抜きゲーみたいな島に住んでいる狂犬はどうすればいいんだ? 作:神剣狩刃
明くる日の昼休み、あーしはBIG4から性帝サマが性帝になった経緯を説明することになった。あーしは麻沙音から何があったのかの全てを聞いている。故に、性帝サマの想像を超えた話をしかねない。
卵
「……表面と裏面、どっちから聞きたい?」
淳之介
「裏面から始めることはないだろう。表面から頼む」
性帝サマは麻沙音の安全を確保するために会長サマに自分のちんこを売った。その結果、大多数のSSが喘ぎよがり狂い性帝と崇め奉るようになった。そして今のSSは学徒の集団でありながら、SHOが睨みを利かせるほどの組織になった。
冷泉院
「……私も自分が同じ環境になれば、きっと同じことをしたでしょう」
卵
「ちなみにあーしは性帝サマと生産行為をしていない唯一の人間だ。故に『中立のSS』とも言われている」
糺川
「誰の意見にも従わず自分本位に動くから、ある意味中立だとは思うが……」
女部田
「『中指立のSS』の間違いじゃないかなあ?」
淳之介
「アサちゃんじゃないからやらない……とは言い切れませんね。卵ちゃんも大分治安悪いですし」
こいつ等好き勝手言いやがるな。中指を立てて表面の話を切り上げる。
卵
「さて、裏面の話なんだが……夜に大浴場で話す。今ここで話したら間違いなく性帝サマがまともに動かなくなる。勿論、悪い意味で」
淳之介
「この世界で何をしたんだ俺は……?」
糺川
「少なくともこの島にはいられる範疇の出来事だとは思うが……もしかしてデカチンジャーの怪人役に抜擢されたとか?」
女部田
「それでまともに動かなくなるのレイちゃんと精くんだけでしょ。しかも、悪い意味じゃなくて良い意味で」
冷泉院
「今ここで私が知ってしまうというのもありますが……どうですか、土口さん?」
卵
「お断りだ。あーしは好きな女以外とはキスしねえ」
あーしは会長サマが大っ嫌いだ。あーしでも勝てねえしキスやセックスで簡単に人を知りやがる。理解のためのコミュニケーションといいながら、あーしや麻沙音や水引の事を理解しようともしない。そんな奴とキスをするぐらいなら、廊下に飛び散った精液や愛液を啜った方がましだ。
夜の大浴場、BIG4の会議に合流する形であーしが参戦する。ハメドリくんなる存在がどうのと言っていた。何でも性帝サマの世界での青藍島のマスコットらしい。中隊長サマが泡で鏡に描いてくれた。
女部田
「どうかな卵ちゃん? 見覚えある?」
このデザインは────
卵
「あ────…………オブラートに包んで言わせてもらうが、悪くないデザインだな」
素直な意見を寸前で言い換える。危なかった。
淳之介
「無理に良く言おうとしなくていいよ。卵ちゃんからしたら知らないデザインのはずだし」
糺川
「そもそもハメドリくんの話をしたいのではないのだろう?」
冷泉院
「土口さん、私たちの世界では生徒会副会長がハメドリくんをやっていました。この理論でいくと、私たちの世界の副会長が反交尾勢力のリーダーになっているはずです。ですが……思い出せない、というよりはこの世界の記憶に上書きされつつあるようで……」
平行世界への転移などあーしの管轄外だから分からないが、そういうこともあるのだろう。そうするといつの日か兄貴はあーしとの思い出を取り戻して、本来の兄貴の記憶を持った優しい兄貴になるだろう。それはとても嬉しい話だ。だが、手放しに喜んでいいものかは分からない。
卵
「だとしたら……あーしが性帝サマの世界の影響を受ける可能性もあるな?」
冷泉院
「それは否定できませんね……最悪の場合、命の危険があるかもしれません」
性帝サマの世界ではあーしは死んでいる。そっちの世界の影響を受けてあーしが死ぬ、というのはあってもおかしくない。リゾットで盛大に咽たり、浴槽内で足を滑らせて転んだりと、すでに起きているかもしれない。護身のために何か欲しいところだ。あとで麻沙音にちょっと相談してみるか。
