抜きゲーみたいな島に住んでいる狂犬はどうすればいいんだ? 作:神剣狩刃
あれから話に話し合って一晩経った。ウザったらしいまでの大所帯で話し合うのは中々難航したが、おかげであーしの兄貴を取り戻すのにいい作戦が出来た。決行は今日の夜、水引はとある用事でSHO本部にいないから、その隙を突く。
淳之介
「まずSHO本部の攪乱はSSメンバーと土口夫妻にお願いします」
一成
「任されたよお。記憶は無くなっても元"ラブラビッチ"の委員長だあ、ゼアイズノット年甲斐で暴れるよお」
美蘭
「土口一族の凶暴性……見せて差し上げましょう……」
淳之介
「そして精奪還に向かうのは俺達NLNSとBIG3と卵ちゃんだ」
麻沙音
「精さんの天岩戸機構はアリデーラー・プロトコルを元に作ったから、このタブレットでハッキングできるよ」
卵
「おそらくアーマードハメドリくんも使ってくるだろうから、それも乗っ取れれば問題ないな。頼りにしてるぜ、麻沙音」
んへへとだらしなく笑う麻沙音の頭を撫でる。そしてあーしは改めて覚悟をする。
卵
「目標は優しい兄貴を取り戻すこと……そのためにはあーしが兄貴に勝たなきゃいけねえ。そのためにはここにいる皆の力が必要だ」
ここにいる皆があーしと兄貴のために動こうとしている。こんなに嬉しいことは生きてて中々ない。
卵
「行くぞ! 青藍島史上最大の兄弟喧嘩の始まりだあああ!!!」
一同
「「「おー!!!」」」
待ってろよ兄貴、絶対に取り戻してやる。
下の階が騒がしい。水引ちゃんの言った通り、奴等が襲撃してきたようだ。反交尾勢力のメンバーどころかニノマエと光姫さんすら裏切るとは。つくづく馬鹿な奴らしかいない。俺の力の前に勝てる存在など、あのピンクロリのとんちきな椅子しかないというのに。
精
「どいつもこいつも分からない。俺はただ卵を守りたいだけだというのに」
卵
「動機じゃなくてやり方が間違ってるって言いてえんだよ、兄貴」
ドアが勢いよく蹴破られ、最愛の妹がやって来た。俺はヘルメット越しに満面の笑みを浮かべて、パワードスーツに包まれた両腕を広げて卵を迎え入れる。
精
「卵……やっと俺の下に来てくれたんだな……」
卵
「いや……兄貴と喧嘩するために来た」
その後ろから性帝サマとアサちゃんがやって来た。
淳之介
「確かに妹を守るのは兄の役目だが……妹が間違ってるといっている方法で守るのはどうかと思うぞ!」
麻沙音
「精さんがやっている方法は、かつて卵ちゃんを苦しめた青藍島の人と同じ方法です……!」
俺が青藍島の奴らと同じ? そんなわけない。奴らは卵を認めなかったが、俺は誰よりも卵を認めている。それに奴らは徒党を組んでいたが、俺は俺一人の力でここまで辿り着いた。
精
「俺はあんな屑畜生共とは違う。分からぬというなら……手前等全員地獄行きだ────天岩戸機構、起動」
シールドに画面が表示され────凄まじい警告反応がこだまする。まともに画面が見えないほどだ。両手を前にかざしライオット弾の乱射を────弾が出てこない。咄嗟に両腕を交差させ防御する。右腕と左足に衝撃が走る。
淳之介
「そのシステムはアサちゃんが作ったものだ! 俺達にアサちゃんが必要だったのはこのためだ!」
卵
「ついでにECMもバリバリに張ってある! アーマードハメドリくんを呼ぶこともできないぜ!」
向こうは俺の武装を完全に対策してきているらしい。
精
「なら使わなければいい」
ヘルメットを脱ぎアサちゃんに向けて投げ飛ばす。性帝サマが銃で撃ち軌道をずらされた。その隙を突いて攻撃を────
卵
「見えてるぜ、兄貴!」
構えた左腕に卵の強烈な蹴りが叩き込まれる。卵の読みは鋭く、行動も早い。ならこのパワードスーツの出力を上げて追いつくまでだ。
精
「これも見切れるか!?」
貫手と手刀を不規則に織り交ぜた高速の連撃を、卵は容易く回避して受け流していく。
卵
「言っとくがな兄貴! あーしはもう、兄貴に守ってもらう必要がねえぐらい強くなったんだよ!」
精
「何だと……!?」
そんな訳ない。卵は俺が守らなければ死んでしまう。送させないためにここまでの力を手にしたのだ。
卵
「あーしを守ると言っておきながら、あーしの事は何も分かってねえじゃねえか!」
精
「違う! 俺は誰よりもお前を理解している! お前が助けを必要としていることも!」
卵
「もうあーしには助けはいらねえよ! SSが! パパとママが! BIG4が! 反交尾勢力の奴らが! 何より水引があーしにはいる! もう兄貴に守ってもらう必要はねえよ!」
卵の右拳が俺の顔面を捕らえる。俺はもう卵に必要ない?
