抜きゲーみたいな島に住んでいる狂犬はどうすればいいんだ? 作:神剣狩刃
ほぼ遅刻と言ってもいい時間に登校し、問題なく学業を終え放課後になる。生徒会室でNSNSを知らしめる一戦の反省会をSS部隊で行う。
精
「天手力機構は問題なかったです。流石会長ですね」
冷泉院
「支持を的確に遂行できる土口さんだからこそです」
女部田
「戦法としては十分ってことだね。後は練習を重ねるだけだね」
今度はアサちゃんのリクエストを聞いて何か料理を作らないと。天手力に関してはこれぐらいでいいだろう。本題に入らないと。
精
「さて……俺が警備兵にやったことですが……やりすぎでしたね。過剰な演出だったと認めます」
糺川
「…………お前があんなことをするほど怒るのは最もだ。だが、青藍島の人々にまで恐怖を与えてはいけない。我々はただの悪の組織ではない。そこの所を忘れるなよ」
礼先輩の手厳しい一言が刺さる。あの時の俺はどうかしていた。礼先輩が止めなければ人殺しになっていてもおかしくなかっただろう。
糺川
「……指導はこれぐらいにしておこう。よく頑張ったな精」
一転して優しい笑顔で俺の頭を撫でてくれた。子供をあやすように、ちょっと優しすぎるぐらいだ。
精
「子ども扱いしないでほしいんですけど……」
糺川
「ヒナミのマネか? アレはヒナミぐらいのかわいさがないと成り立たないぞ?」
渡会先輩のことを子供だと思っているのだろうか。あの人は見た目に反してかなり包容力と受容力が高い。礼先輩よりよっぽど大人だと思う。ともかく、今後の活動基準を決める。あくまで青藍島に手を出してきた時のみNSNSとして戦う。それ以外は各々の身の安全に全力を注ぐ。何かあったらNSNSメンバーのタブレットか、俺の家に直接来て連絡する。今はこれで十分だろう。
精
「NSNSの出だしはまずまずといったところだ! ここから青藍島を取り戻すために粉骨砕身で頑張るぞ!」
SS一同
「「「オー!!!」」」
会長と一緒に天手力機構の練習をしていたらそれなりの時間になってしまった。早く帰って礼先輩といちゃいちゃ────森の方から銃声が聞こえた。嫌な予感がする。
精
「会長はNSNSに連絡して天手力機構の準備を! 俺は現場に向かいます!」
冷泉院
「お気を付けてください。土口さんの為に尽力いたします」
会長の声を聞きヘルメットをかぶり、全力で駆け出す。身体機能が以前と同じぐらいに戻ってよかった。
精
「行くぜ……"天手力機構"起動!」
シールドに発砲音の方向が映し出される。その方向に全力で駆ける。淳之介君と文乃ちゃんが警備兵たちに追われていた。
精
「助太刀するぜ、ご両人!」
先陣を走っている警備兵の脚を撃ち抜く。見事に転び、後続も転んだ。それを見た淳之介君と文乃ちゃんが俺を見つける。
淳之介
「精! 助かった!」
精
「助かってねえよ! まだまだいるだろ!」
淳之介
「いや──このポイントなら!」
淳之介君が文乃ちゃんを木の上に放り投げる。文乃ちゃんは器用に着地し、淳之介君は木の影から何かを取り出す。
淳之介
「精! コレだ!」
淳之介君が4つのEggを見せる。あれは煙幕を張るやつだ。煙幕によって生じる一瞬の隙で全警備兵を倒す──作戦と言うにはあまりにもお粗末で姑息な手段だ。
精
「委細承知!」
だが、この場をしのぎ切れば十分だ。煙幕が張られる。淳之介君のアリアドネ・プロトコルのジャミングシステムで、会長からの通信は受けられない。指示なしで動く必要がある。
精
