抜きゲーみたいな島に住んでいる狂犬はどうすればいいんだ? 作:神剣狩刃
あの一件で世間は卵に対して色々言ってきた。青藍島の被害者とか、復讐の悪鬼とか、クソレズとか、言う奴によって言われる言葉が違う。だが、それでも卵は土口卵として認められるために、刑務所に罪を償いに行った。
卵
『兄貴へ。獄中生活は最悪だ。水引は別の刑務所に行っちまったし、発言1つ1つに気を付けないと刑期を伸ばされかねない。今はシスターの勧誘を断るのが大変だ。懺悔に付き合った事は感謝するが、あーしが信じるのは水引だけだ。とまあ、元気にやってる。青藍島に帰ってきたら兄貴に会いたい。話がしたい。謝りたい。だから待っててほしい。あーしの大好きなアレを作って待っててほしい』
この手紙をもらってからどれほどの時間が経っただろうか。多少マシになったとはいえ、この記憶障害が煩わしい。そろそろ卵が帰ってくる頃だろうか。
一成
「精……手紙が届いたのは先月だよ。一日千秋の思いで待っているのはいいけど、一ヶ月で三万秋になる訳じゃないからね?」
美蘭
「相変わらず精は卵に甘いわね……さあ、今日も特訓よ」
卵のために今日も今日とて特訓をする。いつでも卵が帰ってきていいように。今度こそ、卵を受け止められるように。
あの手紙を出してから3年、なんだかんだ伸びた合計十数年のあーしの刑期が終わった。面倒臭え顔役も、ムカつく独身ババアも、気味と趣味の悪いシスターも、全部まとめておさらばだ。心残りがあるとすればソーニャと全裸マンぐらいか。まあ、アイツらならうまくやっていくだろう。クソ凛を懲罰房にぶち込める実力を持っていたからな。港に立って、さらに長くなった緑髪を撫でる。
秋野
「──────おかえり、卵ちゃん」
声の先には────ブリの切り身のシャツに、黒いチェックのミニスカートを履いた、しゅっと大人びた水引が立っていた。
卵
「ダッ────ただいま、水引」
秋野
「今ダサいって言いかけたよね?」
ダサいだろどう考えたって。だったら無地の白いシャツの方がましだ。ともかく台無し気味の感動の再会に抱擁を交わす。
秋野
「……卵ちゃんが変わって無くて安心したよ」
卵
「青藍島は変わっちまっただろうがな」
水引の話によると、十数年で青藍島は大きく変わったらしい。あーしと水引の事件は防人老人によって、間違ったフェミニズムの暴動として扱われ、ドスケベ法も成り立っていなかった。現状としては単なる風俗街みたいなものになっているようだ。
卵
「……兄貴はどうなった?」
一番気になっている質問に、水引はなんとも言えない顔で笑って答えた。
秋野
「それは卵ちゃんの目で確かめるべきじゃないかな」
それもそうか。なら早く確かめよう。家の玄関に立ちインターホンを鳴らす。
卵
「……あーしだ。卵だ」
するとドアがガチャリと開いた。そこには──────ぼさっと跳ねた白髪交じりの金髪で、何所か力なく、それでもかつてのように優しく微笑む、甘くて苦いあーしの大好きなアレの匂いをさせて、180㎝ぐらいで、相変わらず趣味の悪い金色のジャージを着た──────
精
「──────おかえり、卵。ココア出来てるぞ」
紛れもなく兄貴だった。
口淫矢の如し軽んずべからずとはよく言ったもので、あっという間に月日が流れた。現在俺はSHOの治安管理委員会委員長兼特殊戦闘部リーダーを務めている。SHO代表になった桐香様の命令の下、青藍島の人々の平和と安全を守るために今日も今日とて──────
精
「今日は何が食べたい?」
礼
「アレがいいな。チーズリゾットがいい」
お腹の大きくなった礼と一緒に過ごしている。礼と一緒に後進育成した部下たちに仕事をぶん投げて、只今絶賛産休中だ。
セレン
「だったら僕も手伝うよ」
金髪の髪に鳶色の釣り目をした、優し気な男の子がトテトテとやって来る。この子は土口セレン。結婚した俺と礼の間に産まれた第一子だ。礼に似て優しくて健気ながらも、締める所はきっちりと締めてくれるいい子だ。SHOストライクフォースの隊長になった郁子先輩の毒牙から遠ざけるのが大変だ。
セレン
「あと一週間で出産予定日だもんね。僕もお兄ちゃんになるからしっかりしないと」
礼