卵
「って、そうだよ! 麻沙音の件について話に来たんだよあーしは!」
危うくあーしが足を運んだ理由を忘れる所だった。
淳之介
「アサちゃんの件? 裏面事情がどうとかじゃないのか?」
性帝サマの裏面事情にも麻沙音が深く関わっている。あくまで麻沙音から聞いた話だ、と前置きを置かせてもらう。麻沙音がこの件で嘘を言っているとは思えないが、その凄惨さから多少過剰に表現されている可能性があるからだ。
卵
「端的に言って────性帝サマは麻沙音を見捨てたんだ」
事故で両親を失った性帝サマは追い詰められていた。だからSSに自分を売ると判断したのだが、麻沙音はそれを必死に止めた。麻沙音としては兄と一緒に居られればそれだけでよかった。なのに性帝サマは麻沙音を突き放した。自分にとっての足枷だと、お前の世話はうんざりだと────お前なんて妹じゃないと、おまえは邪魔なんだと。
卵
「……そのことを聞いてからあーしは性帝サマのことが心底嫌いになった。麻沙音のたった一人の家族なのに、理解者なのに、支えだったのに突き放したからだ。同じ同性愛者として、同じ妹として……その辛さはよく分かった」
だからあーしは麻沙音に手を差し伸べた。兄の代わりになったかは分からないが、良き理解者になり、支えになったつもりだ。
卵
「…………そこの性帝サマからは想像できないだろ? でも、実際に起きたことなんだ。だから麻沙音は学校に来ないし、あーしが面倒を見ている、といいたいが……無理な時は片桐っていうビッチにも面倒を見てもらっている」
勿論今の性帝サマが悪い訳ではない。この世界の性帝サマが悪いのだ。しかし、麻沙音にそれが分かるかどうかは分からない。
卵
「だから、性帝サマは麻沙音に会わない方が良い」
淳之介
「…………それでも、アサちゃんに会いたい。アサちゃんに会って色々話しがしたい」
性帝サマの目は確かだ。だからこそ麻沙音に会うことを勧めたくない。麻沙音が性帝サマに会えばどんな反応をするか簡単に想像できる。取り付く島もなく、嫌悪と忌避で対応されるだろう。
卵
「…………今の麻沙音だったら、『お前なんか兄じゃない』ぐらい平気で言うと思うぞ。性帝サマのシスコンぶりからいって、立ち直れなくなるんじゃねえか?」
女部田
「確かにダーリンは麻沙音ちゃんがいないと心が安定しないんだよね」
冷泉院
「いつだったか忘れてしまいましたが、アサちゃんが1人、アサちゃんが2人と寝言で言っていましたからね」
糺川
「戦闘道具も麻沙音の力がないと開発できないと言っていたな」
麻沙音のプログラミング技術は中々のものだ。あーしが何ヶ月かかけてやっと我が物に出来た技術を、たった数日でマスターベーションするからすごい。あーしの反交尾勢力としてのの戦闘補助具も麻沙音がいないと本領を発揮しない。
卵
「性帝サマを根本から支える麻沙音からの拒絶……真正面から受けて耐えられるなら会わせてやってもいい」
淳之介
「…………想像しただけで冷や汗が止まらないな。しばらく考えさせてくれ……」
流石に性帝サマもすぐに決断することはできなかったようだ。あーしも麻沙音にショックを与えないように準備したかったからちょうどよかった。
卵
「……とりあえず裏面事情はこんな所か。あーしが話せる範囲で協力できそうだったら惜しみなく協力する。手前等からの好感度稼ぎのためにな」
女部田
「もっと良い言い方はないの~? イク達はもっと卵ちゃんと仲良くなりたいよ~」
冷泉院
「いくら中身が変わったと言え、不倶戴天の仇とその配下と仲良くなるにはそれなりに時間が必要でしょう」
糺川
「だったら卵の好きな物でも聞こうじゃないか。私達はそこまで卵のことを知っているわけじゃないしな」
