抜きゲーみたいな島に住んでいる狂犬はどうすればいいんだ? 作:神剣狩刃
体育館ではそこらかしこで生徒がセックスをしていが、異常な光景も孕んでいた。
精
「SSが少ない…ほとんど手嶋の所に行ったか。コイツは畔並みにヘビーだ。」
淳之介
「それは分かるが…美咲のことを茶化さないでくれ。俺の大切な彼女なんだ。」
精
「…軽率だった。すまない、畔。」
畔
「あ、いえ…土口さんが私に謝るなんて…これも淳之介さんと付き合ったおかげでしょうか…?」
暗幕が下り、スクリーンに仁浦俊明が映し出される。
仁浦
『本日は急なお呼び出しにも拘らず、お集まりいただきありがとうございます。まずは単刀直入に要件から申し上げようと思います。先日の協議の結果、新たに"シン・ドスケベ条例"を制定--ここに、青藍島ドスケベセックス有料化計画を立ち上げます。』
翌日の放課後、基地でNLNSのメンバーと話す。
精
「ヤクザの提案ですってのがバレバレだな。政治家って取り繕いがうまいもんじゃないのかね?」
淳之介
「お前の政治家への偏見は置いておいて、あのシン・ドスケベ条例はどう思う?」
精
「…俺は悪くないと思う。」
メンバー一同が意外な顔をする。
精
「金を払えばどんなプレイでもできる。危険なプレイもだが、『同性愛者』同士でもできるようになる。倫理とか治安とかの問題はあるだろうが…俺としてはそこまで反対しない。」
俺が反交尾勢力を見逃していたもっともな理由は『同性愛者関連』の条例を変えてもらうためだ。ならば、結果としては成功したと言っていいだろう。条例が変われば環境も大きく変わる。思うところはあるがこれぐらいの変化は---
淳之介
「そこに愛はあるのか?」
精
「…感情的な問題はどんな条例になろうとあるさ。でも、それを考慮していたらいつまでも」
淳之介
「琴寄文乃を巡る戦いの時、お前はなんのために戦ったんだ?友情や忠誠のためではなく、愛のために戦っただろう?」
その言葉に俺は引っかかった。愛。俺はあの時郁子先輩への愛で戦った---
精
「郁子先輩…そうだ、郁子先輩はどこだ!?」
何で今まで忘れていたのだろう。郁子先輩を愛していたというのに。いや、居るのが当たり前だと思っていたんだ。だから今も近くにいるとばかり思っていた。
精
「…学校にはいなかった…まさかSHOの本部か!?悪い、初日から早退させてもらうぜ!」
淳之介
「…話し合いはまた後日だ。よく考えておけよ。」
俺は基地から飛び出した。
遊覧船乗り場に到着したが、SHO本部には行けないという。考えてみれば、洗脳されていない俺をSHO本部に近づけさせないのは当然のことだ。どうする?むやみに探すにしても青藍島は広い。当てもなく探すぐらいなら、今までの情報からヒントを探せ。
『あの女とコイツになんの共通点があるんだ…?』
あの女---これがもし郁子先輩だったら?もし郁子先輩も洗脳されてなかったら?俺と郁子先輩の共通点は?俺と郁子先輩にしかない共通点は?---あった。奴の洗脳方法から考えて、その可能性は十分ありえる。
『ありえないことを除けば、残ったものがどんなに信じられなくても真実だ。』
だとしたら、郁子先輩は今かなりマズい状態だ。SSを除名され、居場所がないどころか家がない。しかも、他のSSは洗脳されていると思っているから誰も頼ることができない。今までの二日間、郁子先輩は独りでいたことになる。
精
「郁子先ぱあああい!!!」
走った。砂浜を走った。走った。叫んだ。転んだ。走った。山を走った。息に鉄の匂いが混じろうと、声が枯れようと、走り叫んだ。空気に雨の匂いが混じりだす。早く見つけないと。降り出した雨はすぐに強くなる。その中で郁子先輩の匂いを見つけた。その方向にがむしゃらに走った。そして---
精
「郁子先輩!!!」
女部田
「あ…………精……くん……?」
電信柱の下にポツンと体育座りで小さく咲く、郁子先輩を見つけた。
精
「郁子…先輩…!ごめんなさい…!一人にさせて…!」
俺は泣きながら郁子先輩に抱き着いた。
女部田
