抜きゲーみたいな島に住んでいる狂犬はどうすればいいんだ? 作:神剣狩刃
俺の言葉を受け、卵が乾いたように笑いだす。
卵
「……ははっ、何勘違いしてんだ兄貴……あーしの復讐はまだ終わっちゃいねえ」
精
「いや、もう終わりだ。俺はお前が壊れる程の憎しみを全て受け止めた。これ以上何が────」
卵
「さようなら、土口精」
そう言って卵は砕けた両手で俺を突き飛ばして走り出した。何をしようとしているのか分かったから駆け出す。
精
「卵!!! 止めろ!!!」
卵
「止めてなるかよ!!! 手前の目の前で死ぬのがあーし最大の復讐だ!!!」
そして卵は窓辺から前のめりに倒れた。
精
「させるか!!!!!!」
咄嗟にうつ伏せで飛び込み、間一髪のところで卵の脚を掴む。すでに体はボロボロでうまく踏ん張ることができず、ズルズルと体が窓の外に引っ張られていく。
卵
「あーしの誘導通りだ!!! 手前なら絶対に掴むと思ったぜ!!!」
渡会
「嘘でしょ!? くぅ! 邪魔しないでよ……!」
畔
「そんな……! ここまで頑張ったのに……!」
片桐
「アサちゃん! このハメドリくん達どうにかならないの!?」
麻沙音
「パスコードが突破されてる……! しかも、私以上に複雑なパスでハッキング対策されてる……!」
琴寄
「我々では精様に近寄らせぬのが精一杯です……!」
NLNSメンバーはアーマードハメドリくんに阻まれている。こうなったら俺がどうにかするしかない。力の限り引っ張るが持ち上がる気がしない。それでも持ち上げないといけない。歯が割れて、鼻血が出て、手の骨が砕けても、二度も卵を死なせてなるものか。
卵
「手を離せば手前は助かるぜ!?!?!? 妹をその手で殺したっていう事実を受け止められればだがなあ!!!」
精
「いやだいやだいやだいやだ!!!!!! ぜっっったいにいやだあああ!!!!!!」
卵
「これで終わりだ、一緒に地獄に行こうぜ兄貴いいいいいい!!!!!!」
ずるっと致命的に体が滑った。体が一瞬軽くなる。そのまま落ち────
???
「させるかああああああ!!!!!!」
軋むプロペラの音が空を裂き、それに負けない大声で何かが近づいてくる。そして卵を受け止めた。その瞬間に俺のつま先を窓に引っ掛ける。何とか落ちない様に全力を入れながら下を見る。そこには──────ボロボロに破損したフルアーマードハメドリくん、いや、水引ちゃんがいた。
精
「み、水引ちゃん!?」
卵
「水引!? 何してんだ!?」
秋野
「君を! 卵ちゃんを助けるんだ!」
プロペラの音の異音が多くなってきた。いつ止まってもおかしくない。それでも水引ちゃんは俺達を持ち上げようとしている。
卵
「無茶だ! ただでさえ二人分の重量が飛行限界なのに、そのボロボロの羽じゃ────」
秋野
「ワタシは卵ちゃんが好きだ! この世界の誰よりも! だからワタシと卵ちゃんが認められるように全てを壊したいんだ! 例え全てを壊して認めさせても、卵ちゃんがいなかったら意味がない!」
卵
「馬鹿野郎! あーしが好きなら死なさせろ! どうしても助けたいなら兄貴だけにしろ! そうすればあーしの復讐は──────」
秋野
「ワタシと卵ちゃんの2人で考えた反逆のプランなんだ!!! ワタシ独りが勝って笑ったって意味がない!!! だったら負けてもいいから2人で笑いたいんだ!!! 勝ち負けよりも!!! 卵ちゃんと一緒にいたいんだ!!!」
卵
「何で……何でそこまでできるんだよ!?」
秋野
「だって卵ちゃんは!!! この青藍島で!!! 唯一ワタシを認めてくれたから!!! ワタシがワタシでいることを認めてくれたからだああああああ!!!!!!」
水引ちゃんはそれだけだったんだ。自分と自分の愛する人を認めてもらいたかっただけなんだ。誰も認めなかったからここまでのことになったんだ。もしもちょっとだけでも早く出会えていたなら。もしもちょっとだけでも早く知れたなら。
卵
「水引……」
秋野
「卵を助けられたらそれでいいんだ!!! もうワタシの復讐なんかどうだっていい!!! 誰でもいいから卵を助けてくれええええええ!!!!!!」
その叫びは夜の青藍島に響いた。自分の手で青藍島を滅茶苦茶にしておいて、自分勝手だという人もいるかもしれない。それでも──────卵を守りたいという水引ちゃんの想いを、俺は決して見捨てたりはしない。
精
「諦めるな水引ちゃん! 必ず! 絶対に! 卵を助けるんだ!」
卵
「兄貴……無理だ……! もう誰も助けに来ない……!」
秋野
「諦めちゃダメだよ卵ちゃん! 必ず! 絶対に! また君を助けるから!」
卵
「水引……無理だって……! あーしを助けたい奴なんてもう────」
???
