抜きゲーみたいな島に住んでいる狂犬はどうすればいいんだ? 作:神剣狩刃
勢いそのまま"仮初の皮膜"に乗り込んだが何もなかった。
淳之介
「……あの男が嘘をついていたのか?」
精
「そんなわけないだろ。俺の鼻にはプンプン臭うぜ……」
俺は鼻を鳴らし、子供の匂いを辿る。すると店裏手の地面に、無造作に作られた取っ手のようなものを見つける。
精
「こんなの何かありますって言ってるようなものだな。もっと清潔感のあるデザインにしないと……」
淳之介
「例えばどんなのだ?」
精
「黒の三つ編みとか?」
淳之介
「それはまたいいデザインだな……!」
それを引くと、鉄梯子が下へと伸びていた。音をたてないように慎重に下りていく。──人の匂いがする。俺は手で淳之介君を止める。
精
「────そこか」
俺は気配のする方に銃を構える。
???
「ちっ……もう勘づかれちまったか……あの場でお前を始末できれば楽だったんだがなあ!」
淳之介
「手嶋さん!?────精! コレでなんとかできるか!?」
淳之介が煙幕を張ってくれた。視界が遮られた以上、普通の奴ならまともに動けないだろう。だが、俺は『金色の狂犬』だ。
精
「十分すぎるぜ。──糺す狂犬の下に命ず、三途の川にて一抹の礼賛を捨てよ! そして蒼碧の獄底にて己の咎を知るがいい!」
煙幕の中で銃を撃つ。勿論実弾の方だ。
ヤクザA
「うぎゃあ!? こんな中で撃つんじゃねえ!」
ヤクザB
「お、俺は撃ってねえよ!?」
精
「アイツだ! お前の左後ろにいる奴だ! 裏切り者は分からせろ!」
ヤクザC
「て、テメエ! 覚悟しろ!」
ヤクザD
「ち、ちが、俺じゃ────」
あっと言う間にドンパチにぎやかな銃撃戦になった。ガキに脅されて情報をうたうような奴らだ、碌な人材じゃないのだろう。見事に俺のカマシでカタにはまった。
手嶋
「っ! お前ら! ガキの戯言に付き合ってんじゃ──」
精
「よそ見してる暇ねえぞ手嶋ぁ!」
煙幕の中、手嶋に蹴りを放つ。防御されたが吹っ飛ばすことはできた。そしてもう二発弾丸を放って淳之介君にアイコンタクトをする。
淳之介
「今転がった奴を撃て! 『金色の狂犬』だ!」
ヤクザF
「て、テメエのせいで俺たちが──」
仙波
「手嶋様に弓を引くものは許しません」
よく聞きなじみのある声が聞こえてきた。何発かの銃声が聞こえ、煙が晴れると────
手嶋
「よく働いてくれたぜ……特殊戦闘部の副委員長さん?」
手嶋が仙波姉さんに拳銃を突きつけていた。最悪の状況だ。
淳之介
「──っ! お前──」
精
「待て淳之介君……要求を聞こうじゃないか?」
仙波姉さんにはそれなりの世話がある。俺達のせいで殺されたとあっては流石に申し訳ない。
手嶋
「まずは銃を捨てて跪け」
俺は両手を上げ────
手嶋
「銃を捨てろって言っただろうが!」
銃を投げる寸前、両銃を仙波姉さんに撃たれる。銃が捨てられた以上どうすることもできない。大人しく跪いて──
手嶋
「言うとおりにしなかった罰だ、足を撃て」
手嶋の言葉で仙波姉さんが俺の脚を撃つ。ライオット弾とは言え、俺はまともに動くことができなくなった。
手嶋が愉快そうに笑う。
手嶋
「デカチンのお友達にでも助けを求めたらどうだレズ妹持ちだったシスコン!? お前よりもかなりデカいらしいぜ!?」
淳之介
「────っ!」
精
「て、手前……俺の友達が一番気にしていることを……!」
手嶋
「それが原因でイジメられるとはかわいそうなもんだなあ!」
淳之介君の顔が歪む。自分のコンプレックスと俺の原動力を貶されて気が気でないのだろう。
手嶋
「お前達を調べるのは簡単だったぜ? 分かりやすく俺の邪魔をしてくれたもんなあ? どっちもこの島で女を亡くしているみたいだってな?」
俺は驚いて淳之介君の顔を見る。淳之介君も女を亡くしている?