「本当にそうだよ…大好きな先輩を放っておくなんて…ひどいよ精くん…」
郁子先輩が力なく笑い抱きしめ返す。今にも消えてしまいそうな弱さだった。なのに不自然に温かい。熱がある。
精
「郁子先輩…!詳しい話は後でします!一旦俺の家に!」
俺は郁子先輩を荷物ごと抱きかかえ、家に連れて行く。濡れた服を手早く剥ぎ取り、タオルでふき取る。そして常備薬の座薬を挿入する。
精
「しばらくすればよくなりますから…!今からお風呂沸かしますね…!」
風呂のスイッチを入れ、郁子先輩のそばに駆け寄る。
女部田
「精くん…あたし、変かな……何か、間違っちゃったのかな……」
精
「郁子先輩は間違っていません!何があっても俺が郁子先輩の味方でいますから!」
郁子先輩の手を握って励ます。今は郁子先輩を温めることが最優先だ。俺も服を脱いで裸で抱き合う。
女部田
「精くん、あったかいね…」
精
「郁子先輩が鍛えてくれましたから…!人間湯たんぽになりますよ…!」
俺は体を必死で震わせる。少しでも郁子先輩を温める。そうこうしている間に風呂が沸いた。俺は郁子先輩を連れて一緒に風呂に入る。
精
「折角ですから郁子先輩のご自慢の髪、俺が丁寧に洗ってあげますよ。」
女部田
「…うん、お願いしようかな…」
髪の話題に触れてもこの反応だ。本当に参っているのだろう。俺は丁寧に郁子先輩の髪を洗う。
女部田
「…精くん、髪洗うの上手だね。」
精
「髪は女の命…まして大好きな郁子先輩の髪ですから。丁重にもてなさないと怒られちゃいます。」
女部田
「…ふふ、そうだね…」
少しは気が利いたことが言えただろうか。笑い声に明るさが少し戻った気がする。
精
「俺は軽く洗って晩御飯の準備をします。郁子先輩はゆっくり温まってくださいね。」
女部田
「うん、ありがと。」
俺は風呂から上がって、あるものの準備をした。---結構な時間がかかったらしく、いつの間にか郁子先輩が風呂から出てきた。
女部田
「…甘い匂いがする…」
精
「約束しましたよね、今度本気で練るって。『狂犬のココア』です。今日はミルクと砂糖マシマシの甘々仕立てです。」
いつの日かの約束を果たすべく、今回は本気で練り上げた。風邪を引いている時は温かくて甘いココアがいいと相場が決まっている。昔、卵が風邪をひいた時もそうだった。
精
「どうぞ。」
女部田
「いただきます…うん、甘くて温かくておいしいよ…でも…」
精
「でも?」
女部田
「もっと体調がいいときに飲みたかったなあ…」
精
「…それもそうですね。郁子先輩が本調子になったらもう一度本気で練りますよ。」
温かな一杯で体も心も温まった郁子先輩がポヤポヤしだす。色々あって眠いのだろう。
精
「…そうだ郁子先輩、俺もSSクビになっちゃたんですよ。そのショックで一人で寝るのが寂しくて…一緒に寝てくれません?」
その言葉に郁子先輩は頷いてくれた。一緒に寝室に向かって、同じ布団に入る。そして俺は郁子先輩を抱きしめる。
精
「郁子先輩、今は俺と郁子先輩だけです。だから何があっても…俺は何も言いません。」
女部田
「精くん…じゃあ、これから何が起きても誰にも言っちゃダメだよ…?」
精
「もちろんです。だから…俺を頼ってください。郁子先輩。」
その言葉を皮切りに、郁子先輩が俺の胸に顔をうずめて泣き出した。孤独、不安、安堵…俺はそれをただ頭を撫でながら受け止めた。頼れる一番隊中隊長からは想像ができないほど、か弱く幼いものだった。俺も不安が全くない訳じゃない。でも、郁子先輩が、いや、女部田郁子が抱えていたものに比べれば大したことはない。
女部田
「精くん…精くん…!!あたし…あたし…!!みんな……やだよぉ……!!」
精
「大丈夫です郁子先輩。俺がいます。もう、二度と郁子先輩を泣かせることはしません。だから…今は思いっきり泣いてください。」
女部田
「うああああん!!!」
精
「愛しています、郁子先輩。」
郁子先輩を強く抱き寄せる。同じシャンプーのはずなのにいい匂いがする。きっと、郁子先輩のいい匂いだろう。この時、俺は郁子先輩を愛していくことを改めて心に決めた。