「ふふ、どこかの誰かさんとは大違いだな?」
精
「それは言わないでくださいよ……」
ちなみに俺の家はかかあ天下だ。ヒエラルキーの最上部にはいつも礼がいる。次点で俺とセレンが同率で並んでいる。
精
「それじゃあ、夕食前の散歩に行くか」
礼
「今日はどのコースにするか? 私はどこでも────」
セレン
「今日は卵おばさんのお墓参りの日じゃなかった?」
セレンに言われて思い出す。毎月18日は卵の墓参りの日だ。俺の頭の治療は何年か前に終わったはずだが、どうも忘れる時はすっかり忘れてしまう様だ。ということで卵の墓参りに行く。月一で手入れされている墓は何時も綺麗で──────
淳之介
「おや、俺達の方が先に来ていたとはな」
琴寄
「ご無沙汰しております。礼様のお身体の方はいかがでしょうか?」
文佳
「セレンくん、セレンくんのママは元気にしていますか?」
橘夫妻子がいた。何と淳之介君は株式会社NLNSを立ち上げ社長になっている。NSNSにしなかった理由は『いつまでもお前達の力を借りるわけにはいかないからな』とのことだ。文乃ちゃんは社長夫人として会社と淳之介君を支えている。そんな二人の間に産まれたのが、かつての文乃ちゃんによく似た、深紅の瞳を持つ
セレン
「うん。昨日もご飯三杯食べてたから大丈夫だと思う」
礼
「そ、それは言うな! お父さんのご飯はおいしいだろ!」
精
「お腹の子のためにいっぱい食べてくれるのは嬉しいんですけど、体重の増え方が明らかにおかしいですもんね」
礼
「あぐぅ……!」
礼のお腹はいろんな意味で大きくなっている。育児とダイエットの両立は大変だろう。俺とセレンがしっかりサポートしないと。
淳之介
「……幸せそうだな」
精
「いや、まだまだ足りないさ。もっと幸せになって、礼も、セレンも、これから生まれてくる子も、皆でもっと幸せになってやる」
そう言って笑って卵の墓を見る。お前の分まで幸せになってやるからな。
精
「……? おかしいな……?」
辺りを探すが見つからない。いつもだったら優しく笑っているはずなのに。
セレン
「何を探しているの、お父さん?」
精
「いや……オカルト的なものだからあまり言いたくないが────」
礼
「っ!? おお!?」
礼の足元に数滴の水が落ちる。俺は咄嗟に携帯をとって119番通報をする。
精
「妻が墓地で歩いていたら破水しました! 下着から数滴水が落ちるぐらいです! はい! 来週が出産予定日です!」
礼
「ぐっ、かっ……!」
セレン
「大丈夫!? お母さん!?」
礼
「だ、大丈夫だ……! に、二度目ともなれば慣れる……!」
精
「かなり痛そうです! 救急車呼べますか!?」
最初の時は間違えて110番通報するほど慌てたが、今回は比較的落ち着いている。
淳之介
「NLNSの皆を呼ぶか!?」
精
「救急隊の人が来るから呼ばなくていい! それよりも礼を楽な体勢にして励ますぞ!」
常備しているレジャーシートとバスタオルを敷いて礼を座らせる。
精
「大丈夫ですよ礼! 俺が居ますから!」
セレン
「僕もいるよお母さん! だから死なないで!」
礼
「お前達を置いて死ぬわけないだろう……! で、でも、今回はやけに痛いな……!? な、中の子が暴れているみたいだ……!」
お医者さんも言っていたが、かなり活発な子みたいだ。流石の礼も苦しそうだ。遠くからサイレンの音が近づいてくる。ほどなくして救急隊員の人たちが担架を持って、礼を救急車へ運び入れた。
隊員
「ご家族の方もご一緒できますか!?」
精
「俺は行きます! セレンも行くか!?」
セレン
「僕は家で必要なものを準備するよ! 落ち着いたら連絡して! 淳之介さん達に送ってもらうから!」
我が子ながら出来過ぎている。教育が良かったのだろう。親の顔が見て見たいから礼を顔を見て励ます。
精
「名前はもう考えてあるから産む事だけを考えていいぞ!」
礼
「それは……嬉しいな……!」
婦人科について出産に立ち会う。一度目と変わらず礼の手を握って励ます。言葉は要らな────
礼
「あ゛あ゛あ゛!!! 痛い痛い痛い!!! しぬぅぅぅ!!! 優しくしてぇぇぇ!!!」
流石に言葉をかけないとヤバそうだ。
精
