抜きゲーみたいな島に住んでいる狂犬はどうすればいいんだ? 作:神剣狩刃
先日の謎の男の襲撃を知るべく、淳之介君の家にお邪魔することにした。アポなしだが大丈夫だろう。アポがあったってダメなときはダメなんだし。今日は普通にインターホンを鳴らす。
精
「淳之介君?昨日のことで話し合いたいんだ。ちょっといいかな?」
淳之介
「ああ、構わな---…畔がいるが、大丈夫か?」
精
「…まあ、相性があまりよくないのは認めるが、アレがいたから話せなくなるわけなじゃいだろ。」
ということで淳之介君の家に上がる。リビングを開けるともの、畔三人分のすごくおいしそうな匂いがした。
精
「うお…急にすげぇいい匂い…!中華街かな?」
麻沙音
「あっ、土口さん。ご無沙汰しています。」
畔
「うっ…ど、どうも、お邪魔しています…」
橘家の食卓を六段の重箱が埋め尽くしている。察するに、お食事会をしてるのだろう。
淳之介
「お前も食べていくか?畔の料理はかなりおいしいぞ?」
畔
「私が作ったものありませんよ?はぐはぐ…」
麻沙音
「っ!?私が狙ってた春巻きが消えた……!?」
精
「勝手にアサちゃんが狙ってたの食うんじゃねえよ。おかわりはいりませんか♡」
麻沙音
「作ってくれるんですか!?」
家が近いし、そろそろ冷蔵庫の食材の整理もしたかったしちょうどいい。俺は一旦家に戻り、フライパンとバットと具材を持って、橘家のキッチンを借りた。
一言で春巻と言っても具材が色々ある。その派閥によって戦争が起きてもおかしくはない。俺が作る春巻には必ずタケノコと春雨が入る。この二つは春巻の食感にバリエーションが出るからマストだ。肉は鶏肉で、他の具材はキャベツだ。で、畔の弁当を見るに結構オイリーなものが多い。ここは揚げるのではなく揚げ焼きにして、肉の下味に生姜を忍ばせて箸が進むようにする。鶏ひき肉を炒め、細切りにした具材を炒め、調味料で味を調え、炒めた具材をバットの上に広げ、粗熱を取る。そして春巻きの皮に包んでいく。
淳之介
「精って料理上手いよな…コツとかあるのか?」
精
「日々練習するしかないね。一朝一夕でうまくなるものじゃないし。」
畔
「な、生春巻きでもいいので…!早く食べさせてください…!」
精
「生春巻きってそういう意味じゃないだろ、とんでもない食欲ハザードだよ。」
生の小麦粉のβデンプンは消化されにくく、消化不良を引き起こす可能性がある。だからきっちり火を通さないといけない。生春巻きが食いたかったら最初からそう言ってほしい。もっとも、アサちゃんのために作っているから畔の意見などどうでもいいのだが。包んだ春巻きを揚げ焼きにしていく。150℃ほどで揚げ、ひっくり返して、両面きつね色になったら完成だ。
精
「はい、アサちゃんリクエストの春巻だよ。たんとお食べ。」
麻沙音
「いただきます!ハムッ、ハフハフ、ハフッ!!うまい!」
アサちゃんの背後がテーレッテレーと光ったような気がした。
麻沙音
「揚げた生地のサクッとした触感、タケノコのコリっとした食感、春雨のプルンとした食感、食感の三重奏が奏でられる!しかも揚げ焼きのはずなのに、鶏肉と生姜のおかげでその重さを感じさせない!この春巻を作ったのは誰だぁ!シェフを呼べぇ!」
精
「ここにいます。淳之介君も食べな。」
淳之介
「それじゃあ、お言葉に甘えて…おお、これはうまいな!何より出来立てって言うのがいいな!出来立ての春巻なんてなかなか食えないからな!」
畔
「そうですね!うまいうまい!もっとおかわりくださーい!」
精
「お前はお前の持ってきた弁当でも食ってろよ。口周り油でテッカテカで無様でございますわね。」
とは言いつつも、冷蔵庫の在庫処分セールでそれなりの量がある。底なしの食欲はありがたい。じゃんじゃん揚げ焼きにしていく。
一通り春巻を挙げた俺は淳之介君と先日の男について話す。
