抜きゲーみたいな島に住んでいる狂犬はどうすればいいんだ? 作:神剣狩刃
今日は会長から糸の使い方を学ぶ。
冷泉院
「開けた場所でもそれなりに使えますが、狭い室内で使って本領を発揮します」
精
「行動制限に捕縛……切断は俺にはまだ早いか」
この糸の扱いというのは本当に難しい。そもそも目を凝らしてやっと見えるかどうかというものなのだ。それを自分の手で放ち相手に命中させる。しかも今は動かない的だが実戦は動く人間が相手だ。教えてもらったばかりの俺では到底うまく扱えるものではなかった。
精
「……久々だぜ、こんなに難しいと思ったことはよ……!」
冷泉院
「誰でも最初からうまくできることは稀ですよ。土口さんも最初は童貞でうまくセックスできなかったでしょう?」
精
「生まれながらの非童貞や非処女はいないでしょうね……!──っづぅ!?」
指先に焼けるような痛みが走る。力加減を間違えて指先を切ってしまったようだ。傷口からジワリと血が出てくる。
冷泉院
「まあ、大変私が処置しますね?」
俺が何かする前に会長が俺の指を咥えた。しまった、全部知られる──
冷泉院
「……なるほど。焦っているのですね? だから私の力も得ようと……」
精
「……隠してもしょうがないですね。どうせだったら打ち明けますよ」
俺は会長に打ち明けた。反交尾勢力でドスケベ条例を壊すことを目的としている淳之介君が文乃ちゃんを手にしたこと。それによって遠くない未来に反交尾勢力とSS並びにSHOの全面戦争が起きるだろうということ。その時に友達を止めるための力がほしくて会長を頼ったこと。
精
「……この上で頼みます。俺に会長の力を教えてください」
会長はニコリと笑って俺の手を握った。
冷泉院
「ええ、もちろんです。目標に向かって努力する人間は素晴らしいです。ぜひとも協力させてください」
その手は意外と温かかった。俺は会長のことを誤解していたようだ。人ならざるもので、人の理を容易く超えてくる存在だと思っていた。実際は普通の年相応の女性で、生活力が皆無で優秀な生徒会長だった。
精
「では、もうひと頑張りしますか……!」
冷泉院
「……一つ助言を。『土口さんのやりたいようにやって』ください」
いつもその通りにやっているはずだが、会長は何を言ってるのだろうか? 相変わらず不気味な瞳だ。何が見えてるのだろうか。
明くる日の休日、淳之介君と文乃ちゃんの様子を見に行った。アサちゃんが文乃ちゃんに一方的に何かを注文している。
精
「……関係が悪そうだな。アサちゃんを俺の妹として引き取ろうか?」
淳之介
「アサちゃんのくだらない悪口にお前の事情を持ち出さなくて大丈夫だ。俺が文乃に取られると思っているらしい」
俺の推理以上に文乃ちゃんは家事が上手だった。料理や掃除は当然のようにできるし、時間と場所を見極めての打ち水など、そこらへんの家事代行サービスが裸足で逃げ出すほどだ。
淳之介
「それにな……かわいいところもあるんだ。文乃、ちょっと来てくれるか?」
淳之介君に呼ばれて文乃ちゃんがすっとやってくる。
淳之介
「精、文乃の頭を撫でてみろ」
精
「文乃ちゃんをペットか何かと勘違いしていないか?」
友達に勧められた手前断るのも申し訳ない。文乃ちゃんの頭を撫でてみる。心なしか文乃ちゃんが嬉しそうだ。
精
「文乃ちゃんを俺の二人目の妹ってことにしていいか?」
淳之介
「ダメだ。文乃は橘家で面倒を見ることにしたんだ」
淳之介君はだいぶ文乃ちゃんに懐柔されてるな。俺も気を付けないとその赤い瞳に飲み込まれてしまいそうだ。──文乃ちゃんと会長は似ているようで非なる瞳を持っている。会長の瞳はこちらからは向こう側が見えないのに、向こう側からはすべてが見える、マジカルミラーのような瞳だ。対し文乃ちゃんの瞳はお互いから透き通るように見える。
精
「……淳之介君、ちょっと文乃ちゃんと二人きりで話していいか?」
淳之介
「かまわないが……変なことはするなよ?」
精
「エッチなことはしないが変なことは話すかもしれないな」
不思議そうに首をかしげる淳之介君を尻目に、文乃ちゃんと一緒に淳之介君の部屋に行く。
精
「さて、文乃ちゃん……まずは淳之介君のお世話をありがとう。友達として感謝するよ」
文乃
「わたくしは橘様の従僕……どんなことでも、お申し付け頂くことが使える物の喜びだと教わりました……」
どんな教育を受ければこんないい子ができるのか気になるが、本題に入ろう。
精
「だったら、仕える人の友達もちょっとは仕えてくれたりする?」
文乃
「文乃は、土口様には窮地を救って頂いております……ですから、どうぞお望みのままにお使いください」
じゃあ下の毛を生やして見せつけながら足コキして、と言いそうになったのを何とか飲み込み言葉を出す。
精
「下の……じゃないや、文乃ちゃんから見て俺はどんな人に見える?」
文乃
「……具体的にはどのように言えばよろしいでしょうか……?」