「精!!! 卵!!! 秋野ちゃん!!! 諦めるな!!!」
???
「私達がいるわ!!!」
この声は。子供の頃から何回も聞いたこの声は。最近になってやっと巡り合えたこの声は。
精
「父さん……! 母さん……!」
俺の足がグッと引き上げられる。振り返ると2人で俺を引っ張り上げている。
卵
「何で……!? 何でパパとママが……!?」
一成
「地上から見えたからに決まってるだろ! 息子と娘が死にそうになって見捨てる親が何処にいる!」
美蘭
「貴女にはまだ全然謝れていないの! 私の一生をかけて償わせて、卵!」
卵
「何で……あーしへの情を無くすために兄貴の処刑を企てたのに何で……」
一成
「兄妹喧嘩に巻き込まれたぐらいで! ちょっと子供から痛い目を喰らっただけで! 子供への情を捨てたら親失格だ! 記憶は無くしても情まで亡くした覚えはない!」
美蘭
「私は貴女と話したい! どうしてこんなことをしたのか! それが正しくても間違っていても私は貴女を置け止める! そしてこれからどうすればいいか教えさせてほしいの!」
一成・美蘭
「「だから!!! 卵を助ける!!! だって!!! 家族だから!!!」」
徐々に徐々に持ち上げられていく。見えていた地の底が、死が遠のいていく。そしてついに────
精
「うだらああああああ!!!!!!」
俺の雄叫びと共に卵を引き上げた────と同時にプロペラの音が消える。
秋野
「よかった……最期に卵を助けられて」
水引ちゃんが落ち────る直前に誰かが飛び込んできてその手を掴む。俺はその手を見て空いてるもう片方の手を咄嗟に掴んだ。
精
「君ならやると思ったぜ……! 淳之介君……!」
淳之介
「お前ならこうすると思ったぜ……! 精……!」
やはり淳之介君は俺のたった一人の友達だ。類は友を呼ぶというが、行動まで似るとは思わなかった。そして2人で水引ちゃんを引き上げる。
秋野
「……なぜワタシを助ける? これだけのことをした人間に助かる権利があると?」
淳之介
「唯一の願望である復讐を止め……誰かのために命を賭けられる人間が……分かり合えない存在とは思えないからな」
精
「権利どうこうじゃない……『やりたいからやった』……妹を助けてくれた恩人を見捨てたとなったら、卵に会わせる顔が無くなるからな」
どうしようもなく我儘な俺達を見て、水引ちゃんはフルアーマードハメドリくんを脱いだ。
秋野
「……ワタシたちの完敗だよ。求めていた楽園は……ずっとそばにあったんだね……」
2人の復讐は幸せの青い鳥を探す様に終わった。
元の世界に戻る方法は淳之介君が水引ちゃんのアナルに挿入する事らしい。お互い話し合って準備ができたらしいが、俺はもう少し時間が欲しいから待ってと卵の下に駆け寄る。
精
「……これで、本当に終わりだな」
卵
「……水引が負けを認めたんだ。あーしも負けを認めるしかねえ……」
卵は憑き物が落ちた、というよりは全てが燃え尽きたような感じだった。この一件で何も手に入れられず、自分の未来を失ったと考えているのだろう。なら、お兄ちゃんとして励ますべきだ。
精
「…………これからお前は罪を償って生きていかなきゃならない。お前の罪は死んだって償えない。生きていかなきゃ償えない」
卵
「……死ねば楽になると思ったんだがな」
精
「でもな……お前に生きていて欲しいと思っている人がいる」
卵
「…………水引や……パパとママか……」
精
「ああそうだ。水引ちゃんはお前を心の底から愛している。父さんや母さんだってお前のことを心の底から愛している」
俺の目線に父さんと母さんは優しく笑いながら頷いた。
一成
「精の言うとおりだ。卵のことを悪く言う奴がいたら、余が説得しよう。卵に石を投げる奴がいたら、余が受けよう。失った5年間分のお小遣いで秋野ちゃんと、いや、水引ちゃんと盛大な結婚式を挙げると良い」
美蘭
「今度辛くなったら私を頼って欲しいわ。今度こそ、卵のママとして、しっかり卵を受け止めるわ。あと、パパがあげてたお小遣いは、私があげてたお小遣いの半分よ。実はママの方が高給取りだったのよ」
卵
