抜きゲーみたいな島に住んでいる狂犬はどうすればいいんだ? 作:神剣狩刃
翌日の俺は穏やかじゃなかった。淳之介君から情報を知った会長が、俺にどんな判断を下すのか分からなかったからだ。いつも恐れられている俺だが、今日は淳之介君も含めて話しかけてこなかった。流石にやばいオーラが出ているのだろう。今日は大人しくするか--
冷泉院
『放課後に会議がありますので出席してください。』
死刑宣告ですと言ってくれた方がましだった。そのほうが覚悟が決まる。半ば期待を持てる表現は時に残酷だ。
精
『かしこまりました。いつもご苦労様です。』
せめてもの皮肉を込めて返答する。そして、放課後の会議に参加する。
冷泉院
「…………つまり、島に紛れ込んでいるヤクザを一掃するまで礼の少女についてSHOは動けない、と。」
糺川
「ええ。どうやら裏風俗潰しのほうにSHOの人員を割くようです。」
冷泉院
「なるほど……その間、"文乃"の一件はこちらに任せると、そういうことね?」
精
「今回の失敗は俺の責任です。結果的にとはいえ、反交尾勢力の手伝いをしてしまいましたからね。厄介ごとは全部俺に押し付けてください。その上でクビにすればSHOの機嫌取りもできるでしょう。」
糺川
「……お前一人が責任を背負う必要はないだろう。我々の部隊が取り逃した事実は流石に消えない。私達にも責任がある。」
冷泉院
「そもそも私が土口さんに余計な気を使って出動命令を出さなかったのが発端です。皆で責任を負いましょう。」
さすがにこの場で反論はできない。俺は黙って会長の提案を受け入れる。
桐香
「とりあえずお疲れ様、皆にはしっかりと休養をとるように言っておいてね。休日出勤手当については、私が申請しておくから。」
糺川
「はっ、承知しました桐香様--失礼します。」
礼先輩が一礼して部屋を出ていく。俺はそれを見送って立ち尽くす。
精
「さて…ここからはオフレコでお願いしますよ。誰かに聞かれたらまずい会話をしますから。」
冷泉院
「ええ、私も土口さんと色々確認したいことがありますから。お付き合いお願いします。」
今の俺がするべきことは情報収集だ。会長はどこまで淳之介君を知ったのだろうか。
精
「まず、淳之介君が反交尾勢力のリーダーであることは分かりましたね?」
冷泉院
「はい。なんとなく推量していましたが、今回の件で確信に変わりました。」
精
「あれだけ露骨にドスケベセックスを避けてれば怪しみますよね…で、他のメンバーも分かりましたか?」
冷泉院
「もちろんです。模範的なビッチである片桐さんが反交尾勢力に加担していたのは驚きました。」
嘘をつけ。荒唐無稽な噂だけで性産行為を見ていないのであればなんとなく察しはつくだろう。俺が出来てこの人にできないことは日常生活ぐらいだ。
精
「で、反交尾勢力が琴寄文乃を所有していることも…」
冷泉院
「それに関しては裏風俗の件が終わってから対処しましょう?SHOからの命令ですから。」
抜かせ。俺と会長が反旗を翻せばあんな組織すぐにでも手中に収めることができるだろう。それをしないのはそれをする理由がないだけだ。
精
「最後に…俺への処分はどうするおつもりですか?」
冷泉院
「そうですね…また桐香ちゃん係をやってもらいましょうか?」
俺の顔が歪む。アレは辛い。正直いって、除名処分よりもキツイ罰だ。
冷泉院
「そんな顔をされると私も悲しいです…冗談ですよ。一つ質問に答えてくれればそれでいいです。」
会長は不敵な笑みを浮かべている。
冷泉院
「土口さんにとって、『橘淳之介』はどんな人物ですか?」
精
「---っ…!」
なぜ今それを聞いた?なんで寄りにもよって今一番考えたくないことを聞いた?『全ての元凶』だと答えれば楽だろう。だが、それはできない。間違いなく友達なんだ。似た境遇で、条例に悩んで、共に打ち明けた仲なんだ。じゃあ『唯一の友達』なのか?いや、手放しに友達とは言えない。事情があるとはいえ俺達SS、ひいては青藍島に叛旗を翻す反交尾勢力だ。琴寄文乃も奪われ、SSに甚大な被害を与えている。それらを飲み込んで友達と言えるほど俺は都合のいい人間ではない。
