抜きゲーみたいな島に住んでいる狂犬はどうすればいいんだ? 作:神剣狩刃
水引はSSを覆したいがあーしを巻き込んでしまう。兄貴はあーしを守りたいが力が足りない。もしこの2人が組んだら
淳之介
「ウソだろ精……!? 正気か……!?」
精
「正気だし本気ですよ。水引ちゃんは快くこの力をくれました」
糺川
「バカなことはよせ! そこから先はもう戻れなくなるぞ!?」
精
「……相変わらずうるせえな。この間の一発を返してやるよ────アリデーラー・プロトコル起動」
そう言って兄貴はアーマードハメドリくんを纏い、礼先輩に殴りかかった。拳が顔を捕らえる直前で止まる。会長サマと中隊長サマが鬼気迫る顔で食いしばりながら糸で止めたのだ。
精
「なるほど……無駄だな」
しかし、兄貴はそれを容易く引きちぎり────間一髪の所であーしが礼先輩を押し倒して回避できた。
糺川
「た、助かった! 感謝する!」
卵
「礼は生き延びてから言ってくれ……
あの力で顔を殴ったら骨が折れるどころか肉が抉れ、骨が砕け、原形を留めることはないだろう。なのに兄貴はためらいなく殴ろうとした。
精
「ああ。そいつらはドスケベ法に仇名す逆徒の集い……何より俺が卵を守ることを邪魔する存在だ。万死に値する」
人は力を手にするとこうも変わるのか。その気持ち悪い仮面の下ではどんな顔をしているのだろうか。その言葉の裏では何を思っているのか。力に閉ざされた兄貴のことなど何もわからなかった。
精
「藍蘭に反する愚者に命ず、
兄貴が動き出す前に中隊長サマが連続で切り付ける。体一つ動かさず受けたのにも拘らず無傷だ。それを認識したあーしは咄嗟にあるものを投げた。
卵
「中隊長サマ! これを使え!」
一番隊の必需品であるボトル入りの生理媚薬水だ。意図を察した中隊長サマが頭から水を被る。
女部田
「ひははっ……ひはははっ、っひははははははは────ッ! あははははははははっ!!!!」
髪が爆発した中隊長サマが狂ったように笑う。通称"乱れ神"だ。あの状態の中隊長サマはあーしでも読み切れないほどの動きをする。
女部田
「精くんにこれを使うのは何度目かな!? そのたびに勝っちゃうからヤだったんだよねえ!」
凄まじい斬撃の嵐が降り注ぐ。本物の刀だったらズタズタに引き裂かれている頃だろう。しかし、兄貴は平然と立っていて、それどころか途中から躱し始めた。
精
「髪型が変わったぐらいで戦況が変わるとでも? 見た目通りにおめでたい頭だな」
ついには太刀を掴み、そのまま握り折った。咄嗟に寝技に移ろうとしたが重量差でびくともしなかった。
精
「手癖も足癖も髪の癖のように悪いな。いっそのこと全部取っ払ってやろうか?」
兄貴が拳を振り上げると同時に会長サマが兄貴を糸で縛り上げ、糸をくい込ませていく。
冷泉院
「誰かが精さんを殺してしまった場合は私が全ての責任を負います……!」
会長サマは兄貴を殺してでも止めるつもりだ。締め上げる糸が兄貴の動きを止め────その鉄躯が跳び上がる。
精
「無駄だと言っただろう。二度も言わねばわからぬなら────拳で分からせよう」
兄貴が再び糸を千切り会長サマに向けて拳を振るう。ガンと金属音が響いて兄貴の拳の軌道がずれて地面を揺らす。
精
「狙撃手か……面倒だが面倒でしかない。お前達が死ぬまでの時間がわずかに伸びただけに過ぎない」
兄貴もこちらを殺す気でいる。だが、力を持った奴特有の油断がある。あーしは悟られないように武御雷を起動する。
精
「さあ、六文銭を持って三途の川を────」
卵
「許せ兄貴」
起動した建御雷を兄貴に当てる。糸の傷によって滲みこんだ生理媚薬水によってその鉄躯に電気が走る。肌に当てるだけで人を気絶させられる代物だ。まともに喰らえばシステムの一つぐらい狂わせ────
ハメドリくん
『ハメェ────』
なんともな抜けなSEと共に、ぱっくりと口が開く。奥から銃口が鈍く輝いている。
ハメドリくん
