あたいはすぐに地霊殿を飛び出した。
地底の岩道を、つま先だけで歩く。
歩くほどに、空気はじっとりと肌にまとわりつくようになり、息が詰まりそうになる。
いつもならへっちゃらなのに。
いくらここが灼熱地獄の名残りといっても、あたい、火車だぞ。
岩の奥底から、湿り気を帯びた熱がじわじわと伝わってくる。
それが、身体の芯を、ゆっくりと、だが確実に温めていく。
汗が首筋を這い、耳の裏に張り付いた。
腰の奥が、鈍く重くなる。
足の付け根から、じわじわと疼きがせり上がってくる。
尻尾が自然と巻きつくように揺れる。
胸がせり上がり、息が、熱を含み始める。
「……もう……」
焦りではない。
けれど、どこか破れかぶれのような気分だった。
こんなふうに、発情の衝動に振り回されるなんて、何年ぶりだろう。
そして、見つけた。
岩壁のくぼみ——大きな岩が庇のように張り出していて、奥まった影ができている。
誰の気配もない。
あたいは、その岩陰に身を滑り込ませた。
うずくまって、しばらく目を閉じる。
だが、鼓動が止まらない。
息が浅く、そして速くなる。
尻尾の根元がむず痒く、腰の内側がじんじんと疼く。
「……ここなら、誰にも……」
ささやくように言ってから、ワンピースの裾を、そっと持ち上げた。
「……はぁ……っ……」
誰にも聞かれていないはずの吐息が、自分の耳にさえ艶めいて聞こえる。
ショーツの上から、そっと指を添えた。
「……や……あっ……」
そこはすでに、濡れていた。
ショーツの布地越しに指先をなぞると、ぬるんとした感触が伝わってくる。
指の腹で円を描くように撫でるたび、腰がぴくりと跳ねた。
「はぁ……ばかみたい……こんなの、ひとりで……」
ぼやく声は、誰に向けたものでもない。
けれど止まらなかった。止められなかった。
おまんこが、熱い。
ショーツが擦れるたび、粘ついた感触がまとわりついて、肌の奥をくすぐってくる。
「んっ……ふぅ……」
身体が勝手に震える。
耳が熱い。尾が、無意識に揺れている。
岩陰に充満する、メスの匂い。
あたいは、ショーツの上からさらに強く押し当てた。
ちゅ、という音が布地を通して響いた。
「……だめ、ほんとに、やば……」
震える脚。尻尾の根元から火がついたような熱。
でも、まだ。こんなんじゃ全然足りない。
この熱は、もっと深いところから来ている。
そんな気がしていた。
あたいは、ごくりと喉を鳴らした。
そして、震える指でショーツの端をそっと引いた——
やがて足先から脱ぎ捨てると、むわりとしたものが太腿の内側に溜まる。
あたいは四つん這いになり、両肘を地面に突く。
尾が自然に持ち上がる。腰が、自分の意志とは無関係にくねる。
これは“交尾の姿勢”——本能だ。
猫の、名残。
妖怪になってからは抑えられていたはずの衝動が、灼熱の中でじりじりと暴れ出す。
「っ……ふ、うぁ……」
中指が、おまんこの割れ目を割く。
熱を帯びた粘膜が、ぬるりと歓迎する。
少しだけ差し入れると、きゅっと反応し、なかに引き込もうとする。
「うそ……こんなに……」
中指に、薬指も添える。
背筋がぞくぞくと痺れて、腰が勝手に前後に揺れ始める。
自分で、自分を突きながら、おまんこの内側を擦るように動かすたび、じゅぷ、じゅぷと濡れた音が狭い空間に響いた。
「あ……やば……ふっ、ん、んんっ……!」
岩に手をついたまま、腰が小さく跳ねる。
尾が痙攣するように左右に揺れ、全身が発情の震えに包まれていく。
「もう、だめ……止まんない……っ」
喉が鳴る。
猫のように、ふぐふぐと息が漏れる。
目尻には、もう潤みが滲んでいた。
動きを止めたくなかった。
「気持ち……いい……もっと……っ♡」
腰の奥が熱い。おまんこの内壁が、指を待っていたみたいに収縮する。
その感触に、指がさらに深く潜っていく。
理屈も羞恥も、岩の奥に流れ落ちていった。
今この瞬間、あたいの身体は、ただ“満たされる”ことを欲していた。
自分の指で。自分の腰で。
自分の快楽で、身体の奥を掻き混ぜながら——
あたいは、猫のように甘く、ひとり、身を揺らし続けた。
っ♡……ふ、あっ、あぁっ♡
んっ……やぁっ……くちゅ、ぢゅっ♡……あっ……♡
ぅ……ふぅっ♡……ん、んんっ♡……!
