抜きゲーみたいな島に住んでいる狂犬はどうすればいいんだ? 作:神剣狩刃
俺はSHO本社のサーバールームでガラス越しの島を眺めながら思い馳せていた。淳之介君も隅におけない奴だ。あの片桐とお立ち台でセックスするなんてな。おかげで──今頃、島ではヤクザの掃討作戦が行われている頃だろう。BIG3が投入されているのだから問題なくことは進むだろう。旅立つ前に桐香様から渡された手向けの六文銭を見つめる。
冷泉院
「これが私から送れる唯一の餞別です」
六文銭──三途の川を渡る際の渡し賃であり、転じて『死を覚悟する』という意味でも用いられる。これから起こる出来事は、失敗すれば死と同等のことが起き得る。まして、戦う相手はとっくに死の覚悟をしているだろう。それを俺に与えてくれたのだ。
精
「桐香様……俺は──」
サーバールームの扉が勢いよく開かれる。六文銭をしまい目線をそちらにやると、見慣れた顔が立っていた。
精
「来たか……ずっとこの時を待っていたよ──淳之介君」
淳之介
「精……! まさかお前がここを守っているとはな……!」
その表情は、鏡を見ているようだった。
精
「響き
淳之介
「あの時みたいに協力してくれる雰囲気ではないな……だが、ここで負けるわけにはいかないんだ!」
淳之介君が何かをあらぬ方向に投げ飛ばす。その一瞬で死線に踏み込む。愛刀ティラミスと穿ち丸が交差する。ガキャァンと激しい金属音と共に愛刀ティラミスが折れた。
淳之介
「ついに伝家の宝刀も折れたようだな……! 打撃はともかく振動を正面から受け止めることは想定していないだろう……!」
精
「刀がなければ何もできないわけじゃないさ。それに……使えるものは全部使う!」
折れた柄の部分を淳之介君に向けて右手で投げる。淳之介君は回避を選んだ。
精
「それを待っていた」
投げたモーションからシームレスに銃を引き抜き、穿ち丸を撃ち抜く。飛ばすことはできなかったが、堪えた分のダメージは手に入っただろう。さらに続けて左手に拳銃を持ち距離を取──
淳之介
「こちらは短期決戦にしないといけないんでな!」
取った距離以上に詰められ近接格闘を余儀なくされる。こうなると発砲で立ちまわることは不利になる。向かってくる穿ち丸を右の拳銃で受け止める。想像以上の振動が右手を襲う。咄嗟に銃を放し、蹴りを放つ。
淳之介
「見えてるぞ、精!」
その蹴りは回避され、逆に左手の銃を蹴り飛ばされた。動きが良すぎる。何かある。この戦いで起きた事は──
淳之介
「考え事をしている暇はないぞ!」
穿ち丸の連撃を防御しながら考える。俺の行動パターンが読めてないとあの動きは不可能だ。どこで知った? 知った上で咄嗟に判断できるか? この鉄火場で──
精
「あれか!」
戦いが始まる時に淳之介君が投げた何かを羅漢銭で撃ち抜く。それは羅漢銭に貫かれ、木っ端微塵に砕けた。
淳之介
「それは会長の──」
精
「君にも渡してやるよ!」
動揺の一瞬に五発の羅漢銭を叩きこむ。頭と両手と両足、見事に食らった淳之介君はふらつく。
淳之介
「かっ……!」
精
「やっと一撃叩き込めるぜ! うだらぁ!!!」
腹部に強烈な蹴りをめり込ませる。ズシンと重く響く。かなりいい位置に入った。
淳之介
「うぐぅっ……!」
淳之介君は痛みをこらえきれず苦悶の顔を浮かべながら蹲うずくまる。──ああ、なんて最高なんだ。
精
「まだ終わりじゃねえぞ!!!」
がら空きになった背中に踵を落とす。ゴリッとめり込む確かな感覚に笑みが浮かぶ。
精
「うははは!!! もっと苦しそうな顔をしろよ!!! おらぁ!!!」
再び踵を落とす。打ち込むたびに、淳之介君が苦しむたびに、心が満たされていく。
淳之介
「なんでだ……! なんでこんなことをするんだ……!」
精
「あ?」
淳之介
「俺達は友達だっただろう……! お前は……友達にこんな酷いことをする奴じゃなかったはずだ……!」
友達──その言葉が俺の怒りの臨界点を突破した。
俺は淳之介君を足蹴にしながら胸の中をぶちまける。
精
