※この作品はR-18です。

抜きゲーみたいな島に住んでいる狂犬はどうすればいいんだ?   作:神剣狩刃

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6-16 オホれ快抱

 海に落としてしまったミルクティーは戻ってこないので新しいミルクティーを買ってもらった。今度は熱いと分かっていたのでしっかり受け止めれた。冷えた体と心にミルクのコクと華やかな紅茶の香りがじんわりと広がっていく。

 

 ニノマエ

「さて、流石に話をしてもらうよお? 寮で何があったんだい?」

 糺川

「……精が、私のことを忘れてしまったんです」

 

 私はニノマエさんにすべて打ち明けた。精が私を忘れた事、それが受け止められなくて思わず精をビンタしてしまった事、全てが嫌になって逃げだした事、辛くて崖から飛ぼうとした事。ニノマエさんはいつもと違い真剣な態度で頷きながら聞いてくれた。

 

 ニノマエ

「それは大変だったね……辛かったよね……よしよし……」

 

 ニノマエさんが私の頭を撫でる。意外と鍛えてあるのかゴツっとした手だったがすごく優しくて暖かかった。ホットミルクティーを持っていたからではなく、ニノマエさんの本質的な優しさがそう感じさせるのだろう。

 

 ニノマエ

「同じく記憶をなくしている余からのアドヴァイスだけど……人間は本当に大切なものを忘れることはできないと思うんだ」

 糺川

「……ニノマエさんにも大切なものがあるんですか?」

 ニノマエ

「寝てる時に見る夢って、日中の記憶や感情を整理しているって説があるんだ。余には感情はあるけど記憶はない。だから、さっき言った女の子を助ける夢なんて見るわけがないんだ」

 

 夢の中で助けているからもう一度助けたいと言っていた。としたら、女の子を助けたという記憶がニノマエさんの無意識に刻まれているのだろう。

 

 ニノマエ

「それにさっきの『余のためにやりたいようにやらせてもらう』って言葉も、余の中に漠然と残っていたんだよね。よっぽど大切な言葉なんだと思う。例えば、その言葉で女の子を救ったとか」

 

 ニノマエさんの過去が少し気になった。当のニノマエさんはもっと気になり知りたいと思っているだろう。だからニノマエさんの行動のほとんどは自分の過去を知るためなのだろう。私や精や卵がきっかけになるかどうかは分からないが、自分の心の赴くままに動くというのは悪くないのかもしれない。

 

 ニノマエ

「とにかく余が言いたいのは、精くんにとって礼ちゃんが本当に大切なら完全に忘れる事なんてできない。すごく凄く奥にしまい込んだオモチャみたいに取り出せないだけだよ」

 糺川

「ふふっ、それは確かに取り出しにくいですね……」

 

 精が勝手に部屋の整理をして、私の特撮グッズを変な所にしまわれたのを思い出す。あの時は追求しなかったが、いまになって思い出すとちょっと怒りたくなってきた。

 

 ニノマエ

「さて、そろそろ寒くなって来たし帰ろうかなあ。流石に全身タイツにバタフライマスクじゃ夜長の秋は厳しいやあ」

 糺川

「……そうですね。冷静になったら私は濡れた裸ですから、早く帰らないと風邪ひいちゃいますね」

 

 裸で人と話しているのに恥ずかしさは一つもなく、むしろスッキリと晴れ晴れとした気分だった。

 

 ニノマエ

「それじゃあ、シーユーネクストタイム、ハバナイスデー」

 

 ニノマエさんが空き缶二つを持って歩いていった。

 

 糺川

「……私も私(・)の(・)た(・)め(・)に(・)『やりたいようにやる』か」

 

 かつて精は自分を見失ったが、皆のおかげで精を取り戻せた。今回も精を取り戻す。リターン・フロム・リンボだ。

 

 

 寮の扉を開けるとBIG4と卵が出迎えてくれた。真っ先に郁子が私に抱き着いてきた。

 

 女部田

「レイちゃん! 帰って来たんだね! 心配したよ~!」

 糺川

「ああ、心配をかけてすまなかったな」

 冷泉院

「その顔を見るに……私たちの杞憂だったということですね」

 糺川

「詳しくは後で話しますが……少し危険でしたね」

 卵

「兄貴が迷惑をかけた……代わりになるか分からねえが謝らせてくれ、すまなかった」

 糺川

「卵も精も悪くない。私が弱かったのがいけないんだ」

 淳之介

「……その、まずは服を着てくれると嬉しいです」

 糺川

「ああ、そうだな。でもその前にもう一回風呂に入りたいな」

 

