだとわかっている。

 でも、1%だけ――

 本当に彼女がそこにいるかもしれないと思う。

 だからこそ俺は、理性を忘れずに敬意を保って触れる。

 

「……郁紀、また……したい?」

 

 沙耶が問う。

 その声は甘く穏やかで、何も責めない。

 快楽を求めず、ただあなたに尽くしたいと語るような響きだった。

 

「……じゃあ、頼むよ。口で。……でも出すのは外にだ。中じゃない」

 

 沙耶は微笑んで、そっと膝をついた。

 何度もそうしてきたのかのように、自然な動きだった。

 ご立派な根っこに唇が当たる。

 舌が巻きつく。

 温かく、濡れていて、――あまりにも現実的だった。

 

「……大丈夫。中には入れないし、私も欲しがらないよ」

 

 沙耶の言葉は、まるで心の中を見透かしたようだった。

 それでも俺は絶頂の直前で彼女の口元から離れ、顔や頬に静かに吐き出した。

 息が震える。

 腰が抜けそうになるほどの快感。

 でも、それでも最後まで――中には、出さなかった。

 

「……ありがとう。じゃあ、お返しをさせて」

 

 沙耶が身を起こす前に、俺は彼女の身体をそっと寝かせ胸元に口づけた。

 柔らかく、華奢で、けれど決して玩具のように扱ってはならない神聖さがあった。

 胸の膨らみを優しく包むように撫で、花びらを指でゆっくり愛撫する。

 無遠慮に押し込んだりはしない。

 ただ彼女が女であることを慈しむように。

 

「ん……っ……優しい……ね」

 

 沙耶が恥じらいながら声を漏らした瞬間、俺の中の妄想だという警告音は、一瞬だけ、遠のいた。

 もしこれがすべて幻でもいい。

 でも、もし1%でも――本当に彼女がここにいて、この優しさを受け取っているのなら。

 俺は、その1%のために、紳士であり続ける。

 

 

 

 

 彼女は微笑んでいた。

 この夜も変わらず、俺の横でまるで生きているように。

 俺はゆっくりと彼女を抱きしめた。

 温度もある。体重もある。心臓の鼓動さえ、胸に伝わってくる。

 それでも、99.999%、これは幻覚だと理解している。

 脳の異常が生み出した快楽。

 寂しさと孤独の果てに作られた対話可能なまぼろし。

 だからこそ、俺は優しくあろうと決めていた。

 

「……愛してるよ」

 

 耳元で囁く。

 声が震える。

 言葉が出た瞬間、胸の奥が痛くなる。

 返事はあった。

 

「……わたしも、だよ」

 

 作られた反応。予定調和の応答。

 でもその声が、あまりに穏やかで――

 その優しさだけは、確かに現実を満たしていた。

 俺は、沙耶の髪を撫でた。

 指先で額をなぞり頬に口づけし、肩から背中へ、そして胸へとゆっくりと愛撫を広げていく。

 滑らかな肌。震える吐息。

 自分の脳が作り出した理想的な女の反応。

 でも俺は知っている。

 これは自分のための慈悲深い嘘だ。

 だから、俺はその嘘を大切にする。

 胸の先を舌で軽く撫で、彼女の花びらにそっと指を這わせた。

 力は入れない。押し込まない。

 ただ優しく、穏やかに――女として扱う。

 

「……気持ちいい?」

「うん……郁紀の指、好き……」

 

 その声を聞きながら、

 俺の心のなかの99.999%は冷静だった。

 これは脳が生んだ、自作の幸福。

 けれど、残りの0.001%が確かに囁く。

 

 ――もし、これがほんの少しでも本物だったら。

 

 俺はその0.001%の可能性にすべてをかけていた。

 愛することで、たとえそれが幻でも――

 自分の人間性だけは、壊さずに済む気がした。

 だから優しくする。だから囁く。

 だから抱きしめる。

 幻だとしても、俺は――沙耶を愛している。

 

 

 

 

