クラスの陰キャ美少女の弱みを握ったので、脅してエロいことをさせまくる! 作:真喜屋五木路
第一話、教室での猥談にご用心
「――と言う訳でだな、やっぱり弱みを握って女の子に言うことを聞かせるシチュって最高だと思うんだ」
「お前は朝っぱらから何を言ってるんだ、岩永」
浩人が登校して席に着くや否や、どこからともなく現れたそいつは、前の席を陣取って至極真面目な顔でそんなことを言い始めた。
「何言ってるんだ。思春期男子がエロを語るのに、朝も夜も関係ないだろ。ヒロトもそんなクール気取ってないで、もっと熱くなれよ!」
「嫌だよそんな不純すぎる熱血! というか某テニスプレイヤーに謝れ」
目の前にいるこの朝っぱらからエロに脳を支配された存在が、仮にも友人であることに少しだけ辟易する。
岩永――岩永徳光は浩人の数少ない友人の一人である。
同じ中学の出身であるこの男は、昔から地頭の回転が速く、勉強も学年トップ層常連。帰宅部ながら体育の授業では活躍を見せるうえ、ニヤリと歯をみせるカッコつけた笑みが本当にかっこいいという、頭脳、運動、容姿と三拍子揃った完璧な男であった。
だが玉に傷という言葉があるように、この男にも……いや、コイツの場合傷というより最早ひびが入ってると表現した方がいいかもしれない。それがこの、自分の欲望に忠実過ぎるというところだった。
「というか何の前置きもなくいきなりそんな事言われても、こっちだって同意も反論もできんわ」
「む、たしかにそれはそうだな。すまない、先走ってしまった」
こうやって素直に謝れるところとか、性格も悪くないんだけどなぁ……。話題が話題なことを除けば。
「という訳で、改めて女の子の弱みを握る――所謂『脅シチュ』の素晴らしさについて、具体例を交えながら語らせてもらおうじゃないか!」
いや『脅シチュ』ってなんだよ、上手いことかけたつもりか。
とはいえこの残念な変態は語り出したら、一区切りつくまで止まらない。付き合いが長い為、浩人もそれは重々承知している。
(それならいつも通り、少し落ち着くまで付き合ってやるか)
だが、今日こいつが語ろうとしている癖は、いつもの「ニーソとストッキングそれぞれの良さ」とか「胸よりも腰のでかさがエロさに繋がる」とかいう可愛らしい話題ではない。
――訂正する。普段も十二分に変態的な話題である。
しかし今日の話題はそれに輪をかけて変態的な欲望がにじみ出ていた。女子に聞かれたら「男子ってこれだから……」で済むレベルではない。最早声すらかけて貰えないレベルだ。
浩人はちらりと周囲を見渡して、教室内の様子を探る。幸いにして浩人の席は廊下側の端に位置していることもあり、警戒するのは左半分だけで十分だ。
教室内ではいくつかのグループがそれぞれ会話を楽しんでいて、いずれとも距離がある。こちらに視線を向けている人もいないし大丈夫だろう。
「――で? どう素晴らしいって言うんだよ、岩永」
「うむ、まず状況としては放課後、人も少なくなってきたころだ。そんな時間帯、用事を終わらせて教室に入ろうとする。するとドアの窓越しに、ちょっと可愛いぐらいの女子――といってもクラスのアイドルみたいに可愛すぎるのは駄目だ。このクラスでいうと藤崎くらい――」
「おいまてやめろ。実名はマズい。マジでやめろ」
変態的妄想にクラスメイトをさらっと巻きこもうとする岩永を慌てて止める。可愛すぎない女子として具体例にあげてるのもなかなかにひどい。
というかうっかり藤崎が名前を呼ばれたと勘違いしてこっちに来たら事故というレベルではすまない。幸いにして今回は聞こえる範囲にいなかったみたいだが。
まだ授業も始まっていないのに昼休みぐらいの疲労感を感じる。
「続けていいから、とにかく実名はやめろ」
「なら、クラスメイトのちょっと背伸びすれば付き合えそうなぐらい可愛い子としておこう」
そうか、お前にとってそういう相手なのか、藤崎さん。この変態性がなければ――或いはせめて、もう少し隠すなり押さえ込むなりの努力をしてれば余裕で付き合えそうな気もするのだが。
「そんな子が夕日に照らされ、橙に染まった教室に一人立っている。何をしているのか、と疑問に思いながらもドアを開けようとして、そこで気付くんだ。小さく喘ぎ声が聞こえることに」
岩永の語りに熱が籠っていく。
「よく見ればクラスメイトはスカートの裾を咥え、机の角に向かって熱く火照った秘所を擦りつけているんだ。俺は気付けば唾液を呑み込んでしまう」
とうとう妄想が加熱して主人公が岩永になった。
「もちろんその光景だけでも眼福だ。一週間は夜のオカズに困らないだろう。だがしかし、俺はもう一歩踏み込む。勇気を出して教室のドアを開け放つんだ」
「それは絶対に勇気ではない何かだろ」
浩人の突っ込みをスルーして変態は続ける。
「ガラッ――ドアの開く音に振り返る彼女。だが絶頂に向かって速度を早めていた腰の動きはもう止められない止まらない。誤魔化すこともできずにイってしまうんだ。勿論何をしていたかは明らか! だがそこで俺はあえて『何してるの?』と聞くんだ」