淳之介
「ツナ缶のチャーハンが好きなんだっけ? 一回振舞ってくれたけどおいしかったなあ……」
子供の頃に兄貴が作ってくれたアレか。テストでいい点とったらココアと一緒にねだっていた記憶がある。
糺川
「デカチンジャーは好きじゃないのか?」
卵
「いい作品なのは認めるが、特撮は子供の頃に卒業したんでな。メカニックの
女部田
「好きなプレイは?」
卵
「顔面騎乗。するのもされるのも両方とも好きだ。もっとも、出来る相手は限られているがな」
冷泉院
「好きな人はいますか?」
卵
「いる。誰かは想像に任せる」
淳之介
「アサちゃん?」
卵
「話聞いてたか?」
あれやこれやと質問攻めされ、それなりの時間が経った。のぼせる前にここから出よう。今日は無事に浴槽から出られた。帰って兄貴の飯が食いたいな。
あーしが夜道を歩く場合、気を付けるのは相手の方だ。あーしの機嫌を損ねると高確率で暴言か暴力が飛んでくるからだ。故に、あーしの夜道は安全だ。道中で兄貴に電話をする。
卵
「もしもし、あーしだ」
精
『そろそろ晩飯の時間か。ニノマエや光姫さんへの説得も終わったから向かうよ。何食べたい?』
卵
「……あのチャーハンが食いてえ」
精
『分かった。材料は家にあるか? なかったらコンビニで調達してくるが……』
卵
「ツナ缶はいいタンパク質だから常備している。卵も同様の理由だ。米は昨日炊いた奴が残ってる」
精
『よし、それじゃあすぐ向かうよ』
家に帰って兄貴と合流し一緒に夕食を作る。相変わらず兄貴は泣きながら料理を作っている。今切っているのは玉ねぎではなくただののネギだ。
卵
「……幸せか兄貴?」
精
「ああ……お前と過ごすこういう日常が……俺の世界じゃあっというまに奪われたんだ……」
この兄貴は交通事故であーしとパパとママを失った。家族との何気ない日常というのは失ってやっと気付けるものだ。あーしもパパとママを失った。両手からすり抜け、二度と戻らない、その喪失感がよく分かる。この兄貴の場合はあーしだけは戻って来たからその喜びは計り知れないものだろう。
卵
「兄貴が幸せなら……あーしは嬉しい。でも、ネギが微塵じゃ済まないぐらい細かくなってるのは嬉しくない」
精
「これは……ネギ油用に使うか……チャーハンにあとがけすると凄いぞ……めっちゃクオリティが上がる……」
兄貴はフライパンに油をひいてネギを入れて熱し始めた。よくリカバリーできたな。兄貴に負けないように具材を切っていく。あーしも玉ねぎが滲みて涙が出てきた。
卵
「飴色に炒めた玉ねぎは……なんだっけ……」
精
「それやるのはカレーの時だ……そのカレーもいつか作ってやるからな……」
兄妹で涙にまみれながらツナチャーハンを作っていく。出来たチャーハンをデカいお玉でよそっていく。兄貴の手際が良すぎる。一人暮らしの自炊生活の賜物だろうか。
精
「お待たせしました……『思い出のツナチャーハン』です……スープはインスタントワカメスープで楽させてくれ……心が持たない……」
いただきますをしてチャーハンを口に運ぶ。ツナのしっとりと玉ねぎのシャキシャキが見事に合っている。ねぎ油の香ばしさと夜中のチャーハンという背徳感が美味さをよりハイレベルにしている。かなりサイコーだ。ガツガツと食べ進めてしまう。
卵
「すっげえ美味いよ兄貴。リクエストしてよかった」
精
「よかった……なら、俺の分も食ってくれ……俺は泣いてそれどころじゃないから……」
言葉に甘えて兄貴の分も頂く。二皿目もぺろりと頂けるおいしさだ。流石に洗い物はあーしがやると言ったら兄貴はより一層激しく泣いた。ワカメスープ二杯で泣いた分を補給できるのだろうか。しばらくはあーしはいい食事ができそうだが、兄貴はまともに食事ができるのだろうか。