精
「────────そんな訳あるかあああ!!! お前はいつまでも俺が守らなきゃいけないんだ!!! もう二度と守れないなんてことがないように!!!」
卵
「現実を見ろ!!! 今の兄貴はあーしに攻撃を当てれてねえ!!! 今のあーしより兄貴は弱いんだよ!!!」
精
「俺は弱くない!!! 俺は強い!!! 卵を守れる!!!」
卵
「あーしに一発ぐらい当ててから言え!!!」
だったら当ててやる。パワードスーツの最大出力なら人間の反応速度をはるかに超えられる。卵の読みも関係ない。このまま────パワードスーツが勝手に動き、俺は気を付けの姿勢で固定された。体がピクリとも動かない。
卵
「かかったな! 麻沙音がハッキングできるのは天岩戸機構だけじゃねえ! そのパワードスーツもだ!」
馬鹿な。この俺が。卵を相手に負ける。あり得ない。あってはならない事なのに────卵が俺に優しく抱きつく。パワードスーツ越しに卵の温かみを感じる。
卵
「兄貴、あーしはこんなに強くなったんだ。もう兄貴が無理する必要はないんだ。だからさ……また2人でココア飲もうぜ? 兄貴が作ったココアは世界で一番うまいんだ。皆にも飲ませてやりたい」
がしゃりがしゃりとパワードスーツが落ちていく。体が自由になる。性帝サマとアサちゃんが俺を見つめている。俺に全てが委ねられている。なら────
精
「卵……お前はいつの間にかこんなに強くなっていたんだな……お兄ちゃん、気が付かなかったよ……」
優しく卵を抱き返す。ああ、俺はなんて馬鹿なお兄ちゃんだったんだ────
卵
「だから────もう終わりにしようぜ?」
その言葉と共に俺の体に凄まじい電流が走った。
何が起きたのか分からなかった。俺は卵を抱きしめたはずだ。なのに、俺は倒れていた。本当に何が起きているのか分からない。
卵
「……くっ、くくく……」
卵は嬉しそうに笑っている。だが、明らかにおかしな笑い方だ。まるですべてが上手くいったと言わんばかりに。その右手にはバチバチと鳴る刀が握られていた。
卵
「あーっはっはっは!!! ここまでうまくいくと笑いが出てしょうがねえよ!!! どいつもこいつもまんまと騙されやがって!!」
騙されやがって? いったい誰が誰に騙されたというんだ?
麻沙音
「な、何をしているの卵ちゃん……!? それ、スイッチ入ってるよ……!?」
淳之介
「精は君を抱きしめたんだぞ!? 認めたんだぞ!?」
卵
「ああ、あーしの誘導通り抱きしめてくれた……だからこうやって復讐できた」
復讐?
淳之介
「復讐…………!?」
卵
「ああそうさ……あーしを見捨てたこの兄貴への復讐だ!!!」
俺への復讐?
