※この作品はR-18です。

抜きゲーみたいな島に住んでいる狂犬はどうすればいいんだ?   作:神剣狩刃

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6-28 アザレアの未亡人

 

 私たちは拠点に帰って来て絶望的な状況を改めて理解する。

 

 淳之介

「奈々瀬と郁子のおかげでアサちゃんは何とか立ち直りました。おかげで5時間12分という時間は出来ましたが、精の処刑はあと1時間で行われます。しかも、卵ちゃんの言葉通りに配信で見せつけながら、なおかつどこと分からない崖でやろうとしています」

 

 配信画面ではすでに卵が精を縄で縛り、その上に座っている。余裕綽々そのものと言った所だ。

 

 一成

「余たちが来るのを誘ってるね。ちょっとでも戦力を分断させて、疲弊させるつもりだよ」

 美蘭

「でも、この崖って────」

 糺川

「この崖は良く知っています……この世界で私が死のうとして、A世界では精が死のうとしていた崖です」

 

 いくらなんでも忘れるものか。何故卵がこの場所を選んだのかは分からないが、この場所なら拠点からそう遠くはない。

 

 淳之介

「では、その場所に今すぐ全員で────」

 一成

「いや、ここは少数精鋭で行くべきだよ。大人数で行ったら余裕をなくした卵ちゃんが、即座に精を蹴落としてもおかしくない」

 美蘭

「今の卵は全てが上手くいって油断しています。だから精の処刑も1時間という猶予を作ったのです」

 冷泉院

「それに……こちらに大人数を割いてしまうと、SHO本部の防衛作戦が難しくなってしまいます。多くても3人でしょうね」

 

 卵と秋野はこの復讐計画を綿密に練っている。それを崩すためにもこちらもかなりのリソースを割かないといけない。となると行くべき人間は────

 

 糺川・一成・美蘭

「私が行きます」「余が行く」「私が行きます」

 

 即座に決まった。

 

 美蘭

「これは土口家の問題です。なら、土口家で解決したいです」

 一成

「それに家族愛が起こす奇跡もあると思うんだ」

 糺川

「でしたら私の精への愛の方が大きいので奇跡が起きるでしょう」

 

 私は堂々と言い放った。大好きな精が処刑されると言われて黙っているつもりはない。ありきたりで安っぽい言葉だが、愛の奇跡というのは必ずある。淳之介と郁子と桐香様が少し困ったような顔で笑う。

 

 淳之介

「……俺からの餞別です。いざとなったらコレ使ってください」

 女部田

「レイちゃんも大分言うようになったね~。昔のレイちゃんが見たら潮吹いて倒れちゃうかも」

 冷泉院

「そうですね。精さんへの想いがかなり明け透けになっていますもの。ふふっ、恋する乙女が大胆なのはいつの時代も変わらないようですね」

 

 2人からの激励を受けて、私と土口夫妻は精の下に向かった────のだが、途中で問題が起きた。

 

 美蘭

「その……すみません、お、お花摘みに行っても……?」

 

 まあ、どうしようもない問題だ。私だって野外の任務で催したことは一度や二度ではない。

 

 一成

「でしたら余がトイレになって────」

 糺川

「いくら夫婦でも駄目です……私が見張りについていきますので行きましょう」

 美蘭

「その……ちょっとお時間かかるかもしれないので……」

 糺川

「……1時間かからなければ大丈夫です」

 

 ということで美蘭さんと一緒に人目のつかない所に行く。

 

 美蘭

「…………私がいいっていうまで耳と鼻を塞いでもらえるかしら? 終わったら肩を叩くから」

 糺川

「分かりました……って鼻と耳を同時に塞ぐのは不可能では?」

 美蘭

「じゃ、じゃあ耳だけでいいから……も、もう、ダメ……」

 

 私は慌てて背を向けて耳を全力で塞いだ。女性のお花摘みの事情を詮索するのは絶対に許されないことだ。例えどれだけの時間がかかっても振り向いたり、耳を開いたりしてはならない。────どれほど時間がかかっただろうか。両手がふさがっているから時間も確認できない。背中をトントンと叩かれる。

 

 美蘭

「ご、ごめんなさい……思ったよりも時間かかっちゃった……」

 

 若干汗ばんで息を切らしてはあはあしている美蘭さんがいた。難産だったのだろうか、多産だったのだろうか。スマホで確認してみたところ時間にして20分ほどかかっている。

 

 糺川

「まあ、大丈夫ですよ。早く行きましょう。精が待っています」

 美蘭

「そうですね……早く…………一成さんと合流しましょう。精くんを助けなきゃ」

 

 

