※この作品はR-18です。

読まれる日常   作:昼間寝音

1 / 22
【注意書き】
・東方Projectの二次創作で、主に地霊殿のキャラクターが登場します。
・主人公はいわゆるオリ主(男)です。
・ジャンルは官能小説になります。13話以降はエロ描写が多いので、ご注意ください。逆に言うとそれまではエロ皆無です。
・初めての執筆作品ですので、技術的に拙い点については、どうかご容赦ください。


まなざしのもとに
【第1頁:読まれる者、異邦より来たりて】


幻想郷——境界の向こうに広がる、忘れられた者たちの楽園。

人間と妖怪が奇妙な均衡を保ち、外界から隔絶された世界。

 

その奥深く、地底と呼ばれる場所がある。

かつて罪人が落とされた地獄の名残。今は地上からも忘れ去られた孤独な世界。

 

その荒廃した石畳を、あなたは歩いていた。

 

なぜ進むのか、どこから来てどこへ向かうのか、自分でも分からない。

そもそもここがどこなのかも知らない。

だが、歩みを止めるという選択肢だけは、思いつかなかった。

理屈では説明できない「どこかへ行かなくてはいけない」という感覚だけが、心にこびりついている。

 

湿った闇の中を進む。前方に微かな光の筋があった。

その先の遠景には、いくつもの巨大な影が揺れていた。

どれも異様な輪郭をしていたが、それが何なのか理解できなかった。

理解しようという思考すら、働いていなかった。

 

ただ一つ奇妙だったのは——

その影たちは、自分に目を向けることなく、黙って通り過ぎていったこと。

それを不自然だと考える余裕もない。ただ、足を前に出す。

 

理由は分からない。

しかし、この道は正しいと、なぜか確信していた。

まるで、無意識を操られているかのように——。

 

どれほど歩いただろうか。

 

崩れかけたアーチを抜けた先、紫陽花が群生していた。

青とも紫ともつかぬ花弁が、やわらかく光を反射する。まるで、薄明のなかに浮かぶ幻のように。

花々は熱気に抗うように、静かに、しかし凛として咲き誇っていた。

 

突然、足が止まる。

 

遠ざかっていた感覚が、溶けた鉄のようにゆっくりと意識の中に流れ込みはじめた。

鼻孔を刺す硫黄の匂い、皮膚を滑る汗の感触。

世界がだんだんと輪郭を取り戻していく。

 

ここは、どこ?

浮かび上がった疑問も、心に長くは留まらない。

本能的な危機感に一瞬息が詰まり、ひやりとした感覚が胸を突き抜ける。

誰かに、——見られている!

視界の端で、紫陽花の影が、わずかに揺れた。

 

その正体は一人の少女。

淡い水色の上着に、フリルの付いたスカート。胸元には、奇妙な球体が揺れていた。

表面はしっとりと濡れたように艶めき、まるで生き物の瞳のようにこちらを捉えている。

少女自身は、ただ静かに立っているだけ。

けれど、胸元のそれだけが、確かな意志を持って、沈黙の中でこちらを覗き込んでいた。

 

少女は、静かな声で言葉を落とした。

 

「……理解されたいと、願っているのね」

 

その声は、紫陽花の花弁のような柔らかさと、薔薇の棘のような鋭さを兼ね備えていた。

 

疑念が胸をざわめかせる。

(なぜ、この少女は知っている?)

 

だが、思考はまだ鈍く、恐怖という反応は浮かんでこなかった。

少女はさらに言葉を紡ぐ。

 

「理由も分からず、あなたは歩き続けてきた。自分でも説明できないまま」

 

『読心』などという非現実的な答えには思い至らない。

なぜか。この少女が、自分の心を言い当てている事実を、ただ受け入れるしかなかった。

そして、言葉が口をついて出た。

 

「……あなたは、誰ですか?」

 

震えのない声。恐怖でも敵意でもない。理解したいという真っ直ぐな問い。

少女は目を細め、わずかに驚いたように微笑した。

 

「古明地さとり。地底——かつて地獄だったこの場所で、私を知らぬ者は少ない」

 

しかし、その音が持つ意味を、正確に処理することはできない。

疲労。限界。喩えるならすり減った紐の最後の繊維が——

 

ぷつりと、切れた。

 

次の瞬間、鈍い振動が頭の中に響く。

全身に石畳からの熱が伝わってようやく、膝から崩れ落ちたのだと理解した。

 

最後の気力を振り絞って顔を上げると、紫陽花に囲まれた少女の姿が、ぼやけた視界に映る。

 

そこで、意識は手放された。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。