「ああそうさ! 間違いなく友達だったさ! 俺と君は友達で仲良くしていたさ! だがな、そうやって君を知っていくうちに……俺は君が憎くなっていったんだ! 血を分け人生の苦楽を共にした妹がいる君が! 心境を打ち明け困難に立ち向かう仲間がいる君が! あまつさえ……自分の全てを受け入れ共に人生を歩んでいく想い人がいる君が!」
淳之介
「精……!」
精
「俺は失ったんだ! 妹も! 仲間も! 想い人も! なぜ『金色の狂犬』として生きている俺が失って、『反交尾勢力』として生きている君が持っているんだ!? なぜ『正しく生きている』人間が失って、『間違って生きている』人間が持っているんだ!? だから俺は君が憎いんだ!」
淳之介
「ぐっ……!」
これが淳之介君との関係で一番悩んでいた理由だ。友達でありながら悪の道を進み、俺が失っていったすべてを持っていた。理論や理屈では説明のつけようがない、人として最低で真っ当な負の感情が巣食っていた。
精
「俺と桐香様の案に乗っていればこんなことにはならなかったのになあ! あの時はこちら側に来るんじゃないかと期待したんだぜ!? なのに君は最大のチャンスを逃した! だからこうなって当然なんだよ! おかげで今はいい気分だぜ!!!」
その感情のままに憎き仇を虐げる。相手が明白な悪だからこそできる至福の愉悦だ。
淳之介
「…………本当にそうか?」
その言葉に思わず足が止まる。
淳之介
「本当に俺が憎いだけだったら……どこかで俺を捕まえればよかったじゃないか……お前にはいつでもそれができた……なのに……今この場で捕まえようとする理由はなんだ……?」
精
「黙れ! この死にぞこないが!」
淳之介
「俺には分かる……俺だって憎しみに身を任せて復讐しようとした……憎しみっていうのは……認めることができない時に出る感情だ……」
精
「くたばりやがれ!!!」
淳之介
「お前には……根本的に認められない何かがあるってことだ、精!!!」
腹這いから起き上がる際、振り上げる頭で足を退けてきた。
淳之介
「来い、精! 仲良くするだけが友達じゃない! 時にはぶつかり合って分かり合うのも友達だ!」
精
「今更友達面をするんじゃねえ!」
お互い振りかぶった拳がぶつかる。
痺れるような痛みが走る。まだそんな力が残っていたのか。
淳之介
「俺はお前がすごい奴だと思っているよ! どんな境遇であろうと折れずに『金色の狂犬』としての名実を保ち続けてきた!」
精
「知ったような口を利くな!」
淳之介
「だが、今のお前はどうだ!? ただ自分を見失って感情のままに動いている……我儘な子供と同じだ!」
精
「ほざけえええ!」
俺は再び拳を振りかざす。
精
「これでも喰らえ!」
淳之介君が黄色のEggを取り出す。あれは閃光弾。目を閉じ音と匂いで状況を判断し──ココアの匂い? 何でこんな時に? 反射的に目を開いてしまった。そこには茶色い煙幕が張られていて──
淳之介
「俺たちの手の内を知っているお前用に開発した切り札だ」
その瞬間、閃光が走る。見事に直視してしまい、視界が役に立たなくなる。匂いでの判断もできない。咄嗟に後ろに飛び退く。後は音で判断するしかない。背中から何かが割れる感覚が走る。まさか俺が飛び退いた方向は──
精
「六文銭、手放しちまったな──」
死を悟った。誰かが俺の手を掴んで引っ張った。この場にいる人間は二人しかいない。つまり──
精
「……完敗か」
淳之介
「友達だからな。喧嘩した後の仲直りの握手だ。……でも、さっき腹を蹴られた分はお返しするぞ?」
俺の顎に勢いよく拳が入る。まるで電流が走ったような衝撃に脳と意識が揺らぐ。
精
「ああ……やっと認めれたよ……俺が君に何を抱いていたか……」
友情も憎しみも抱いていた。でも、なぜそれを抱いていたのか。桐香様ですら見抜けなかったそれを淳之介君はたやすく見つけた。
精
「敵でありながらも……歩み寄ろうとして……分かり合おうとして……だから君をここまで見逃して……一人で倒そうとして……桐香様を背負って……俺は君を超えたくて……」
そうだった。
精
「俺は……君に……憧れたんだ……」
それだけだった。
次回、このルートの最終回です。