抜きゲーみたいな島に住んでいる狂犬はどうすればいいんだ? 作:神剣狩刃
淳之介君は過去に性器の大きさからいじめを受けていた。そんな中に出会った少女に救われた。仲間だとさえ思った少女に半ば強姦まがいで迫ってしまった。いくら助けたいという思いがあったとはいえ、人非ざる行動をしてしまい逃げ出した。再び助けてくれた年上の女性が現れたが、青藍島民からの迫害を受けて死んでしまった。だから性に奔放な人間が嫌いだという。
その言葉を聞いて俺と会長は何を言うわけでもなく目が合った。そして、頷いて淳之介君に向けて言葉を手向ける。
冷泉院
「なるほど、あなたは--……先輩は非処女が嫌いなわけではありませんね。」
精
「俺にもよく分かる。……やっぱり君は俺と似ている。」
精・冷泉院
「君は、ただ……島の人間が許せないだけだ。」
「あなたは、ただ……島の人間が許せないだけですよ。」
冷泉院
「ドスケベ条例を盾に同調圧力を用いて少女を傷つけた、そうするように仕向けたすべての存在を嫌っているんです。」
淳之介君は呆然と色を失って立ち尽くしていた。そして、会長が言葉を紡いだ。
冷泉院
「--それが、悪いことなのでしょうか?」
淳之介
「…………な、に……?」
淳之介君が目を見開いて驚く。俺は会長が言いたいことをなんとなく悟った。
冷泉院
「あなたの主張は正当です。どういった理由があれ、あなたは狂わされた島の人間たちに、恩人を傷つけられた……」
精
「だから復讐がしたい…人間として当然だ。俺だって卵を同性愛者だと除者にした奴等を未だに憎んでいるさ。法がなければ殺してやりたいぐらいにな。」
淳之介
「そんな、こと……何を…‥!」
俺と会長の甘言に淳之介君が揺らぐ。
冷泉院
「あなたの怒りはなにも間違ってはいません。恨みがあるのなら、それは晴らさなければならない--そうでしょう?」
精
「君には権利と力があるじゃないか…NLNSという仲間が、あるいは…『金色の狂犬』という友達が。」
冷泉院
「もしも先輩が、それを望むのなら--……今回の総選挙で、島の人間すべてに復讐ができますよ?」
精
「SSを束ねる生徒会長とSSトップの実力を持つ『金色の狂犬』の協力があれば…何でもできるぜ?」
権力と武力。どちらにどちらが付いてくるのかは分からないが、今の淳之介君にはその二つを自在に行使できる。過ぎたる力は身を亡ぼすが、復讐の末路は大体悲惨なものだ。だったら大きな爪痕を残した方がいい。
淳之介
「なんでだよ精…」
淳之介君が震えるような微かな声で俺に尋ねてきた。
淳之介
「何でお前は俺に復讐を勧められるんだ…?青藍島で生まれて青藍島で育ってきただろ…?」
精
「そうだな、俺の過去も話すべきだな。よく聞きな、俺はこの話はSSの誰にも話していない。郁子先輩や礼先輩、まして会長にすら話していないからなあ…」
冷泉院
「正確にいえば…情報として知っていますが土口さんの口からきいたことはない、ですね。」
精
「結論から言って…妹、卵のことでこの島が気に入らないんだ。」
俺はココアを一気に飲み干しビターな思い出を語る。
俺と卵は一つ違いの兄妹だった。幼い頃、学校で性教育を受けていく中、卵は俺にこんなことを言った。
卵
「お兄ちゃん、なんで女の子同士でセックスしちゃいけないの?」
精
「何でって…そう決まっているからじゃないのか?」
子供だった俺は決まりだからとそれ以上のことは考えなかった。卵はとても不思議そうに、そして不服そうに頬を膨らめていた。
精
「男とのセックスは嫌なのか?」
卵
「…大人が言っているみたいに気持ちよくないの…」
半端な知識を付けてしまっていた俺は気取って卵にこう言ったんだ。
精
「まだ好きなプレイを見つけれてないだけだろ。色々試してみろよ。複数人でやってみるとかさ。」
卵
「うん…明日試してみるね。ありがとう、お兄ちゃん。」
そして翌日、卵は嬉しそうな顔で俺に飛びついてきた。
卵
「お兄ちゃん!やっぱり女の子とセックスするほうが気持ちよかったよ!」
何でも複数人のプレイの前座としてレズプレイを見せることになったらしく、その時に女の子とセックスしたのだという。
精
「まあ、それならいいけどよ。決まりは決まりだぜ?怒られない程度にしておけよ。」
卵
「えー、だったら決まりを変えちゃえばいいのに…」
俺も妹も無邪気だった。俺は妹を変な奴だなと思っていたし、妹は決まりを変えられると本気で思っていた。俺は妹の変を知るためにネットで調べてみたんだ。世の中には同性愛ってものがあって、そういう価値観もあるとそこで知ったんだ。俺は自分を悔やんだ。自分が知らなかっただけで、妹を変な奴だと決めつけてしまっていたことを。だから俺は卵に誓ったんだ。
精
「卵…いつかお前が女の子とセックス出来るようにこの島を変えてやるからな。」
卵
「本当!?約束だよ、お兄ちゃん!」
