抜きゲーみたいな島に住んでいる狂犬はどうすればいいんだ? 作:神剣狩刃
夜になりあーしはBIG4と浴場で話し合っている。議題は言うまでもなく朝の兄貴と水引の邂逅だ。あーし関連の話なのは分かるが、タイミングが良すぎる。
卵
「そっちの世界で兄貴と水引はどうだったんだ?」
淳之介
「どうもなにも……秋野ちゃんは俺達の世界にはいなかったよな?」
女部田
「うーん……会った記憶はないけど、いないって断言はできないなあ……」
糺川
「存在してはいるが秋野として会っていない可能性もあるな。となると……」
冷泉院
「成程、氷解*1しました。思い出せない生徒会副会長は秋野さんでしたね。ハメドリくんの中に入ることを条件にしたのを思い出しました」
向こうでも水引は上手くやっているらしい。安心した、とは言い切れない。
淳之介
「この世界にはいないハメドリくん、元の世界ではハメドリくんに入っていた秋野ちゃん……まさか、反交尾勢力のリーダーは秋野ちゃんなのか?」
女部田
「理屈としてはおかしくないね。あとは動機だけど……」
糺川
「スス子やシューベルトから聞いたが卵と秋野はかなり仲が良いらしい。仲のいい卵の同性愛を認めないSHOや青藍島が憎いというのはあり得そうだ」
冷泉院
「まだ状況証拠での推理です。これしかないと決めつけるのはよくないですが、一つの説として考えるのは悪くないでしょう」
近いうちにBIG4が水引を調べていくだろう。後で水引に連絡をしておかないと。
卵
「…………水引を調べるのはいいが、あーしのお気に入りだから手ぇ出すなよ?」
糺川
「精の妹が大切にしている人が大切にしているならひどい扱いはしないさ」
淳之介
「それと卵ちゃん、この後俺と一緒にアサちゃんに会いに行ってくれないか?」
性帝サマ曰く、あのアーマードハメドリくんの製作に関わっているだろう麻沙音と話がしたいらしい。
卵
「……覚悟はできてんだろうな?」
淳之介
「まずはアサちゃんに会わないと始まらないからな。それに……アサちゃんを味方につけたい。一緒に説得してくれないか?」
いうまでもなく麻沙音は反交尾勢力で、あーし達の戦闘補助の開発にバリバリ関わっている。特にプログラミングの部分に関してはあーしの師匠だ。味方に居たらこの上なく心強い。SSとして兄貴と戦えるような何かを開発してもらいたいと思っていたところだ。
卵
「……あーしも麻沙音に話がある。風呂から出たら行くぞ」
淳之介
「ありがとう。卵ちゃんは心強い味方だよ」
あーしも随分と信頼されたものだ。悪い気分ではない。
髪を乾かし橘家に向かう。性帝サマがインターホンを鳴らすとすぐに麻沙音が出てきた。
麻沙音
「…………兄と卵ちゃん?」
淳之介
「────はあぁ、よかった……!」
ドアから半身覗かせている麻沙音の姿を見て性帝サマが安堵の息を漏らし、麻沙音を受け入れようと両手を広げる。まだ何も始まっても解決もしていないのにこの有り様とは、コイツも兄貴といい勝負のシスコンだな。
卵
「何もよくねえよ。麻沙音、性帝サマがお前と話したいって言うんだ。少し時間を────」
麻沙音
「ごめん卵ちゃん、それだったら帰ってくれる……?」
あーし付き添いでもこの有り様だ。性帝サマだけだったら門前払いを吐くまで喰らった事だろう。性帝サマが明らかに動揺している。事前に伝えておいてよかった。
淳之介
「────っ、話は本当だったのか……」
卵
「待て麻沙音、少しコイツの話を聞いても良いと思う。コイツを信じられなくても、コイツを連れてきたあーしを信じてくれないか?」
麻沙音
「卵ちゃん……でも……」
