抜きゲーみたいな島に住んでいる狂犬はどうすればいいんだ? 作:神剣狩刃
淳之介
「行くぞ──漢勃ちッッ!!!」
淳之介君が拳を構えて突進してくる。前より動きは良くなったが、それでも余裕で追える。
精
「それが何だってんっ、だぁ!?」
突進に合わせたカウンターブローを腹部に入れた。拳に伝わる感覚はまさに鋼の壁を殴ったようだった。
淳之介
「まずはこれを取らせてもらうぞ!」
淳之介君の拳がヘルメットを打ち上げる。ヘルメットにはヒビが入っていた。どんな威力で殴ればこうなるんだ。
精
「許せ、淳之介君!」
ただ事ではないと判断し、後ろに跳びながら淳之介君の足を連続で撃ち抜く。
淳之介
「弾ごときで俺が止まるか!」
全弾当たったというのにまるで効いていない。リロードする余裕もないならこの銃は不要だ。
精
「だったらこれはどうだ!」
顔を目がけて銃を投げる。額と顎にクリーンヒットしたが淳之介君は笑っている。
淳之介
「弾でダメなら銃ならってか! 効かないな!」
精
「いや、すでに完成している!」
銃を投げると同時に放っていた思い切り糸を引っ張る。跳んで回避され、再び迫ってくる──一瞬息を止める。
精
「──居合」
踏み込みすれ違いざまに一太刀浴びせる。──バキィンと断末魔を上げて愛刀ティラミスが折れた。
精
「──もう一度」
そのまま県知事の日本刀を借りて振り抜く。簡単に穿ち丸で受け止められ、拳で日本刀が叩き折られた。
精
「マジか──」
淳之介
「おっらぁ!!!」
淳之介君の蹴りが俺の腹を捕らえる。重く鈍い痛みが襲う。ポール、いや、金属バットでやられたようだ。そのまま吹っ飛ばされ、地面に伏せる。
淳之介
「どうした精! ここで終わるような奴じゃないだろう!
その通りだ。このタイミングで戦いを挑んだのには意味がある。いや、譲れない意地がある。
精
「俺は……君を超えたいんだ!!! 淳之介君!!!」
悲鳴を上げる体を無理やり奮い立たせるように叫ぶ。
精
「アサちゃんという妹やNLNSという仲間がいる君が羨ましかった!!! 友情と同時に嫉妬や憎悪を覚えるほどに!!! でも……それ以上に……君に憧れたんだ!!!」
淳之介
「精……!」
精
「だから!!! 君と全力でぶつかり合って!!! 君を超えたいんだ!!!」
俺は再び拳を構える。かなり消耗しているが関係ない。燃える闘志が俺を動かす。姿勢を低くし一気に距離を詰め、ボディを狙う。膝で防がれ、背中に一撃貰う。
淳之介
「どうした……! すでに限界の体で……反応が鈍いんじゃないのか……!?」
精
「これぐらいのハンデが無きゃ……君を瞬殺しちまうからなあ……!」
身体能力の差など気の持ちようでいくらでも覆せる。淳之介君が証明してきたことだ。ならば心で負けてはいけない。口先の勝負はコイツの得意とするところだ。
精
「君は……本当に強いな……! 俺以外のSSの誰よりも……!」
淳之介
「いや、お前より強いさ!」
淳之介君の拳をスウェーで躱し、ボディーに一発入れる。拳が砕けそうだ。
淳之介
「無駄だ! 何発撃ち込んだところで俺は揺るがない!」
精
「本当にそうかなあ!?」
今度は蹴りをぶち込む。衝撃で淳之介君が後ろに押される。脚が折れそうだ。
淳之介
「俺を倒したかったらロケットランチャーでも持ってくるんだな!」
兵器かコイツは。俺が今まで対峙してきたのは人間だった。今のコイツは人間じゃない。まともな戦い方では叶う気がしない。どうすれば──考えたって頭が痛むだけだ。動くしかない。
精
「っしゃあ!」
淳之介
「無駄だあ!」
2人の蹴りがかち合う。すかさずその反動で回し蹴りを腹部に叩き込む。まともに入ったはずなのに、手ごたえはあるのに効いていない。
淳之介
「無駄だと言っているだろう!」
なんとか横に転がって穿ち丸を回避する。やれることは全部やれ。糸を伸ばして穿ち丸を奪い取る。
精
「もらった!」
穿ち丸で淳之介君の腹部をぶちぬ──穿ち丸が折れた。
淳之介
「自分の使う武器でやられるバカが何処にいるか!」
淳之介君の掌底が俺の胸を捕らえる。一瞬だけ世界が止まって見える。体が動かない。そして──
淳之介
「もらった!」
動き出した世界から淳之介君の蹴りが脇腹を直撃する。視界が急に回り、地面が顔の前にあった。
SSで色々と経験をしてきたはずだが、これほどの強敵にあったことはない。コンディションが良ければ勝てるか? 全盛期の俺ならともかく、判断力が落ちて体も少しなまっている俺では──何くだらないことを考えている。そんな暇があるなら動け。動け動け────
精
「がっ……はあ……」
呼吸に血の香りが混じる。さっきの蹴りで肺に何か起きたか。だから何だ。立ち上がって────
精
「がぁ……」
体に力が入らない。眠くなってきた。こんな時に。今動かなかったら、淳之介君に負けちまう。でも、それも悪くないか? 死力を尽くしてこの結果になったならいいんじゃないか? 淳之介君はすごい奴だと認めて、淳之介君も俺を凄い奴だと認めて、それが一番平和じゃないか? ああ、もう、どうなっても──
???
「諦めるな、精!!!」
──この声は。
???
