抜きゲーみたいな島に住んでいる狂犬はどうすればいいんだ? 作:神剣狩刃
精と別れ、ニノマエと別れ、何が何だか分からなくなって、とにかく寮に戻った。三人が私の顔をみて駆け寄ってきた。
女部田
「大丈夫……じゃないよね……その顔見たら何があったか分かっちゃうもん……」
冷泉院
「予測できていましたが……いざその事実を突きつけられると心が痛みますね……」
淳之介
「……精……お前は……」
糺川
「それ以上言うな橘……あいつは泣きながら別れたんだ……あいつにとっても辛い決断だったんだ……」
もう送り出したのだから終わったのだ。だから慰められている場合じゃない。じゃないのに、視界が、滲む、脚が震えて、崩れ落ちてしまう。
糺川
「精のばかあああ……! こんなに好きなのにいいい……! 別れたくなかったのにいいい……!」
ニノマエの存在によってなんとか誤魔化せていたのに、堪えきれなくなった。精がいなくなってとても悲しくて寂しい。今更泣き喚いたって意味ないのは分かり切っている。それでも子供のように泣きわめくしかなかった。
女部田
「……レイちゃん。今日はとことん付き合うよ」
冷泉院
「私も微力ながら力になります。家族同然の大切な仲間が泣いているのですから」
淳之介
「糺川先輩……今頃、精もきっと泣いていますから」
三人に慰められながら大泣きする。ここまで泣いたのはいつぶりだろうか。思い出せないほど昔だ。
女部田
「わわっ、私の胸で泣くの? まあ、一番おっぱい大きいからね。今はママだと思っていいよ~?」
冷泉院
「でしたら私は……お姉ちゃんだと思って良いですよ?」
淳之介
「俺は……お父さんか……? それとも弟か……?」
精はいなくなった。でも、私にはまだ仲間がいる。お世辞にも精の代わりになるとは言えないが、とても頼りになる存在だ。それがとても嬉しく思えると同時に、精はどうなんだと疑問が湧いた。精が失ったのは私だけではない。郁子も、桐香様も、橘も失った。それでもなお卵がいれば埋まるのだろうか。
糺川
「……明日会ったら色々聞きたいな……」
女部田
「……そうだね。私達にもちゃんと説明してもらわないと納得できないよ」
淳之介
「それに……4人で説得すればもしかしたら戻ってくるかもしれません」
冷泉院
「そのためにもしっかり備えましょう。まずは……それぞれがこの世界の自分として振舞えるように、必要な情報を共有しましょう」
桐香様の提案で、まずは橘にSSメンバーの暗記させることになった。生徒会副会長である性帝がSSのメンバーを知らないなどあってはならないことだ。覚えるまでしっかり指導しないと。
布団に入っても、日が変わっても、どうやったって眠れるわけがなかった。卵との再会、礼先輩との別れ、ニノマエとの出会い……何をどう片付けていいか全くわからなかった。こういう時は郁子先輩と一戦してすっきりするのが良いのだが、頼れる訳も合わせる顔もない。
光姫
「また眠れないの清くん……?」
光姫姉さんが俺の頭を撫でながらあやしてくれる。この世界の俺は相当光姫姉さんの世話になっているらしい。
光姫
「それじゃあ……ママがスッキリ眠れるようにしまちゅからね」
有無を言わさず膝枕され、光姫姉さんがエプロンを解いておっぱいを俺の顔に乗せる。元の世界でも頼むプレイだ。BIG3ではどうしても年齢的にオギャることができないから光姫姉さんに頼んでいる。ずっしりもっちりのアイマスクが俺の目に安らぎを与えるが、妙な違和感がある。
精
「……胸小さくなりました?」
光姫
「そ、そうかしら……ダイエットしているつもりはないんだけれど……」
精
「あと、おっぱいがいつもより硬いです。あんまり揉んでないんですか?」
光姫
「…………それじゃあ精くんに揉み解してもらおうかな?」
声に誘われ光姫ママのおっぱいをちゅぱちゅぱしながらもみもみする。子供の頃から卵の事が心配で、両親とまともに関わってこなかった俺はこういう赤ちゃんプレイに憧れがあった。
光姫
「よしよし……ママのおっぱいでちゅよ~……」
色々あったせいかいつもより光姫姉さんの声が優しく聞こえる。本当の母さんみたいに思えてしまった。
精
「……母さん……俺……分かんないんだ……俺の選んだものが正しいのかどうか……」
泣いている。泣いているんだ俺。全然笑ってなんかいなかったんだ。ニノマエのせいで忘れていたけど俺は泣いているんだ。光姫姉さんの優しい手が俺の頭を撫でる。温かい。優しい。まるで卵の手みたいだ。
光姫
「……精くんは何時も頑張っているからね。辛い時は誰かに頼って、それでも誰かを頼れない時は…………お母さんを頼っていいからね…………」
母さんの言葉と手に安らぎを覚える。『金色の狂犬』として生きてきた中で忘れていた家族の安らぎだ。涙で濡れた心がじんわりと温かくなっていく。その温かみが全身に伝わっていって────いつの間にか夢を見ていた。
子供の精
「卵……いつかお前が女の子とセックス出来るようにこの島を変えてやるからな」
子供の俺が卵に向かって約束をしている。俺の始まりであり今なお忘れることができない原点だ。
子供の卵
「本当!? 約束だよ、お兄ちゃん!」
子供の卵が嬉しそうに笑う。元の世界では果たせた約束だから、この世界でもその約束を果たしてやる。
