抜きゲーみたいな島に住んでいる狂犬はどうすればいいんだ? 作:神剣狩刃
翌日、『金色の獄番犬』で淳之介君の配備先を決めている時だった。タブレットから緊急連絡音が響く。その内容は────
精
「『"琴寄文乃"が発見された』────ついにクライマックスか! テンション走るねぇ!」
糺川
「精」
精
「……行けるな、淳之介君?」
淳之介
「……ちょっと準備をさせてくれ」
淳之介君が部屋を出ていった。流石に今までとは比較にならない重大任務だ。俺と礼先輩がいるとはいえ緊張するだろう。
糺川
「…………橘…………」
精
「礼先輩までそんな顔してどうするんですか? ここは大隊長らしく、どーんと構えてくださいよ」
糺川
「…………そうだな。『金色の獄番犬』、出動!」
精
「ロジャー! ……って、淳之介君来てからやってくださいよ」
淳之介
「悪い、準備は済んだ……ロジャー、でいいのか?」
完璧だ。後でココアを奢ってあげよう。会長からの報告によると"琴寄文乃"はヤクザと一部の洗脳されたSHOと交戦し、山頂まで追い込まれているという。作戦としてはストライクフォースが先行し、陽動と攪乱によって道を切り開く。
精
「文乃ちゃん確保は『金色の獄番犬』に任せてください! 礼先輩が後方支援で、俺と淳之介君で確保します!」
糺川
「…………精に合わせられるか、橘?」
淳之介
「はい」
精
「それじゃあ────"琴寄文乃確保作戦"の開始だ! この島の未来と俺達『金色の獄番犬』の未来がかかっている! 死んだりしたら承知しねえぞ!」
糺川
「仕切るならましなことを言え! ……だが、精の言うとおりだ! 必ず全員生きて帰れ!」
『金色の獄番犬』with花丸委員長の四人組でストライクフォースからの連絡を待つ。焦らしプレイは好きだが作戦で焦らされるのはどうも好きではない。しかし今は団体行動、勝手な行動は許されない。
精
「どうだい淳之介君? 二つ目の実績を手に入れる気分は?」
淳之介
「もう成功した気持ちでいるのか……足元を掬われるぞ?」
糺川
「橘の言うとおりだ。常に神経を張り巡らせておけ」
淳之介
「……これ飲んで気合い入れろ。ミネラルウォーターだ。長丁場になるだろうからな」
淳之介君からもらったミネラルウォーターを一気に飲み干す。
精
「これでいつトイレに行きたくなっても大丈夫だな」
淳之介
「こんな時に変な話するなよ……」
糺川
「いや、痕跡を残さず排泄をすますのは潜入任務では基本だ。……今する話ではないのは同感だがな」
郁子
『A-1よりレイちゃんへ~! 今男の人たちがすごい顔して────』
郁子先輩からの連絡が入る。俺がいれば滅茶苦茶強いのは事実だが、俺がいなくたってストライクフォースは強い。
精
「突入部隊、第一波、抜錨! 勧善懲悪一気呵成!」
淳之介
「……了解……?」
糺川
「漢字が多すぎるから分かりやすく言え! 精に遅れるな!」
帳が下りた山中は格好の狩場だ。匂いも殺気も分かりやすい。俺は二丁拳銃を構える。
精
「『プリンセスウィーク』……『ブラッドムーン』……!」
飛び出してきたヤクザの脳天を撃ち抜く。実銃を持っていようが撃てなければ意味はない。ただの案山子の方が愛嬌があって撃ちにくいぐらいだ。
蘭
「背後から銃撃────え、SHOの分隊かですっ……!」
糺川
「ちっ────蘭! ここで私と足止めだ!」
蘭
「もちろんです! 風紀委員長がいれば百人力です!」
糺川
「────行ってこい、精、橘!」
礼先輩の激励に銃で答える。────道は開けた。淳之介君と共に頂上を目指す。心臓が高鳴る。息が上がる。────なのに気分は最高だ。『仲間』と共にいるから────銃口が見える。
精
「伏せろッ!」
淳之介
「────!!」
銃弾が淳之介君の髪をかすめる。一手遅かったら────
精
「……淳之介君、文乃ちゃんの確保は任せる。俺は────こいつらに三途の川を拝ませてやる」
淳之介君は返答に困っている。
精
「安心しろ。俺はSSの『金色の狂犬』だ。こんな半端者朝飯前だ。俺は君を信じているから、君も俺を信じてくれ」
淳之介
「……分かった。任せたぞ」
淳之介君は力強く頷いてくれた。
精
「死ぬんじゃねえぞ! 文乃ちゃん確保も大事だが生きて帰ることが最優先だ! 二つ首じゃ『金色の獄番犬』は名乗れないからなぁ!」
俺は淳之介君を送り出し一息つく。そして極限まで集中し────
精