「……ふっ、そうだったな……かかあ天下だったもんな……」
卵が微かに笑った。きっとこの家族ならうまくやっていけるだろう。卵に別れを告げる前に、父さんと母さんに別れを告げよう。
精
「父さん。戻った俺はまともな奴じゃない。そうなったら……思いっきりぶん殴ってやれ。俺が許可する」
一成
「公認DVかい? まあ、最終手段に考えておくよ。なるべく穏便に済ませないと、卵や美蘭に何を言われるか分からないからね」
精
「母さん。戻った俺にとびっきりおいしいココアを振舞ってほしい。きっと思い出してくれるはずだ。俺の大好物だから」
美蘭
「精も卵も一成さんも、いつも私のココアをねだっていたものね。まかせて。うんとおいしいココアを作ってあげるから」
精
「…………最後に……父さん、母さん。今までお世話になりました。おかげでこんなに大きくなりました。これからもお世話になると思います。だから……ありがとう」
2人に向けて深々とお辞儀する。今の俺が出来る唯一の親孝行だろう。
一成
「……2人のオムツのテープを剥がしてた時が懐かしいな……」
美蘭
「卵はテープタイプでしたけど……精はパンツタイプでしたよ……」
一成
「……そんなの、余のデータにはないぞ……」
美蘭
「……嘘です。2人ともテープタイプでしたよ」
これであとは卵とお別れするだけだ。卵に近づく。
卵
「……んだよ?」
精
「……俺は……お前に、どうしても言いたかったことがあるんだ……! だ、だから……言わせてくれ、卵……!」
無理だ。涙が堪えきれない。でも、これを言わないと卵と別れられない。
卵
「……なんだよ急に泣き出して────」
卵を抱きしめる。温かい。離したらもう二度と抱くことは出来ない。だからこそ壊れないように優しく抱きしめる。
精
「卵、生まれて、きて、くれて、生きて、くれて、あり、がとう……! 本当に、ありが、どう……!!!」
やっと卵に言えた。絶対に言えないと思っていたが、言うことができた。
卵
「────あに、き……」
精
「それ、だけで、よかったんだ……! ごめん、ほん、とうに……ごめん……! いえなくて、ごめん……!」
もっと早く言えていたら。もっと早く伝えられていたら。こんなことにはならなかったのかもしれない。今更言ってもなににもならないのかもしれない。それでも言いたかった。
精
「だから……し、しあわせに、な、らん……!」
卵から笑って離れる。笑っている。笑っているんだ。たとえ目から涙を流していようと、笑っているんだ。涙で別れるなんて悲しすぎる。だから笑ったまま背を向けて歩き出す。
一成・美蘭
「「精……!」」
例え父さんと母さんに呼び止められても振り向かない。後ろで泣いている誰かを見たら、きっと抱きしめて、離れられなくなってしまうから。
卵
「お兄ちゃん!!!」
例え泣いている誰かに、呼びかけられても、振り向かない。どれだけ抱きしめたくても、振り向いてはいけない。震える足で一歩一歩と踏み出す。
卵
「私の分も!!! 幸せになってね!!! お兄ちゃん!!!」
その言葉に足が止まる。ああ。やっと言ってもらった。ずっと言ってもらいたかったんだ。だから────
精
「さようなら、卵」
その言葉に背中を押してもらって歩く。そして、水引ちゃんにもたれかかる。
精
「…………卵の事、幸せにするんだぞ……」
水引
「……卵ちゃんのことは任せてください、お義兄さん。一生をかけて幸せにしますから」
どこかで聞いたような約束だ。でも、水引ちゃんなら果たせるだろう。頼んだぞと肩を叩く。ふと、手が差し伸べられる。さっき掴んだから見覚えがある手だ。
淳之介
「……元の世界に戻ったら糺川先輩に謝れよ?」
精
「……ああ。別れることの辛さが、身に染みてよーく分かったからな」
友の手を掴み立ち上がる。これでこの世界で思い残すことは無くなった。
精
「それじゃ、頼むぜ淳之介君」
友達と妹の婚約者のアナルセックスなど、心底見たくないので目を瞑って耳を塞いだ。それでも視界が白くなり、体が何かに巻き込まれていく。
最後の文はどうしようもありませんでした。原作でもこんな感じでしたから、許してください……