抜きゲーみたいな島に住んでいる狂犬はどうすればいいんだ? 作:神剣狩刃
ついに選抜訓練が始まる。俺は礼先輩と一緒に訓練生の指導をする。早速淳之介君は礼先輩に反論し腹パンを喰らっていた。この場において礼先輩と俺の言うことは絶対で、反抗することは許されない。どれだけのことを言われようが『サー・イエスサー』で返さなければならない。
精
「いいか弱小精子ども! 手前らのためにわざわざ『金色の狂犬』が出てきた意味は分かっているだろうな!?」
訓練男子学生A
「サー・イエス・サー!」
精
「そこのお前、中村シュウだったか! そのクソださいベルトにちなんでシューベルトの名を与えよう! 返事はどうしたジョップリン!?」
シューベルト
「サー・イエス・サー!」
俺と礼先輩の暴言の嵐が終わって地獄の訓練が始まる。先日の腕立てから軍隊施設のようなアスレチックコースを10周する。
精
「オラどうしたネコバナぁ! 1年女子のススちゃんにも負けてるとはどういうことだ! そのチンコは飾りか!? 切り落とすぞ!」
淳之介
「……サー! ノー! サー!」
精
「声出す暇あったら少しでも速度を挙げろこの遅漏!」
『仲間』と言えど指導に私情を挟むつもりはない。むしろ、根底にある信頼関係から遠慮なく詰める。淳之介君も分かってくれたようでにやりと笑い返した。
糺川
「よし! 全員成し遂げたな! 喜べマゾ豚共! これからご褒美にSS式バーピー200回をプレゼントだ!」
訓練生一同
「「「サー! イエス! サー!」」」
SSの訓練はまだまだ続く。
本日の訓練は集団訓練だ。SSの作戦行動は分隊規模で行うため、全員に集団を率いる力が求められる。今回は淳之介君が15分でテントを作るようだ。
精
「始めろ!」
淳之介
「聞いてくれ! これから15分でテントを二つ設営する──中央から左右2チームに分かれて作業するぞ!」
素人がテントの設営などできるわけがない。まずは組み立てができる奴が船頭になる必要がある。時には秀でた者に主導権を渡す必要もあるのだ。案の定、淳之介君のチームはテントを組み立てられなかった。
精
「無様だなぁ、ネコバナぁ! 小汚い野鳥ですらもっとましなものが作れるぞ!? お前の頭は鳥未満か!?」
淳之介
「……サー・ノー・サー!」
精
「この訓練は集団訓練だ! 設営訓練ではない! まず先に集団の一員が何ができて何ができないのか確認しろ! あちらの作曲家はテントも作れるらしいぞ! よくやったなべるべる!」
シューベルト
「サー! 光栄であります! サー!」
精
「普通の人間にできることを褒められたぐらいで喜ぶんじゃない! 手前は褒められるためにSSに入ったのか!? だったら一生家で全肯定お姉さん系のASMRでも聞いていろ! あんな奴未満で仲間を信じない手前はSSに必要ないなネコバナぁ!」
淳之介
「サー・ノー・サー!」
精
「だったら仲間と仲良くなってもらおうか! 全員でSS式バーピー200回の3セットだ! 恨むなら鳥未満頭リーダーを恨め!」
全員に言い渡し、礼先輩とその光景を眺める。
精
「指導役も悪くないですね。ちょっと興奮しちゃいましたよ」
糺川
「……橘はSSでうまくやっていけそうか?」
精
「やっていってもらわないと困ります。だから、俺が指導役を買って出たんですよ」
今日は生産訓練だが淳之介君は不能ということになっているので別メニューを行う。
精
「コイツを使った訓練だ」
淳之介
「これって……SS式のハンド────」
指がトリガーを通っている──反射的に淳之介君の顔に平手打ちを入れる。その受け取り方は禁忌肢だ。
淳之介
「んぐっ──!?」
淳之介君は何の反応も取れずにうめき声をあげた。自分が何をしたのか分からせるために胸ぐらを掴む。
精
「淳之介、今のは何だ?」
淳之介
「今……?」
精
「なぜトリガーに指を通した? 銃口は俺の方を向いていたぞ?」
淳之介
「────!!」
精
「もし弾が入っていて安全装置がかかっていなかったら──何らかの拍子で引き金を引いていたら──君は俺の代わりを務められるか?」
淳之介
「い、いえ、──サー! ノー! サー!」
精
「訓練以外で味方に銃を向けるな。その時が来たらどんな状況であれ君をSSから追放する、いいな?」
淳之介
「サー! イエス! サー!」
淳之介君は分かってくれたようなので手を離した。
精
