抜きゲーみたいな島に住んでいる狂犬はどうすればいいんだ? 作:神剣狩刃
ある日、書類を持って生徒会室にやってきたら橘とヒナミが桐香様と話していた。
糺川
「桐香様、少し彼らと私で話したいことが……」
桐香
「ええ、分かったわ──申し訳ありません、少々席を外します。どうぞごゆっくり」
桐香様が席を外してくれたため三人になる。このタイミングで来たということは────
糺川
「情報がほしい、ということだな?」
淳之介
「ええ。その情報をSSなら持っているだろうと思いました」
一度は精に認められた男だ。着眼点が鋭い。しかも、その通りで私の手に持っている書類に記載されている。
糺川
「"仮初の皮膜"……山の中にあるアダルトグッズショップだ。私はここが怪しいと思っている」
事件が起きている場所を記録していく中で、この店の周辺で多く起きていることが分かった。
淳之介
「この青藍島でわざわざアダルトショップを、しかも人目が付かない山奥で経営している……」
糺川
「ここまで重なると偶然とは思えないな? おそらく、"仮初の皮膜"が裏風俗を経営している……この認識でいいな?」
橘とヒナミが頷く。大きな前進だ。後はどのような作戦で挑むかを考えるだけ────SSのタブレットに連絡が入る。仁浦様からの連絡だ。
糺川
「はい、糺川です」
仁浦
『急なお願いで申し訳ないのだが、いまから私の屋敷に来てくれないか? 裏風俗の件で話したいことがある』
糺川
「承知致し────」
仁浦
『それと『金色の狂犬』の彼も連れてきてくれないか? 彼にも話をした方がいいと思ってな』
糺川
「……そちらに関しては保証しかねます。彼の意思を尊重します」
仁浦
『それで構わない。では、失礼する』
仁浦様からの連絡を終え、二人に伝える。
糺川
「……すまない、行ってくる」
淳之介
「礼先輩も頑張ってください」
渡会
「礼ちゃん! きっと『金色の獄番犬』はまた一緒になれるよ!」
ヒナミが白い犬のストラップを見せてくれる。私もそれにこたえるように金色の犬のストラップを揺らす。橘も金色の犬のストラップを掲げた。
精
「県知事様からのお誘いですか……礼先輩が枕営業させられたら困るので俺も行きます」
糺川
「裏風俗の件と言っていたからそれはないと思うが……来てくれるのは心強いよ」
精と一緒に仁浦様の屋敷に向かう。山の高所にそびえる屋敷への道中はあの日のことを思い出させる。
精
「……淳之介君……また信じさせてくれよ……?」
糺川
「そのために頑張っているんだ。考え過ぎるのもよくない、今は仁浦様から話を聞くのが最優先だ」
屋敷につくと仁浦様が嬉しそうに笑って案内をしてくれた。
仁浦
「まさか本当に『金色の狂犬』までくるとはな……」
精
「礼先輩に手出したら承知しませんよ?」
仁浦
「人の想い人に手を出すほど落ちぶれてはいないさ。もう一人呼ぶからゆっくり寛いでいてくれ」
一室に案内され精と二人きりになる。
精
「茶菓子が煎餅って……羊羹にしてくれよ。県知事様もせこいですねえ?」
糺川
「そんなところから批判につなげるな……煎餅だっておいしいだろ?」
精がお茶を淹れながら愚痴る。そもそも私の知る限りで有名な店の煎餅だ。それなりの値段はするだろう。
精
「茶葉だけはいいもの使いやがって……適温は60~70℃……電子ポットと一緒に湯冷ましを用意してくれてるのは嬉しいですけどねえ……」
精はお茶も淹れることもできるのか……ココアを練れるからお茶も淹れることができるのだろうか?
精
「温度を管理して時間通りにやるだけでいいんですから、ココアに比べて楽なんですよ? 今度教えますよ」
糺川
「簡単に言うな……結構大変じゃないのか?」
精
「会長に教わりましてね。あの人お茶汲みの才能も有りますよ?」
何故精は桐香様のことを刺々しく言うのだろう? 一度大敗を喫しているからだろうか?
