※この作品はR-18です。

抜きゲーみたいな島に住んでいる狂犬はどうすればいいんだ?   作:神剣狩刃

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ちょっと残酷な描写あります。気を付けてください。


6-30 ニジイロ*アベリベンヂャア

 ここはSHO本社ビルのコントロールルーム、いわば青藍島の心臓部だ。ここを守り続けていれば水引と卵がやって来る。

 

 精

「父さんと母さんがビルの入り口を守っているから、俺達は空からやって来る奴らだけに集中できる……ありがとうって言えないのが残念だな。言っておけばよかった」

 淳之介

「親との別れなんていつも突然だからな……俺達なら良く知っているだろ?」

 

 確かに違いないな、と笑って答える。その笑いを消し去るように、窓ガラスが割れる。入って来たのは漆黒のアーマーに身を包んだ────

 

 卵

「待っていたぜ兄貴……! ようやく手前を全力でぶっ殺せる……!」

 

 卵だった。

 

 精

「お前は黒か……黒は女を美しくするっていうもんな」

 卵

「遺言はそれでいいな!?」

 精

「いや、最後の兄弟喧嘩なんだ────口上ぐらい言わせてくれよ?」

 

 俺は逆刃刀とハンドガンを構えて口上を叫ぶ。

 

 精

「切って結ぶ蒼碧の檻を打ち破れ!!! 睦言に狂乱する悪鬼を噛み砕け!!! 

 礼賛以って三途の川を渡り世界を糺せ!!! 精卵(せいらん)交わりて生まれる命の限りを尽くせ!!! 

 俺は土口精!!! 『金色の狂犬』だ!!! お前を受け止めてやる、卵!!!」

 卵

「鞦韆(しゅうせん)*1の戯れが如くと揶揄(やゆ)されども!!!

 睡蓮(すいれん)の誘いに因果(いんが)を瞞着(まんちゃく)*2されども!!!

 乱世(らんせい)に狂いたる六道輪廻の限りをぶっ壊せ!!!

 あーしは土口卵!!! 『反逆の緑髪』だ!!! 手前をぶっ壊してやる、兄貴!!!」

 

 ヘルメット越しにも拘らず凄まじい怒声が響く。これが卵の抱く憎しみだ。

 

 卵

「"須佐之男命(すさのおのみこと)機構"、起動!!!」

 

 漆黒の仮面が取れ卵の素顔が明らかになる。アーマーよりもドス黒い緑髪が揺らめき、爛々に開かれた金の瞳はおぞましい憎しみを放ち────狂犬が牙を向く様に笑っていた。

 

 卵

「死に散らせ!」

 

 卵が黒鉄の拳を振りかざす。俺は避けることなく漢勃ちで受け止め、そのまま通路に転がる。これで淳之介君達と分断できた。これで心置きなくアレを使える。

 

 精

「さあ、卵! お前の好きなものだ! しっかり味わいな!」

 

 ポケットから缶を取り出して卵に投げつける。

 

 卵

「あーしに投擲物は効かねえよ! オラァ!」

 

 卵が拳で缶を叩き割った。その中から茶色い粉が飛び出て辺りに広がる。

 

 卵

「目眩ましにしちゃあ薄い────ッ!? この匂いは!?」

 

 それと同時に辺りにビターで芳醇な香りが広がる。

 

 精

「風邪や生理の時にねだってただろ! 俺のココア! パンパンオホォテンのピュアココアだからな!」

 卵

「手前……!」

 

 明らかに卵の顔がイラついている。俺の予想が正しければ────

 

 精

「一方的な殴り合いは喧嘩って言わないからなあ! そらそらそら!」

 

 太刀と蹴りと銃撃を織り交ぜた連撃を放つ。卵は歯を食いしばって両腕で受けている。俺の攻撃が読めていないようだ。

 

 卵

「いつ気が付きやがった……!?」

 精

「お前が誘導が上手い理由を考えたのさ! 読心術の一種らしいが、聴覚や触覚や味覚や視覚由来ではない! 俺がアーマードハメドリくんを着て放ったライオット弾を受けたからな! だったら──────嗅覚で人の心を読んでいたんだ!」

 

 人間は感情によって匂いが変化するという。喜怒哀楽によって汗の成分が変化するからだ。卵は自ら匂いフェチと言い切っており、アサちゃんが何日風呂に入っていないか言い当てれるほど正確な嗅覚を持っている。それほどの嗅覚と、土口一族の『際限なき鍛錬による成長』を持っているなら、わずかな匂いの変化から人の行動を読むことも可能だろう。

 

