抜きゲーみたいな島に住んでいる狂犬はどうすればいいんだ? 作:神剣狩刃
明くる日の休日、俺は礼先輩の部屋で礼先輩と一緒に『金色の獄番犬』ストラップを作っていた。
糺川
「裁縫も得意なのか……」
精
「義務教育の範囲だったら得意ですよ。でも、デザイン力は礼先輩の方が上ですね」
糺川
「ふっ……流石に先輩としての威厳を見せないとな?」
精
「勉強の方でも威厳を」
糺川
「それは言わない約束だろう!?」
騒がしくしていると礼先輩のタブレットに連絡が入る。礼先輩はワンコール以内に出た。
糺川
「どうした橘? 何かあったか?」
淳之介
『その……話したいことがありまして……そちらにお伺いしてもいいでしょうか?』
礼先輩が俺の方をちらりと見る。俺は笑顔で頷く。
糺川
「今、精がいるが……問題ないか?」
淳之介
『精だったら問題ないです。では、今からそちらに向かいます』
これから淳之介君が来ることになった。おもてなしをしなければ。礼先輩から了承を得てココアを練り始める。三人分におかわりの分も練らなければならないため、それなりの時間がいる。だからと言って手を抜く訳にはいかな────
糺川
「おはよう、橘。何の用だ?」
淳之介
「あ……すみません。風紀委員長に会いに来たんですけど……部屋を間違えたみたいです」
確かにオフの日の礼先輩を見ると普段との印象が結びつかないだろう。なんだかんだで淳之介君は礼先輩に案内されていきた。
精
「やあ。今はココアを作っているよ。淳之介君には振舞っていなかったからね。もうちっと時間かかるから、ゆっくりしていてくれ」
淳之介
「相変わらず趣味の悪い金色のジャージだな……」
糺川
「……橘もそう思うか。『金色の狂犬』として譲らないと私から言ってもコレでな……」
ちょっとショックだ。別の話題にしてもらおう
精
「そういや何の話をしに来たんだ? 俺の服がダサいって言いに来たわけじゃないだろ?」
淳之介
「そんなわけないだろ……近頃、子供が巻き込まれることが多いと聞いて──」
精
「ちょっと待った淳之介君……その話は無しだ」
俺の待ったに淳之介君が驚いた顔をする。
精
「今日は休日だ。仕事の話は無しにしよう。仕事ができる奴はオンとオフの切り替えがはっきりできるんだ」
糺川
「同感だな。すでにSHOが対処に当たっていて、私たちの管轄ではない」
淳之介
「しかし、それでは青藍島の子供たちが────」
精
「気持ちは分かるが、ちょっと落ち着け」
逸る淳之介君に釘を刺す。
精
「俺と礼先輩は大きな権限を持つ以上、それに伴う責務も大きい……私情を持ち込んでSSを動かすなんてあってはならないことだ」
糺川
「精の言うとおりだ。目下、私たちがやるべきことは反交尾勢力の対策だ。条例に楯突く連中を炙り出し……必ずや誅罰を下す……!」
礼先輩の目に憎しみの眼光が宿る。その事情は分かっている。だが、淳之介君との約束がある以上俺から何か言うことはできない。とりあえずこれ以上話をするのはマズい。
精
「……まずは淳之介君、訓練生だからまだ上層部の話に首を突っ込むのは早い。今は鍛える時期だ。そして礼先輩、こわーい顔になってますよ? ココア出来ましたから飲んでリラックスしてください」
糺川
「むっ……すまない。橘も飲め。精の練ったココアは最高においしいんだ」
淳之介
「それじゃあ……お言葉に甘えて……」
会話の中で練りあがったココアを牛乳で溶かしていく。今日は心から温まるホットココアだ。三人で頂く。
淳之介
「何だこれは……今まで飲んだココアは偽物だったのか……!?」
糺川
「だろう? 私も初めて飲んだ時は衝撃だったよ……ああ、本当においしいな……」
精
「マーベラス。そうだ折角この三人が揃ったんです、俺と礼先輩の出会いでも話しませんか?」
俺の発言に礼先輩が驚いたように俺を見た。
糺川
「精……いいのか……? お前にとって結構辛い話で────」
精
「『仲間』である淳之介君には話しておきたいなって思いまして。結構重い話だから覚悟して聞いてくれよ、淳之介君?」
淳之介
「────もちろん聞くさ。過去も知らない奴を『仲間』なんて言いたくないだろ?」
流石淳之介君だ。俺の気持ちをよく分かってくれている。
家族と妹を亡くし、絶望に暮れていた俺は崖の上に立っていた。生きる目標を失い、何のためにいるのか分からなくなり────命を絶つためだ。そんな時だった。
女性
「君……どうしたの……?」
