※この作品はR-18です。

抜きゲーみたいな島に住んでいる狂犬はどうすればいいんだ?   作:神剣狩刃

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結構やばい回です。覚悟して読んでください。


6-19 姦多冷爛

 たまには休んでくださいと言われ、ニノマエさんとの銭湯を楽しんでいたらすっかり夜になってしまいました。園児達や保母さんもいなくなって誰もいないはずでしたが────

 

 精

「おかえりなさい光姫さん。夜ぐらい俺と付き合ってくださいよ」

 

 戦闘服を着た精くんが陽気なBGMを流しながら出迎えてくれました。

 

 精

「たまには夫婦で飲みながら話しましょう?」

 光姫

「嬉しいけれど、精くんは飲めないんじゃないの?」

 精

「俺はノンアルのカシオレで一杯やりますので」

 

 そういうことなら家族水入らずで飲むことにしましょう。

 

 精

「病院で薬貰うついでに、きっちり量れる道具貰ってきましたので……」

 光姫

「トリコロール*1でも作るのかしら?」

 

 と思っていたら精くんは注射器を取り出して3つの液体をきっかり量ってシェイカーに入れました。

 

 精

「今から作るのはブルー・ラグーン*2です。個人的に甘い方が飲めるはずなので砂糖も入れちゃいますね」

 

 鮮やかな手さばきで小袋に入った砂糖をシェイカーに入れてシェイクし始めました。様になっていてすごくカッコいいです。氷の入ったグラスに青藍のような美しい液体が注がれて、誠実な愛が満たされていきました。

 

 精

「お待たせいたしました。『ブルー・ラグーン~甘美にときめく心仕立て~』です。おつまみには簡単ガトーショコラをどうぞ」

 

 コトリと置かれた給食の小皿の上には粉砂糖とミントでお化粧されたガトーショコラが乗っていました。

 

 精

「板チョコと卵をレンチンして作りました。お手軽な分、過度な期待はしないでくださいね」

 光姫

「それでは2人の夜に……」

 精・光姫

「「チンチン」」

 

 グラスと缶がなって夜の保育園に響きました。良い子は眠る時間でも大人の夜はこれから始まります。グラスから私の口に精くんの熱い想いの籠った液体が入っ────

 

 光姫

「……あんまりおいしくない……」

 精

「ですよね。色と言葉で選んだので味は正直考えてないです。お口直しにガトーショコラをどうぞ」

 

 ガトーショコラはチョコの甘さと苦さがいかにもな、よくある一般的なガトーショコラでした。でも、精くんが私のために作ってくれたんですから嬉しいです。2人で飲みながら他愛のない話をしていました。いつの間にかグラスも空になり、ガトーショコラも食べきったあたりで精くんの顔が曇りました。

 

 精

「……ぶっちゃけ、俺といるの辛くないですか?」

 

 精くんが何処か心苦しそうに聞いてきました。私とニノマエさんとのお付き合いが多くなって思うところがあったのでしょうか。

 

 精

「伴侶よりも妹を気にして、目の前で不倫されても我関せずで……ニノマエと一緒にいた方が────」

 光姫

「そんな訳ないじゃないですか。私は精くんが良いと思ったから精くんを選んで、精くんと一緒にいたいから一緒にいるんです」

 

 私は精くんの伴侶として自信をもって答えました。

 

 光姫

「精くんにとって卵ちゃんは、家族ですから大切にして当然です。らから、わたひも、わかって……」

 

 あれ、もうよっちゃった? わたしって、こんなに、おさけよわかったっけ?

 

 精

「温泉でしっぽりやってお疲れのようですね。無理しないで寝てください。またいつかゆっくり話しましょう」

 

 そうね、またあしたにでもはなして────────

 

 

 俺の記憶障害は心因性で不眠症も併発していた。おかげで楽々と睡眠導入剤を手に入れることができた。睡眠導入剤とアルコールの併用は重大な副作用を引き起こすため、絶対にやめましょうと保健の授業で習う。善人ならしないようにしようで終わるが、手段を選ばない人間からしてみれば最高の情報だ。

 

 精

「……しばらく起きないだろうな」

 

 深く眠っている、あるいは意識を失っている光姫さんのSHOの社員証を拝借し、注ぐのに使った30mlの注射器にウォッカを満タンに入れて空気抜きをする。一刺しで行動力を奪う武器の完成だ。機密書類の眠る開かずの間で、何があるか分からないからこれぐらいは準備しておくべきだろう。

 

 精

「さてさてさーて……御開帳となるかな?」

 

 例の扉に光姫さんの社員証をかざす、しかし扉が開くことはなかった。

 

 光姫?

「交代の時間には早くないですか? もしかして銭湯に行ってしっぽりお疲れですか?」

 

 その代わり扉の向こうから声が何故か光姫さんの声が聞こえてきた。そして扉が横に開く。そこには────寝ているはずの光姫さんが立っていた。

 

 光姫?

「……何でせ────」

 

 咄嗟にその口を左手で塞ぎ首に注射器を刺す。中身が半分入ったところで振り払われる。

 

 光姫?

「あなた精くんじゃ────」

 精

「いや、精ですよ」

 

 ボディに一発拳を入れよろけたところを地面に俯せに組み伏せる。光姫さんらしい人は暴れて抵抗するが、すぐに力がなくなっていった。

 

 光姫?