 精

「フルアーマーからヘルメットが外れたのが何よりもの証拠! もしヘルメットをしていたら────反(・)交(・)尾(・)勢(・)力(・)の(・)マ(・)ス(・)ク(・)を(・)し(・)て(・)戦(・)っ(・)た(・)時(・)み(・)た(・)い(・)に(・)俺(・)の(・)攻(・)撃(・)は(・)読(・)め(・)な(・)い(・)からな!」

 卵

「だったらなんだってんだあああ!!!」

 

 卵が背中の刀を振り抜く。濡れたように輝く刃から本物の刀とみていいだろう。

 

 卵

「────"天羽々斬(あまのはばきり)"。あーしにコイツを抜かせたのは手前が初めてだ」

 精

「須佐之男命に天羽々斬とはね……そりゃ俺も天岩戸に引きこもるわけだ」

 卵

「二度と太陽が昇らねえようにしてやるよ」

 

 卵が切っ先を俺に向ける。

 

 精

「この世で太陽が昇らないのは極夜だけだ。常夏のこの島じゃ起きえない」

 

 俺も逆刃刀を持って構える。

 

 

 刹那、二つの刃が交差する。金切声が連なり、残響もかき消されるような攻防が繰り広げられる。卵の太刀筋は直線的なものが多いが、純粋に速い。分かっていても受け流すのが精一杯だ。

 

 精

「ぐっ……! 何でそこまで俺を殺したがる……!? 殺さないと済まないのか……!?」

 卵

「ああそうだよ! 手前を殺さないと何も始まらないんだよ! 手前への憎しみを抱いてから何をしたって憎しみが消えた事なんか一度もないんだよ!」

 

 卵の動きがさらに速くなる。怒りと憎しみによって殺意が増していく。

 

 卵

「手前はあーしに希望を与えておきながらそれを奪った! 手前の勝手な都合で与えておきながら! 手前の勝手な都合でそれを奪った! あーしにとっては生きる理由だったんだよ! 手前にその辛さが分かるか!?」

 

 俺は何度も失った。でも、持っていたものを、自分が手に入れたものを失っただけだ。誰かに与えられたものを奪われたことはない。ただ奪われるのではなく、与えられて奪われる。ゼロからマイナスになるのではなく、プラスからマイナスになる。どちらの方が落差が大きいかは言わずもがなだろう。

 

 卵

「手前はあーしの事なんか何も分かっちゃいねえんだ! 守るだの止めるだの! 全部手前が原因なんだよ! 手前がいなきゃ何も起きなかったんだよ!」

 精

「だから俺が死ねばすべてが終わって、また始められると……そう言いたいんだな?」

 卵

「そうだよ! だから死んでくれよ兄貴! 可愛い妹の一生のお願いだぜ!? 兄貴なら聞いてくれるよなあ!?」

 精

「それは聞けない……! お前からの一生のお願いはもう叶えた……! 『気持ちよくドスケベセックスできる青藍島』は作った……!」

 卵

「妹は一生のお願いを何回もするもんなんだよ! そして叶えてあげるのが兄貴の仕事だろお!?」

 精

「違いないな……!」

 

 卵にお願いされたら何でも譲ってしまっていた。だからこんな我儘に育ってしまったのかもしれない。だからこそ、一度しっかり否定して──────俺の刀が弾き飛ばされる。速すぎて見えなかった。

 

 卵

「死ね」

 

 そして卵の刀が俺の喉に当たり──────バキィンと根元から折れた。

 

 卵

「────は?」

 精

「それを待っていた」

 

 それを見て俺は、卵の顔面に真正面から拳を叩き込んだ。卵はコントロールルームに吹っ飛ばされた。

 

 精

「受け止めると言ったがな……ただで受け止めるとは言ってねえ。それに、もし俺がお前の立場だったら……黙ってやられたらつまらねえ。多少抗ってもらって……それを上から叩きのめしたほうが面白い」

 

 

 卵

「くくく……アーッハッハッハァ!!!」

 

 床に大の字で倒れている卵が大声で笑いだす。

 

 卵

「分かってるじゃねえか兄貴!!! そうだよなあ!!! あーしが一方的に殺しちまったらつまらねえもんなあ!!! いいよ!!! 抗えよ!!! 抗って抗って!!! その上でどうしようもないと分からせてからぶっ殺してやるよ!!!」

 

 卵は鼻からボタリボタリと血を流しながら狂気的に笑っている。瞳孔も開ききって、ここからが本番と言わんばかりだ。

 

 精

「さてさてさーて……第二ラウンド開始だ」

 卵

「抜かせ……! ファイナルラウンドだよ……!」

 