「私が知っている精は『やりたいようにやれ』る精だ!!! お前は負けたいのか!!! 負けを認めるのか!!!」
──こんな時でも俺を奮い立たせてくれるこの声は。
???
「そんな精は……私の大好きな精じゃない!!!」
──俺の大好きな。一生をかけて幸せにすると誓った──
糺川
「だから!!! 私のために勝ってくれ、精!!!!!!」
熱い血潮が全身を走る。体中に力が漲る。痛みが消えていく。────ならば。
精
「────礼先輩の命令とあらば!!!」
にっと笑いながら起き上がる。立ち上がる。拳を構える。そして月夜を穿つ雄たけびを轟かせる。
精
「切って結ぶ蒼碧の檻を打ち破れ!!! 睦言に狂乱する悪鬼を噛み砕け!!!
礼賛以って三途の川を渡り世界を糺せ!!! 精卵交わりて生まれる命の限りを尽くせ!!!
俺は土口精!!! 『金色の狂犬』だ!!!」
愛に。藍に。
一気に近づき腹部に蹴りを入れる。淳之介君が少しふらつく。
淳之介
「ぐっ……!? ばかな……!?」
精
「俺が闇雲に同じところばかり攻撃するバカに見えたか!?」
間髪入れずボディーブローを入れる。淳之介君が明らかによろめいた。
精
「日本刀の攻撃を防いだのは効く攻撃だからだ! つまり、ダメージを受けないんじゃなくて一定以上堪えるのが漢勃ちの正体だろ!」
淳之介
「だったらなんだってんだ!」
淳之介君がお返しと言わんばかりにボディーブローを返す。俺はそれを笑って受ける。
精
「そんなの重度の思い込みの他ないだろ! だったら俺にも出来るはずだ! もっとも、まだ掴んだばかりだから愛する人がいないとできないがな!」
淳之介
「マジかよ……! 俺が訓練してやっと手に入れたものだぞ……!」
そんなの知るか。実際の所、俺だってよく分かってないんだ。出来てしまったのだからしょうがない。
精
「そして水滴石穿! どんなに堅い物だって同じところを打ち続ければ綻びが生まれる! 俺は賢しいんでやらせてもらうぜ!」
落ちていたヘルメットを武器にし腹部を殴打する。ヘルメットが砕けたがそれだけの衝撃があった証拠だ。
淳之介
「ぐはぁ……! お、お前、あ、アサちゃんが作ったものを……!」
精
「天手力機構はアサちゃんが作ったが、ヘルメットそのものは礼先輩のプレゼントだぜ!」
淳之介君の言葉にも揺らぎが見える。色々効いてきている証拠──
淳之介
「だが俺には文乃がいる!!!」
再び俺にボディーブローが入る。メシリと骨からやばい音がした。淳之介君も同じはずだが、笑っている。
淳之介
「俺には文乃がいるんでな!!!」
精
「だったら俺には礼先輩がいる!!!」
俺は淳之介君を蹴り飛ばし虚空に糸を伸ばす。
糺川
「私には精がいる!!!」
意図を汲んでくれた礼先輩が黒い拳銃を投げる。糸の先に──先に拳銃が撃ち抜かれた。文乃ちゃんの狙撃は半端じゃない。
糺川
「だから
それに続くように
淳之介
「しまった!」
精
「アリアドネの糸は愛する人に持たせないとなあ!」
淳之介君の腹部に向けて一発打ち込む。
淳之介
「があっ! まだだ!」
明らかに怯んだがまだ動く。この距離でダメならもっと近くで撃つしかない。近づいてくる淳之介君の動きを見極める。拳か脚か──違う狙撃だ。俺はあえて淳之介君に近づく。直後、俺のいた場所に銃弾が届く。
精
「愛する旦那様ごと撃つ覚悟はないよなあ!」
淳之介
「読まれた──」
精
「この距離なら漢勃ちも関係ないな!」
ゼロ距離で淳之介君の腹部に銃弾を当てる。
淳之介
「う、ぐ、あ……」
絶え間ない全弾射出に、淳之介君からうめき声が漏れた。渾身の力を込めて拳銃を叩きつける。
淳之介
「ご……かっ……」
精
「ぁおおおおん!!!!!!」
吠えながらコルクスクリューブローを腹部にぶち込む。拳銃ごとめり込んだ一撃は流石に堪えられないはずだ──
淳之介
「あっ」
いつの間にか淳之介を追い詰めていたらしく、柵を支点に淳之介君の体が後ろに倒れる。やばい淳之介君が落ちる。右の拳はコルクスクリューでぶっ壊れてすでに使えない。
精
「うだらぁ!!!」
左手で淳之介君を掴む。激痛が走る。でもこの手を放す訳には──俺の左肩に何かが撃ち込まれる。それと同時に痛みが消える。
精
「おおおあああぁぁぁ!!!!!!」
一気に引き上げる。受け止めきれずに2人で地面に倒れ込む。
精
「……俺の勝ちだな?」
淳之介
「あそこまでやられて助けられたら……完敗だ」
勝った。淳之介君に勝った。憧れに勝った。
精
「っしゃあああ!!! 勝ったぞおおお!!! 見ましたか礼先輩いいい!!!」
淳之介
「っるさいな……そこにいるから絶対見てるだろ?」
糺川
「ああ……しっかり見たぞ、精……」
礼先輩が俺を優しく抱きしめる。
糺川
「よかったな精……お前の……『やりたいようにやれ』たな……」
精
「……ええ、『やりたいようにやれ』ました……俺は……」
扉が開きNSNS一同が駆け寄ってくる。色々言われたし、色々言いたかったが──
精
「『金色の狂犬』としてやってやりましたよ……」
その一言を言って礼先輩の胸の中で意識を落とした。
次回、このルートの最終回です。