抜きゲーみたいな島に住んでいる狂犬はどうすればいいんだ? 作:神剣狩刃
お待ちかねの放課後になり、淳之介君の適正検査を見る。体力テストのようなものをやるのだが……
淳之介
「どうだ、精? 俺の結果は?」
精
「……これと言った特徴無し。判断力があるぐらいでよくて平均か平均以下だな」
糺川
「適性があるとすれば──分隊長あたりか……?」
分隊長と言えば聞こえがいいが実際の所は適正無しだ。マジか。この適正でSSを退けてきたのか。いや、実戦になれば変わると言う奴かもしれない。早速俺と一緒に訓練を行おう。
淳之介
「ぶはっ…………げほっ……! ……ぜぇ……!」
海での腕立てだけでこれか? 俺は片腕で言われた速度の二倍の速さでやって余裕だというのに……
糺川
「喜べ! これより貴様らの大好きなクンニフェスを開催する! 母なる海まんこに豚面を突っ込んだまま10数えろ!」
礼先輩の号令と共に顔を海面に突っ込む。横目で淳之介君を見る。今にも死にそうな顔をしている。10数えて顔を上げる。淳之介君は何とか乗り切ったようだ。
糺川
「よし! ウォーミングアップはこれで終了する!」
淳之介
「……うぉ、み……ん…………?」
そう、まだウォーミングアップである。訓練はここから始まる。何が何だか分からないという顔の淳之介君のケツを引っ叩く。
精
「……早くならびな。礼先輩にどやされるぜ」
整列してすぐにランニングを始める。俺はかなりのハイペースで学校に戻り、そこから淳之介君を迎えに戻った。淳之介君はまだ半分ぐらいの所で足を何とか動かしている。
精
「目標タイムはすでに過ぎているが……ゴールしないとこの世にいないものとして扱われるぞ?」
俺と一緒に何とかゴールした淳之介君は礼先輩にバチクソ罵られた。
糺川
「規定時間の大幅超過に加え人員を割かせるとはいいご身分だな! 不能をこじらせると無能になるようだな!? 作戦行動を乱すつもりなら貴様のチンポのように下を向いて即刻消えろ!」
淳之介
「俺、は……! 絶対……SSに……入ってみせ……ま……──」
倒れかける淳之介君を受け止める。
精
「……お疲れさん。良い根性見せてくれたじゃないか。根性があれば成長していける……救護班、後は頼んだ」
糺川
「……かなりの贔屓があるとはいえ、精が認めるとはな」
淳之介
「ぐっ……おれ……ま、だ…………やれ、る……」
精
「……諦めの悪さは俺以上かもな。──だが、無理なものは無理だと認めることも大切だぜ」
死にかけの淳之介君を家まで送り届けることになった。
淳之介
「お、お前の時はどうだったんだ……?」
精
「俺は子供の頃からSSに入ることを考えて鍛えていたからなあ……入隊初日でかなりの成績を出していたな」
俺は卵のこともありSSへの熱は人並みの物ではなかった。それでも、考えうる範囲での優秀ぐらいでしかなかった。
精
「まあ、さっきも言ったけど鍛えていけば少しはましになるさ。しっかりケアしとけよ? 翌日に響くぜ?」
淳之介
「あ、ああ……そうだ、一つわがままを言ってもいいか……?」
淳之介の表情が重いものになる。
淳之介
「反交尾勢力には手を出さないでくれ……一度は同じ志をもって共に活動した『仲間』なんだ……それを裏切るような真似は、『まだ』したくない……」
精
「君に言われなくてもそのつもりさ。一度私情で見逃したんだ、ずっと見逃し続けていくつもりだよ。もちろん俺個人としては、の話だけどな」
他にも事情があって見逃しているが、とりあえず俺としては手出しするつもりはない。淳之介君と反交尾勢力のつながりが明らかになってSS除名となったら大変だ。でも、今は家に帰る前に事が切れた方が大変か。橘家のインターホンを鳴らすと渡会先輩がお出迎えしてくれた。
渡会
「おかえり橘く──うわーっ!? 橘くんがボロボロだよ!? 何があったの土口くん!?」
精
「初日から礼先輩にしごかれただけです。風呂入って飯食えばすぐ直りますよ」
麻沙音
「毎回兄が迷惑かけて誠にごめんなさい……」
精