 ということでもう一度皆で入浴する。そこで何があったかを、そして私の目標を話す。

 

 糺川

「私は精を取り戻す。デカチンジャーが好きで、スイーツやココア作りが上手で、私を幸せにすると約束した、私の大好きな精を取り戻す」

 

 湯船の中で固く拳を握り締める。涙も震えも止まり、冷え切った体の内側からほとばしるような心の熱が広がっていく。

 

 卵

「…………風紀委員長サマ、いや、糺川礼先輩。あーしに協力させて欲しい、いや、させて下さい」

 

 卵が頭を下げて頼み込んできた。緑髪が湯船に浸かり濡れるのも厭わずに、敬語交じりで言ってきたから本気なのだろう。

 

 卵

「あーしも……あんなヤバい兄貴は嫌だ。優しい兄貴に戻ってほしい。だから……協力させてください」

 

 私は皆の顔を見る。私が良いならそれ以上言うつもりはないと頷いてくれた。私は卵に右手を差し出す。

 

 糺川

「もちろんだ。一緒に精を取り戻そう」

 卵

「…………ありがとうございます。礼先輩」

 

 卵がぎゅっと私の手を握る。意外と力が強くちょっと痛かったが、確かな覚悟の表れだろうと強く握り返す。卵がにっと笑ったところで今後の方針について話し合う。どうすれば精を取り戻せるか、それぞれアイディアを出す。

 

 女部田

「レイちゃんとエッチしたら戻るんじゃない?」

 冷泉院

「デカチンジャーの一気見はどうでしょうか?」

 淳之介

「ギャルになった糺川先輩を見れば一発でしょう」

 卵

「本気で考えてそれだったら手前等の頭の中洗ってやろうか?」

 糺川

「落ち着け卵、橘以外は本気じゃないと思う……多分」

 女部田

「だったら卵ちゃんのアイディアを聞かせてよ~」

 

 卵が溜息をついて頭を掻きながら答える。

 

 卵

「今の兄貴はあーしを守るために強くなろうとしている。兄貴の中ではあーしは弱いままで、兄貴が強くならなきゃあーしが死ぬと思っている。だから……兄貴よりも強くなって、兄貴の力が必要ないと思わせればいい」

 冷泉院

「悪くない案ですが……実現可能でしょうか?」

 

 また卵が頭を掻いてばつが悪そうに吐き出す。

 

 卵

「ガラスの天井なんて言い訳に過ぎないが、あーしは女で兄貴は男、しかも兄貴の方が一年分は多く鍛えられている……身体能力的な面は厳しい。技術の部分で攻めるしかないな」

 淳之介

「技術か……卵ちゃんの世界の精になっているってことは、BIG3由来の技術は失われていると考えていいな」

 

 そうなれば、私の教えたSQCや銃撃はSHOの戦闘部で習得しているだろう。しかし、郁子の寝技や太刀捌き、桐香様の羅漢銭や糸の扱いは警戒しなくていい。では、卵の持っている技術は何か。一度拳を交えているからすぐに思い出せた。

 

 糺川

「卵はかなり誘導がうまかったな。あれはどうやっているんだ?」

 卵

「詳しいタネは明かせないが……心の動きを読んでいると思ってほしい」

 

 読心術の類とのことで、人の動きから生じる僅かな心の変化を直感で瞬時に判断し、反射的に動いているのだという。

 

 卵

「応用すれば人の弱み、分かりやすく言えばコンプレックスを暴くこともできる。折角だから……いつも人の心を読んでる会長サマのコンプを暴いてやるか」

 冷泉院

「いつも読んでいるわけではありませんが……面白そうですね。やってみてください」

 

 卵が桐香様に近づいて顔を凝視する。あるいはガンを飛ばしているのかもしれない。

 

 

 卵

「会長サマのコンプは顔に関係するものか?」

 冷泉院

「いいえ、違います」

 卵

「じゃあ、そのぺったんこな胸か?」

 冷泉院

「はい、そうです」

 卵

「それとも、下半身に関係するものか?」

 冷泉院

「いいえ、違います」

 卵

「成程、下半身関連か。脚か?」

 冷泉院

「いいえ、違います」

 卵

「まんこか?」

 冷泉院

「いいえ、違います」

 卵

「尻か?」

 冷泉院

「はい、そうです」

 卵

「腰か?」

 冷泉院

「いいえ、違います」

 卵

「成程、尻か。さしずめそのデカケツって所か? 自分の力で階段昇れ」

 

