抜きゲーみたいな島に住んでいる狂犬はどうすればいいんだ? 作:神剣狩刃
朝の鍛錬を終えた俺が教室に入ると、心ここにあらずの淳之介君が俺の席に座っていた。
精
「何かあっただろ?」
淳之介
「ああ……精か……何で分かった?」
精
「その顔もそうだが、そこは俺の席だぜ? 過失だから咎めるつもりはないけどよ」
ああ、悪かったと席をどいてもらうついでに事情を聞く。アサちゃんの生理が重くて大変らしい。卵も生理の時は大変だった。手作りスイーツで機嫌を保ったり、生活の介助をしたりと女性の大変さの一端を知ることができた。
精
「俺が出来るのは料理ぐらいだしなあ……あ、渡会先輩に協力してもらったらどうだ? 先輩だからそういう経験も豊富だと思うぜ?」
淳之介
「なるほど……その手があったか。ありがとう、精。さすが『金色の狂犬』だな」
精
「なぁに、友達が困っているんだ。協力するのは当たり前だろ?」
淳之介君は反交尾勢力になる前から友達だ。反交尾勢力になったところで友達を辞めるつもりはない。
淳之介
「撃墜王の時も世話になったしな……何か恩返しできればいいが……」
精
「そうだなあ……SSに入って俺達の手伝いをしてくれたら最高に嬉しいね。絶賛人手不足だし」
淳之介
「それは……考えさせてくれ……」
多少の本心があるとはいえ冗談だと伝えたら苦笑で返された。友達の一大事は俺の一大事なので今日の放課後は橘家に行くか。礼先輩に一報入れる。
精
『友達が大変そうなので放課後は休ませていただきます』
糺川
『分かりました。友達は大切にしてくださいね』
流石礼先輩だ。事情を分かってくれる。ということで放課後になったら買い出しだ。
淳之介君と渡会先輩は買い物に、俺は非常に辛そうにベッドに横たわっているアサちゃんから事情聴取をする。
精
「アサちゃーん? 返事できるかい?」
麻沙音
「その声は……土口さん……?」
精
「左手でFPSで煽られた時のサインできる?」
アサちゃんが勢いよく中指を突き立てた。意識に問題は無い様だ。ほかにもいくつかの質問をしたが、生理が重いだけでそれ以外は特に問題ない様だ。
精
「生理の時に必要なのは心が落ち着くものと鉄分だ。それを同時に満たせるものがあるんだよなあ。ちょっと待っててね」
自宅からパンパンオホォテンのピュアココアを持ってきて、橘家のキッチンで練っていく。特別気合いお入れて作る時はパンパンオホォテンに限る。多めの砂糖と少量の牛乳を入れて練っていく。ここでしっかり練らないとダマになって焦げたり、口当たりが悪くなる。ペースト状になるまで練り、牛乳を加えてさらに混ぜる。隠し味にちょっとだけバターを入れる。こうするとコクが出てより濃厚なココアになる。氷をいっぱい入れたグラスに注いで冷やし、ストローを刺せば完成だ。
精
「はい、SSでもめったに飲めない『狂犬のココア』だよ。濃厚甘々仕立てにしたからゆっくり飲んでね」
麻沙音
「ありがとうございます……わあ……すっごくおいしいです……こんなにおいしいココア初めて飲みました……」
一口飲んだアサちゃんの顔が少し明るくなる。効果てきめんのようだ。
精
「それならよかったぜ。卵も生理が重い時はこれをねだってたんだ。そのたびに練って作って……今じゃ俺の名物にまでなったからなあ……」
麻沙音
「卵さんはどんな人だったんですか……?」
精
「んー……アサちゃんが好きそうな清楚系ビッチの皮を被った──誰よりも優しくて誰よりも強い子だった。こんな感じだぜ」
スマホに残っている卵の姿を見せる。黒髪ロングで垂れ目の少女が、学園の制服に身を包んでどこか悲しそうに微笑んで立っている。
精
「アサちゃんこういうの好きだろ? それとも、もっとギャルっぽい方が好きか?」
麻沙音
「ぜひともお会いしたかったです……」
精
「きっと気が合って、女の子が好きな女の子同士、ドスケベセックスをしたんじゃないかな」
もう叶うことは無いが、という言葉は寸前で堪えた。暗い話題で気分を悪くさせるのはよくない。もっといい話題はないか?