「なぁに、同心協力一蓮托生、『仲間』のためならこれぐらいどうってことないさ」
心配している渡会先輩とアサちゃんに胸を叩いて大丈夫だと伝える。最初は誰だって弱くて小さいんだ。そこから成長して強く大きくなっていく。
精
「だから、今はゆっくり休めよ淳之介君。……そうだ渡会先輩、淳之介君に肩たたきしてやってください」
渡会
「いいよぉ。先輩でお姉さんである私が後輩を癒して進ぜよう……」
むふんとない胸を張る渡会先輩が淳之介君に肩たたきをする。俺と礼先輩しか知らないと思うが、渡会先輩の肩たたたきは癒し効果がすごい。力加減と見た目のかわいさの相乗効果で心身ともに溶けていく。
淳之介
「わたちゃん先輩、本当に上手ですね……」
渡会
「ふふーん、でしょー? 礼ちゃんにもたまにしてあげてるんだよ」
礼先輩の名前を聞いて淳之介君の顔が曇る。厳しく対応され、初日からアレだけ扱かれたらいやな顔の一つもするか。
精
「本当に渡会先輩と礼先輩は仲が良いですね。いつも礼先輩がお世話になっています。ありがとうございます」
淳之介
「うーん……わたちゃんとあの鬼教官が友達というのが、いまだに信じられないな……」
精
「そうか? 礼先輩は誰よりも人のことを考えられる優しい人だぜ?」
淳之介
「優しい……?」
精
「ああ、優しいさ。なにせ俺はその優しさ故に礼先輩に惚れたんだからな」
俺の発言に一同が目を見開く。
精
「ああ、言ってなかったっけ? 俺、礼先輩のことが好きなんだよ」
淳之介
「嘘だろ!? 青藍島の人間にそんな感情があるのか!?」
精
「兄妹って似るもんだな。アサちゃんもおんなじこと言ってたぜ?」
麻沙音
「土口さんを助けた人って風紀委員長だったんだ……」
精
「あの時の礼先輩は本当に頼りに見えた……あの人がいなかったら俺は死んでいたかもしれないからな……」
渡会
「そのことは礼ちゃんには言ったの?」
渡会先輩の核心的な質問に頭を掻いて答える。
精
「いえ、言っていません。礼先輩はそれを望んでいないでしょうから」
俺は礼先輩の心境や事情を多少は知っているつもりだ。あの性格の礼先輩が俺と交際関係を持つとしたら、相当な心労になるだろう。俺も好きな人にそんなものを背負わせるつもりはない。
精
「俺が条例を変えたいと言っているのは卵のこともあるが……礼先輩と何の蟠りもなく付き合いたいからでもあるだ」
少なくとも望んだ相手とセックスができ、望まない相手とセックスをしなくてもいい条例になるまでは──この想いはしまっておくつもりだ。
精
「おっと、この話はここだけの秘密にしてくださいね? 『金色の狂犬』が一人の女のためにそんなことをしていると知られたら、何言われるか分かったものじゃありませんから」
淳之介
「お前もこの島の被害者だったんだな……俺達に協力したい気持ちがよく分かったよ」
麻沙音
「もちろん誰にも言いません。土口さんは私の女の子が好きなことを誰にも言っていませんから」
橘兄妹はうんうんと頷いて了承してくれた。渡会先輩の方はどうだろうか?
渡会
「もちろん言うつもりはないけど……」
了承は得られたが、いまいち顔が明るくない。うっかり喋ってしまうことを憂いているのだろうか? 仲が良いからあり得そうだ。
精
「まあ、うっかり言っちゃったとしても咎めるつもりは──」
渡会
「礼ちゃんは本当に望んでいないのかな……?」
渡会先輩に頭が上がらない理由がこれだ。俺と礼先輩を癒してくれると同時に、物事の芯を捕らえた質問をしてくる。
精
「…………俺が礼先輩だったら、迷惑だと考えます」
渡会
「……そっか。礼ちゃんは土口くんのことを楽しそうに話していたよ。『私の誇れる部下だ』って。だから、土口くんは礼ちゃんのことをもっと頼ってもいいと思うな」
────『頼る』か。確かに『金色の狂犬』として一人で頑張ってき過ぎたのかもしれない。でも、そこに関しては問題ない。
精
「大丈夫です。頼れる『仲間』はいますから」
俺は淳之介君の方を見て笑う。俺の全てを打ち明けられるのは淳之介君だけだから。