仁浦
「彼女らが君に力を貸してくれるだろう」
障子が開き、そこには仁浦様と橘が立っていた。
淳之介
「礼先輩と……精……」
精
「よっ、淳之介君。元気にしてた? 俺は礼先輩と楽しい生活を送っていたぜ」
思うところは色々あるだろう再会だったが、精はいつもと変わらぬ軽い雰囲気で接していた。
作戦当日になり、再び『金色の獄番犬』が揃う。
淳之介
「俺はヒナミを守ると決めたんです。だから……二人の力を貸してください」
精
「渡会先輩が囮になってやつらを現行犯逮捕ねえ……君らしい危険な手だよ」
糺川
「……私が考えても確実にできる作戦はなかった。危険だが、『金色の獄番犬』の実力があればできるだろう」
頭を下げる橘を見て精が言葉をかける。
精
「渡会先輩にも返しきれないほどの恩があるから協力するさ。ただ……渡会先輩や礼先輩のために協力しているっていうのを忘れないでくれよ?」
淳之介
「……ああ、俺のことはどう思っても構わないから……ヒナミを────」
"仮初の皮膜"から閃光が走る。ヒナミからの合図だ。『金色の獄番犬』がアジトに突入する。
精
「久々の任務で腕がなるぜ! 礼先輩、合わせ口上やりましょうよ!」
糺川
「いいだろう! 『金色の狂犬』復活の烽火に丁度いい!」
私と精で銃を構える。
糺川
「午睡を貪る放恣なものよ、撃鉄の音で目を開けよ!」
精
「糺す狂犬の下に命ず、三途の川にて一抹の礼賛を捨てよ!」
糺川
「そして主の帰る刻を知るがいい!」
精
「そして蒼碧の獄底にて己の咎を知るがいい!」
糺川・精
「「一斉掃射! フォイア!!!」」
弾丸の豪雨がヤクザ達に降り注ぐ。部隊の一斉掃射ほどではないが、凄まじい密度の弾幕だ。多くいたヤクザ達は一人を残して全員倒れていた。
精
「仲間を盾にして逃れるとは……性根から腐った野郎だな。三日洗わないで放置したオナホールのがまだマシだぜ、下手した三下手下の手嶋さんよぉ?」
罵倒を飛ばしながら銃と突きつける精の顔は笑っていたが、殺気があふれ出ている。
手嶋
「この状況は動かない──そう思っているな?」
精
「いや、思っているよ? ──より悪い方向に動くと」
私も想定している。この状況ではいつ死人が出てもおかしくない。それだけは防がなければならないが──
手嶋
「俺は心理学が得意でなぁ。信じられないかもしれないが……人を操ることができるんだ……こんな風にな! やれ──淳之介!」
手嶋が予想外の人物を叫ぶ。まさか────反応が一瞬遅れた。精も動揺を隠せていない。
手嶋
「バカがかかったぁっ!!」
渡会
「ひゃあっ!?」
その時不思議なことが起こった。ヒナミのパイプ椅子が精の眼前に突き出され、それが盾となって鉛球を弾き飛ばした。そしてあれよあれよという間に手嶋の拳銃を飛ばした。
精
「──な? 悪い方に動いただろ?」
精が脅すように銃口で手嶋の後頭部を小突くと、手嶋は瞬時に身を縮ませた。
手嶋
「ひっ……わ、悪かった! 話す! なんでも話すから撃たな──」
手嶋が両手をあげようとしたその瞬間、土口が手嶋の両足を撃ち抜いた。崋山心眼流の動きを見せていたが、いくら何でも反応が早すぎる。
精
「────聞こえなかったな……もう一度言え」
手嶋
「うがあああぁっ!!」
精
「聞こえなかったか? もう一度言えと言っているんだが?」
そして容赦なく手嶋の両肩を撃ち抜く。手嶋は耐えかねてうつ伏せに倒れ込む。これで手嶋は完全に動けなくなった。
精
「こっちを見ろ」
精が手嶋を蹴り上げて仰向けにする。アレだと骨の何本かは折れただろう。土口は部屋の隅にあるほとんどのペットボトルの中身を手嶋の顔にぶちまける。
精
「これから貴様に拷問をする。やめてほしかったら答えろ」
冷徹な土口に反して、手嶋の股間は固く膨張していた。
精
「何でこんなことをした?」
手嶋
「はぁっ……ははははっ……金稼ぎ──」
精が手嶋の股間を踏み潰した。ぐちゃりという生々しい音と共に手嶋の股間から血が流れ出る。
手嶋
「あがあああああ!!!!」
精
「じゃ、次。SSに媚薬を送ってきた理由は?」
手嶋
「あああああああ!!!!!」
精
「答えろっつってるだろうが!!!!」
精が手嶋の腹部を踏み抜く。肉の潰れる音と骨が折れる音が響く。
精
「……やっぱいい。どうせクソみたいな理由だろ。んじゃ、次で最後だ」
精は痛みで喚く手嶋に馬乗りになる。そして何も言わずに手嶋の顔を殴り抜けた。精のグローブに鮮血がついている。
精
「お前が居なかったら俺は幸せだったんだ! お前が居なかったら俺はこんなことしなくてよかったんだ!」
両手で手嶋を打ちのめす。私はそれを止めることができなかった。精の心境を考え、もし私があの場に立っていたら同じことをしていただろう。
精
「渡会先輩が怖い思いをすることも! 礼先輩が俺のことで悩むことも! 淳之介君が俺を裏切ることも! 俺が傷つくこともなかったんだあああ!!!」
淳之介
「止めろ精!!!」
橘が精を押しのけ、その凶行を止めた。
精
「何で止めるんだ! 俺にはコイツを殺す権利がある!」
淳之介
「どんな事情でも人を殺していい理由にはならないだろ!」
精
「だったら君が俺を止める権利はないだろう!?」
淳之介
「俺にはお前を止めなきゃいけない義務がある!」
精
「何でだよ!?」
淳之介
「俺は!!! お前の!!! 『仲間』だからだ!!!」
その言葉に精は動きを止めた。やはり────精には橘が必要だ。私では精を支えることはできても、止めることはできない。
手嶋たちを連行してもらい、拠点摘発の作戦は成功に終わった。しかし、精の顔は以前晴れないままだった。
糺川
「精……少しは橘のことを信じられそうか?」
精
「……まだ信じられません。信じたくても……また裏切られるんじゃないかって……」
一度の協力で得られるほど信頼は単純ではない。まして、一度崩壊した信頼だ。復元するのは相当なことがないと不可能だろう。
精
「……でも、俺を止めてくれたのは嬉しかったです」
糺川
「……そうか。少しは進んだな」
精は金色の犬のストラップを眺めている。4つのストラップが揃う日は近いと思いたい。
ちなみに土口の口上はBIG3の口上を参考に作っています。