精
「折角だし、俺の恋バナでもしようか! 淳之介君には言ってないけど、俺は好きな人がいるんだ」
麻沙音
「意外です……青藍島の人ってそういう概念無いのかと……」
酷い偏見だと言いたいが、俺も思っているから一旦スルーする。
精
「俺はロマンティックラブを否定しないさ。あくまでそれに基づいて性産行為をしないのが条例違反ってだけで、そういう考えを持つことは悪いことじゃない」
卵の同性愛を尊重する俺としては、多数派である異性とのロマンティックラブは受け入れやすいものだった。それと同時に風紀委員である俺としては、それを理由に非性産行為をしていい理由にはならない。
精
「好きになった理由は単純で、俺を助けてくれたんだ。事故で家族を亡くして本当に参っていた時、優しく抱きしめて導いてくれたんだ。『お前のやりたいようにやれ』って。島の人から言われた言葉とは全然違ったよ。俺を見て、卵を見て、その上で俺に言ってくれたんだ。それがきっかけで俺は鍛えて育って──『金色の狂犬』の始まりになったんだ」
思い出を語っていると淳之介君と渡会先輩が帰ってきた。
精
「遅いぜ淳之介君! かわいい妹のためなら時ぐらい超えろよ!」
淳之介
「無茶を言うな……これでも頑張っていろいろ買ってきたんだぞ……」
渡会
「まあまあ、橘くんも麻沙音ちゃんのために頑張ったんだよ。褒めてあげなきゃ」
精
「……それもそうですね。ありがとな、淳之介君。常にアサちゃんの面倒を見れる君が一番の頼りだからな」
礼先輩もそうだが俺も渡会先輩には頭が上がらない。この人は小さな見た目に反して、大きな優しさを持っている。例えるなら母のような、包みこんで温めてくれるような、どろどろふわふわのおまんこのような。本能から癒してくれるものを持っているのだ。
精
「──だから礼先輩も渡会先輩に甘いのかな」
ぼそりと呟いた言葉は団欒の内に消えた。
あとのことは大丈夫だということになったので俺は学園に戻った。
糺川
「何だその構えは!? もっと腰を足を開け! 落とせ! セックスで出来ることが訓練では出来ないのか!? だったら性処理役になるか!?」
訓練場では礼先輩が女子SSに厳しい激励を飛ばしている。
精
「その手始めに俺の性処理でもやってもらおうか? もっとも──二度とセックスできないぐらいにぶっ壊れるがな?」
俺が悪の笑いを浮かべながら言うと女子SSは顔色を変えて訓練に打ち込んだ。
糺川
「精、用事は済んだのか?」
精
「ええ。友達の妹が生理が重いとのことでお手伝いに行ってました」
糺川
「そうか。──友達想いのいいやつだな。もう少しその良さを他人に向けたら、お前も怖がられなくて済むぞ?」
精
「俺の優しさのリソースには限りがありますから、優しくする人は選ばないといけません。もちろん、礼先輩はその中に入っていますので安心して下さい」
礼先輩はふっと笑って答えた。
糺川
「それは身に沁みて分かっているさ。それじゃあ、早速指導の手伝いに入ってくれ。お前レベルの戦力が増えればSSも安泰するだろう」
精
「いいですねそれ。後一人来れば俺と礼先輩とそいつで『金色の
笑って答えたが、俺がしてきた努力は半端じゃない。畏怖を向けられるせいで、たとえ同じSSでもすべてを打ち明けられる『仲間』と言える存在がいない。たとえ礼先輩であっても、郁子先輩であっても、会長であっても、俺はすべてを打ち明けていない。もしそんな存在がいるとしたら──
精
「──淳之介君か」
何かの間違いが起きて、淳之介君が青藍島の考えを受け入れてくれればSSに入ってくれるかもしれない。それは『金色の獄番犬』が結成されるよりもありえない話だろう。