手嶋
「シスコンのお友達には教えてなかったのか? だったら俺が教えてやるよ! 橘は知り合いの女が死んで、それから逃げるように引っ越しをしたんだよ! 処女厨の部分もそこから来てるとなれば、信頼を寄せていた女が裏風俗で死んだと思ったんだよなあ!?」
淳之介君は何かを抑えるように下唇を噛んでいる。手嶋の人間の負の部分を煮詰めたような煽りが飛んでくる。
手嶋
「お友達の方も可愛そうだよなぁ……兄として妹のために東奔西走したのに、理不尽にも事故で約束が果たせなくなっちまうなんてよ……涙で前が見えねえぜ……」
精
「手前ごときが知った口で言うんじゃねえよ……!」
手嶋
「その様子だとお前は無理だな、土口。だが……橘、お前は俺たちの仲間になれ」
淳之介
「はっ……気でも、狂ったか……?」
条例を潰し、島への復讐ができると手嶋が唆す。ダメだ。頷かないでくれ。そしたら俺は君を止めないと────
淳之介
「──そうなったら、貴様たちの収入源はどうなる?」
手嶋
「は……? そんなもん、この島が潰れれば本当の風俗業界に活気が──」
淳之介
「違うな。一度衰退したものは簡単に戻らない……この島を乗っ取って風俗島にでもしない限りな」
手嶋
「テメェ……そこまで……」
どうやら俺の心配は杞憂に過ぎたようだ。淳之介君はそこまでバカじゃないらしい。後で謝ろう。
手嶋
「ちくしょう! どいつもこいつも身の程を弁えない馬鹿ばかりだ! あの男装を見破って見つけたのはいいが取り逃すどころか、ここの情報まで吐きやがって!」
淳之介
「お前、一体何を言って──」
淳之介君の声をかき消すように風切音が聞こえる。上空から鳴る、ローターの羽が空を割く音だ。
仁浦
「──……やれやれ、せっかく位置情報発信アプリを仕込んだと言いうのに。ずっと電源を切っていたら台無しになるところだったぞ、少年?」
県知事がかっこよくヘリから現れた。
手嶋
「テメェは、仁浦俊明──!? だが、こっちには人質が──」
精
「長々と話しくれたおかげで回復できたぜ、屑畜生ゲス外道の糞下水煮込み!」
俺は叫びながら飛び掛かり、仙波姉さんを手嶋の手から奪い返し押し倒す。
精
「半端者は最期まで半端だなあ! だから手前は短小なんだよ!」
手嶋
「テメェ……! なんでそれを……!」
精
「短小だから淳之介のアレを貶したんだろ! コンプレックス持ちだからコンプレックスの煽りが上手いんだろ!」
仁浦
「──行け」
県知事の背後から四人が飛び出る。あっという間に手嶋を押さえつけた。
仁浦
「これですべて終わりだ。ことごとく諦めるといい」
手嶋
「このことが発覚して一番ダメージを受けるのはお前だ! 島に犯罪が蔓延っていたのが明るみになって、これまで築いてきたものに大打撃を与えることになるんだぞ!」
仁浦
「貴様らを潰せるのであれば構わない──連れていけ」
手嶋が武装解除されて引きずられていく。俺も体を動かし、仙波姉さんを連れて行ってもらう。
仁浦
「さて──今回は私が助ける形になったな、少年たち?」
県知事が手を差し伸べる。
精
「祝賀会ははめ寿司がいいですか? あそこのカルビ美味いんですよ」
誰がこいつの手なんか握るか。
淳之介
「もう祝いのこと考えてるのかよ……少しは自分の心配をしろよ?」
淳之介君が手を差し伸べてくれた。淳之介君の手を借りて立ち上がる。まだ滅茶苦茶痛いが何とか動ける。
精
「俺は鍛えてるんでな……ライオット弾食らったぐらいじゃ──」
手嶋
「こんなところで……俺が、捕まってたまるかぁあああああ!!」
手嶋がSHOのガードマンを飛ばし、地面を転がる。サラダ油のボトルを逆さまにして油を捻出しようとする俺ぐらい往生際が悪すぎる。
手嶋
「テメェには一矢報いなきゃ気が済まねぇんだよぉおおおおおお!!」
手嶋が背後から銃を取り出す。アレは俺の『ブラッドムーン』だ。さっき落としたのを拾って──銃口が淳之介君を向いている。
手嶋
「のたうちまわれやぁああああああああ!!」
させてたまるか────咄嗟に飛び出して盾になる。そして、俺の頭に強い衝撃が走った。
視界が、意識が、揺れる。意識を保て。何か考えろ。特別休暇中には何しよう? まずはマフィン焼かなきゃ。そして、BIG3の皆に振舞って────
淳之介
「精!!! おい、精!!!」
力が入らない。倒れる。淳之介君が支えてくれた。ああ、また君に助けられたか。だから君はヤクザから狙われるんだ。"琴寄文乃"のように。そうだ。"琴寄文乃"はヤクザに狙われる存在だった。今回ヤクザに狙われていたのは吹子ちゃんだ。じゃあ吹子ちゃん="琴寄文乃"? 証拠は? 素性に関して歯切れが悪かったのは"琴寄文乃"と知られるのを防ぐため。男装していたのも"琴寄文乃"とバレないようにするため。一人でいたのはそもそも誰かと接触する機会を減らすため──マジか。全部当てはまっちまった。
精
「……あははは……そ、そういうことだったのか……」
淳之介
「精!!! 何を言っているんだ!!! しっかりしろ!!!」
精
「淳之介君……吹子ちゃんは……"琴寄文乃"だ……」
淳之介
「こんな時に何を言っているんだ!?!?!?」
とんでもない真実を掴んだ代わりに、意識を手放した。