妹は無表情 作:ムッツリーニ
「おー、なかなか壮観だなー」
「うむ」
余りにも情報が無いものだから、新設校かクソちっちゃい学校かどちらかかと思ったが、担任の母校らしいし前者の線はなく、後者も思っていたよりも発展している様子から恐らくない、ただただその風景に驚くしか無かった。流石に国の学校ということか、見る限り様々な店が過不足なく取り揃っているようだ。なんでこんな至れり尽くせりの学校の情報が広がっていないんだろうか?ネットに繋がる機器の使えない在学中はともかく、担任の先生の様に卒業した人達がついっ〇、いや〇で呟いて名前くらいは広まるもんじゃないだろうか。
そんな事を考えながら学園の門に向かうとチラホラと同じ学生らしき人達が見え出すようになった。なったのだが・・・。
「なぁ叶華、あの男の人達、やたらと距離感が近くないか?片方の人は一見女の人の様に見えるし・・・」
「兄さん、今は多様性の時代だ。人の趣味にとやかく言う事は出来ない」
そ、そういう物だろうか・・・。いやまぁ、時代というのは分かってはいるつもりだが余りにも、
右を見ても左を見ても、1番多いのは男2人組だったり、女装している男の人と普通の男数人のグループ、女装男子何人かに1人の男のグループ、そう言うものばかり。たまに女性同士のペアやグループも居るが何故か彼女達は俺の方をみて顔を赤らめ、ヒソヒソと話しながら離れていく。
な、何かおかしかったか?いや、でも何処か彼女達を見た事あるような気も・・・?
それらから随分数を減らして、普通の男女のペアが仲睦まじくデートを堪能していた。
比率からすると男8 女1.5、残りが男女だろうか。
「兄さん、私が居るというのに他の女に目移りするのは感心しない」
「わ、悪い、って別にデートしてる訳じゃないだろ!行くぞ」
お茶目な妹の冗談を受け流して正門を潜る、異様な生徒達の姿に目を奪われ、その背後にあった剣や鎧の置かれた異様な店並びに、俺は気が付かなかった。
豊葦原千五百秋水穂学園 黒鵜寮にて
コンコン
「入ってますよー」
「あっ、すまない」
「「・・・・・・」」
気まずい沈黙
「おいおい、そこはトイレかよって突っ込むところだろっ・・・て、縁!?」
呆れながら開かれたドアの向こうには、見知った軽薄そうな、いや友人に対して軽薄そうは適切ではないと思うが、そうとしか表現出来ないのだから仕方ない。
「誠一!元気そうだな?」
「おー、まぁなぁ。お前の方こそ、ったく、警告してやったのに結局入ってきたのかよ」
「す、すまない。妹に押し切られて・・・」
相変わらず尻に敷かれてるのか、と友人は呆れながらそう言った。うぅ・・・。
「せ、誠一は叶華をよく知らないから言えるんだ。あぁ見えて意外と怖いんだぞ」
「意外とってか怖ぇだろ」
「妹は世界一可愛いだろうがっ!!」
「なんだお前!?」
なんだとはこっちのセリフだ!ぶち殺されたいのか!?ふーっ!ふーっ!
「わ、悪かったよ。可愛い可愛い」
「イモウトニテヲダシタラコロス」
「あれ?俺詰んでた?」
まぁ冗談はほどほどにしておいて、とりあえずは旧知の中とは言え、先ずは自己紹介からだろう。コミュニケーションとは先手必勝と見たり、隙を見せたな誠一っ!
「俺は船坂縁、よろしくな」
「あー、小野寺誠一、よろしく。あの、お前パンフレットちゃんと読んだか?俺らは知り合いだからしゃーねぇけど、この学園基本苗字名乗っちゃダメだから、そこんとこ宜しくな」
何だそのルール
・・・女性と自然と名前呼び合う仲になれるとか最高か?
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
入学式はつつがなく終了し、誠一とだべりながら教室へと向かった。運のいいことに同じクラスらしく、24クラスもあるのに妹と友人が同じクラスに居るなんて本当に幸運だと思う。
「そこで言ってやったのよ、お前の血は何色だってぬぁぁぁっ!」
敵襲!?敵襲かっ!?目の前の誠一の顔が歪んだかと思うと自分自身が地面に押し倒されていた。あ、なんだ
「叶華か、痛いじゃないか」
「お前、ボキッて言ってたぞ・・・?」
妹のじゃれ付きくらいなんて事ない、むしろ耐えられずに倒れてしまったことに対する不甲斐なさだけが湧いてくる。
「兄さん、この男と話過ぎです」
「久しぶりにあったんだ、勘弁してくれ・・・」
「あー、叶華ちゃん?悪いね、愛しのお兄様を占領しちゃって」
「気安く私の名前を呼ぶな」
この学園でどうしろと・・・。途方に暮れた様子で項垂れる誠一の肩をぽんと叩き。
「気安く妹の名前を呼ぶな」
「お前らぜってぇこの学園に来ない方が良かったよ!」
冗談だって、俺は。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
1年丙組の教室内
「うおっ、誠一、ちょっとこいこい」
「ぐぇっ、んだよ・・・」
教室に入ると驚きの光景が広がっていたので中に入ろうとしていた誠一をとっ捕まえて連れ出す。
「お、女の子のレベルが高過ぎないか・・・?」
「はぁ?あぁ、まぁ、そうだろうな」
「知ってたのかよ、教えてくれよ」
なんでんなもん教えなきゃなんねぇんだよと冷たい事言う友人の脇腹をウリウリと押して批判する。嫌そうな目で見ないで欲しい。
「ま、まぁ誠一も認めるレベルの高さな訳だ。所で、前言った縁の話って覚えてるか?」
「ん?あぁ、運命の人レベルで繋がってる誰かが居るって奴だろ?覚えてるよ」
「あの子だよあの子っ、ほら、前から四列目の、真ん中くらいの、茶髪の・・・ポニーテール?の子!」
教室の方から伸びてるな〜とは思ってたが、まさか同じクラスだとは!