「……実を言うと俺も礼先輩から銃を貰った時にやらかしてな。あの時の礼先輩は怖かったぜ? なにせ俺の顔に銃を突き付けて『今貴様がやったのはこれと同じ行為だ』ってよ……」
糺川
「類は友を呼ぶと言う奴だな。それから、今はサーはいい。喧しくて耳障りだ」
淳之介
「サ──……はい、了解しました」
礼先輩からSSの銃についての説明を受ける。SSの銃はライオット弾、簡単に言うとゴム弾で暴徒を制圧するためのものだ。基本的には足に撃って逃亡を阻止する。脚に一発当たればまともに動けなくなる。では、頭に撃ち込むとどうなるか? 脳震盪が起き、繰り返し撃たれれば慢性外傷性脳症*1に繋がる可能性がある。
精
「ちなみに俺が使っている二丁拳銃も同じだ。『プリンセスウィーク』と『ブラッドムーン』っていうんだ。ちなみにこれ元ネタがあって俺の大好きな特撮の──」
糺川
「精」
精
「……ともかく、頭を撃つ相手は選べ。未性年に手を出す屑やSSを裏切る反逆者……それに反交尾勢力とかな」
俺の言葉を聞いて淳之介君が冷や汗を流す。元身内に銃を向けるとなると、淳之介君の性格では心に来るものがあるのだろう。
精
「んじゃ、早速射撃訓練だ。お手本を見せてやるぜ」
基本の立射片手射からアイソセレススタンス*2そして俺のお得意の二丁連射を見せる。射撃の的には十字の痕が残っていた。
精
「──まぁ、これぐらいできるようになったら俺の代わりが務まるな」
糺川
「実力をひけらかすな。橘が反応に困っているだろう」
淳之介君の銃の腕は素人そのものだった。正しい構えや撃ち方を一から十まで教え、後半になって多少マシになったぐらいだ。
精
「今日はこの辺でいいでしょう。んー……時間ありますし、俺と組手なんてどうですか?」
糺川
「……そうだな。SQC*3を教えてやれ」
精
「死ぬ気で挑んでくれよ? 礼先輩の手前、加減はできないからな?」
淳之介
「もちろんだ……! お前だったら遠慮なくぶつかれる……!」
5秒後、淳之介君は地に伏していた。見事に俺に組み伏せられたのだ。
精
「ね、簡単でしょう?」
淳之介
「があああぁぁっ……!!」
糺川
「痛みは判断力を鈍らせ、悲鳴は思考を停止させるぞ!」
礼先輩の激励を受け、淳之介君が静かになる。今はあえて右手の方を緩くしているから──
淳之介
「はあああぁっ────!」
淳之介君が地面の砂を掴んで投げてきた。俺は目をつぶって左の拘束を緩めて
精
「ちなみに俺は視界が潰されたって戦えるぜ?」
淳之介
「────!?」
再び取り押さえる。
精
「ちなみにこの状況で正解はない。格上に有利を取られた段階で詰みだ。そうならないために……準備でも小細工でも卑怯な手でも何でもするんだな」
淳之介
「……サー! イエス! サー……!!」
淳之介君も大分SSらしくなってきた。これは俺と礼先輩と淳之介君で『金色の獄番犬』を結成できる日も遠くないかもしれない。
訓練終わりに渡会先輩がやってきた。渡会先輩が付けてるのリスのストラップは礼先輩が作ったもので、淳之介君がタブレットにつけているのは渡会先輩からのプレゼントだという。めっちゃ羨ましい。
精
「いいなあ。俺もなんか作ろうかな……犬のストラップがいいな。今度作って俺と礼先輩と淳之介君の三人でお揃いにしましょうよ」
渡会
「えー、私の分は?」
淳之介
「精はSSのメンバーとしてお揃いを作りたいんだと思います」
精
「SSの『金色の獄番犬』の証としてな。でも、渡会先輩にもあげますよ。俺たちが金色の犬で渡会先輩は白い犬にしましょう。それだったら四人でお揃いです」
糺川
「だったら私も手伝おう。一人で四人分作るのは大変だろう? 今度の休みに作ろうじゃないか」
礼先輩との約束も出来たところで一同解散の流れになる。淳之介君と渡会先輩が頭を下げて歩き出す。
糺川
「橘……あまり、ヒナミと精を困らせるなよ」
同感ですねと軽く笑う俺に対し、礼先輩の顔は夜空のように暗かった。
精
「どうしたんですか? 何か不安なことでもあるんですか?」
糺川
「…………なあ、精。お前にとって橘はどんな奴だ?」
精
「そりゃあ『仲間』ですけど……ちょっと贔屓しすぎでしたか?」
糺川
「そうか…………橘に頼りすぎじゃないかと思ってな。お前が背負っているものは大きい。橘と背負っていきたいと思うのは悪いことではないが、橘のことも考えてやれ。まだあいつはSSの訓練生だ」
精
「ハハハ……気を付けます」
糺川
「…………だったら──……いや、ならいいんだ」
最後に礼先輩が何を言おうとしたのかは考えないことにした。