 卵が起き上がった刹那、互いの拳がかち合う。凄まじい金属音が響く。卵はアーマーを着ているが俺は生身だ。漢勃ちが効いているから渡り合えるが、切れた瞬間に殺されるだろう。

 

 卵

「何なんだよ手前……! 生身で機械と渡り合うとか人間止めてんのか……!」

 精

「友達も同じことやってるんだよ! 負けてらんねえよ!」

 卵

「だが無駄だ! このアーマーはd10lで出来ている! 生身で砕くことは────」

 

 俺と卵の右拳がぶつかる。卵の右腕部のアーマーにひびが入る。

 

 卵

「……嘘だろ?」

 精

「うっだらああああああああ!!!!!!」

 

 全身全霊の雄叫びと共に連撃を浴びせる。拳で、脚で、頭で、五体を使って全てをぶつける。卵の憎しみの鎧が砕けていく。そしてついに────一糸まとわぬ卵の姿が明らかになった。

 

 精

「これで……! やっと……! 喧嘩できるな……!」

 卵

「……なるほど……」

 精

「まずは俺からだあああ!!!」

 

 そのまま卵の顔を再び殴り抜け────ることはなく拳が止まる。

 

 

 卵は堂々と顔面で受けとめたのだ。

 

 卵

「……クックック……なるほどなるほど……良いこと教えてもらったぜ兄貴いいい!!!」

 

 卵の拳が俺の腹部を捕らえる。ごちゅりと肉の潰れる音が聞こえた────なんと、卵の拳が漢勃ちを貫通してきたのだ。

 

 精

「がっ……かっ……」

 

 その痛みに思わず蹲ってしまう。

 

 卵

「手前の化け物じみた身体能力の謎……この部屋に戻ってやっと分かったよ……セロトニン、ドーパミン、オキシトシン、β-エンドルフィン……この状況で幸せな匂いを発するなんてなあ?」

 精

「ま……さか……」

 卵

「あーしへの愛が手前をそうさせたんだろ!? だったらあーしもあるんだよ! 水引への愛がなあ!」

 

 漢勃ちは原理だけで言えば愛に基づいた強烈な思い込みだ。それが一時的にダメージを後回しにしているのだ。死の淵から救ってくれた者への愛、それがあれば性差なく漢勃ちできるだろう。

 

 卵

「愛憎は表裏一体! 今のあーしには水引への愛と手前への憎しみの二つがある! 気持ちで負けるわけがねえんだよ!」

 

 卵が俺の顎を蹴り上げる。脳が揺れ、視界が揺れ、意識が揺れる。舌を噛んで無理矢理意識を戻し、立て直す。

 

 卵

「まだくたばるなよ! あーしの憎しみはこれっぽっちも晴れちゃいねえ!」

 

 そのまま卵に滅多打ちにされる。漢勃ちが意味をなさなくなった今、俺は気力で卵の猛攻を耐えなければいけない。肉が潰され、骨が軋み、血が滲む。もはや痛いとかいう次元ではない。死がちらつく。

 

 卵

「手前も!!! 青藍島も!!! その先にある未来さえも!!! 全てあーし達の手でぶっ壊れちまいなあああ!!!!!!」

 

 卵の拳が俺の顔に近づく。ああ。俺はここで死ぬ。走馬灯がよぎる。

 

 糺川

「君……どうしたの……?」

 

 礼と出会って。

 

 糺川

「────お前は一人で頑張りすぎなんだ」

 

 礼に色々言われて。

 

 糺川

「ああ……やっと……精を全部受け入れられたんだな……よかった……よかったよ。全然嫌じゃない……あぁ……やっぱり……精……すごく嬉しいな……」

 

 礼と滅茶苦茶セックスして。

 

 糺川

「────精の、ばかああああああ!!!!!!」

 

 礼を泣かせて。

 

 糺川

「私が知っている精は『やりたいようにやれ』る精だ!!! お前は負けたいのか!!! 負けを認めるのか!!!」

 

 礼に励まされて。

 

 糺川

「だから!!! 私のために勝ってくれ、精!!!!!!」

 

 礼に頼まれて。

 

 糺川

「よかったな精……お前の……『やりたいようにやれ』たな……」

 

 礼のために勝って──────こんな時まで俺は礼が好きで愛しているんだ。

 

 精

「愛……してる……」

 

 礼を愛している。

 

 

 あーしの拳が完全に兄貴を捕らえた。ズチャリと血肉が鳴り、ゴキリと骨が鳴る。その感覚に背中から恐ろしいほどの快楽が嘶く。全身がぞわりと震え、笑みが止まらず、あまつさえ絶頂して股を濡らすほどだ。もっと早く兄貴を殺せばよかった、そう思ってしまうほどだ。