冷泉院
「答えられないなら--」
精
「分からない…一言で答えられるような人間じゃない…」
それしか言えなかった。今の俺の頭の中では全く整理ができない。まるでほったらかした配線コードのようにごちゃごちゃしている。
冷泉院
「ふふ、それでいいと思います。あんなことがあったばかりですから思うところもあるでしょう。」
会長は目をつぶって笑っている。何が気に入ったのか全く分からない。本当に気に入らない人だ。いや、人ではないのかもしれない。人の皮を被った異星人なのかもしれない。そう思えるほどに不気味で--
冷泉院
「言葉で分かり合うというのはこうも
--分かり合えない存在だった。
6時間目の授業は碌に身に入らなかった。呆然と言われるがままにセックスをして、ただただ茫然と時間が過ぎていた。だからだろうか、無意識に紅茶の匂いが漂った生徒会室にたどり着いていた。中から声が聞こえる。
淳之介
「生徒会長は、どこぞのお嬢様だと思っていたが……」
冷泉院
「まさか。昔はどうやらそうだったようですが、私が生まれるよりずっと前に没落しました。」
淳之介君と会長が話をしているようだ。俺はその扉を開ける気になれず、盗み聞きをすることにした。何でも会長は防人という奉公人の一族の生まれで、使用人として色々なものを仕込まれた。しかし、何をやってもうまくいかない落ちこぼれだったという。--何故それを淳之介君に言ったんだ?そんな話俺は聞いたことが一度たりともない。
冷泉院
「私、先輩に--とても興味があるんです。私は、あなたを知りたい。あなたのことが、すごくすごく、知りたい……だってあなたは……これ以上なく楽しくって、そこが見えないんだもの……」
その言葉を聞いて俺はこの場から立ち去ることを決めた。これ以上聞いたところで会長のことは分からない。それに--
精
「何で淳之介君には執着するんだよ…」
俺の中に、俺でもよく分からない何かが蠢き始めたからだ。
放課後、俺は一度整理をつけるために生徒会室にやってきた。
精
「会長、時間がなくても時間を貰いますよ。」
冷泉院
「そんなに怖い顔をしなくても話を聞くぐらいの時間はありますよ。ココアを入れ--」
精
「会長、俺はあんたが気に食わない。」
冷泉院
「まあ…直接言われるととても悲しい--」
精
「実力がどうこう権力がどうこうじゃない…他者の踏み込んでほしくない事情に、自分勝手な都合でズカズカと踏み込んでくるのが気に入らないんだ!お前は相手のことを考えたことがあるのか!?淳之介君のこともそうだ!彼には彼なりの事情があるんだ!」
冷泉院
「それは承知の上--」
精
「俺もそうなんだよ!『金色の狂犬』として思うところがあるから淳之介君のことで悩んでるんだよ!なのに!『橘淳之介はどんな人物ですか?』だ!?俺が淳之介君のことをどう思おうがあんたには関係ないだろ!?触れてほしくない所を粘膜接触一つで知った上で触れてくる……そんなあんたのことが本当に気に入らないんだ!!!」
俺は机を思い切り叩きながら叫んだ。冷泉院桐香という人間に対して抱いていた嫌悪感をぶちまけた。俺は早くこの心をどうにかしたかった。もうどうなってもいい。これがきっかけですべてが終わっても--
冷泉院
「……やっと話してくれましたね。」
精
「ああ…!?」
会長は嬉しそうに笑っている。何が気に入ったのか分からない。『あなたのことが嫌いです』と言われて喜ぶ人間なんているわけないのに。
冷泉院
「土口さんは私を何故か忌避していましたからね。その理由が知れて嬉しいんです。先輩も知りたいですけど、土口さんのことも知りたいんです。」
冷泉院桐香という存在は何を企んでいるのだろうか。俺を知りたい?俺の持っている情報なんてこいつは全部持っているはずだ。いまさら何を知りたいんだ?
冷泉院
「お互いを知るためにもセックスを--」
精
「断る。気に入らない存在とするなんざ真っ平御免だ。」
俺は吐き捨てるように生徒会室を後にする。心は空を網目に走る稲妻のように荒れていた。