『パコォ────!』
高速のライオット弾の暴雨があーしを打ちのめす。咄嗟に防いで顔は守れたがそれ以外の全てを撃たれた。
精
「────ッ!? どういうことだ!? 卵には当たらないんじゃないのか!?」
兄貴が急に狼狽え始める。よりにもよって一番厄介なシステムが狂ったのだろう。只のライオット弾になり、飛び道具だけではあーしを巻き込む可能性が出たのだ。
淳之介
「隙を見せたな! うおおお!!!」
性帝サマが背中のプロペラにディルドを叩き込んだ。バリバリと音を立ててプロペラを砕き、勢いそのままに兄貴を蹴り飛ばした。あれなら逃げるだけの隙はあるかもしれない。
卵
「あーしは礼先輩を担ぐ! 性帝サマは2人を頼む!」
淳之介
「ああ! 桐香、郁子!」
性帝サマについていくように走る。負けた。あーし達の持てる力全てを叩きつけても兄貴に勝てなかった。こんな調子では兄貴にあーしを認めさせるなんて不可能だろう。
モニター越しに水引ちゃんの演説を見る。
秋野
『……ご覧いただいた通り、ドスケベ条例に仇名す逆賊は、ハメドリくんが成敗いたしました。これから皆さんの夢、USD計画は────この鋼の翼によってお守りすることをお約束いたします』
俺はUSD計画の中で同性愛やトランスジェンダーなどの性的マイノリティには口出しをするつもりだ。それが認められれば卵も気持ちよくドスケベセックスができるだろう。卵を守れて卵も喜ぶ。反交尾勢力に協力してよかった。
青藍島民
「うぉおおおおおおU・S・D!! U・S・D!!」
地鳴りのようなUSDコールが夜の青藍島に木霊する。再三卵を否定してきたムカつく奴等だが、これからは利用させてもらおう。
精
「さて……アリデーラー・プロトコル解除」
スーツを脱いで今回の戦いを反省する。俺としてはあまり満足のいかない結果だった。アーマードハメドリくんは確かに力はあるが、卵を巻き込みかねない。水引ちゃん用のカスタムが施されているのか俺には過剰な力のようだ。話し合って俺用に調整してもらおう。
畔
「ほ、本当に一人でどうにかしちゃいましたね……流石というか、圧巻というか……」
片桐
「流石治安管理委員会委員長ね……でも、あまりいい顔じゃないわね?」
渡会
「卵ちゃんが危ない目に遭っちゃったからじゃないかな……?」
新たな同胞たちがぞろぞろと集まって来る。こいつらは別にどうだっていい。通信を水引ちゃんに繋ぎ話をする。
秋野
「流石ですね。少し計算外のこともありましたが、概ね計画通りと言って────」
精
「赤外線画像認識誘導弾で卵には当たらないはずじゃないのか?」
秋野
「建御雷の電撃でシステムに障害が出たのでしょう。プロペラの破壊もありましたし、まだまだ改善の余地はあります」
精
「……まあいい。これでSHOの武力とSSの指揮権を俺達が握った。後は卵を保護するだけだな」
秋野
「ええ。そのための作戦を考えるためにも……今日は祝賀会としましょう。卵ちゃんから聞きましたが、料理が得意なようですね?」
ココアを練るのは得意だと言った記憶はあるが、料理が得意だと言った記憶はない。だが土口家の体質上、訓練すればそれなりのものはすぐにできるだろう。アーマードハメドリくんを改修に出し、全員で俺の家へと到着する。
精
「適当に作っていくから適当に食っていってくれ。アレルギーは考慮するが好き嫌いは考慮しないんでな」
中華鍋を取り出しごま油をかけ回し熱する。温まるまでにキャベツとピーマンとニンニクを切り、色んな醤ジャンを入れてタレを作る。熱した中華鍋に豚肉を入れ色が変わるまで炒めたら、野菜を入れてしんなりさらに炒める。最後にタレとごま油を加えて炒め合わせたら完成だ。
精
「まずはホイコーローだ。次は────」
渡会
「ねえねえ、なんで精くんは私達に協力してくれたの?」
ピンク髪のチビロリが馴れ馴れしく話しかけてきた。
畔
「確かに気になりました。SHOの重役の人が反交尾勢力に加担するなんて……」