とうとう声を変え、手振りまで入れ始めた。
「『えっと、それは……』言い淀む女子! そこで『へぇ、オナニーしてたんだ』と事実を突きつける! 羞恥に顔を真っ赤にした彼女へと更に『そんなことする変態だってクラスのみんなが知ったら、きっと引かれるだろうね』と追撃!」
いや変態はお前じゃい。ついでにドン引いてるのは俺だ。
「そうなればもう後は向こうから『お願いします、何でもしますからどうかこのことは言わないで下さい』――で、後はその流れで一発ヤらせてもらうって感じよ」
「うわぁ」
「どうだ! この流れなら俺も童貞卒業できそうじゃないか!?」
「創作内での性癖じゃないのかよ! リアルと創作をごっちゃにするな!!」
思わず大きくなってしまった声に気づき、慌てて注意を集めてないか確認する浩人。幸いこちらに視線をむけているクラスメイトはおらず、大丈夫だったことに背もたれへ背中を預けなおす。
あんまりにもあんまりな妄想である。
というか、本当にモテたければそういうのを抑えろ、マジで。スペックだけは高いんだから。
「……で、今回は何に影響を受けたんだ?」
「ふっ、この間初の単行本が出た『もちもちぱんつ』先生のだな――」
「――もういい、分かった」
しかも参考元エロ漫画かよ。
「それで、どう思うよ?」
「あー……そうだな、まあエロ漫画を現実にもってくるなとか言いたいことは色々あるけど、お前が語った展開、穴だらけだぞ?」
「何ッ、俺の完璧なプランのどこに穴があるっていうんだ!」
「穴だらけだよ、先ず第一に。その状況で女子に叫ばれたら社会的に終わるのは俺達男の方だぞ?」
「……な、なんだと……ッ?」
劇画調みたいな顔になって衝撃を受ける岩永。
「考えてもみろ、女子の叫び声を聞いたとしよう。何があったんだと現場に駆けつけて、そこに男子と女子がいる。お前はその状況を前にしてどう考えるよ?」
「それは男子が何かしたと――そうか! くっ……予想外な方向からのトラップだ……っ!」
「いやそれぐらい想像しろよ。で、第二にだ。例え叫ばれなかったとしよう。そこで『何でもする』なんて都合のいいことを言ってくれるわけがないだろ?」
ショックを受けて、頭痛のひどい『考える人』みたいな姿勢だった岩永がこっちへ喰いかかってくる。
「待て、それは認められんぞ! よりによってオナニーを男子に見られたんだぞ? しかもそれを広められるなど耐えられるわけがない。俺はそうなったら何でも言うことを聞いてしまうぞ!?」
「ちょっとは声抑えろ。つーか、お前の場合は即警察送りだから安心しろ。じゃあ聞くけどな、お前俺が誰か女子が教室でそういうことをしてたんだぜ、って言ったら信じるか?」
「いや、こいつ変態を拗らせてついに白昼夢見始めたんだなとしか思わん」
「即答かよ……なんでそこは冷静なんだ。というか俺以上にお前の方が変態じゃい。……兎に角だ、そうなる事は女子の方でも予想がついてるだろうよ。だからせいぜい言われるとして『このことは誰にも言わないで』――とかその辺がオチだ」
「くっ、そんな……っ!? 俺の完璧な計画が……ッ」
……まさか冗談じゃなくて本気で考えていたのか? ショックを受ける岩永の様子に色んな意味で心配になってくるが、もうここまで言ってしまったのだから最後まで続けよう。
「それから三つ目、そもそもそんな状況存在するかよ。童貞の妄想でしかあり得んわ」
「ぐ、ぐああぁぁぁ――ッ! そこは一番指摘してはならんところだろうがッ――!!」
岩永はがくん、と糸の切れた人形みたいに浩人の机へと突っ伏した。涙とか鼻水とかそういうの塗れになるのでやめてほしい。
「というかそこの自覚あったんなら、それを元に童貞卒業計画とか練るなよ」
思わずそう突っ込むと、岩永はゆらりと幽鬼のように顔を上げた。
「ふ、ふふ……確かにそうだ……! 前提が現実的でないならその後の計画が完璧でも無意味……っ!」
「いや計画も穴だらけだったけどな」
「だが感謝するぞ我が親友! お前のおかげで目が覚めた。次こそは完璧な俺の童貞卒業計画を聞かせてやるから待ってろよ!」
「いや止めろ。そんなもの聞かせんでいい」
浩人の静止を聞いてか聞かずか、人差し指と中指でビッ、とカッコつけた敬礼を飛ばして、岩永は自分の席へと戻っていった。
(本当にそんなキザな真似が様になるんだから黙ればいいのに……)
まあそこが面白いヤツでもあるんだが。
今日だけで既に何度目か分からないそんなことを考えて、浩人は改めて岩永が語ったシチュエーションについて考えてみる。
「脅シチュ、ねぇ……」
それは結局のところ、精神的に抵抗できない女の子を好き勝手自分のいいなりにするということで――悔しいが、それに興奮を感じている自分がいることは否定できない。
嫌がろうが行動を強制できるということは、自分のどんな性癖も受け入れて貰えるということだ。
――いや、俺がヤバい性癖持ちというわけではないよ?