「そんなの朝飯前なんだよなあ!」
そもそも天手力機構は俺の判断力を補って100%にするもので、あれ無しでも70%ぐらいは判断できる。煙幕に紛れて警備員たちを倒していく。文乃ちゃんの狙撃の支援もあって、煙が晴れた頃には立っている奴は一人もいなかった。
淳之介
「ふうぅぅ……なんとか、なったな……」
精
「裏風俗潰しを思い出すな。大丈夫か文乃ちゃん?」
文乃
「はい、わたしは……すべて、淳之介さんの……、──ぅ」
文乃ちゃんが小さな悲鳴を上げる。まさか倒しそびれた奴がいるのか。
警備兵A
「はははっ、こんな煙の中で全員に当たるはずがないだろうが!」
銃口が文乃ちゃんを狙っている。警備兵に向けて発砲する。発砲音が重なって聞こえた。警備兵は問題ない。まずい、文乃ちゃんが撃たれた。文乃ちゃんが落ちる所に飛び込み受け止める。
精
「文乃ちゃん! しっかりするんだ!」
文乃
「と、ぐち、さま──……」
文乃ちゃんが俺の腕の中で意識を失った。────俺はまた守れなかった。その時、俺の中から何かが溢れて────
文乃が精の腕の中で意識を失った。警備兵の増援も来ている。早く撤退しないと。
淳之介
「精! 文乃を────」
俺が言い終わる前に精が文乃を俺に向けて投げる。何とか受け止めたが、精の様子がおかしい。
淳之介
「おい、精! どうし────」
精
「おおおあああぁぁぁ!!!!!!」
ヘルメット越しだというのに耳を塞ぎたくなるような雄たけびが森を揺らす。
警備兵B
「怯むな! 制圧し──」
精
「うるるるぅぅぅあ!!!!!!」
精が声を発した警備兵に一瞬で近づき、顔を蹴り上げた。ゴキリという嫌な音が響き、警備兵がクタリと倒れる。
警備兵C
「ひっ、人殺──」
精
「うぐぅぅぅあああ!!!!!!」
悲鳴を漏らした警備兵にまた一瞬で近づき、頭突きで顔を叩きのめす。ゴチュリと肉の潰れる音が、ピシューと血の噴き出る音が静寂を切り裂く。
警備兵D
「構うな!!! 殺せえええ!!!」
その声で警備兵たちの銃口が精に向く。精が殺され────
精
「ぅばっしゃああああ!!!!!!」
精が愛刀ティラミスに手をかける。そして発砲音が重なり、激しい金属音が連発する──精が無傷で立っていた。
警備兵D
「バカな……全弾弾いたの──」
精
「ばるるるぅぅぅ!!!!!!」
精がティラミスを警備兵に向けて全力で投げる。装甲を貫き、腹部に刺さった。
警備兵D
「ひぎゃあああ!? お、俺の腹が──」
精
「ぎいいいぃぃぃ!!!!!!」
刺さったティラミスを乱暴に引き抜く。鮮血のついた刀が月光を浴びて輝く。おぞましいほどに綺麗だ。
精
「ああああああぁぁぁぁぁぁ──」
警備兵E
「死ね化け物が!!!」
警備兵の一人が精のヘルメットを撃ち抜く。当たりどころが悪かったのかヘルメットが外れて飛んで行った。
淳之介
「うっ……!」
その表情を見て、死の恐怖を感じ、後ずさってしまった。金色の髪はまさに怒髪天を衝くように逆立っていて、金色の目の瞳孔は際限なく開いていて、口は歯をむき出しにするような笑顔を張り付けていて────
精
「きぎぃぃぃっあああ!!!!!!」
その笑顔のまま叫び、警備兵の喉元に喰らい付く。そしてそのまま噛み千切った。
警備兵E
「かっ……ひゅっ……」
実際に警備兵が負った傷はそこまで深くないはずが、アレを目前にした恐怖で息ができなくなっている。
精
「ぁおおおおおおん!!!!!!」