麻沙音が悩んでいる。麻沙音としては一秒でも一緒にいたくないはずだ。それでもあーしが連れてきたことで揺らいでいる。なら『反逆の緑髪』らしく強行突破といこう。
卵
「もしコイツと話してまともな奴じゃなかったら……二度と麻沙音の前に現れないようにボコボコにしてやる」
麻沙音
「えっ……」
淳之介
「それでアサちゃんの信頼が得られるなら、いや、信じてもらえるまでこの場でボコボコにしてくれて構わない」
性帝サマがそう言ったのでためらいなく性帝サマをぶん殴る。分かりやすく腹部に一発重いのを入れる。
麻沙音
「卵ちゃん……!? ほ、本当にやるの……!?」
卵
「当たり前だ。麻沙音がコイツをどれだけ憎んでいるか、あーしにはよく分かる。殺したいぐらい憎いだろ?」
麻沙音
「うう……そ、そうだけど……」
遺された唯一の家族に見捨てられる。その悲しみや絶望や憎しみは、人としての一線を容易く超えさせるものだろう。
淳之介
「うぐっ……ど、どうした……俺はこれぐらいで信じてもらえるなんて思っていないぞ……遠慮なく──」
その言葉を聞いて性帝サマの左頬を殴り抜ける。よろけたところを右頬を殴って体勢を戻す。そしてアッパーカットを顎に叩き込む。性帝サマが玄関先にぶっ倒れる。
麻沙音
「卵ちゃん……!」
卵
「大丈夫だ麻沙音。お前が信じられるまでコイツをぶちのめしてやるから」
淳之介
「大丈夫だアサちゃん……俺は……お前のためなら、どんな暴力だって……どんな精神的苦痛だって、耐えられるんだ……」
倒れた性帝サマに馬乗りになって殴り続ける。なるべく派手な音で、なるべく血が出て、なるべく後で治しやすいように。性帝サマはうめき声をあげながらなんとか耐えている。
麻沙音
「それ以上やったら死んじゃうよ卵ちゃん……!」
卵
「コイツは死んだっていい。麻沙音を裏切ったんだ」
淳之介
「死んでアサちゃん許してもらえるなら……喜んで死ぬよ……でも、出来る事ならアサちゃんのために生きていたい……」
右手を大きく振り上げる。性帝サマに当てるつもりはなく、地面を全力で殴る────麻沙音があーしの右手を掴んで止める。
麻沙音
「…………話すだけ話すから……もう止めて、卵ちゃん……」
麻沙音が涙を流しながらあーしの手を優しく撫でる。
卵
「……ありがとう、麻沙音」
性帝サマのためもあるだろうが、何よりあーしに人を殺させないために止めてくれたのだろう。嬉しく思うと同時に、スタートラインに立ったに過ぎないと改めて気を引き締める。リビングに向かって性帝サマの傷の手当てをし、話をするためにインスタントのココアを淹れる。温かでまったりとした甘い香りが部屋に広がる。
淳之介
「何から話すべきかな……とりあえず、今の俺はアサちゃんの知る俺じゃない」
卵
「これに関しては本当だ。あーしの兄貴も麻沙音の知る兄貴じゃない」
麻沙音
「ごめん、いきなり言われてもよく分からないから説明して」
だろうな。あーしも最初はよく分からなかった。ということで性帝サマと一緒に事の経緯を説明する。
麻沙音
「ごめん、説明されてもよく分からなかった……」
卵
「大丈夫だ。学力トップのあーしでも無理矢理何とか受け入れたから、麻沙音の学力じゃ分からないと思う」
淳之介
「さらっと学力自慢とアサちゃんの学力をディスるなよ……アサちゃんの学力が低いのは認めるが」
世話ついでに勉強を教えたが、spring has comeをバネが来たと訳した時は流石にマジかと思った。数学も壊滅的で連立方程式があるなら対立方程式もあるはずだとか抜かす始末だ。
卵
「ともかく、今の性帝サマは麻沙音が良く知るシスコンの性帝サマだ」
淳之介
「ふっ……そんなに褒めたって粗茶しか出ないぞ?」