誠一、やるんだな!?今!ここで!学園ハートフルラブコメディを!
「あー?ありゃハーフアップだろ。てか、運命の相手とか信じてねぇんだけど」
「心配するな、地元じゃ負け知らずのキューピット男だぞ俺は」
「お前自身は?」
「・・・」
ダメじゃん、友人の端的な一言が胸にぶっ刺さる。
「兄さんには私がいるから問題ない」
「世間一般なら問題でしかねぇけど・・・。まぁ
・・・?何か含みがあるような言葉に疑問を抱いたが、もういいだろと先を行く誠一に問いかける事は出来なかった。
担任の先生の進行でオリエンテーションが進んでいく、だが時折異様な言葉が紛れ込んでいるのはなんだろうか?サバイバル?測図?この学園はいささかアウトドアに偏りすぎていないか?ロッククライマー育成専門学校だったっけ。
脳内に宇宙猫を宿し惚けているといつの間にか先生の説明は終わっていた。美人だったなー、いやでも、やっぱりなんか見た事あるような・・・、と言うかめちゃくちゃ多くの(主に女子)人に見覚えがあるような・・・。
「なーに呆けてんだよ、先生にでも見蕩れたか?」
「んお、あ、あぁ誠一か。いや、なんか思ってたんと違うと思って・・・」
妹からは楽園のような場所って聞いていたのに些か殺伐としている気がする。なんか迷宮に潜るとか言ってなかったかあの先生。
「んー?あぁ、明日のダンジョン特別実習の事か?まぁ突然だよな。でも最初の頃は日程がつまってるらしいから仕方ないんじゃねぇか?」
「でもさ。講習も無しで明日いきなりダンジョンダイブとか、有り得なくない?」
「っ、他のクラスよりも先行出来るって訳だろ、いいじゃん」
おお、誠一の運命の人(仮)じゃないか。どうぞ俺の事は路傍の石とでも思って、存分に交友を深めてくれ。
いつの間にか膝の上に座っていた叶華の頭を撫でながら、俺は全力で気配を消す。俺は石ころ、俺は石ころ・・・。
「・・・んね、あの子、さっきまで血祭りに上げる相手探してんのかって感じだったけど、随分雰囲気違うね?」
「あぁ、ちょっと愛情の向かう先の間違えた兄妹でな。平常運転だ、慣れてくれ」
石ころ・・・、石ころ・・・。
「ねー、縁君?ちょっといいかな?」
「石ころ・・・、ん?縁・・・?私は路傍の石ころですが」
「誠一君、この人壊れたんだけど」
誠、一・・・はっ!危ない危ない、危うく意識をストーンサイドに引きずり込まれるところだった。現実に意識を戻すとヒクヒクと引きつった笑顔の誠一の運命の人(仮)がこちらを伺っている。
「えぇと、ごめんごめん、ちょっと考え事してて。何かあったか?」
「いや、妹ちゃん顔が蕩けちゃってるから大丈夫かなぁって」
「なにっ」
グイッと叶華の首を回し確認するとそこにはいつもの無表情の美人さんが。まつ毛なっが。
「嘘じゃないか・・・」
「(え?何あれ縁君嫌われてるの?)」
「(恥ずかしいんじゃね?)」
何かこそこそと話をしているが、まぁ二人の仲が深まるのは良い事だ。意識的に耳に集まる神通力を薄め、聞こえないようにしておく。
「ごほんっ、ま、まぁそれは置いといて。明日のダンジョンダイブなんだけど、このメンバーで一緒に行かない?誠一君たち3人と、静香ちゃん、ちょっと来て」
静香、はてどこかで聞いたような・・・。デッカ!