ひっ……ここ、いい……んぅ♡……やだ、はっ……
ずぷっ……じゅぷ♡……じゅちゅ、ぬぷっ♡……ぁぁ……♡
ぅ、うあっ……ふっ♡……あ、あ♡……も、むり……
とまん、ない……とまんないのぉ……♡
きもち、いっ……あっ、あ♡♡……
ぬちゅ、ぬちゅっ♡……くちゅ、ずちゅ……♡……♡
ふぁぁっ……は、はぁ……っ、んんっ♡……あぁ……っ♡
ひゃっ……ふ、ひぅっ♡……ぴくっ、ぴくぅ♡……♡
だめ……もう、なか、ぐちゃぐちゃで……♡
じゅっ……ちゅっ……♡ん、あっ♡……
ふぐっ……ふぁ……やぁ、もう……むりぃ……♡
ぴちゃ、ぴちゃ……ずぶっ、ぬぷっ♡……♡
とろけちゃう……あたい、……とろ、とろになって……♡
もっと……もっとほしい……♡
かきまわして……なか、もっと、かきまわしてぇ……♡♡
いっちゃう……いっちゃ……♡♡♡
びくっ……!
その瞬間、尾が高く跳ねた。
背中が反り、指の奥で膣がぐぐっと締めつける。
脳の奥まで焼けるような閃光が走り、思考が白く弾け飛んだ。
「ひっ……くぁ、あぁあっ♡……ッ!!」
腰が勝手に跳ねる。
おまんこが脈打ち、指を呑み込んで離さない。
何度も何度も痙攣しながら、熱い蜜をあふれさせる。
「やっ……んんっ、あぁ……♡」
絶頂の波が引かない。
しばらく、ただ四つん這いのまま、肩で息をしていた。
汗と蜜で濡れた太腿が震えて、尻尾は先だけがかすかに揺れていた。
ふと、指を抜いたとき——
ぬちゅ、といやらしい音がして、
その拍子に、とろりと透明な雫が太腿を伝って落ちた。
その雫を、目で追った。
そして——
なぜか、涙がこぼれた。
ぽろり、と一滴。
それは、発情や快楽とはまるで無縁の、
もっと深くて、説明のつかないものだった。
「……なんで……こんな……」
ただの本能。
ただの処理。
……なのに、どうして、こんなに苦しいのかな。
その問いに答える声は、どこにも——
ぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱる……
どこにも——?
岩壁の奥から、無数の呟きが這い寄ってくるような気配だった。
低く、湿っていて、いびつな響き。
それはまるで何十もの声が同時に喉を震わせ、同じ呪詛を唱えているかのような——
「な、なに……っ……?」
あたいは尻尾の毛を逆立て、反射的に後退る。
その直後、ぎらりと光る“ふたつ”の目。
深い、深い緑。
その眼差しが、あたいの全身を貫いた。
「ぎにゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
思わず絶叫した。
腰が抜け、尻餅をつきそうになるのを、どうにか爪で踏ん張る。
そのまま、ばふっと音を立てて——
あたいの身体が変じた。
漆黒の毛並みに、二又に裂けた尾。
耳は鋭く尖り、背中がぐぐっと丸くなる。
本能的に「化け猫」としての姿へと戻っていた。
だが、音は止まない。
ぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱる……
その呪詛の渦の中から、ひとつの影が、ぬるりと這い出してきた。
「驚かせたなら、ごめんなさいね。
でも——覗き見てたわけじゃないのよ?」
音が止んだ。
影の中から現れたのは、金髪を編み込んだ女。
尖った耳と、白地に緑の模様が施された衣。
水橋パルスィ。
嫉妬心を操る程度の能力を持つ、橋姫の妖怪。
その目は、淫らなものを見たときの興味ではなく、
“感情の裂け目”を嗅ぎつけた者の目をしていた。
「見てないわよ。……あの、腰を振ってたところは」
「ぎにゃっ……! い、い、い、言うにゃぁあああっ!!」
あたいは耳を塞ぐように前足をばたつかせた。
だが、パルスィは笑わない。
むしろ、しんとした口元のまま、視線を逸らさずに告げる。
「でも、感じたわ。
その奥にあったもの。
——ねえ。あなた、誰かに“嫉妬”してるでしょ?」
言葉の刃が胸に突き刺さる。
ぱるぱる、という音はもう消えていた。
今そこにあるのは、ただひとつの力——
感情の毒を喰らい、生きる者の、無慈悲な洞察。
「本当は、羨ましくてたまらなかったんでしょ?」
「……ちがっ、そんなんじゃ……!」
「ふうん?」
パルスィは、ニィィと口元を歪めた。
その表情には感情を煽る毒がたっぷりと盛られている。
「ずるいと思ったんでしょお」
「や、やめ……言わにゃいで……!」
「止めてあげるわよ?
その代わり……その気持ち、私にもちょうだい?」
あたいは息を呑んだ。
「羨望でも、屈辱でもいい。
あなたのその黒い感情、わたしが……もらってあげる。
きっと楽になるわよ?」
その声は、まるで甘い飴玉。
けれど口に含めば、必ず喉の奥を焼く毒になる。
地底の闇に、ふたつの影が重なる。
ひとりは化け猫、羞恥と発情の余韻に濡れたまま。
ひとりは橋姫、妬み嫉みを知り尽くした眼差しで、感情の“裂け目”を食べようとする。
物語は、ここから新たな火種を孕んでいく——。