「────糺す狂犬の下に命ず、三途の川にて一抹の礼賛を捨てよ! そして蒼碧の獄底にて己の咎を知るがいい!」
当たれば死ぬ実弾の雨の中、俺は一人一人とヤクザを撃ち抜いていった。銃口の向きと指のかけ方が見えれば銃弾を避けるのは容易い。高鳴る胸と逸る高揚感を抑えながらまた一人撃ち抜く。
精
「へっ……『仲間』に信頼してもらえるってのがこんなに嬉しい事とはね……! 初体験だぜ……!」
ヤクザA
「だったら死も体験してみろや!」
精
「生憎、卵に見せるほどの活躍がまだできていないんでね」
一体どれだけの時が経ったのだろうか。数分だったような気もするし、数十分だったような気もするし、数時間だったような気もする。立っているヤクザはもうおらず、他の場所での銃声が響くだけだった。その中で淳之介君の匂いがした。そちらに向かって走る。淳之介君が和服の女の子を連れていた。アレが文乃ちゃんだろう。
精
「よくやったな淳之介君! 大手が……ら…………だ────……?」
そこには良く知った反交尾勢力のメンバーがいた。
精
「──ああ、手伝いに来てもらったのか? びっくりしたなあ、もう……てっきり君が反交尾勢力────」
淳之介
「奈々瀬! 早く連れていけ!!」
淳之介君が叫ぶと同時に片桐が文乃ちゃんを引っ張っていく。
精
「────は…………?」
何が起きたのか分からなかった。何で俺に引き渡さなかったんだ?
淳之介
「────────こういうことだ」
淳之介君がコリウスの銃口をこちらに向けている。
精
「────!? 背後に──」
振り返っても敵はいなかった。だとしたらどこに銃口を向けて────
精
「────俺…………?」
見れば明らかっだが、意味が分からなかった。
精
「じゅ、淳之介君……? じょ、冗談にしちゃあ出来が悪いぜ……?」
淳之介
「…………」
淳之介君がアイソセレススタンスで銃を構える。俺が見せた型だ。
精
「反、交尾勢力…………嘘だろ……君は……青藍島を受け入れるって……」
入隊希望を聞いたあの日、確かに聞いた。だから俺もSSに歓迎した。
精
「ま、さか……入隊したかった理由って……反交尾勢力のため……」
似た境遇で事情を持った友達なら容易く入れてくれるだろうと。過去も隠してSSとして容易く受け入れてくれるだろうと。そしてSSで得た情報を反交尾勢力での活動に利用しようと。
淳之介
「────────────」
淳之介君が歯を食いしばる。悩んで揺れていてくれ。一時の気の迷いだと言ってくれ。
淳之介
「────文乃は、渡せない。県知事は成功のためなら悪に手を染めることも厭わない合理主義者だ。文乃を渡せば、何をするかも分からない」
違う。俺が聞きたいのはそんなことじゃない。動悸が激しくなる。眩暈もする。
淳之介
「────だから俺も合理的にやる。最大の障壁となる……『金色の狂犬』の無力化をな」
耐えきれず蹲る。吐き気もしてきた。
淳之介
「さっきの水には、媚薬が入っていた。先日、反交尾勢力────俺たちをあぶりだすのに使った奴だ。あれとこの状況が重なれば、お前はもう動くことすらままならないだろう」
しかいがかすすむ。
精
「まっ……じゅんのすけくん……この、じょうきょうって……おれ、との……ゆうじょう、は……う、そ……だった、のか……?」」
そんなわけないそんなわけないそんなわけないそんなわけない。
淳之介
「────すまない」
いやだいやだいやだいやだうそだうそだうそだうそだ。
淳之介
「今日限りで俺は────────お前の『仲間』をやめる」
通信から入った情報によると反交尾勢力がこの場に来ているらしい。何の目的かは分からないが戦うことになったら面倒だ────
精
「……っあああああああああ!!!!!!」
精の叫び声が聞こえた。あいつが下手を打つとは思えない。まさか、橘の身に何かあったのか。この場は片付いたから蘭に任せ、叫び声が聞こえた方に駆け出す。そこには────
精
「なんで……なんでだよ……じゅんのすけくん……」
糺川
「……精……?」
精
「れい……せん、ぱい……」
橘の姿はなく、代わりに崖の上で見た時と同じ顔をした精がいた。
この作品では淳之介君の事情を書いていないので、淳之介君の株暴落しますね。淳之介君の事情が知りたい人は絶賛販売中の『抜きゲーみたいな島に住んでる貧乳はどうすりゃいいですか?』を買ってプレイするといいぞ!結構な事情があるぞ!