抜きゲーみたいな島に住んでいる狂犬はどうすればいいんだ? 作:神剣狩刃
最終日前日、俺は布団の上で先日の三者面談を思い出す。会長が淳之介君の肉棒で青藍島を支配できると言い、俺がそれを可能だと背中を押した三者面談だ。その後二人残って会長はこんな言葉をこぼした。
冷泉院
「私が初めてほしいと思ったのが──あの先輩なんです」
生まれが貧乏だから何かを欲しいとは思わず、生まれつき器用だったから欲しいものは手に入れられた、冷泉院桐香という女が初めてほしいと思ったもの。それが橘淳之介という存在だという。
精
「奇遇ですね。……いや、違うか。俺は淳之介君のことが──」
似た境遇でありながら敵対し、お互いを理解しながらも手を取り合わなかった、土口精という男が初めて築き上げた関係。それが橘淳之介という存在だ。
冷泉院
「私は、先輩がほしい。そして私がこれほどまでに欲したものを、周囲にも誤解なく理解してほしい」
不気味で度し難く人ですらないと思った存在の本性は──子供のように無邪気なものだった。その人を知れば少しでも歩み寄れる。俺が卵のためにしてきたことを、俺は冷泉院桐香という存在に対して無意識に否定していた。
精
「俺は、淳之介君のことを良く知りました。友達として、敵として。だからこそ──」
対し淳之介君の本性は──最初から分かっていた通りに良くも悪くも人間らしく、真っ当なものだった。その行動はともかく、動機は俺と同じだった。だからこそ敵対しながらもうまくやっていけたのだろう。
冷泉院
「この作戦が終わったら土口さんはどうするつもりですか?」
精
「俺の目標は最初から変わりません。反交尾勢力を捕らえ、その業績を基にSHO上層部に成り上り、条例を変えます」
俺は自分の本性を知った。もう迷わない。友情を理由に甘えるのは止めだ。俺は『金色の狂犬』だ。
精
「でもその前に──決着をつけます」
最終日はSSから人権がなくなるほど忙しい。
精
「A級精力剤はまだまだあります! 押さないでください! 困ります!! お客様!! 困ります!! あーっ!! お客様!! あーっ!! 困ーっ!! お客困ーっ!! 困り様!! あーっ!! お客様!!」
風紀委員として言うが、このイベントはマンパワー不足が否めない。秩序を保たせるための人数が圧倒的に足りない。突出した個の力があっても、それを満遍なく配置しなければ意味がない。この地獄は放課後になるとこれ以上に忙しくなるだろう。
精
「性欲の奴隷が! 色欲の傀儡が! 有象無象がよぉ……これ以上並んだ者から殺していく」
蘭
「と、土口さん!? 刀に手をかけないでください!」
俺の殺気を以ってもこの熱気は収まらない。マジで終わってやがる。おかしくなっちまうよ……授業なんか適当に流す。授業なんかやってられるか、授業中は休み時間だ。じゃなきゃ放課後に亡か故になっちまう。しかし、6限から放課後になるから授業休み時間も少ない。
精
「もう、どうなってもいいや。いやどうなってもよくないだろ」
蘭
「ああっ、土口さんがおかしくなっている……ここが一番の頑張りどころですよ!」
精
「頑張る……?」
蘭
「ああ、もう放課後ですから! 行きますよ!」
放課後……? そうだ。行かなければ。俺は花丸委員長の手を振り払い、エレベーターに向かう。NLNSの秘密基地への扉が開き、ただ一言放った。
精
「頑張れよ、淳之介君。俺が君に送れるたった一つの言葉だ」
淳之介
「精……ああ、たとえお前と刃を交えることになったとしても──俺はドスケベ条例をぶっ壊す」
どうやら淳之介君は俺や会長を利用するつもりは無い様だ。それを聞いて俺は──
精
『宣戦布告は済ませました』
冷泉院
『ご武運を祈ります』
そのメッセージだけで会長がどんな顔をしているのかがたやすく想像できる。静かに目を閉じ、かすかに笑っているだろう。扉が開く。