「大丈夫だ礼!!! 終わったらリクエストした料理好きなだけ食べさせてやるから!!!」
礼
「うあああ!!! が、ガトーショコラったいいい!!!」
精
「ガトーショコラだな!?!?!? 生クリーム付けるか!?!?!?」
礼
「やめろ郁子!!! 悪かったああああ!!! そっちの穴は止めてくれえええ!!! 桐香様も止めてくださいいいい!!!」
前にSHOでやらかした際に俺抜きでお仕置きをしたというが、それがフラッシュバックしているのだろうか。
礼
「精いいい!!! 2人を止めてくれえええ!!! しんじゃうううう!!!」
精
「郁子先輩! 桐香様! ここまで言ってるんですから止めてあげてください!」
礼
「私が痛がってるんだぞ!!! もっと腹から声出せこのバター犬んんん!!!!!!!」
セレンを連れて来なくてよかった。この礼を見たら間違いなく幻滅するだろう。
精
「し、しっかり呼吸してください! ほら、ひっひっふー、ひっひっふー!」
礼
「ひいいいひいいいふううう!!! ひいいいひいいいふううう!!!」
婦人科医
「子宮口が開きました! いきんでください!」
礼
「んんんんんん!!!!!!」
礼の地を鳴らすような声と共に赤ちゃんの頭が出てきた。
精
「出てきましたよ礼! 力抜いて……フーフー……」
礼
「ふううう……ふううう……」
先までの激しさはどこへやら、赤ちゃんはスルスルと出てき──────
赤ちゃん
「おっぎゃあああああああ!!!!!!」
思わず耳を塞いでしまうような雄叫びのような産声を上げる。いくらなんでも元気すぎる女の子だ。セレンの時はもっと穏やかだったのだが。ともかくその子にはレイラという名前を付けた。セレンとレイラ、どちらもセイとレイとランから取った名前だ。
それから礼とレイラは無事に退院し、レイラもすくすく育ち────
レイラ
「おっぎゃあああああああ!!!!!!」
礼
「おっぱいか!? オムツか!?」
精
「匂い的にどっちもだ!」
セレン
「オムツ持ってきたよ!」
育ち過ぎていた。一般的な赤ちゃんの倍の量は飲むし出す。声に至っては百発百二十中で目が覚める。力もかなりある方で、すでにベビーベッドがボロボロになっている。おかげでNLNSや旧BIG3の力を借りて育てているほどだ。
女部田
「セレンくんはオムツ変えられてえらいね~♪ イクのおっぱい揉む?」
セレン
「気持ちは嬉しいですけど、僕は文乃さんや渡会さんぐらいの胸が好きです……」
文乃
「ぬっへっへ……」
渡会
「セレンくんは分かってるね! お姉さんがいっぱい褒めてあげる!」
片桐
「巨乳に囲まれていたらこうなるのも仕方がないわね……」
畔
「うーん……セレンくんの性癖が心配です……一度私のおっぱいでサンドイッチしましょうか?」
麻沙音
「セレンくんの食育に悪いから近づくなバターフライ女」
冷泉院
「……不思議ですね。私はレイラちゃんを見ていると、ある人を思い出します」
淳之介
「ああ、多分俺も同じ人物を思い出している」
2人の言葉に俺と礼も同じことを思っている。
礼
「レイラが産まれたのは……8月19日なんだよな?」
精
「ええ。卵の誕生日の翌日です……もしかして……」
礼
「……かもな」
レイラの瞳は太陽のようにきんきらと輝く金色で、髪はサラサラとした綺麗な緑髪だった。泣き叫ぶレイラの耳元である言葉を囁く。
精
「──────生まれてきてくれて、生きてくれてありがとう」
瞳と髪を見てなんとなく思ったのだ。するとレイラはぴたりと泣き止んでキャッキャと笑い始めた。
精
「……おかえり、なのかな?」
レイラ
「あーいあー!」
レイラは無邪気に笑っている。今の返答に何か意味があったのだろうか。もしそうだったらとしたら、いや、そうでなくてもこの子は大切な家族だ。レイラの幸せを守ってみせる。勿論、セレンも、礼も、仲間の皆も、何より俺自身も。皆で幸せになってやる。
精
「だって……
礼
「ああ、だから……これからも私が支えてやる。よろしくな、精」
レイラ
「おっぎゃあああああああ!!!!!!」
セレン
「うわあ!? 今度は何!?」
さて、頑張りますか。
次回で最終回とさせていただきます。