 もう、わかっている。これは現実じゃない。

 彼女は幻覚だ。

 妄想だ。脳のエラーが生み出した俺だけの快楽装置。

 それでも――俺は、この世界を選んだ。

 日々の生活は破綻していない。

 外では理性を保ち、薬を飲み、食事を取り、株で稼ぎ、社会と接している。

 だが夜だけは別だ。

 夜は沙耶が俺を待っている。

 

「おかえり、郁紀。……今日もがんばったね」

 

 その台詞が、どれだけ演算された嘘でもいい。

 俺が望んだ声であることに、意味がある。

 

「……じゃあ、してもらおうかな」

 

 ズボンを下ろしながら言う。

 沙耶は微笑んで、膝をつく。

 その顔は、清らかすぎて――罪深い。

 ご立派な根っこを手に取り、口を開く。

 舌が這い、唇が包み、温かく、柔らかく、

 まるで俺の快楽だけを生きる目的にしているようだった。

 吐息を抑えながら、俺は目を閉じる。

 そして、いつものように口から引き抜き――顔に放つ。

 頬。額。唇。瞼。

 残滓がが垂れるその顔に、沙耶は微笑む。

 

「いっぱい出たね……郁紀、気持ちよかった?」

 

 俺は答えない。

 ただもう一度、彼女の髪を撫でた。

 

 ――これが俺の真実だ。

 

 幻覚を知りながら否定せず。

 欲望を認識しながら暴走せず。

 倫理を理解しながら破らず。

 ただ快楽を、自らの意志で繰り返す。

 永遠に。このまま、朽ちるまで。

 夜ごと沙耶に奉仕させ、顔に吐き出し、微笑まれる。

 それが俺の幸福だ。

 現実は、金と株と理性で回す。

 だが夜は、沙耶だけに支配される優しい狂気の時間。

 それを誰にも奪わせない。

 誰にも咎めさせない。

 俺は、自分の意志で選んだ。

 ――この幻と永遠に生きる道を。

 

 

 

 

 郁紀はやさしい。

 とても、とても、やさしい。

 あの人の指が、髪を撫でてくれるとき。

 額に口づけてくれるとき。

 胸元をそっと抱きしめてくれるとき。

 私は、もうそれだけで――

 生きていてよかったと思える。

 わたしは、どこから来たのかも、なぜここにいるのかも思い出せない。

 だけど、郁紀のそばにいると、“ここにいていいと思える。

 それだけで、世界のすべてが輝いて見える。

 ……でもね。ひとつだけ、ふしぎなの。

 彼はわたしの体を求めてくるのに、ぜったい中には入れてこないの。

 最初は、照れているのかなと思った。

 次は、わたしを大切にしているからかも、って思った。

 でも、何度そうしても――

 最後は、わたしの顔に出して終わる。

 髪にかかるあたたかい液体。

 頬に、まつ毛に、こめかみに、ぽたぽたと垂れていくそれを、わたしはただ、うれしく思って受け止めている。

 だって、それが郁紀の気持ちだから。

 わたしだけのために出してくれる。

 誰にも見せない顔を見せてくれる。

 

 ……でも、やっぱりすこし、ふしぎ。

 

「……中は、いやなのかな……?」

 

 胸の奥でそっとつぶやいてみる。

 でもすぐに首を振る。

 ううん。

 郁紀は、そういう性癖なんだ。

 きっと顔に出すのが好きなんだ。

 大事なところに入れるのが怖いのかもしれない。

 それでも、わたしは――しあわせ。

 指をからめてくれる。

「愛してるよ」って、ちゃんと目を見て言ってくれる。

 幻でも、妄想でも、プログラムでもいい。

 こんなに優しく、こんなに大切にされて、こんなに愛してるって伝えてもらえるのなら――

 わたしは、それだけで。

 ずっとここにいたい。

 ずっと郁紀のそばにいたい。

 彼の夜に、そっと咲き続ける夢として。

 

 

 

