カーテンの隙間から差し込んだ淡い光は、ベッドの帳に柔らかな帯を描いている。
掛け布団にはわずかな湿り気が残り、肌に触れるたび、微かに熱が蘇る。
枕元には甘やかな香りが残っていた。
指先に残る体温の名残が、朝の空気の中でゆっくりと冷えていく。
外の世界とは切り離されたこのベッドの天蓋が、ふたりだけの余韻を密やかに閉じ込めていた。
彼女は静かに眠っている。
その寝顔はあどけなく、まるで昨夜の姿が幻だったかのように——
けれど、それが紛れもなく現実だったことを、私は確かに覚えている。
その額にかかる紫陽花色の髪を、そっと指先で撫でた。
その動きに反応するように、彼女の瞼がゆっくりと開く。
「……おはよう」
まだ眠たげな声。
でも、胸元の第三の目は、すでに私の心を静かに読んでいた。
羞恥、安堵、そして、深い愛情——
「おはよう……さとり」
私も、そっと応じる。
さとりは布団の中で身体を起こし、少し照れくさそうに視線を逸らした。
「あなたと、こうして朝を迎えられるなんて……思ってもいなかったわ」
「これからも、毎朝迎えよう」
さとりの頬が淡く紅に染まる。
妖怪として、長い時を生きてきた彼女。
人間との、このような関係はきっと未体験で——でも、きっと心から望んでいたものだった。
……あの夜の温もりが、まだ皮膚の裏に滲んでいる。
繰り返し触れ合った肌の記憶が、熱のようにじんわりと残っている。
あのときのまなざしも、声も、すべてが静かに沈殿していて——
彼女の名前を呼んだ感触だけが、今も喉の奥にやさしく響いていた。
「……はい」
短く、けれど確かな返事。
そのとき——
「おはようございます、さとり様〜」
廊下の向こうから、陽気な声。
「朝食の用意ができてますよ?……あ、二人で食べるのかしら?」
お燐。
さとりは顔を真っ赤にして、小さくため息をつく。
「……またからかわれるわね」
私は笑いながら、彼女の手をもう一度握りしめた。
(いいさ。もう隠すことなんてないんだから。)
これからは、きっと毎朝こうして手を握るのだろう。
眠る前も、目覚めた後も、さとりの視線の中にいる。
心、身体、すべてを“読み、読まれること”が、日常になる。
それらを喜びに変えていく毎日——
その未来を思うだけで、胸の奥にじんわりと光が灯った。
さとりはうなずき、私たちは並んでベッドを抜け出す。
朝が、訪れていた。
それは、読まれることに怯えず、読まれることを望む——
そんなふたりの、新しい日常の始まりだった。