抜きゲーみたいな島に住んでいる狂犬はどうすればいいんだ? 作:神剣狩刃
今日も今日とて淳之介君の訓練に付き合う。先日の大活躍もあってかなり様になってきた。これならあの話をしてもいいかもしれない。ちょっと礼先輩に話してみるか。
精
「どうです礼先輩、淳之介君の実力だったら"琴寄文乃"の件を話してもいいと思いませんか?」
糺川
「そうだな……SSへの内定も確定したし、"アレ"を渡す手続きも済んだ……良い頃合いだな」
礼先輩からも承諾を得て淳之介君に話をする。
精
「淳之介君、任務の話といい話とめっちゃいい話があるんだけど、どれから聞きたい?」
淳之介
「その感じでどれも普通の話とは嬉しいな。普通のいい話から頼む」
精
「それじゃ……君のSSへの内定確定だ。おめでとう」
淳之介君が唖然とした顔をしている。
精
「日々の訓練にあの大活躍……当然の帰結だろ?」
淳之介
「あ、ああ……だとしたらめっちゃいい話ってなんだ?」
俺は淳之介君に赤紫の拳銃を渡す。
精
「君専用の銃だ。俺と同じ型の銃だからお揃いだな」
淳之介君が驚いた顔で銃を受け取る。今回は正しい持ち方で受け取ってくれた。
精
「分かってるじゃないか。銃もまともに受け取れなかった淳之介君がこうも成長するとは……」
淳之介
「……なんでこの色なんだ? お揃いにするなら色まで一緒の方がいいだろ?」
精
「間違えて取り違えるのを防ぐためっていうのもあるが……その銃の名前は『コリウス』。ラテン語で『鞘』の意味を持つ植物だ。俺を受け止めてくれる君にピッタリだろ?」
淳之介君の顔がなんとも言えないものになる。不思議に思っていると礼先輩から小突かれた。
糺川
「前にも言っただろ、橘に背負わせすぎだ。恋人でもないのに重いものを背負わせるな。……あまり深く考えるな橘。精なりの信頼の証だと思ってくれ」
淳之介
「あははは……そうさせていただきます……」
淳之介君は苦笑している。本当の意味を伝えたら流石に重すぎるからこっちにしたというのに……
精
「最後に残った任務の話だが……口で説明するより書類を見てもらった方が早いな。良いですよね?」
糺川
「そうだな。ただ、あまり公で見せるものではない。場所を移すぞ」
風紀委員室に移って書類を見せる。長々と説明するのが面倒なので要点を言うと、『現在の裏風俗に関する諸問題は、ヤクザ側の"文乃"奪取に大きく影響していると考えられる』というものだ。
糺川
「仁浦様からその少女を探し出して確保するよう命令が出ていてな」
精
「何でもドスケベ条例を脅かす存在なんだってよ? どんな存在だったらそうなるんだろうな?」
ほとんど情報がない以上推理したってどうしようもない。思いついたのは県知事のスキャンダルのネタを握っている存在ぐらいだ。
糺川
「SHOの洗脳問題が浮上した今、SSが文乃の確保が最優先事項になっている。だから、裏風俗の件が後回しになってしまう。……すまないな。君がずっと気にしている事なのに」
淳之介
「いえ……仕方のないことですから」
精
「ま、『金色の獄番犬』がいる以上パパっと解決するって。もっと鍛えてもっと強くなろうな!」
淳之介
「…………そうだな。もっと強くならないとな」
精
「もっと明るく言えよ! 昇格祝いだ、おらっ!」
いまいち煮え切らない感じの淳之介君のケツを引っ叩く。ほどほどにしろよと礼先輩が困ったように笑う。
本日の訓練も終わり帰ろうとした時だった。
糺川
「精……一緒に見たいデカチンジャーの話があるんだ。付き合ってくれるか?」
精
「断る理由ありませんよ。何の話ですか?」
糺川
「ハードホルディルド・マライクセンスだ」
精
「これまた渋い話を……風紀委員として考えさせられる話ですね……」
あらすじを話すと、恥丘署の刑事ホーケーが上位の刑事になるための試験を受ける。19の星で起きているデスアクメ事件を解決するのだが、その事件の犯人はなんとホーケーの恋人の弟であるマライク星人ガチイクロードだった。
ホーケー
「なぜ人をデスアクメさせていったんだ?」
ガチイクロード
「幼い頃にスペルマスヒップの事故で両親を亡くした俺と姉さんは苦労の連続だった……俺は異例の速さで医者になって姉さんに楽をさせたかった……」
子供の頃見ていた俺はガチイクロードよりもひどいことになるとは思ってもいなかった。
ガチイクロード
「でもその矢先……!! 危険な催眠電波が出ていた惑星ガイガビュルで姉さんは脳を破壊され……今は元気そうにしているけど……放っておいたらあと少しで廃人になってしまうんだ!!!」
ホーケー
「────っ!!!」
ガチイクロード