片桐
「卵ちゃんがいるからっていうのは分かるけど、それにしたって不思議よね」
デブとビッチも便乗してきた。適当にはぐらかして後で聞かれると面倒だからきっちり話しておくとしよう。
アーマードハメドリくんから卵を守れなかった俺は何を頼るべきか考えた。SHOやSSではアレに勝てない。アレに勝てる力などないと思った。だが、逆転の発想があった。あの力を俺のものにすればどんな力からも卵を守れると。だから俺はその中の人物を考えた。
卵
「なんで……話がちが────」
卵が襲われた際のこの発言が重要だった。反交尾勢力である卵はあの作戦で襲われる流れはなかったということだ。信頼を裏切られた卵が不意に呟いてしまった言葉で、それだけ卵の信頼を得ている人物が答えだ。その人物には心当たりがあった。
ニノマエ
「じゃあSHO特別監査役の子にもそうやってるの? なんだっけ、あき────」
卵
「手前の口からその名を出すんじゃねえ」
卵
「…………アイツはあーしのお気に入りなんだ。軽々しく名前を呼ぶんじゃねえ」
"あき"から始まる卵の信頼を得られるような人物────トランスジェンダーという同じ性的マイノリティである"秋野水引"しかいない。思いついた俺は次の日に水引ちゃんと一緒にヌき家に行った。卵とBIG4やニノマエと光姫さんがいたのは驚きだったが、それでも話を進める必要があった。
精
「単刀直入に聞こう、君が反交尾勢力のリーダーだろ?」
水引ちゃんは分かりやすく驚いてくれた。たった一晩の邂逅でここにたどり着いたのだから無理もない。
秋野
「……SHOに告発するつもりですか?」
精
「いや違う……卵を守るために力を貸してほしい」
秋野
「……成程、そういうことだったんですね……」
大切な卵という共通点があった俺達はすぐに手を組んだ。SHOの兵力と機密情報を差し出すからアーマードハメドリくんが欲しいと言ったら快く引き受けてくれた。その晩に開かずの間から機密情報を手にし、翌日に機密情報をネタに治安管理委員会委員長になった。
精
「これで使わせてくれるんだな?」
秋野
「ええ。ただ、僕用に調整してあるので、実際に精さんが着て細かな調整をしましょう」
予備パーツを使ったら上手いこと俺が着られるようになった。これでいつでも卵を守れるようになった。その日の深夜に卵が幸せそうに死にかけながら帰って来た。何でもBIG4ガールズとアサちゃんと5Pをしたらしく、明日は絶対に学業を放棄すると言い残して自室に消えた。翌朝、水引ちゃんから連絡が入っていた。
秋野
『BIG4を失墜させるための作戦があります。反交尾勢力の秘密基地に隠しカメラを設置してください。エレベーターで223閉1閉1非常ボタンと入力すると行けます』
指示通りに秘密基地に侵入し隠しカメラを設置して待っていると性帝様がやって来た。それらしいことを言って性帝様を退けた後、水引ちゃんに連絡をした。
精
「何で性帝様が来ると分かったんだ?」
秋野
『卵が会長と接触して僕が反交尾勢力のリーダーであると悟られましてね。誰かがBIGの誰かが調べに来ると思いましたが、まさか性帝だったとは……予想外の大収穫ですよ』
俺が撮った映像と卵が送ってきた映像を組み合わせればBIG4は失墜するという。卵が巻き込まれてしまうが、アーマードハメドリくんを使えば守れるというのでその通りにした。そして今に至ると言う訳だ。
精
「こんな感じだ。詳しい話は水引ちゃんにも聞いてくれ」
俺は二つのグラスにノンアルのレモンサワーを注ぎ、水引ちゃんに差し出す。
秋野
「あとは卵ちゃんを見つけて保護をすれば……ワタシ達の輝かしい未来が確約されます」
意図を察した水引ちゃんがグラスを優雅に受け取る。
精
「ああ……すべては────」
精・秋野
「卵のため」「卵ちゃんのため」
チンとなるグラスが新たなる俺の始まりを告げる。今度こそ卵を守るんだ。