・東方Projectの二次創作で、主に地霊殿のキャラクターが登場します。
・主人公はいわゆるオリ主(男)です。
・ジャンルは官能小説になります。13話以降はエロ描写が多いので、ご注意ください。逆に言うとそれまではエロ皆無です。
・初めての執筆作品ですので、技術的に拙い点については、どうかご容赦ください。
【第1頁:読まれる者、異邦より来たりて】
幻想郷——境界の向こうに広がる、忘れられた者たちの楽園。
人間と妖怪が奇妙な均衡を保ち、外界から隔絶された世界。
その奥深く、地底と呼ばれる場所がある。
かつて罪人が落とされた地獄の名残。今は地上からも忘れ去られた孤独な世界。
その荒廃した石畳を、あなたは歩いていた。
なぜ進むのか、どこから来てどこへ向かうのか、自分でも分からない。
そもそもここがどこなのかも知らない。
だが、歩みを止めるという選択肢だけは、思いつかなかった。
理屈では説明できない「どこかへ行かなくてはいけない」という感覚だけが、心にこびりついている。
湿った闇の中を進む。前方に微かな光の筋があった。
その先の遠景には、いくつもの巨大な影が揺れていた。
どれも異様な輪郭をしていたが、それが何なのか理解できなかった。
理解しようという思考すら、働いていなかった。
ただ一つ奇妙だったのは——
その影たちは、自分に目を向けることなく、黙って通り過ぎていったこと。
それを不自然だと考える余裕もない。ただ、足を前に出す。
理由は分からない。
しかし、この道は正しいと、なぜか確信していた。
まるで、無意識を操られているかのように——。
どれほど歩いただろうか。
崩れかけたアーチを抜けた先、紫陽花が群生していた。
青とも紫ともつかぬ花弁が、やわらかく光を反射する。まるで、薄明のなかに浮かぶ幻のように。
花々は熱気に抗うように、静かに、しかし凛として咲き誇っていた。
突然、足が止まる。
遠ざかっていた感覚が、溶けた鉄のようにゆっくりと意識の中に流れ込みはじめた。
鼻孔を刺す硫黄の匂い、皮膚を滑る汗の感触。
世界がだんだんと輪郭を取り戻していく。
ここは、どこ?
浮かび上がった疑問も、心に長くは留まらない。
本能的な危機感に一瞬息が詰まり、ひやりとした感覚が胸を突き抜ける。
誰かに、——見られている!
視界の端で、紫陽花の影が、わずかに揺れた。
その正体は一人の少女。
淡い水色の上着に、フリルの付いたスカート。胸元には、奇妙な球体が揺れていた。
表面はしっとりと濡れたように艶めき、まるで生き物の瞳のようにこちらを捉えている。
少女自身は、ただ静かに立っているだけ。
けれど、胸元のそれだけが、確かな意志を持って、沈黙の中でこちらを覗き込んでいた。
少女は、静かな声で言葉を落とした。
「……理解されたいと、願っているのね」
その声は、紫陽花の花弁のような柔らかさと、薔薇の棘のような鋭さを兼ね備えていた。
疑念が胸をざわめかせる。
(なぜ、この少女は知っている?)
だが、思考はまだ鈍く、恐怖という反応は浮かんでこなかった。
少女はさらに言葉を紡ぐ。
「理由も分からず、あなたは歩き続けてきた。自分でも説明できないまま」
『読心』などという非現実的な答えには思い至らない。
なぜか。この少女が、自分の心を言い当てている事実を、ただ受け入れるしかなかった。
そして、言葉が口をついて出た。
「……あなたは、誰ですか?」
震えのない声。恐怖でも敵意でもない。理解したいという真っ直ぐな問い。
少女は目を細め、わずかに驚いたように微笑した。
「古明地さとり。地底——かつて地獄だったこの場所で、私を知らぬ者は少ない」
しかし、その音が持つ意味を、正確に処理することはできない。
疲労。限界。喩えるならすり減った紐の最後の繊維が——
ぷつりと、切れた。
次の瞬間、鈍い振動が頭の中に響く。
全身に石畳からの熱が伝わってようやく、膝から崩れ落ちたのだと理解した。
最後の気力を振り絞って顔を上げると、紫陽花に囲まれた少女の姿が、ぼやけた視界に映る。
そこで、意識は手放された。