純真無垢な約束のためにお互い頑張った。俺はSSからSHOへの出世を見据えて勉強も運動も頑張ったし、妹も房中術と美容を頑張っていた。おかげで子供の頃からそれなりに評価されていた。だが、現実は非情だった。いつの日か、妹の同性愛がバレたのだ。そこから妹は徐々に転がり落ちていった。今までの評価はなかったことになり、異端者の烙印を押され、除者にされていった。追いつめられて涙を流す妹の言葉は、今でもフラッシュバックするときがある。
卵
「ねえ、お兄ちゃん…私も、皆みたいに気持ちよく女の子とセックスできるかな?」
卵
「どうしても男の人とセックスしなきゃいけないの?したくないのにしなきゃいけないの?」
そのたびに俺はこう答えるしかなかった。
精
「今は我慢してくれ…いつか…『条例を変えられる立場になる』から…」
卵
「お兄ちゃん!絶対だよ!私も…気持ちよく女の子とドスケベセックスしたいから!」
妹にとっては俺が唯一の希望だったのだろう。俺にはそれがよく分かったから周りの人に理解を広めようとした。妹の同性愛はおかしくないと。受け入れなくていいけど、認めてほしいと。でも--
島民A
「お前もあんな妹を持つと大変だなあ…同情するよ。」
島民B
「いつも大変でしょ?はい、アメちゃん。」
どいつもこいつも俺にばかり手を差し伸べた。卵のことなど理解しようともせず、受け入れようともせず。卵を異常者だと勝手に判断し、排除しようとして。そのたびに俺は心が折れそうになった。でも、それ以上に苦しんでいる卵がいる以上、立ち止まるわけにはいかなかった。
卵
「お兄ちゃん…何で私は好きな女の子とセックスしちゃだめなの?」
卵
「私も…好きな女の子とセックスしたいよ!なんで駄目なの!?」
いつか来るであろうその日のために見た目は保っていた卵は、その見た目からは想像がつかないほど追い詰められていた。俺はその卵を泣きながら抱きしめ--
精
「ああ…いつかきっとできるさ。そのためにも…お兄ちゃんは頑張るからな。」
優しい言葉で誤魔化すしかできなかった。
そんな俺と卵の様子を見かねてか、両親が本島への旅行を進めてくれた。一旦この島のことは忘れてリフレッシュしよう、そうすれば少しは二人も前向きになれると。俺達は長期休暇に本島へ旅行に行ったんだ。そして--
卵
「助けて!お兄ちゃん!助けて!」
あの事故が起きた。両親は即死で、俺は投げ出されてそれなりの重傷だった。でも、卵は燃える車の中に取り残された。
精
「卵!今助けるからな!おおお!」
骨が折れてまともに力が入らなくても、火が燃え移って火傷をしても--
卵
「熱いよ!痛いよ!助けてよ!」
卵が泣き叫んでも、悲痛な声を上げても、それでも車は動かなくて--
精
「らあああん!」
そして爆発に巻き込まれて、意識を失った。病院で目が覚めた俺は事故の処理を行った。相手方の責任ということで一生遊んでいても困らないほどの多額の金額が振り込まれた。その上で青藍島での生活の一切を請け負うとさえ言われた。あまりにも非現実的だったから受け止めれなく、逆に冷静だった。そして、青藍島に帰ってきた俺を迎えたのは--
島民D
「おかえり…大変だったわね…」
島民E
「両親に妹さんまで亡くして…俺たちがいるからな?」
島民F
「これからは何も気にしなくていいのよ。」
何も変わっていない島民だった。
手に走った痛みで現実に戻る。カップを握りつぶしていて、手から血が流れていた。それでも俺は胸に秘めていた思いを止められなかった。
精
「妹は苦痛を耐えて…希望を砕かれながら死んだというのに…妹を除者にしていた奴等は何も苦労しないでのうのうと生きていて…自分勝手にセックスして気持ちよくなっていて…!なんで妹は許されなかったんだ!?なんで奴らは許されたんだ!?そんなの!!!俺は絶対に認めない!!!だから!!!俺はこの条例を変えたいんだ!!!妹のために!!!奴らを否定するために!!!」
机にヒビが入るほど強く右手を叩きつける。流れる血が飛び散る。例え『金色の狂犬』と言われようと、俺には人間の血が流れている。だからこそ、島を憎む淳之介君が痛いほどわかるのだ。俺の言葉に淳之介君は下唇を噛みしめながら部屋から出て行った。
淳之介
「何かが違えば…仲間になれたかもしれないのにな…」
俺と会長は淳之介君を見送って二人残される。
冷泉院
「--名演技でしたね。あまりの気迫におもらししそうになってしまいました。」
精
「下の世話までさせるつもりですか?ちなみに演技じゃないです。本心です。--まだ言ってない本心もありますがね。」
会長からコップを拝借し、そのまま差し出す。察した会長は少し困ったように笑いながら、口直しの一杯を注いでくれた。一気に飲み干す。悪くない。ついでにもう一杯貰う。気分がいい。最後の一杯を貰う。歌の一つでも歌いたくなるようだ。
精
「…そう言えば遺品でしたっけこれ。こんな扱いしてすみません。弁償しますよ。」
冷泉院
「いえいえ。いいことを知れた対価と思えば悪くありません。…でも、新しいティーセットが必要なのは事実ですね。放課後に買ってきてもらえますか?」
お互いに粗相をしたし、これからも粗相をするのだ。それぐらいお安い御用だ。
19年とタイトルに書いてありますが、『金色の狂犬』に至るまでの19年であって、精は19歳であるという意味ではありません。