会話が不得手な文乃ちゃんには漠然としすぎていたようだ。
精
「そうだなあ……どんな感情が見えてくる人かな?」
これも漠然としすぎているような気がするが──
文乃
「……喜楽の内に邪念が渦巻いております……憎しみや妬み、あるいは……羨望……でしょうか……」
なるほど本物の瞳を持っているようだ。俺も認めたくなかったうちにある感情をこうも容易く見抜いている。
精
「……そこまで見えると不便じゃない?」
文乃
「……我が瞳、我が豊玉のご加護は、橘様のために……」
文乃ちゃんは自分の全て捨ててを淳之介君に捧げるつもりだ。
『そのためにも……お兄ちゃんは頑張るからな』
『助けてくれた人のためになりたい……普通じゃありませんか?』
いつの日か卵や礼先輩に言った言葉が脳裏によぎる。文乃ちゃんと俺はどこか似ているのかもしれない。
精
「──『文乃ちゃんのやりたいようにやりな』」
ふと、その言葉が出た。文乃ちゃんは何が何やらという顔をしている。俺を助けてくれた人の言葉だというと文乃ちゃんは大きく頭を下げた。
文乃
「わたくしにそのような金言をくださり、ありがとうございます……文乃も一層励んでいきますので、橘様のことをよろしくお願いします」
精
「……なるほど……人を頼れって言われた意味が少し分かったな……」
この危うさは卵を島に認めさせようとしていた時の俺に似ている。何かのためではなく何かのためにと思い込んで動いているような、支えがなくなったらすべてが崩壊してしまうような、そんな不安を覚える。
精
「…………ありがとう、文乃ちゃん。淳之介君のこと、よろしく頼むぜ」
文乃ちゃんの頭をポンポンと撫で、リビングルームに戻る。
淳之介
「戻ったか。何を話していたか聞いていいか?」
精
「んー……ウチの会長と文乃ちゃんは不思議な瞳してるなーって」
ほどほどに会話を終わらせ家に帰り、ある人に連絡をする。
精
『夜、ヌーディストビーチに来てください』
女部田
『もしかして夜のお誘い? だったら今からでもいいよ!』
精
『自分の心の整理をしたいんです』
女部田
『あたし一人で行った方がいい?』
精
『一人で、誰にも言わないで来てください』
女部田
『誰かに見つかったら精くんからのお誘いって言っておくからね』
そして夜のビーチに、私服姿で刀を持ったの郁子先輩がやってきた。
精
「……ありがとうございます」
女部田
「……相変わらずそのジャージなんだね。もっといい服買ったら? 見繕ってあげるよ?」
精
「……『金色の狂犬』として、譲れないので」
女部田
「そっか……それじゃあ、準備はいい?」
精
「今の俺がどこまで通用するか……お願いします」
郁子先輩が刀を構える。俺も愛刀ティラミスを構える。
女部田
「……鯉口切っていざ睦言を交わしましょう?」
精
「……さァ、交わり乱れて狂いましょう?」
月明かりが2人の太刀筋を照らす。時に柔らかく、時に鋭く、時に闇に消える。波の音と太刀がぶつかる音が合間の静寂を強調する。
女部田
「少しはあたしを頼ってるってことかな……!」
精
「ええ……! 実力で全力でぶつかれるのは郁子先輩だけですから……!」
礼先輩では役不足だし、会長では歯が立たない。すごく言い方が悪いが都合のいい存在なのだ。
精
「俺は誰かを頼ることを……まだ心のどこかで阻んでいるんです……!」
会長には頼めた。それはあの人の実力や権力があるからだ。逆に言うと、担保がない人間は頼りたくない。
女部田
「なるほどね……! 太刀筋に迷いが見えるよ……! しっかりしないと──」
精
「いえ、わざとです」
ぶれた太刀筋に目を向けさせ、羅漢銭を放つ。郁子先輩はそれを弾き落とし──俺の太刀が喉元に突きつけられたのに気が付いた。
精
「実力があるからこそ成り立つ作戦……会長の意地悪さを学びましてね」
女部田
「……だから最近トーカちゃんと一緒にいたんだね。余計な入れ知恵されちゃって……また精くんとの差が開いちゃったなあ……」
郁子先輩が太刀を収める。それを見て俺も太刀を収め────
女部田
「まだ参ったって言ってないよ?」
精
「へ?」
瞬間、視界が天を見る。星空と月が綺麗だ。そして、見事に関節を締められる。
精
「……な、なるほど……お、俺もまだまだですね……」
女部田
「さて、ここはヌーディストビーチだから……裸で夜の寝技をしよっか♪」
精
「い、家からビニールシート持ってきますから……離してください……」
女部田
「いいよ~♪ もしそのまま逃げだしたら……明日一日はイクのオモチャになってもらうからね♪」
トーカちゃん係と除名に次いできつい罰だ。絶対に逃げ出してはいけない。ササッと家からビニール袋を持って──疲れからか眠気が襲ってくる。
精
「ダメだ、ここで寝たら一生目が覚めなくなる危険が出てくる……!」
この後滅茶苦茶ドスケベセックスをしたと思う。翌朝、裸で郁子先輩と一緒に俺のベットにいたから間違いないだろう。