血に濡れた口で雄たけびを上げて────まるで『金色の狂犬』そのものだった。あれと対峙して生き延びることができるだろうか? プロの警備兵に瞬く間に重傷を負わせた存在だ。このまま文乃と逃げて──
『やりたいようにやれ』
精はそう言って命を賭して俺を、そして文乃を助けてくれた。このまま去って行ったら精が人殺しになってしまう。友達が人殺しになるのを見逃すなんて嫌だ。この場であいつを止められるのは俺しかいない。
淳之介
「……すまない文乃。すぐ終わらせる」
文乃を木の根元に横たわらせ、Eggを補充する。そして一つ深呼吸をする────覚悟を決め叫ぶ。
淳之介
「精! お前の相手はこの俺だ!」
精がぎょろりとこちらを向く。体中が引き裂かれるような殺意に襲われる。
精
「……ぎ、がああああああ!!!!!!」
精が一瞬だけ頭を抱えたが、被りを振って俺に向かって飛び掛かる。俺はあえて前転し間一髪ですり抜ける。そして持っているEggを全て投げつける。煙、閃光、音爆弾、トリモチ、どれか一つでも足止めになって────
精
「ぐるるるぅぅぅ!!!!!!」
無慈悲にも精が俺に飛び掛かってきた。死に物狂いで飛び上がり木の枝を掴んで上に回避する。そして木の上に隠れて少しでも時間を────
精
「あああいいいぃぃぃ!!!!!!」
精と目が合った。咄嗟に飛び降りて受け身を取る。入れ替わるように精が木の上に立とうとしたが、その枝が折れる。精も咄嗟に受け身を取ったが、俺との間に距離ができた。いまなら────咄嗟にコスリスを構え精の脚を狙う。しかし指を引く直前に飛び掛かられ────
???
「止めるんだ、精!!!」
銃弾は空を切り森に消えた。長い髪の女性が精を横から押し倒したからだ。
淳之介
「礼先輩……!? なぜここが……!?」
礼先輩は俺の質問よりも精を止めることに必死だった。
糺川
「精!!! 大丈夫だ!!! 私だ!!! 礼だ!!!」
精
「う、ぐ、がああああああ!!!!!!」
精が苦しみだした。礼先輩の声だと届くというのだろうか。
糺川
「淳之介に手を出したら、友達じゃなくなるぞ!!!」
精
「ぐおおおおおおお!!!!!!」
しかし、必死に訴える礼先輩の力よりも、苦しんでいる精の力の方が上だった。逆に礼先輩が押し倒される。
精
「ふうううううう!!!!!! はああああああ!!!!!!」
精が礼先輩の服を乱暴にはぎ取る。しかし、礼先輩は抵抗しようとしなかった。
糺川
「何でもしていいから……止まってくれ!!!」
そう泣き叫んで礼先輩は精を抱きしめた。
精
「が……あ……あ……?」
糺川
「お前は約束を忘れることはあっても、破ることはしないだろ……? 『私を幸せにする』……こうやって約束しただろ……?」
そのまま唇を重ねる。その口が血で汚れることも躊躇わずに。
糺川
「精がそんな奴になったら……私は幸せになれないんだ……」
精
「……れい……せん……ぱい……?」
精が意味のある言葉を口にした。あまりにも陳腐な言い方だが愛の奇跡だろうか。
糺川
「そうだ……お前の大好きな、礼先輩だぞ……」
礼先輩が再び抱きしめる。それと同時に────
精
「お、れ、は…………」
精の体から糸が切れたように力が抜ける。それと同時にNSNSのメンバーが集まる。説明は一旦後回しにし、集落に戻る。2人の手当てを終え、礼先輩に尋ねる。
淳之介
「礼先輩、さっきの精は一体────」
礼先輩が泣いていた。
糺川
「分からない……分からないんだ……精は……精はどうなってしまうんだ……」