精
「昨日のあの男、淳之介君を連れて行ったけど…何かされなかったか?」
淳之介
「ああ、あの人は俺を家まで連れて行ってくれたよ。」
先日の男の名前は手嶋俊英と言って、仮初の被膜というアダルトグッズの店主をやっているらしい。淳之介君と同じく、性行為は愛する人間と行うべきと考えている。郁子先輩を突き飛ばしたのは許せないが、淳之介君を助けてくれたのも事実だ。ここは功罪の相殺で見逃すとしよう。次郁子先輩やSSに手を出したら許さないが、それまでは見逃すとしよう。俺は春巻に手を伸ば---
畔
「ご馳走様でした…おいしかったです…」
精
「嘘だろ…7人分ぐらい作ったのに無くなっちまった…」
麻沙音
「95割ぐらい畔さんが食べてましたけどね…マジで豚並みの食べっぷりでしたよ…」
淳之介
「体重は食事じゃなく運動で調整する--って言うのがダイエット哲学らしい。」
精
「こんな暴食ボディでダイエットをしてるなんて各方面に失礼だよね。」
畔
「はぅっ……!」
その後、岬はふざけた片桐のモノマネをしてアサちゃんに叩き出された。人のセンシティブな部分に雑に踏み込むんじゃない。だから太るんだよお前は。
精
「んじゃ、俺も帰りますかね。食べたいものがあったらすぐ言ってね、アサちゃん。休日に作ってあげるからさ。」
麻沙音
「ありがとうございます、土口さん。」
精
「そんな火を通しすぎた肉みたいに硬くならなくても。タメ口でいいよ、格ゲー仲間なんだしさ。」
麻沙音
「が、頑張ってみるます…」
ぎこちないアサちゃんと別れ、家に帰って調理器具を洗う。
精
「手嶋俊英…ただのアダルトグッズ販売者にしては、実力がある。それなりの場数を踏んでいないとあの実力は出せない。だとしたらその正体は…?」
一人で考えてもこれと言った答えは出て来ない。情報が少なすぎる。それに、奴にかまけている時間などない。琴寄文乃の件もあるが、先日の会議で挙がった"あのイベント"も考えなければいけない。
時は先日、俺と郁子先輩は上書きセックスをした後、報告のために生徒会室に戻った。
女部田
「あはは……ごめんねぇ?あれだけやったら尻尾出してくれるかなーって思ったんだけど……ダメだったみたい。」
精
「俺も出動しておきながらこのザマです。本当に申し訳ありませんでした。」
糺川
「まったく……呆れたやつだ……!学園の治安を滅茶苦茶にして、それを止められる奴も動員させておいてお前は--!」
冷泉院
「まぁまぁ礼、その辺りにしてあげましょう?郁子のことばかり責められないわ……進展がないのはこちらも同じことなんだから、ね?」
今、会長と目が合った気がする。相変わらず翡翠のように綺麗で、焼売の上のグリーンピースのように意味不明だ。何を見透かされるかわかったものじゃない、目と話題を逸らさないと。
精
「そう言えば、そろそろ"アレ"の時期じゃないですか?俺の二冠がかかっているんで早く準備したいんですよ。」
糺川
「なるほど……"アレ"なら人員も多く動員できるな。反交尾勢力への対処と言えば通るだろう。」
女部田
「そうそう。このアイディアを出すために私と精くんは外回りに行ってきたんだよ?」
糺川
「……優秀な部下を持ってよかったな、郁子?」
精
「元は礼先輩の部下でしたけどね。でも、このずる賢い立ち回りは郁子先輩から教えてもらったような…」
女部田
「もー、精くんったら。あんまりヒドイこと言うと手合わせとドスケベセックスしてあげないよ?」
そりゃないっすよ、と俺は大げさなリアクションを取って会議にオチをつけた。さて、"あのイベント"となると…俺の立ち回りはかなりのものを要求される。SSとして本気で1位を目指すからな。ライバルなんかにゃ負けないぞ。
土口君の美岬に対する態度は非常に辛辣です。まあ、本編でもそんな感じの扱いでしたから。