「せ、せいくん……じぶんが、なにをしたのか、わかってるの……?」

 精

「首から直接アルコールを入れましてね。血管から直接入れるとそれはそれはかなり酔うそうで……」

 

 動けなくなった光姫さんらしい人の両手両足を縛り自由を奪い部屋を見渡す。パソコンとベッドと本棚とユニットバスがある。端的に言えば壁紙が明るいだけの独房のようだ。

 

 精

「俺はただ情報が欲しいだけなので黙って見ていてください……あった……」

 

 本棚から『土口一族抹殺命令』と書かれた物騒な書類の束を見つける。土口一族、事故、殺害、処理といったワードが目に入ったためその書類の内容をスマホで撮影する。他にも武器の管理や職員のデータを撮影していく。

 

 光姫?

「なにを、するつもりなの……」

 精

「俺はただ卵を守るために必要なことをしているだけです」

 

 俺は光姫さんらしい人の拘束を解いた。ここで起きた出来事は誰にも言えないだろう。言ったらこの場所を守っている2人の光姫さんはどうなるか? 俺には想像がつかないしどうでもいいことだ。

 

 光姫?

「まって、せいくん、あなたのやりかたは、まちがっている……」

 精

「間違っている島で間違ったことをすれば正しいということでしょう? さようなら、仙波光姫」

 

 三行半を言い渡し愛の巣から旅立った。

 

 

 目的の物を手に入れて家に帰る途中、橘家から泣き声が響いてきた。

 

 麻沙音

「お゛に゛い゛し゛ゃ゛あ゛あ゛ん゛っ!!」

 

 凄く汚いがアサちゃんのものだ。確か性帝とは兄妹でありながら仲が悪いと聞いていたが仲直りしたのだろうか。兄妹が仲良くいられることは良いことだ。俺にとって卵が────背後から殺気を感じる。前方に転がり回避する。

 

 ???

「っ、流石特殊戦闘部リーダーだねえ……完璧な奇襲だったつもりだけど」

 精

「……光姫さんとの不倫銭湯はどうだったニノマエ?」

 

 声でニノマエと分かったが金のバタフライマスクがないから夜に紛れて認識し辛い。そこから繰り出される連撃は並の人間なら喰らうだろう。闇から飛んでくる貫手や脚、俺はそれを難なく捌く。

 

 ニノマエ

「……もう不倫を気にする必要は無くなったよ。君が彼女に三行半を叩きつけたおかげでね」

 精

「なるほど。俺の監視役はお前だけじゃなかったと」

 

 プライベートまで監視するとなるとニノマエだけでは不可能だろう。俺の監視者というつながりで、ニノマエと光姫さんは仲が良かったのか。

 

 ニノマエ

「卵ちゃんのためかい? だからって自分の伴侶にあんなひどいことするかい?」

 精

「光姫さんとは紙の繋がりだ。卵との血の繋がりに比べたら大したものじゃない」

 ニノマエ

「……光姫さんは君のことを本当に心配していたんだ。心から繋がっていたんだよ?」

 精

「心の繋がりは確かめようがない。何より俺は光姫さんと心で繋がっていないからな」

 ニノマエ

「……君をここで止める」

 精

「俺が卵を守るのを邪魔するというなら……誰であろうと容赦しない」

 

 ニノマエのラッシュが俺を襲う。貫手を主体とした連撃は非常に素早く、柔軟な体を利用した不規則な軌道は非常に面白い。思わず笑みがこぼれるほどだ。

 

 ニノマエ

「随分と……! 余裕そうじゃないか……!」

 精

「余裕だからな……ふっ!」

 

 貫手を掴み腕をひねり上げる。ニノマエはひるむことなくもう片方の手で俺の目を狙ってきた。反射的に頭突きで迎撃する。ゴッっと重い音が脳に直接伝わる。

 

 ニノマエ

「ぐっ……!」

 精

「決着だ」

 

 怯んでがら空きになったボディに右足を叩き込む。のけぞりをひねり上げた腕を引くことで引き寄せに変え、左の膝蹴りをもう一度ボディに叩き込む。

 

 ニノマエ

「がはっ……」

 精

「40代ともなれば体力的に衰えるだろ? それを技術でカバーするのはいいが……俺はそれが通じる相手じゃない」

 

 ニノマエが腹を抱えてうずくまった。内臓をやったかもしれないが、俺に楯突いた報いだと思って貰おう。

 

 ニノマエ

「君は……何を目指しているんだ……!? そんな方法で卵ちゃんを守って……卵ちゃんが喜ぶと思うか……!?」

 精

「思うさ。卵だってこの島が憎い。最高の兄が守ってくれて、ついでに青藍島が俺の物になる……卵も大喜びだろう」

 ニノマエ

「俺の物……!?」

 精

「もう俺を止められるものはいない。光姫さんとしっぽり仲良くやって、変わっていく青藍島を享受しろ」

 

 俺はニノマエに背を向け家に帰った。そして自室に入り、手に入れた情報をある人物に送って連絡する。

 

 精

「……目的の情報が手に入った。目を通しておいてくれ。ついでにとんでもない情報も手に入った……『仙波光姫は2人いる』。これらを上手く使えば────青藍島を俺達の思い通りにできる」

 ???

「ありがとう……これはこれは……想像以上です。流石は『金色の狂犬』ですね。こちらの方も準備は進んでいますので安心してください」

 精

「……俺にとって卵は全てなんだ。卵を守るためならそれ以外の全てを捨てても、悪魔に魂を売っても構わない」

 ???

「…………僕と同じですね。僕も卵のためだったらそれ以外の全てを捨てても、悪魔に魂を売っても構わないです」

 

 だから────

 

 精

「お互い卵のために頑張りましょう────リ(・)ー(・)ダ(・)ー(・)」

*1:
赤ワイン、カルピス、ブルキュラソーで作るカクテル。うまく注ぐと液体の比重の関係で本当にトリコロールになる

*2:
ウォッカベースのカクテル。鮮やかな青色をしている

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