 全員で桐香様の顔を見る。心なしか下唇を噛んでいるような気がする。

 

 冷泉院

「なるほど……これが心を読まれる感覚なのですね……お見事です」

 女部田

「えっ、当たってるの!? じゃあ今度はイクにやってみて!」

 卵

「その処理しないでボーボーに荒れ伸びた陰毛みてえなくせっ毛か?」

 

 その悪意のある言い方は最初から知っていたのだろう。見事一発目で大当たりだ。

 

 女部田

「殺すよ?」

 淳之介

「少しは隠してくださいよ……」

 卵

「……相当気に触ってみてえだな。悪かった。でも、他にもあるな?」

 女部田

「まあ、髪の毛のことは一番隊なら知ってて当然だからね……他には思い当たる節はないケド?」

 卵

「いや、ある。さっきの礼先輩への態度を見るに、寂しがり屋だろ? 独りになるなんて考えるのも嫌なほどに」

 

 郁子がちんこを数本突っ込めそうなぐらいに口を開けている。大当たりだ。郁子はSSを家族当然の仲間だと、大切な居場所だと思っている。故にSSとのつながりが無くなることを、SSに自分の居場所がなくなることを恐れている。

 

 卵

「その気持ちはよく分かるぜ。あーしも気の置けない仲間や、あーしを認めてくれる場所がなくなるのは嫌だからな」

 女部田

「これは誰にも言ったことないんだけどな……本物だよ」

 淳之介

「じゃあ俺にも────」

 卵

「シスコン」

 

 シスコンはシスターコンプレックスの略なので正解ではある。しかし、橘にはもっと明確なコンプレックスがある。橘がそうじゃないと言わんばかりに卵を見て、卵が分かったから見るなと言わんばかりに質問を始める。

 

 卵

「上半身か?」

 淳之介

「いや、違う」

 卵

「下半身か?」

 淳之介

「いや、違う」

 卵

「下半身か。ちんこか?」

 淳之介

「いや、違う」

 卵

「ちんこか……」

 淳之介

「いや、違うって」

 卵

「デカすぎることか?」

 淳之介

「そ、そんなわけ……」

 女部田

「イクの事言えないぐらい分かりやすいじゃん」

 

 愛する人のために克服したと言っていたが、さすがに直接言われると動揺するらしい。

 

 卵

「…………性人してから巨根がコンプになるわけないから、子供の頃からだな。差し詰め、それでいじめられたんだろ?」

 淳之介

「そ、そ、そ、そんなわけ……」

 卵

「子供なんてのは無邪気で残酷なもんだ。皆とちょっと違うだけで仲間外れにする。それが集団に広まって揶揄う。そして……まあ、後は分かるから言わないでおくか」

 

 周りから否定され続けて復讐のために、性帝になった橘とSSでありながら反交尾勢力加担している卵。何処かで通じる所があったのかすぐに察したようだ。

 

 卵

「最後に礼先輩だな。簡単だ。頭が悪い事だろ?」

 

 急に矛先を向けてきて身も蓋もないことを言ってきた。

 

 糺川

「い、いや、まあ、事実だが……コンプレックスというほどでは……」

 卵

「じゃあ兄貴でオナったことか?」

 糺川

「なんでそれを!? い、いや! あれは恥ずべきことではない! 断じて!」

 卵

「じゃあイク時に漏らす────」

 糺川

「私のコンプレックスより精のコンプレックスを探るべきじゃないかなあ!?」

 

 風紀委員長権限で方向を変える。これ以上私の恥と傷を広げられてたまるか。

 

 卵

「兄貴のコンプは分かりやすい……『弱い』ことだ」

 

 一瞬矛盾しているように思えることだが事実だ。精が今もなお力や強さを求めるのは『やりたいようにやる』ためであり、失いたくないものを本気で守るためだ。故に精は『弱い』と言われると非常に怒る。天手力機構の『不俱戴天』は怒りによる力を引き出すための仕掛けだ。

 

 卵

「兄貴には酷だが、そこを突いて揺らがせて勝つ……他の手段も考えるがこれを軸に考えていくべきだ」

 

 元の世界に戻る方法を探しつつ、卵が精に勝てるように技術を身に着ける。私達の目標が決まった。

 

 卵

「つーことで……改めてよろしくお願いします。BIG4」

 

 こうして私達に新しい仲間が加わった。

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