抜きゲーみたいな島に住んでいる狂犬はどうすればいいんだ? 作:神剣狩刃
明くる日、淳之介君に報告書の指導をして生徒会室に提出しに行った。
精・淳之介
「「失礼します」」
冷泉院
「あら、先輩と土口さん……どうかなさいましたか?」
精
「報告書です。休日出勤になったので相応の手当てを貰いに来ました」
会長を適当にあしらいながら書類を出す。会長はものの数秒でチェック済みの箱に入れた。
冷泉院
「初出勤で観光客を助けるとは、流石です」
淳之介
「え?」
驚くのも無理はない。会長は事務仕事と戦闘に関しては俺が認めざるを得ないほど優秀だ。速読ぐらいわけない。会長曰く、人間が当たり前に持っている能力だが、文字を一行ずつ読む訓練をするうちに失われるらしい。
冷泉院
「私、小さい頃はほとんど学校に通っていなかったものですから」
精
「その世間知らずっぷりを見れば誰でもわかりますよ」
淳之介
「おい精……生徒会長に対してその口の利き方はないだろ……」
冷泉院
「ふふっ……せっかくですからお話ししましょうか。土口さん、ココアを淹れてくれますか?」
精
「インスタントでいいなら構いませんよ」
会長の過去を肴にココアを進める。会長の家には大きな借金があり、姉妹揃って"防人"という奉公一家に出された。しかし、何も出来なかった会長は女郎になる寸前でこの島に救われたという。
精
「……あなたもあなたなりに苦労していたんですね。初めて知りましたよ」
俺ほどではないにせよ、相応の過去持ちだ。多少同情の余地がある。
冷泉院
「私は、あなたに興味があるんですよ……先輩?」
会長の眼先には淳之介君がいた。会長に目を付けられたか。これは厄介だ。すこしでも興味を逸らそう。
精
「折角ですし、俺と会長の因縁も話しておきましょうか」
淳之介
「それも興味があるな。態度の悪さの原因はそれか?」
その通りだ。あの一件で俺は会長に忠誠と反抗を決意したのだから。
『金色の狂犬』として上を目指していく中、俺は会長に挑戦したんだ。生徒会室で書類を読んでる会長に話しかけた。
精
「会長、俺と戦って勝ったらその座を下さい」
冷泉院
「ええ、構いませんよ。もう始めますか?」
精
「もちろ────」
銃にかけた手が動かなくなった。何が起きたのか分からなかった。そして、顔に何かがぶつかってそのまま床に倒れた。愛液の匂いのする小銭だというのは床に伏してから気付いた。
精
「……う、そ、だろ……?」
冷泉院
「ちょっとした手品です。土口さんだったら見破れるかと思いましたが……少々期待外れでしたね」
俺は圧倒的な壁を感じた。努力だけではどうやっても越えられない、才能とか天性に由来する何かがあった。
冷泉院
「……ですが、私に挑んだその心は認めます。何か一つお願いを聞いてあげます」
精
「なん……だと……?」
見上げた会長の顔は楽しそうに笑っていた。その笑みを消すべく俺は無理難題を言った。
精
「だったら……卵に会わせろ……!」
冷泉院
「らん……ああ、お亡くなりになっている妹さんですね? 本人には会えませんが……顔を見る事ならできますよ?」
会長は何の問題もないといったふうに答えた。
精
「だったらやってみろ……! できるわけがねえ……!」
冷泉院
「えーっと……ありましたありました。土口さん、こちらを見てください」
会長は催淫ペンを取り出して俺に見せてきた。
冷泉院
「土口さんは今から私が卵さんに見え~る……最愛の卵さんに見え~る……認識を塗り替えて卵さんに見えぇ~るぅ~……っ」
会長の声と催淫ペンの効果によって脳が揺れる。視界がぼやける。そして──
卵
「……大丈夫? お兄ちゃん?」
目の前に卵がいた。
精
「卵……!? 卵なのか……!?」
俺は思わず泣きながら卵に抱き着いた。
精
「卵……! 卵…………!! 俺は……お前にどうしても言いたかったことがあるんだ……!!!」
卵
「なぁに、お兄ちゃん?」
精
「卵……生まれてきてくれて……生きてくれて────」
女部田
「トーカちゃん、今度の作戦のことなんだけど──うわーーー!? 精くんがトーカちゃんに寝取られてる!?」
郁子先輩の叫び声に振り向く。そこには卵がいた。
精
「────!!!」
俺は反射的に自分の足を撃った。激痛が走る。そして目が覚める。
女部田
「なになになに!? どうしたの!? 何があったの!?」
精
「俺は……今……!」
冷泉院
「あらあら……もう少しだったんですけどね……」
このココアよりもはるかに苦い記憶。実力でも精神でも会長に屈した記憶。
精
「……それ以降、俺は会長に忠誠と反抗をし続けると決めたんだ」
淳之介
「精……」
冷泉院
「そんなこともありましたね。もう一度やってあげましょうか?」