長い髪に鳶色の目をした女性に会ったんだ。その人もなんか辛そうな顔しているように見えてさ。だから、打ち明けようと思ったんだ。泣きながら全部話して、そのまま海に飛び込もうと思ったら女の子がぎゅっと抱きしめたんだ。
女性
「大変だったんだね……辛かったんだね……よしよし……」
すごく温かかった。今でも思い出せる。でも、俺は簡単には受け入れられなかった。
精
「どうせ……お前も何もわかっていないんだろ……!」
青藍島の奴らなんか俺や卵の事なんか何一つ分からなかったからだ。でも、その人は違った。
女性
「私も……この島で大変な目に遭ったから分かるよ……」
詳しい話は省くが、女性もそれはそれは大変な目に遭ったそうだ。しかも、弟や妹もいるからなおさら分かってくれた。
精
「……ねえ、僕……どうしたらいいかな……? 何したらいいか分かんないよ……」
俺は涙に濡れながらその人に答えを求めた。見ず知らずの人に頼るなんてどうかしていると思ったけど、そうするしかなかったんだ。
女性
「────『君のやりたいようにやれ』ばいいと思うよ。私もそうするから」
その人は確かな決意を目に宿して俺を導いてくれた。その時に俺は決心したんだ。『死んだ卵があの世で誇れる兄になる』って。そして水乃月学園に入学してSSに入って、あの人が四番隊にいることを知った。
精
「入隊希望は四番隊です」
当時のSSの上官
「お前のような弱小精子が四番隊? なぜだ?」
精
「命の恩人がいるからです。あの人の役に立ちたいんです」
当時のSSの上官
「ならそれができると証明して────」
その上官を完膚なきまでにぶちのめして四番隊に入った。そして
精
「これからよろしくお願いします────『礼先輩』」
糺川
「君は────……そうか、一緒に頑張ろう」
そうやって俺は礼先輩と一緒に四番隊で頑張って、もっと上に行くために一番隊で鍛えて、『金色の狂犬』になった。
消して忘れる事のできない俺の根幹をなす部分で、SSでも知っている人間はBIG3しかいない。そんな遠い日の思い出にココアの苦みが重なり現実に戻される。
淳之介
「…………そんな出会いがあったのか…………」
精
「礼先輩のおかげでここまで来れました……感謝しても感謝しきれません。本当にありがとうございます」
糺川
「……私はただお前に一言言っただけだ。『金色の狂犬』を手にしたのはお前の努力の賜物だ」
礼先輩からそういわれるとやっぱり嬉しい。
精
「でも、そんな礼先輩にとんでもないこと言ってるんですよね……」
淳之介
「何を言ったんだ? まさかとんでもない差別発言をしたんじゃ……」
糺川
「そんなわけないだろう。祝賀会で酔いつぶれた精を介抱している時に…………あまりにも精らしくないことを言っていてな。私の胸の中にしまっているんだ」
ある程度の事なら教えてくれる礼先輩が口を憚ることとは何だろう。『礼先輩から産まれたかった』とか言ったのだろうか。
糺川
「せっかくの休日なんだ、もっと楽しいことをしようじゃないか。三人でデカチンジャー見るのはどうだ?」
精
「いいですね! めっちゃ面白いんだぜ淳之介君! 初心者におすすめなのは、優しいグリーンのセンズリちゃんが性処理機械の女の子
糺川
「精」
精
「おっと……ネタバレはよくないですよね。それじゃ迅速果断に見るとしようぜ!」
あっけにとられている淳之介君を尻目に再生を開始する。五人の刑事が性犯罪者を裁いて倒す。勧善懲悪の見本だろう。俺達SSもこれぐらい頑張らないといけないが、特撮のように都合のいい展開がやってくるわけでもない。
精
「あっ、そうだ。『金色の獄番犬』ストラップできたんだった。ほら、淳之介君、どうぞ」
淳之介君は怪訝な顔でストラップを見ている。
精
「どうした? なんかデッサンがおかしかったか?」
淳之介
「いや……『獄番犬』なんていうぐらいだから、もっといかつい奴を想像していたんだ」
糺川
「私とヒナミが付けてるものを邪魔しないような感じで作ってくれたんだ。まあ、もっとかっこよくてもいいと思うがな」
やっぱり俺のデザインセンスは微妙らしい。いろいろ落ち着いたら美術の勉強でもしようかな。ともかくこれで『金色の獄番犬』結成だ。三人でお揃いのストラップをタブレットにつける。
精
「へへへ……渡会先輩にも渡しておかないと……」
糺川
「そうだな。時間を見つけて私から渡すとするか」
渡会先輩も喜んでくれるといいな。