「俺は色々な星で人体実験と体を重ね、この星の若い女性の潮に特効薬となる成分が含まれることを突き止めた……誰が何と言おうと、俺は姉さんを守る!!!」
この後、ガチイクロードはホーケーの手によって処刑された。ホーケーは試験に合格したが昇格を断った。恋人は地球の治療で助かったが失踪し出家した。誰一人として幸せにならない、デカチンジャーとしては異例の回だ。
糺川
「なぁ、精……この話って誰が悪かったんだろうな……」
礼先輩が神妙な顔で尋ねてきた。
精
「……悪い人はいませんよ。ガチイクロードがやったことがたまたま犯罪だった、それだけです」
誰かのために何かをしたら、それが悪事であっても許してもらいたいのが人というものだ。だから俺は許したい。俺が淳之介君にそうしたように、見逃したい。
糺川
「……橘のこと考えているのか?」
精
「……何の話でしょうか?」
糺川
「……反交尾勢力────だったんだろ?」
やっぱり礼先輩にはバレていたか。でも、言わなかったということは俺の気持ちと同じか、似たものがあるということだ。あるとすれば、渡会先輩の身の安全か。
糺川
「そんな奴が『コリウス』を受け取るまでの仲になるとはな……アレは私でさえ自由に扱うことができなかったというのに……」
精
「アレは俺の根幹をなすものですから」
コリウスは8月18日、卵の誕生日の誕生花だ。卵を背負って戦う俺にピッタリの名だと思ったが────重すぎて手放した。以降、メンテナンスは定期的にしていたが実戦で使うことはなかった。礼先輩に一度貸したことがあったが、一回撃っただけで撃つ気がなくなったといわれた。
精
「────これ以上、礼先輩に背負わせるわけにはいかないんですよ」
糺川
「だから橘に背負わせた……本当に信頼してるんだな。少し橘が羨ましいよ」
精
「だって……かけがえのない『仲間』ですから。俺が初めて、自分の力で手に入れた『仲間』ですから」
たとえきっかけが冗談みたいな一言であっても、俺がきっかけなのは間違いない。失ってきてばかりの俺がやっと、自分の手に入れた『仲間』だ。俺の全てを打ち明けられる『仲間』だ。
糺川
「…………なあ、精……もし────私が橘を捕まえると言ったら止めるか?」
精
「止めます。たとえ礼先輩であっても……淳之介君には手出しをさせません」
なるべく穏便な手段を選ぶとは言え、間違いなく止めるだろう。
精
「そもそも、そんなことが起きないように全力を出しますよ。淳之介君の過去は誰にも触れさせません」
糺川
「…………そうか。少しは悩んで欲しかったが……私とはそこまでの関係でしかないんだな?」
精
「……嫌な返ししますね。今朝のお返しですか?」
糺川
「……かもな」
そういう礼先輩の顔は笑ってなかった。もっと気の利いた返しがあったかもしれない。でも、俺は淳之介君を頼りたい。それは礼先輩のためでもある。きっと礼先輩は自分が幸せになることに抵抗感があるだろうから。自分を頼ってくれる存在がいるということに幸せを覚え、それが原因で思い悩んでしまうだろうから。好きという純情で交際を始めたら、今まで自分がしてきたことの罪悪感に悩んでしまうだろうから。だから俺は礼先輩に頼るわけにはいかないし、想いを伝える訳にもいかない。
精
「……暗い話はここまでにしましょう。淳之介君はどこに所属させます?」
糺川
「最終的な判断は橘に任せるが……お前と一緒の一番隊がいいだろうな。しかし一番隊は曲者揃いだからな……一番隊に入ってもしっかり扱いてやれよ?」
精
「一番隊の一番の曲者は郁子先輩ですからねえ……俺の見てないところで淳之介君をつまみ食いしちゃうかもしれませんし……何よりくせっ毛だし……」
糺川
「おいおい、郁子が聞いたら何されるか分からないぞ?」
精
「おっと……絶対に郁子先輩には言わないでくださいね?」
糺川
「どうだかな? お前みたいに酔った拍子に言ってしまうかもしれないな?」
精
「げぇ……俺そんなこと言ってたんですか……そりゃ言ってくれないわけだ……」
何で言ってくれないのかがよく分かった。この話を郁子先輩の前でしたら腹上死か腹下死を選ばされるだろう。
糺川
「…………付き合わせて悪かったな。遅い時間だから、気を付けて帰れよ」
精
「俺を襲う奴がいたらむしろ褒めてやりますよ。それでは、礼先輩もお気を付けて」
礼先輩の部屋を出てから気が付く。言っておいてあれだが、家で何に気を付ければいいのだろうか? 目覚ましのかけ忘れ? それとも食品の期限? くだらないこと考える暇があったら家に帰って寝るとしよう。
糺川
「ヒナミ……私はどうすればいいんだ……」
本当にファンに殺されるようなパロディーですね……元ネタの中で私の好きな回ランキングTOP5に入る話でもあります。