秋野
『流石だよ卵……ワタシの望み通り、いや、それ以上に活躍してくれた』
スピーカー越しに水引ちゃんの声が聞こえる。
秋野
『最愛の妹に裏切られた気分はどうかな土口くん?』
精
「どう……いう……こと……だ……」
痺れてまともに動かない口を無理やり動かして尋ねる。
秋野
『まず、君たちは少しだけ間に合わなかった。世間がどうなったのか、見せてあげよう────』
コントロールルームのモニターに水引ちゃんの姿が映し出される。
秋野
『もうすでにご存じのこととは思いますが────先程"ドスケベ法"、が正式に可決されました』
淳之介
「なに!? ドスケベ法が──!?」
俺が卵を守る水面下でそんなことが進んでいたのか。いや、それと卵の俺への復讐に何の関係があるんだ。
秋野
『さて、皆さんの悲願が達成されたところで、ワタシはSS代表およびSHO特別監査役を辞任したいと考えております。辞任の挨拶に代え、これからの計画について、お話しさせていただこうかと思います』
モニターの水引ちゃんが両手を広げ語り出す。まるで、全てが自分の掌の上で動いてると見せつけんばかりだ。
秋野
『ワタシは、幼い頃から同性愛者であることで蔑まれてきました。青藍島でもそれは代わりませんでした。それでも、ただ一人、私を認めてくれる人がいました。その人もまた同性愛者で、青藍島でもひどい扱いを受け、死を選ぼうとさえしていました』
そんな人物、俺の中では一人しか知らない。
秋野
「そう、SSの『反逆の緑髪』こと土口卵です。だからワタシは、自分と卵を踏みつけたこの国を、青藍島を、そして卵を見捨てた兄である土口精を潰すことに決めました。手始めにまず、土口精を処刑します。皆様の前で、出来る限り惨たらしく、卵が満足するまで処刑します。それと同時にドスケベ法の象徴たりうる青藍島を完膚なきまでに破壊します。ワタシやワタシの愛する卵が認められないならすべて壊します。ノーマルどもよ、刮目せよ。蔑んだ者どもよ、震えて眠れ」
卵
「そして地獄に行け。これこそが────あーしたちマイノリティによる、真の反逆だ」
卵が精帝サマに建御雷を向ける。卵はただ狂気的な笑みを浮かべて笑っている。
卵
「どうだ性帝サマぁ!? あーしと水引の復讐劇は!? 感動して涙が出てくるだろぉ!?」
淳之介
「君たちは、狂っている────」
卵
「ああ狂っているさ! 手前等のせいで狂ったんだよ! ただの一言でも認めてくれればこうならなかったのになあ!」
麻沙音
「待ってよ卵ちゃん……! 私、本当に卵ちゃんのことが好きで……!」
卵
「手前の認めたなんざ水引に比べたら手前の脳ミソほどのちっぽけな物なんだよ! 同じ同性愛者ってだけで簡単に利用できてよかったぜ! ちょっと気持ちよくしただけでその臭え体で色々教えてくれたもんなあ! 風呂に入れよ! それか風呂に沈め! ああ、手前みてえなレズオタは男に興味持たれないか! あっはっはっは!」
アサちゃんが言葉もなく膝から崩れ落ちた。性帝サマがアサちゃんに駆け寄り、卵に向かって吠え出す。
淳之介
「き、貴様! 人の心は無いのか!?」
卵
「あるに決まってるだろ! だから手前等が憎いんだよ! あーしも! 水引も! だから全部ぶっ壊したいんだよ!」
淳之介
「そんなこと、俺がさせない! 俺が、君たちを止める! 俺がドスケベ法をぶっ潰す! そして精を取り戻す!」
窓ガラスが割れて一機のアーマードハメドリくんがやって来た。
水引
「ワタシと卵ちゃんを出し抜いて両方できるとは思えないけどね」
淳之介
「秋野……!」
卵
「さてさてさーて……つーわけで兄貴はあーし達がもらう。兄貴の処刑はこの後すぐだ。チャンネル変えるなよ?」
卵が俺を乱雑に掴む。そのままずるずると引きずられていく。
淳之介
「精! 抵抗するんだ!」
精
「もう……どうだっていいよ……」
もう何をやってもダメだ。卵を失った今の俺に出来ることといえば、卵や水引ちゃんの憂さ晴らし用のサンドバックになることだ。
淳之介
「精!? 諦めるな! ここで諦めたらお前は────」
精
「もう俺には何もないんだ…………だったら、せめて最期ぐらいは卵の役に立ちたい……」
卵
「殊勝な心掛けだぜ兄貴ぃ! じゃあまずは────兄妹仲良く夜間飛行と行こうぜ?」
卵が外の水引ちゃんに向かって俺を放り投げる。水引ちゃんは難なく俺を掴んだ。
水引
「人一人ならギリギリ運べる設計にしておいてよかったよ。卵の復讐に役立てるんだからね」
卵
「水引にはあーしを運ばせればよかったか? まあいいか。それはすべてぶっ壊した後のハネムーンにとっておくか」
卵も窓から飛び出し、アーマードハメドリくんに捕まって飛んでいる。
卵
「落ちて死ぬなよ兄貴ぃ! そんなつまらない処刑にはしたくねえんでなぁ! あーっはっはっは!!!」
もちろんそのつもりだ。そうすればきっと、卵は喜んでくれるだろうから。