精
「殺すぞ?」
本気の殺意を出して脅す。できるわけはないが、そうでもしないと会長にのまれる。
冷泉院
「冗談ですよ……はい先輩、こちらをどうぞ……正式なSSメンバーになりましたから読む権利があります」
会長が書類を渡して、淳之介君が外に出る。そして礼先輩に捕まる。
糺川
「精! いるんだろう! お前も橘の訓練に付き合え!」
精
「礼先輩に呼ばれたら仕方がないですね……では、失礼します、会長」
見送る会長の笑顔は何故か不安そうなものであった。
淳之介
「ありがとう、ございました……」
礼を言うや否や淳之介君が地面さんと熱烈なキスをした。俺と礼先輩と郁子先輩の地獄の特訓を終えたのだから無理もない。
女部田
「ホント、根気だけは一人前だよね、ダーリン」
精
「郁子先輩からも目を付けられるとはモテモテだな、淳之介君?」
糺川
「橘もようやく戦闘で使い物になるレベルになってきた……相変わらず口は達者だがな」
精
「オイオイ……礼先輩からもかあ? 流石に嫉妬しちまうぜ?」
俺の大好きな礼先輩からもこの評価がもらえるとは中々だ。
精
「んじゃ、俺からもいいプレゼント渡さないとな。ちょっと待ってな……」
駆け足で俺のロッカーから赤紫の銃を取り出し、持ってくる。
淳之介
「これは……SSのハンドガン、か……」
精
「俺のサブハンドガンだ。『コリウス』っていって……まあ、俺のお下がりみたいなもんだと思ってくれ」
『俺の妹への思い』という本当の意味を伝えるのは流石に重すぎるからやめた。
淳之介
「……ありがとう、精」
糺川
「その銃は……本当に────」
女部田
「いいんだよレイちゃん。精くんがダーリンのことを認めてる証だよ」
郁子先輩が礼先輩を止めてくれた。礼先輩は当然、郁子先輩も俺の妹関連の事情をある程度を知っている。
精
「んじゃ、男同士仲良くシャワーに入ろうぜ? 俺の体が美しいからって手を出しちゃダメだぜ?」
淳之介
「分かってるよ……それでは、失礼します」
糺川
「ああ、お疲れ……精、今日のデモンストレーションは参加するか?」
精
「単独哨戒任務があるので……失礼します」
俺も頭を下げて淳之介君と一緒にシャワールームへ向かう。
SSには専用のシャワー室や個室がある。俺はそちらを使うこともできたが、せっかくだから淳之介君と一緒に校舎の物を使用する。シャワー室は学園の生徒なら誰でも使っていいことになっている。
淳之介
「おや……」
精
「この時間を狙うとは……なかなか通だねえ……」
校門が閉まる前の時間だというのに、珍しく先客がいた。この時間はほぼ生徒がいなく個室気分で使える。以前デカチンジャーのOPを大声で歌っていたら、後ろから礼先輩に肩を叩かれたのはいい思い出だ。
精
「制服を見る限り男性──」
籠の前に置かれているのは男物の制服だ。しかし、その服から漂う匂いは────吹子ちゃんの物だった。
淳之介
「……どうしたんだ精?」
精
「あー…………なるほどね? いや、男にしてはいい柔軟剤使ってるなーって思ってさ」
吹子ちゃんが素性を隠していたのがよく分かった。おそらく吹子ちゃんは男として育ってきたのだろう。学園でも男でいることを強いられていた。しかし一人になれる夜だけは女としていられる。なんとも大変な境遇だ。郁子先輩も同じことを思うだろう。その辺りの事情に触れるのはナンセンスだ。話しかけないで────
淳之介
「よう、隣失礼するよ」
しまった、淳之介君はバカだから隣が吹子ちゃんだって分からないんだ。これは俺が何とかしないと吹子ちゃんが危ない。
精
「オイオイ、せっかく俺が隣にいるのに話してくれないのかい? ああ、気を悪くしないでくれ淳之介君のお隣さん。俺は淳之介君のお友達でな」
淳之介
「ひどいなあ、精……コーデすり合わせるのも多少妖艶って言うだろ?」
精
「どんなファッションなのか気になるが……『袖振り合うも他生の縁』って言いたいのか? 相変わらずバカだなおみゃーは」
吹子
「ふふっ……」
吹子ちゃんがこらえきれず笑ってしまった。バレたか?
淳之介
「ああ、悪い悪い覗いちゃって……俺目が悪いからほとんど見えないんだ、安心してくれ」
精
「覗くなら俺の体を見てくれよ? バキバキですげえんだぜ?」
普通だったら声で気付きそうなものだが、淳之介君がバカで本当によかった。
精
「…………淳之介君、そろそろ門が閉まる。早く上がろうぜ?」
淳之介
「もうそんな時間か……お先に失礼するぞ」
吹子
「は、はい……お達者で……」
今度吹子ちゃんと合ったら誤魔化し方を教えるか。素直さだけでやっていけるほどこの世の中は甘くない。────でも、あの瞳の綺麗さを汚すのもよくない気がする。