父さん
「それじゃあ、俺達も卵のために頑張らないとな!」
母さん
「そうね……! 私達もSHO内部から掛け合ってみるわ……!」
父さんも母さんも卵のために頑張ると言って────おかしい。俺の知っている記憶ではこの約束の場には俺と卵しかいなかったはずだ。それに、父さんと母さんはこんなに分かりやすく応援はしていない。あくまで俺達の生活や心を支えるにとどまっていたはずだ。
精
「じゃあこれは……この世界の俺の記憶か……」
卵が生きている以上過去も違うのだろう。だとしたら、この後に父さんも母さんも事故に遭うのか。そう思うと胸が痛い。────卵もきっと同じぐらい、いや、俺以上に痛かっただろう。できる限り俺がそばにいて和らいであげないと。
園児たちの声で目が覚める。
赤髪の女性の園児
「いやだいやだいやだ! ままがくれるあいすみるくとどーなつじゃないとたべたくないでちゅ!」
青と紫の髪の女性の保母さん
「わ、わかったから……落ち着いてくれ……」
赤髪の女性の園児
「おちつとおちちつつきまちゅ!」
どうやら通常営業しているようだ。としたらAM8:00は過ぎているということになる。
精
「やっべ! 大寝坊じゃんかよ!」
特殊戦闘部のリーダーなんて朝はクソ早いだろう。慌てて跳び起きる。急いで着替えないと────
光姫
「大丈夫ですよリーダー。貴方が出動するときは非常事態ですから、ゆっくりと構えていてください」
光姫姉さんが俺の肩を掴んで止める。俺はSSでいう郁子先輩ポジションらしい。だったらゆっくりしてもいい、訳がない。だったら呼ばれるまではこの世界の情報が欲しすぎる。
精
「いや、そうも言ってられなくてですね……ほら、反交尾勢力の件があるのを思い出しまして。早く調査に行きたいんですよ」
ドスケベ条例がまだあるということは反交尾勢力もまだいるはずだ。治安管理委員会だったらこの話題を知っていてもおかしくはないし、記憶障害で忘れても思い出したとなればそこまで不自然ではないはずだ。
光姫
「……分かりました。ニノマエさんを呼びますね」
ニノマエ
「監視役の朝は早い……呼ばれる前にいるのがプロなんですよお」
黒タイツで金のバタフライマスクをしておしゃぶりを咥えたヤバい赤ちゃんがぬっとあらわれる。ニノマエさんは結構デカい。180㎝ぐらいある。
ニノマエ
「ところでずっと膝枕していましたけど、お手洗いとか大丈夫ですかあ? お望みであれば余がトイレに……」
光姫
「結構です。それでは精さんの監視をお願いします」
精
「だったら俺がトイレに……」
光姫
「結構です。行ってください」
流石の光姫姉さんもそういうプレイはしたくないらしい。俺は経験してしまっているからイケるが、ニノマエさんもイケる口なのだろうか。ともかく戦闘服に着替えて二人でバブみ保育園を後にする。
ニノマエ
「さて、どこ行きますかいリーダー?」
精
「ニノマエさんって俺の部隊に所属しているんですか?」
ニノマエ
「監視する以上同じ部隊の方が都合がいいんでねえ」
それもそうか。とりあえず────
ニノマエ
「水乃月学園かなあ?」
精
「えっ」
ニノマエ
「君は水乃月学園に行ってそこから土口卵に接触してまた水乃月学園に行った……"土口精は水乃月学園に何かあるって考えている"から……どう?」
こいつは相当できる奴だ。迂闊にしていると俺がこの世界の土口精ではないということがバレてしまう。うまく振舞わないと。そのためには────BIG3や淳之介君に会っても毅然と振舞う必要がある。
ニノマエ
「っていうのと、余自身に水乃月学園に行かなきゃいけない予定があるからなんだよね。会長にアポイントメント取ってるんだ」
本当に何者なんだ? 俺の元の世界にこんな奴がいたら間違いなく記憶に残っている。水乃月学園での情報収集が終わったら光姫姉さんからニノマエの情報を集めるか。道中でひびの入った卵をモチーフにした小さな慰霊碑を見つける。
──この地で2人が亡くなり、2人が重軽傷を負う悲惨な自動車事故が発生しました。二度とこのような交通事故が起きない社会を築く誓いを込めて慰霊碑を設置します──
俺の記憶にない慰霊碑だ。この世界の青藍島では悲惨な交通事故が起きているらしい。交通事故によって家族を亡くした俺としては見逃せないものだった。足を止め、両手を合わせて祈る。
精
「……ご冥福を祈る……」
ニノマエ
「そうだね…………君のご両親のために余も祈るよ…………」
バタフライマスク越しでもわかるほどにニノマエの表情が真剣になる。事故の被害者が目の前にいたらそうもなるだろう。もしかしたら、ここであの事故が起きたから卵は助かったのかもしれない。SHOのガードマンの巡回もあるし、ここから病院もそう遠い所ではない。
精
「…………祈りは済んだ。改めて水乃月学園に向かう」
ニノマエ
「アイアイサー、船長! 行くぜ、取舵フルマックス!」
数秒前まで真剣に祈っていた奴とは思えないテンションだ。
精
「……この道からだったら面舵の方が近いぞ?」
ニノマエ
「野郎共! 船長に続け!」
精
「誰に向かって言ってんだよ……」
ニノマエに関しては俺の邪魔をしなければ何でもいいぐらいに考えた方が良いかもしれない。