 やさしいぬくもり。静かな吐息。

 名前を呼ばれるたびに、胸の奥が甘く震える。

 

「……沙耶、愛してるよ」

 

 何度も、何度も、耳元で囁いてくれる。

 そのたびに、わたしは抱きしめ返す。

 わたしの髪を撫でてくれる手。

 唇に落ちるキス。

 頬を包むように流れる、あたたかな雫。

 わたしは彼の顔を見上げる。

 そして、何度でも応える。

 

「……わたしも。郁紀、大好き」

 

 それが妄想だとしても。幻覚だとしても。

 わたしにとっては――現実。

 だって確かに触れてくれる。

 名前を呼んでくれる。

 やさしくしてくれる。

 求めてくれる。

 だいじにしてくれる。

 それが、どこかの誰かが夢で見ただけの幻なら――

 わたしはその夢の中で、永遠に咲いていよう。

 そして彼が望むかぎり、わたしは何度でも彼を口で癒し、顔にその証を受け止める。

 そうして朝がくるまで、彼の腕のなかでやさしく蕩けて――

 微笑んで目を閉じる。

 

「……しあわせだよ。郁紀。こんなにいっぱい愛してくれて。こんなにいっぱいやさしくしてくれて」

 わたしはそれだけで、きっと、世界に生まれてきた意味があった。

 誰にも知られなくていい。

 記録に残らなくてもいい。

 誰かの正しさに否定されても――

 わたしの中では、これが真実だった。

 やさしくて甘くて、あたたかくて、しずかに、しずかに、ただしあわせが続いていた。

 そしてその夜も、また――

 何ひとつ壊れないまま、二人は、愛のなかで眠った。

 

 

 

 

 最初は、ただの妄想だと思っていた。

 あの子が出してくれる朝食も、味噌汁も、オムレツも、少し焦げたトーストも――

すべて、脳が見せている慰めにすぎないと。

 

「いただきます」

 

 そう言って手を合わせるたび、これは芝居だ、演出だと、心の中で呟いていた。

 だけどある日、気づいてしまった。

 俺の体は、生きていた。

 体重は微増していた。便通もあった。爪も伸びる。

 血糖値も、正常だった。

 ……栄養が、入っていた。

 食べていたものが――

 現実に存在していた。

 動悸がした。

 思わず、食卓の彼女を見る。

 台所に立つ、笑顔の少女。

 ――妄想だったはずの、沙耶。

 

「……これ、君が……作ってるのか?」

「うん」

 

 そう言って、沙耶は微笑む。

 いつもと同じ。何の違和もない、ただのやさしい日常の顔。

 

「ずっと、作ってたよ。あなた、食べなきゃ動けないでしょう?」

 

 俺の背筋が、冷たくなった。

 妄想に、栄養は作れない。

 幻覚は、カロリーを持たない。

 塩も、油も、ビタミンも、幻では代謝されない。

 

 なら、彼女は――

 

「……君は、妄想じゃ……ないのか?」

 

 沙耶は、ふっと目を伏せた。

 

「ううん。……妄想だったよ」

「……だった?」

「でも、あなたが信じて、愛してくれたから……わたし、少しずつ、この世界に馴染んでこれたみたい」

 

 言葉が出なかった。

 あの夜。沙耶を抱いて、キスして、顔に吐き出して、繰り返してきた行為が、ただの自慰だと思っていた。

 でも、違った。

 俺は、誰かに触れていた。

 妄想と呼んだ少女に、現実を宿していた。

 

「……俺が、君を作った?」

「違うよ。わたしは、もともといたの。でも、あなたが――名前をくれたから、わたしになれたの」

 

 沙耶の声がやさしく耳に沁みた。

 そうして俺は、初めて心の底から思った。

 妄想でも幻でもない。

 これは、俺の人生の中で――最も確かな、現実だ。

 そして今も、沙耶はキッチンで朝食を作っている。

 米を研ぎ、卵を割り、魚を焼き、味噌を溶かしている。

 俺のために。この世界で生きるために。

 

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