「あし、静香、さん?き、奇遇だね」
「縁さん、お久しぶりです」
危な、思わず苗字で呼ぶとこだった。芦屋さんが、なんでここに?確かに縁は繋がってる相手だけど。ふと周りを見渡すと、抱いていた既視感の正体が分かってきた。なんか、女の子はほとんどみんな俺が助けてきた子達な気がする。繋がってた縁って、そういうこと?この学園で出会う相手だから昔からうっすら縁が繋がってたのか。
助けたあとしばらくして、やたらと皆の縁が太くなるもんで日常生活に支障をきたすと、視覚的な縁は見えないようにしてたんだけど確かに芦屋さんとの縁を強く感じるし、クラスの皆とも力強く繋がっているような感じがする。
「ええと、2人は知り合いだったの?珍しい事もあるもんだね、この学園、推薦でしか入れないから知り合いなんてほとんどありえないのに」
「縁は自称縁結びの神だからな(・・・だが確かにおかしい。異能か?)」
自称とはなんだ、と言いたいが誰彼構わず縁が見えるんです!なんて言ってもいい事がある訳が無い。ここは大人しくその評価を甘んじて受け入れよう。
「まぁ、ちょっとな。あれから元気だった?」
「はい、お陰様で家族とも離れられて・・・。大切な人も出来ました」
大切な人だとっ!?ぐぅっ、潤んだ表情を見るに、恐らくそういう人なんだろう。こんなに可愛くて胸の大きな女の子に好かれてるなんてとんだ幸せ者だなぁ!お幸せにっ!2人の関係が末永く続くように、気持ち神通力を込めて祈っておく。なんか芦屋さんとの縁が強化された気がするな?気の所為か?
「・・・ま、そんな感じならあたしが誠一君のお相手かな?どう?気に入った?」
「・・・あぁ、悪くねぇ。縁がいいならいいんじゃね?この5人で」
「ん?まぁ俺は構わないけど、いいか?叶華」
撫でていた叶華の顔を覗き込むとやはり表情はないままだ。残念。
「構わない」
「すげーな妹ちゃん」
「なんの事やら」
名前呼びを拒否された誠一は叶華の事を妹ちゃん呼びで済ませる事にしたらしい。でも本当になんのこと言ってるんだろう、よく分からんがまぁいい。
よくわからんと言えばダンジョンダイブもよくわからん。オリエンテーションで配られた紙にも大したことは書かれていない。迷宮、潜る・・・まぁ、後で叶華か誠一に聞けばいいか。
「ん?なんだあの人たち」
「あぁ、華組か?入学式も別でやるって、気取ってるねぇ」
曰く華組とはこの学園の特級科の別名、昔の華族の血筋を継ぐもの達の集まりだから華組という事らしい。どうでもいいけどこっちが普通科ならあっちは特別科であるべきでは?
どうでもいいけど
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
一足先に寮へと帰還すると、先輩達による新入寮生歓迎会が開かれていた。なんてこったい、そんな気配おくびにも感じなかったのに、サプライズというわけか。粋な先輩方だ。
「へいへいへい飲んでるぅ?」
「あぁ、頂いてます。なんですか?これ。美味しいですね」
「日本酒」
ブフォッ!?
「なーにしてんのぉ、勿体ない」
「ごほっ、いや、未成年飲酒はダメでしょっ!?なんちゅうもん飲ましてんすか!え、女子寮でもそんな事してないっすよね!?妹、妹に犯罪を犯させる訳には・・・!」
「女子の事なんてどうでもいいだろー?心配しなくてもアイツらお堅いから多分大丈夫だよ。それより、男同士で、親睦を深めようぜ新入生君。名前は?」
何処か色気のある、ともすれば男子寮でなければ女の子かと思う程の先輩が脇腹を刺激しながらそう問いかけて来る、距離感近いなこの人。
「(あー、AF権蔵に目をつけられたか、アイツ(男として)終わったな)」
「(なんすかAF権蔵って)」
「(何も知らない新入生に優しく近付いて、ダンジョンダイブした後の興奮してる所を誘って受けに回るかと思わせといて思いっきり攻めに回って新入生泣かせるのが趣味なんだよアイツ)」
「(ひえっ)」
「俺はふ、・・・縁です。よろしくお願いします」
「よろしくね、ゆかり君か〜、女の子みたいな名前だね?(良い声で泣いてくれそうっ)」
ボソリと呟かれたその一言、聴力を落としている俺には届かなかったが、何故だか背筋が凍るような思いだった。
グイグイと勧められるがままにお酒を飲まされる、良くないとは思うが、周りのみんなも気にせずに飲んでいるしそういう場という事なのかもしれない。初めて飲んだが、日本酒がなんだか身体に合う感じもしてスルスルと飲めてしまうのが悪い。
「強いねー!僕も飲める方だと思ってたけど負けちゃいそう」
「この山崎って言う日本酒美味しいですね」
「それはウイスキーだけど・・・あ、それストレートで飲むやつじゃない・・・」
なんと、漢字のお酒は全部日本酒だと思っていた。
「え、ほんとに初めてお酒飲んだの?強過ぎない?」
「毒とかは効かない体質なので、そのせいやもしれません」
「そ、そうなんだ〜(なら、媚薬も効果薄いか)」
ぞくり