 

 卵

「アーッハッハッハァ!!! やっと!!! やっと!!! 兄貴を殺せた!!! あーしの手で!!! 完膚なきまでに叩きのめした!!! さいっっっこうだぜえええ!!!!!!」

 麻沙音

「ら、卵ちゃん……」

 

 麻沙音があーしの喜びの絶頂に水を差してきやがった。

 

 卵

「黙れよレズオタ!!! この快楽に比べたら手前との性交なんざ手前の脳ミソほどのちっぽけなもんだよ!!! このまま手前もぶっ殺してやろうか!!!」

 

 麻沙音に殴りかかるべく右拳を握る────力が入らない。手首から先が水袋になったようだ。

 

 麻沙音

「み、右手……ぐちゃぐちゃだよ……」

 

 右手を見て見ると────指が付け根から掌についており、手首が180度曲がっている。端的に言えば、折れていた。

 

 卵

「……は?」

 ???

「クックック……」

 

 男の笑い声が聞こえる。この場にいる男なんて一人しかいない。振り返ると────

 

 卵

「……うそ、だろ……」

 精

「アーッハッハッハァ!!! なんて単純なんだ!!! なんて当たり前のことなんだ!!!」

 

 立ち上がった兄貴が狂ったように笑っていた。

 

 

 俺の様子を見て卵が明らかに動揺している。

 

 卵

「ば、バカな!? 確かにあーしの拳は手前の顔面を捕らえたはず!」

 精

「ああ、確かに捕らえたさ。当たったさ。だが、固いものを思いっきり殴ったら骨が折れるだろ? それだけの話さ」

 卵

「あり得ねえ! あーしの愛と憎しみは確かに手前を上回った────」

 精

「愛と憎しみじゃあ、愛と愛には勝てないさ」

 卵

「愛と……愛……!?」

 

 何が何だか分からないと言わんばかりに卵が自分の右手と俺の顔を交互に見る。

 

 精

「お前への家族愛だけでは勝てなかった……だから礼先輩への愛も足したのさ!」

 卵

「んだと……!?」

 精

「近くに居なければ感じられないほどの愛など真の愛ではない! 遠く離れていても互いに想い通じ合って、心から繋がるのが真の愛だ!!!」

 

 卵がここにいなくとも卵のために戦う水引ちゃんを思って漢勃ちができたのならば────兄である俺がここにいなくとも俺のために戦ってくれている礼先輩を思って、更なる漢勃ちができるはずだ。愛は時に不可能を可能にし、常識を上回っていく。

 

 

 卵

「だったらなんだってんだあああ!!!」

 精

「来い卵!!! 今度こそ全部受け止めてやる!!! 更なる漢勃ち改め益荒漢(ますらお)勃ちでなあ!!!」

 

 制服を脱ぎ捨て上裸になって卵の左ストレートを額で受ける。バキバキと卵の拳が砕ける感覚が脳に直接届く。それでも卵は俺を殴るのを止めない。

 

 卵

「あーしを見捨てた手前が何で色々持ってんだよ!?」

 

 拳が砕けたら手首で。

 

 卵

「あーしを見捨てた手前は何で愛されてんだよ!?」

 

 手首が砕けたら肘で。

 

 卵

「あーしを見捨てた手前の全てが許せねえ! 全てが憎い! だから──────」

 

 肘が砕けたら肩で。

 

 卵

「壊れろ! 壊れろ壊れろ!! 壊れろ壊れろ壊れろ!!! 壊れろよおおおおおおお!!!!!!」

 

 肩が砕けたら────もう殴れないはずだ。

 

 卵

「ぶっ壊れ────」

 精

「もう終わりだ卵」

 

 完全に折れた腕で殴りかかろうとしたのを止める。これ以上やったら卵の腕が二度と動かなくなってしまう。

 

 卵

「あーしは手前を────」

 精

「もういいんだ卵」

 

 そうなったら俺は悲しい。だから優しく抱いて卵を止める。

 

 精

「お前は俺を壊せないし殺せない──────俺の二つの愛に勝てるものをお前は持っていないからだ」

 卵

「あーしは……! あーしは……!!」

 精

「腕が治ったらまたいくらでも殴ればいいさ。お兄ちゃんは妹のためならどんなことでも耐えられるからな」

 

 卵が動くのをピタリと止めた。

 

 精

「卵……お前の復讐は────ここで終わりだ」

*1:
ブランコのこと。

*2:
だますこと。ごまかすこと。

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