 一成さんと合流し精の下へ向かう。その崖では画面と変わらず卵が精の上に座っていた。こちらに気付いた卵がにやりと笑いながら立ち上がる。

 

 卵

「ようやく来たか……ホント、手前等は誘導しやすくて助かるぜ」

 一成

「卵……精は実の兄なんだぞ? 本当に殺す気か?」

 卵

「残念ながらコイツは兄貴じゃねえ。あーしを見捨てたからな」

 美蘭

「卵ちゃん、考え直して……! 精くんを殺したらもう戻れなくなるのよ……!」

 卵

「あーしには水引がいる。水引がいればあとは何もいらねえ。後戻りする必要さえもな」

 

 卵の秋野への想いは相当なものだ。精が卵を想うように、卵も秋野を想っているのだ。

 

 糺川

「……それだけ大切な人だから復讐に加担したのか」

 卵

「ああ、折角だから冥土の土産に教えてやるよ。あーしと水引に何があったか」

 

 そう言って卵は上機嫌に秋野との関係を話し始めた。

 

 

 兄貴にドスケベ条例を変えられないといわれたあーしは死のうとした。自分を認められず、両親を失い、最後の望みだった兄の約束も果たされない。そんな絶望の中で死はあーしにとっての唯一の希望だった。死ねばすべて楽になる。そうやって崖の上に立って────

 

 男子

「君……どうしたの……?」

 

 青い髪に黄色い瞳をした男子にあったんだ。その人もなんか辛そうな顔しているように見えてさ。だから、打ち明けようと思ったんだ。泣きながら全部話して、そのまま海に飛び込もうと思ったら男子がぎゅっと抱きしめたんだ。

 

 男子

「大変だったんだね……辛かったんだね……よしよし……」

 

 すごく温かかった。今でも思い出せる。でも、あーしは簡単には受け入れられなかった。

 

 卵

「あなただって……! 私を知ったらきっと見放すんでしょ!?」

 

 青藍島の奴らや兄貴さえもあーしのことを見放したからだ。でも、その人は違った。

 

 男子

「ワタシも……この島で大変な目に遭ったから分かるよ……」

 

 その男子はトランスジェンダーで中身は女だった。性的マイノリティ同士、通じるものがあったのか彼女はあーしを受け入れてくれた。

 

 卵

「……ねえ、私……どうしたらいいかな……? 何したらいいか分かんないよ……」

 

 あーしは涙に濡れながらその人に答えを求めた。見ず知らずの人に頼るなんてどうかしていると思ったけど、そうするしかなかったんだ。

 

 女子

「────ワタシに協力してほしいんだ」

 

 その人は確かな決意を目に宿してあーしを導いてくれた。その時にあーしは決心したんだ。この人に命を捧げると。この人のためなら何でもしていいと。だからあーしはその名前を聞いた。

 

 卵

「私は……土口卵……あなたの名前は?」

 秋野

「ワタシの名前は────秋野水引」

 

 その日からあーしは水引のために強くなった。毎日血反吐を吐くようなトレーニングをして、嫌いな青藍島の男共にも股を開いて、弱い自分を捨てるために時代錯誤のスケ番にもなって、とにかく強い自分になりたかった。そしていつの間にか、あーしには水引しか頼れる人間がいなくなった。でも、あーしには水引がいるからよかった。

 

 秋野

「ねえ卵ちゃん……ワタシはこの青藍島に復讐がしたい。どうしたらいいかな?」

 

 いつの日か水引はあーしに心境を打ち明けた。あーしは水引の望む事なら何でもしてあげたかった。だから復讐のプランを一緒に考えた。

 

 秋野

「この計画なら必ずうまくいくよ……! ありがとう卵ちゃん……!」

 卵

「水引のためになれたならあーしも嬉しいよ」

 秋野

「だからさ……卵ちゃんも復讐したい人がいたら一緒に復讐しようよ」

 

 その言葉を聞いてあーしは兄貴の顔が思い浮かんだ。あーしに希望を与えておきながら、それを勝手に奪っていった、不倶戴天の仇である兄貴が思い浮かんだ。

 

 卵

「……兄貴に復讐がしてえ」

 秋野

「いいよ。そのプランも一緒に考えよう」

 

 こうしてあーしと水引による復讐劇が始まっていった。

 

 

