※この作品はR-18です。

読まれる日常   作:昼間寝音

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【第16頁:“おはよう”の読まれ方】

カーテンの隙間から差し込んだ淡い光は、ベッドの帳に柔らかな帯を描いている。

 

掛け布団にはわずかな湿り気が残り、肌に触れるたび、微かに熱が蘇る。

枕元には甘やかな香りが残っていた。

指先に残る体温の名残が、朝の空気の中でゆっくりと冷えていく。

外の世界とは切り離されたこのベッドの天蓋が、ふたりだけの余韻を密やかに閉じ込めていた。

 

彼女は静かに眠っている。

その寝顔はあどけなく、まるで昨夜の姿が幻だったかのように——

けれど、それが紛れもなく現実だったことを、私は確かに覚えている。

 

その額にかかる紫陽花色の髪を、そっと指先で撫でた。

 

その動きに反応するように、彼女の瞼がゆっくりと開く。

 

「……おはよう」

 

まだ眠たげな声。

でも、胸元の第三の目は、すでに私の心を静かに読んでいた。

羞恥、安堵、そして、深い愛情——

 

「おはよう……さとり」

 

私も、そっと応じる。

 

さとりは布団の中で身体を起こし、少し照れくさそうに視線を逸らした。

 

「あなたと、こうして朝を迎えられるなんて……思ってもいなかったわ」

 

「これからも、毎朝迎えよう」

 

さとりの頬が淡く紅に染まる。

妖怪として、長い時を生きてきた彼女。

人間との、このような関係はきっと未体験で——でも、きっと心から望んでいたものだった。

 

……あの夜の温もりが、まだ皮膚の裏に滲んでいる。

繰り返し触れ合った肌の記憶が、熱のようにじんわりと残っている。

あのときのまなざしも、声も、すべてが静かに沈殿していて——

彼女の名前を呼んだ感触だけが、今も喉の奥にやさしく響いていた。

 

「……はい」

 

短く、けれど確かな返事。

 

そのとき——

 

「おはようございます、さとり様〜」

 

廊下の向こうから、陽気な声。

 

「朝食の用意ができてますよ?……あ、二人で食べるのかしら?」

 

お燐。

 

さとりは顔を真っ赤にして、小さくため息をつく。

 

「……またからかわれるわね」

 

私は笑いながら、彼女の手をもう一度握りしめた。

 

(いいさ。もう隠すことなんてないんだから。)

 

これからは、きっと毎朝こうして手を握るのだろう。

眠る前も、目覚めた後も、さとりの視線の中にいる。

心、身体、すべてを“読み、読まれること”が、日常になる。

それらを喜びに変えていく毎日——

その未来を思うだけで、胸の奥にじんわりと光が灯った。

 

さとりはうなずき、私たちは並んでベッドを抜け出す。

 

朝が、訪れていた。

それは、読まれることに怯えず、読まれることを望む——

そんなふたりの、新しい日常の始まりだった。

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