ただ、若干Sの傾向がある自覚はある。それは全ての女子に受け入れてもらえるものではないだろう。
(そうなんだよな、正直普通に恋人ができたとして付き合ってもらえるかというと怪しいんだよな。それだったら脅して言うことを聞かせるってのはある種理想形なのか……?)
だとすればどんな女の子ならいいだろうか。あんまり気が強そうだと弱みを握っても全力で抵抗されそうだ。可愛すぎるのは……ちょっとそこまでいくと現実感が薄くなるからパス。となると――
「――ちょっと地味めで気弱そうな子とか狙い目か……」
浩人が思わず岩永に毒されてそんなことを口走ってしまった矢先だった。
「ぁ、あの……っ!」
「うぉっ!?」
不意に背後から声を掛けられた浩人はビクッ、と振り向く。すると立っていた少女もびくっと肩を跳ねさせる。
「えっ、あ、あっ……び、びっくりさせてごめんなさい……」
「い、いや……俺が勝手に驚いただけだから謝らなくてもいいんだが……」
元はといえば変な想像をしていた為、過剰にびっくりしてしまったのが原因だ。
それなのに何度もぺこぺこ頭を下げる彼女を見ていると、浩人の方が申し訳なくなってくる。
「え、えー……それで、何か用事?」
「ぁ、はい。えっと、今日、日直ですよね?」
「え? あれ、今日だっけ? ――今日だったわ」
浩人が前の方へ向き直って黒板を見ると、たしかに日直の欄に自分の名前が描かれていた。隣には『来島日向』と書かれている。
「ということはもしかして来島さん?」
「は、はい、そうです」
彼女は何とも言えない、にへりとした笑みを浮かべて頷く。自然な笑顔を作ろうとしたものの、表情筋がついてこれなかった感じの表情だった。
日直ということはクラスメイトなのは間違いないのだが、あまり印象に残っていない女子だ。といってもそれも無理はないかもしれない。
この短時間話しただけでも、彼女がかなりコミュ障な陰の者だと分かってしまう。うちのクラスには目立つ奴も多いし、失礼ながら自己主張の弱そうな彼女が背景に埋もれてしまっても無理はない。
ついでに言うなら猫背気味で前髪が顔に、特に左目を隠すように覆いかぶさってるのもあって、そもそも顔が見えづらいというのも理由だろう。
まあだからと言って、会話が通じるなら日直の相方として困る訳でもないだろう。
「そっか、じゃあ今日はよろしく、来島さん。それで、用事って何? やっぱり日直関係?」
「は、はい……! その、先生から放課後頼みたいことがあるって……。それで、放課後教室に残って欲しいと……」
マジか、面倒臭い。
いっそ外せない用事があればバッくれることも考えるのだが、そうなると彼女一人に押し付けることになる訳で。それはちょっと忍びない。
だがそれはそれとして面倒臭いことに変わりはない。
そんな考えが渋い表情として顔に出てしまっていたのだろう。来島は申し訳なさそうに俯いた。
「そ、その……すいません」
「ああいや、ごめん。来島さんのせいじゃないから謝る必要なんてないって。愚痴を言うべきはナカセン――中崎先生に対してだし。むしろ教えてくれてありがとうな」
「そ、それなら良かったです……随分忙しそうだったので、邪魔するのもどうかなって待ってたんですけど、授業前に伝えられて……で、では放課後、よろしくお願いします」
「うん、じゃあまた後でな」
彼女はまるで電話越しにぺこぺこするサラリーマンみたいに何度も頭を下げながら自身の席へと戻っていって――うん? いやちょっと待て。さっきあの女子なんて言った?
『随分忙しそうだったので、邪魔するのもどうかなって待ってたんですけど』
…………。
浩人が朝、学校に来てからしてたことと言えば岩永との変態トークだけである。
(まさか、さっきのずっと聞かれてたって事か……っ!?)
さっき話した感じ、彼女から軽蔑しているような印象は受けなかった。
いや、もしや軽蔑を通り越して警戒されていた……?
だからあんなおどおどと挙動不審だったのか?
背筋へと冷たい汗が伝った。
もし、もし聞かれていたとしてだ。まだ何をするかは分からないものの、彼女と作業をしなくてはならないのは確定である。それも日直としての指名ということは恐らく二人きりの作業になる訳で。
(き、聞かれてたら気まずいなんてものじゃない……!)
今から放課後のことを考えると胃がキリキリと痛かった。
なんか1話目にして来島ちゃんより悪友(アホ)の方が出番多いのはかわいそうなので、本日21時にもう1話あげます! よろしくお願いします!