 卵

「当初のプランは水引がアーマードハメドリくんを着て悪行を重ね、その罪を全部兄貴におっ被ってもらうものだった」

 糺川

「だから精のサイズのアーマードハメドリくんがあったのか……冷静な精だったら違和感を持っただろうに……あのバカ」

 卵

「そしてその兄貴をあーしがブチのめし、アーマードハメドリくん作りの罪は麻沙音に押し付けるつもりだった」

 一成

「最初から麻沙音ちゃんは切り捨てるつもりで近づいたと……」

 卵

「プログラミングやハッキングの技術を持っていたから、教えてもらい次第切り捨てるつもりだったさ。風呂入らねえし生活力ねえし……あーしの欲の捌け口としてはギリギリ及第点だったからな」

 美蘭

「そんな……なんてひどい……」

 

 配信でこの発言が流れていることも計算済みだろう。麻沙音がこの配信を見ていないことを祈るしかない。

 

 卵

「ただ、ある2つの出来事がプランを狂わせた……『別世界の兄貴との入れ替わり』と『想定よりも早い兄貴と水引の邂逅』だ。優しい兄貴に入れ替わったのはまだいいが、アーマードハメドリくんが兄貴の手に渡るのが思ったより早かった……おかげで兄貴により深い絶望を与えられたから結果オーライだがな」

 

 卵の復讐への執念は常軌を逸している。全てを利用してでも、何が起きても精への復讐を成し遂げたのだ。

 

 卵

「ところで何でこんな長々と話したと思う? あーしの復讐の正当性を証明するためだと思うか?」

 糺川

「予告した手前それよりも早く殺す訳にはいかないから────」

 

 空を裂くプロペラの音が聞こえる。夜の静寂を引き裂く、圧倒的な暴力がやって来る。

 

 水引

「ワタシが来るまでの時間稼ぎだよ。愛しの卵ちゃんの処刑のお手伝いに来たかったからね」

 一成

「秋野ちゃん……!? 嘘だろ……!?」

 美蘭

「私達じゃ勝てない────」

 糺川

「勝てる勝てないじゃありません────勝つんです」

 

 中身が違えどBIG4と卵がいても勝てなかった相手────そんなのどうでもいい。勝てないから逃げる? 精を諦める? そんなの。そんなの────

 

 糺川

「私の『やりたいようにやれ』じゃない!!! 最後に愛は勝つんだああああああ!!!!!!」

 

 淳之介からもらった煙幕弾のEggを投げつける。これなら画像認識も意味をなさな────その瞬間強い閃光が走る。

 

 糺川

「何ッ!?」

 秋野

「ぐっ!?」

 卵

「んだと!?」

 

 閃光弾だ。何故淳之介はこんな分かりにくいものを────いや、秋野と卵の意表を突くにはこれしかない。そして渡されたもう一つの物と組み合わせろということだ。私は制服を脱ぎ捨て前方に投げる。

 

 卵

「視界を潰したって無駄だ!!! オラァ!!!」

 

 卵が制服に攻撃した。本能的に反応してしまったのだろう。その隙を突いて前方に進む。距離にして10歩、そこで地面にあるものを抱いて転がる。

 

 精

「…………何してんだよ……俺は卵に殺されて────」

 

 そのまま勢いに任せて、宙に身を投げ出す。ヒヤリとした夜風が全身を包み、次第に落ちていく。

 

 卵

「バカか手前!? 兄貴と心中するつもりか!?」

 糺川

「そんなつもりはない!!! 私は精と一緒に幸せになるんだあああ!!!」

 

 落ちながら渡されたもう一つの物を取り出す。瞬時に膨らむダッチワイフだ。これで着水しろということだ。ということは────戻った視界に紫色の髪の女性が乗ったボートが映る。畔だ。すでに近くに準備していたようでいつでもOKと言わんばかりに両手で丸を作っている。これなら────

 

 卵

「っ!!! 水引、海に畔がいる!!! 海に向かって撃ちまくれ!!!」

 

 卵の叫びを受けて秋野が崖から飛び、畔に向けてライオット弾を乱射する。咄嗟にハンドガンで何発か撃ち落としたが、撃ち漏らした弾が畔のボートに向かっている。

 

 糺川

「逃げろ畔! 着水はできる! 私と精は何とか逃げ切ってみせる!」

 

 畔の乗ったボートが私達から離れていく。何とか逃げ切ると言ったが、策はない。着水した所で水引に捕らえられてお終いだろう。しかし、着水しなければそもそもそこでお終いだ。ダッチワイフを膨らませ着水する。

 

 秋野

「そこか! 卵の復讐のために死んでもらうよ!」

 

 秋野がこちらに向かって飛んでくる。咄嗟に精を庇う。

 

 ???

「────精に手を出すな」

 

 ドスの効いた女性の怒声が響く。その方向を見ると────

 

 美蘭

「知っているか? この世で一番恐ろしいのは────子供のために怒る母親だ」

 

 ボートの上で美蘭さんがマグナムを構えていた。

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