卵
「シスコンやマザコン傾向のある奴の方が社会的に成功する傾向がある以上、誉め言葉として受け取るのはいいが、ココアあるから粗茶じゃなくて茶菓子出せよ」
淳之介
「チョコレートでいいかな?」
卵
「ココアあるっつってんだろ。兄妹2人分の脳を合わせても一人分にならないんじゃねえのか? 今度MRI取ってこい」
麻沙音
「えむあーるあい……? すごい銃的な奴……?」
淳之介
「マシンガン・レールガン・イレイザーガンの三つの銃だろ?」
卵
「あーしが悪かった」
ゴリマスとクールフールを相手にしているようだ。こいつ等に難しい言葉を使わない方が良い。
卵
「……ま、これで分かっただろ? 性帝サマは麻沙音が大好きな性帝サマに戻ったってことが」
麻沙音
「……この感じは、間違いなく、私の知ってる兄だよ……」
麻沙音の声が震える。
卵
「……トイレ行ってくる。ちっと長くなるかもしれねえ」
そう言ってあーしは一旦橘家のトイレを借りる。直後、麻沙音の泣き声が聞こえてきた。あれが兄妹愛か────心の奥から湧き上がる何かを噛み殺す。今のあーしが求めているのはそれじゃない。気が利いた言葉だ。
泣き声が収まったのを確認してリビングに戻る。明らかに泣き晴れましたという麻沙音と胸元がびしょびしょの性帝サマがいた。
卵
「あーしとシた時よりもすっきりした顔しやがって。ちっと性帝サマに妬いちまうぜ」
麻沙音
「……ありがとう、卵ちゃん」
卵
「礼を言うのはまだ早い。近いうちに例の5Pやるぞ」
麻沙音
「例の5P!? もうやれるの!?」
麻沙音が鼻血を吹き出す勢いで食いついてきた。兄妹愛の余韻はどっかに吹っ飛んだようだ。
卵
「麻沙音が性帝サマと打ち解けたからイケる。BIG4ガールズにはとっくに打ち明けてある」
麻沙音
「私が反交尾勢力であることも!?」
淳之介
「それに関しては俺が言っていてな……元の世界と同じだからアサちゃんも反交尾勢力だろうって……」
卵
「あーしも反交尾勢力であることは打ち明けてある。元の世界に戻るためと兄貴を取り戻すために協力中だ」
麻沙音
「じゃあ────」
麻沙音が何か口走る前に唇を唇で塞ぐ。麻沙音の顔からボンという音が聞こえたような気がした。
卵
「……メンバーのことはともかくリーダーのことは言ってねえ。その情報はあーしが死んでも守る」
麻沙音
「そそそ、そうなんだ……じじじじゃあ、私からは何もないかな……」
淳之介
「卵ちゃんってたまにイケメンムーブをするよなあ……スケ番風なこともあって刺さる人にはとことん刺さるだろうな」
刺さったところ恐怖で振るえてすぐ抜けるせいで、あーしに言い寄ってくる奴はいない。それでも構わない。あーしを理解してくれる奴がいるから。
卵
「あーしと麻沙音の都合は何時でも付くから後はBIG4ガールズ次第だな。明日にでも出来ねえかな?」
早速礼先輩に連絡する。
卵
「もしもし? あーしです」
糺川
『麻沙音の説得には成功したか?』
卵
「成功したから明日の夜に性交したいです」
糺川
『明日ぁ!? いや、まあ、時間を無駄にできないのは分かるが……明日かぁ……」
卵
「大丈夫です。女を悦ばせるテクニックはあーしが教えますから」
糺川
『……とりあえず、桐香様や郁子に朝一で相談だ。勝手に準備を進めるなよ?』
卵
「SSの備品からB級媚薬何本かくすねておきますね」
糺川
『風紀委員長との通話で堂々と不正宣言をするな! とにかく明日の朝一で話し合いだからな!』
報告も連絡も相談もしたから大丈夫だろう。あーしの秘蔵のグッズを持って登校するか。遠足に行くみたいだぜ、テンションしてるぜ。