冷泉院
「ふふっ。直接言いに来ちゃいました」
思い描いた通りの会長がそこにいた。俺は少し笑って跪いた。
精
「想像通りの顔でよかったです。少しはあなたを理解できたと言いうことでしょうか」
冷泉院
「ご武運を祈ります」
精
「ありがとうございます──
俺は桐香様の手の甲にキスをして駆け出した。これで少しは桐香様を驚かすことができただろうか。考えたって仕方がない。早く合流しないと。
森の中の一斉掃射部隊に入り銃を構える。
精
『こちらω-99。いつでもOKです』
糺川
『よし……来た! 我らが
礼先輩の指示ので銃の引き金に指をかける。
精
「糺す狂犬の下に命ず、三途の川にて一抹の礼賛を捨てよ! そして
糺川
『──一斉掃射、
精
「……まあ、これぐらいでくたばるような奴じゃないよなあ!」
止んだ雨の中、淳之介君は電気アンマの傘をさして立っていた。
精
「見返り美人ってかぁ!? 第二陣! 撃てえええ!!!」
第二陣の弾幕をも凌いだ淳之介君が、礼先輩を地に伏せさせる。
精
『こちらω-99! 三番隊は突破されました! 頼みますよ郁子先輩!』
女部田
『こちらα-1、了解したよ。フォロー頼むよ、精くん!』
通信を終え俺は淳之介君達を後ろから追う。やけに茶色い煙があろうが匂いまではごまかせな──張り巡らされた煙幕はやけにビターな匂いがした。
精
「ーっ!? ココアの匂い……!? これピュアココアかよ……!?」
食べ物を粗末にするとかそいう言う問題は置いておいて、俺に対しての専用道具まで考えていやがった。俺が近接戦闘を挑むと言ったせいか。すぐさま郁子先輩に連絡を繋げる。
精
『こちらω-99! あいつ等匂いの妨害までしてきやがりましたよ! 追尾が困難です!』
女部田
『こちらα-1! 接敵したらそのポイント教えるから準備してて!』
ほどなくして接敵の報告があった。そのポイントに急ぐ。そこには郁子先輩が倒れていた。そして、傍らには淳之介君を抱えた片桐がいた。
片桐
「くっ……! こんな時に……!」
倒れている郁子先輩を見る。目立った外傷はない。意識は無いが呼吸もある。おそらく──俺は逆刃刀を振るう。キィンと刀が何かを弾く音がした。
精
「俺でも集中しないと気付かない狙撃……郁子先輩らしくない。調子にのって獲物を前に舌なめずりしちゃいましたか」
俺は片桐に刀を突きつける。
精
「さァ、交わり乱れて狂いましょう?」
そして一気に踏み込む。再装填の時間は数秒、それまでに仕留める。片桐は動けるような状態じゃない。もらった──
麻沙音
「止めてください! 土口さん!」
振りかぶる刹那、アサちゃんが俺の目の前に立つ。
卵
「止めて! お兄ちゃん!」
何でこんな時に卵の姿が──俺は動揺してその手を止めて、いや、ためらうな。俺は──
琴寄
「──……1」
その一瞬が明暗を分けた。俺の足に鋭い痛みが走る。頭部や頚部ではなく、足を狙った確実な一撃だった。感覚的に骨は折れてないが、まともに追うことはできないだろう。
精
「ああ、畜生……なんでこんな時に限ってフラッシュバックしちまうんだ……」
麻沙音
「ごめんなさい土口さん……兄が土口さんと対峙した時の最終手段でやれって……」
精
「ははっ……人の心とか無いのかよ……」
俺はアサちゃんと片桐にアイコンタクトで早く逃げろと伝える。二人は申し訳なさそうに去って行った。それを見届けた俺は連絡を入れる。
精
『こちらω-99……反交尾勢力並びに琴寄文乃に逃げられました。……
連絡先の人物はふふっ、と表情が思い浮かぶように笑った。
冷泉院
『明日は反省会にその作戦と大忙しですね』
ここからが本番だ。痛む足を引きながら郁子先輩を担ぐ。さて、敗戦処理はなんて言い訳しようかな。